とがったリーダーを育てる-東工大「リベラルアーツ教育」10年の軌跡 (中公新書ラクレ, 738)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121507389

作品紹介・あらすじ

高校で文系と理系に振り分けられ、結果、理系の知識が乏しい人たちが社会を動かす官僚や政治家などになり、一方の理系学生といえば、世の中のことに無関心で、興味あることだけに取り組みがちだ。しかし、「これではいけない。日本のリーダーにもっと理系の人材を」。2011年、そんな思いを込めて東工大は「リベラルアーツセンター」を発足した。あれから10年。日本中から注目を浴びる東工大の挑戦のすべてを明かした。

感想・レビュー・書評

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  • 東工大が2011年から取り組んでいる、理系エリート人材向けのリベラルアーツ教育(=理系オタクを理系リーダーへ)の全容を池上氏らが語った書。

    MIT教育責任者の「今の時代、すべての科学技術は5年で陳腐化してしまう。だから私たちが教えるのは、すぐに役立つ技術や最先端の科学ではなく、『学び続け、研究をする姿勢』そのものなのです」という言葉が紹介されていて、さすがアメリカの大学は違うな、と思った。MITが実は軍事研究依存体質であるというのも意外だった。

    上田氏の「東工大のリベラルアーツ教育が「自由にする技」を強調するのは、まさに日本社会の同調圧力が我々から自由を奪っているという、強い認識がある」という言葉も印象的だった。

    執行部が代替わりしていく中で、この崇高な教育理念、ずっと維持していけるかな?

  • なぜテレビ番組に出てくる「理系の専門家」の説明はわかりにくいのか 背景にキャスターの不要なプライド | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
    https://president.jp/articles/-/48401

    「『すべてを疑え』という言葉を疑えるか」池上彰が東工大生に放った"鋭い問いかけ" 今の日本は"空気"を読みすぎ | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
    https://president.jp/articles/-/48405

    とがったリーダーを育てる|ラクレ|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/laclef/2021/08/150738.html

  • 東工大「リベラルアーツ」10年間の軌跡。
    池上さんの本たくさん読んできた私は、
    東工大のことも時々目にしてきました。
    ぜひ今後とも頑張ってください。

    この本で二つ、心に残ったことがあります。
    一つはオンライン授業のこと。
    TVで、「大学授業がオンラインになってしまった」と嘆いている学生の姿をいくつか見て、大変だなと思っていました。
    でもこの本で、特に伊藤亜紗さんのお話で、かなりメリットがあるのだと思いました。
    考えてみたら自分も昨年からYouTubeでレッスンするようになり、良い時代に生まれたなと思っていたのです。

    もう一つは、池上さんのお話
    〈リーダー教育のための教養教育といっても、私のような一教員が自分の授業で教えられることはわずかなことかもしれません。それでも、その気概だけでも伝えたいと、私はかつて起きた事件についてすべての授業で話すことにしています。それは、戦後日本の四大公害病のひとつ「水俣病」をめぐる話です〉

    とても大切な話ですが、初めて聞きました。
    「東工大生にこそ伝えなければいけない」
    池上さんはこういうストックをたくさん持っているのだろうと思いました。

    〈1956年に最初の症例が見つかった水俣病は、メチル水銀化合物による中毒性中枢神経疾患でしたが、当初は原因がわからず「奇病」とされました。その後、原因物質は有機水銀にあると考えた熊本大学医学部研究班は、水俣市の化学メーカーであるチッソ(当時は新日本窒素肥料)に工場排水の調査協力要請をするものの、同社はこれを拒否します。このときチッソをかばってしまったのが、東工大の教授でした。水俣病の原因は有機水銀ではなく、腐った魚に原因があるという「アミン説」を唱えたのです。
    結果、当時のメディアは、熊本大学と東工大と、どちらを信じるか、という悩みを抱えてしまいます。日本の理工系トップである東工大教授の見解が、大変な権威を持ったのです。このため原因究明が遅れてしまいました。その間に発病した人もいました。ようやくチッソの排水が原因だったことが判明し、政府見解が確定するのは1968年になってからでした〉

    池上さんは学生たちに聞きます。
    「将来、君たちが研究者、あるいは技術者になって、産学連携のプロジェクト・リーダーをつとめていたとしよう。一緒に仕事をしている大企業の人から『先生、こんな馬鹿なことを言っている連中がいるんです。ここは一発ガツンと反論してください。お願いします!』などと、その企業に都合のいい科学的見解を発表するよう持ちかけられたら、君たちはどうするか?」

    東工大の学生さんたちには、
    ここで学んだリベラルアーツを忘れないでほしいです。

  • 文章がとても読みやすい。
    リベラルアーツが注目されて久しいけれど、
    そもそもなぜ学ぶ必要があるのか、
    変化の激しい世の中でどういった視点が求められているのか、
    そして自分で考えて行動するために、どんな学びが必要か。

    今の最先端技術は5年後陳腐化している。
    そうした技術ではなく、学び続け研究し続ける力を身につける、というのがとてもしっくり来た。

  • 東工大の「リベラルアーツ教育」を構想した面々、池上彰ら実施にあたった人々の問題意識の高邁さや努力は素晴らしいと感じる。東工大については、今野浩のエッセイにもたびたび触れられていたが、理系学生に人文知の薫陶を与えようという意識が非常に高く、般教の教授連も大物が就くらしい。とはいえ、そもそも「リベラルアーツ」は高等教育の場で身につくというものであろうか?。
    本書の中でも何度か出てくるように、試験、試験で能率を追求する知的訓練で鍛えられた「優秀な学生」は、「教養」の涵養にも効率を重視する。人文知の世界の「基本書」は、どれも数をこなせるようなものではない。しかし多くの学生は、いわばよくできた「知のカタログ」欲しさに、基本書の梗概あるいは「書評」的なものを、次から次とこなすだけで、「教養」を手に入れた、と満足するだけのような気がする。
    高等教育で教養を教育できる、というのは、リベラルな教員が抱く幻想ではないか。特に、東工大のような理系畑では、専門で自分の地歩(学士号でもよいが)を築くためだけにでも、文系の5倍の時間を要求されているはずだ。現代の理系学生は、寺田寅彦とは異なる時代に生きている。驚異的に膨れ上がった科学技術体系を自分なりにモデル化して脳の回路に埋め込む必要があるのだ。教養なるものに無際限に時間を費やす余裕はないであろう。
    もちろん、小学校などで、啓発スキルに優れた良い教師に巡り合った経験がある一握りの優れた学生は、世界全般について広い興味を持ち続け、多忙な専門の学習の間にも、自身の根と幹を、太く、広くする営為を、自身でコツコツと積み重ねているだろう。結局は個人の幼少時からの心がけと積み重ねである。大学生になってから教養、教養と言っても、雑多な知識を脳のどこかに書き込むにすぎない。既に遅いのではないだろうか。

  • 本来、自由人であるためのリベラルアーツだが、現代社会には自由市民など少なくなり、社畜と揶揄されるような(あるいは自嘲するような)都合良く洗脳された労働の奴隷が、別の奴隷のためにリベラルアーツを学ぶ時代。現代社会の悲劇として語る上田紀行氏、東工大のリベラルアーツ研究教育院長の発言は非常に考えさせられる。

    教育の名の下に奴隷を育ててはならない。しかし、そうは言うが、社会にとって有用な人材だから用いられるのであり、それが所謂労働ニーズになるなら、我々は奴隷たることから逃れられず、自由市民にはなり得ない。我々自身も社会からの期待を将来像に設定するから、とがった夢を見ることも叶わない。つまり、社会的動物ゆえ、しかも、奴隷制が廃止された後の概念として、その時代のリベラルアーツをそのまま当て嵌めるのはおかしい話だ。

    即効性の高い知識は、環境変化と共に、直ぐに役に立たなくなる。基礎的、古典的な学問は歴史の風化を逃れ普遍的に有用である。ここでも、役に立つか立たないかという話をしている。つまり、元々、自由市民たるべきリベラルアーツは、誰かの役に立つための手段に変化したのではないのか。ならば、リベラルアーツで新たに規定すべきは、単に、古典か流行かという尺度なのかも知れない。メカニカルアーツとの境目がぼやけている。そして、それで良い、と思った。

  • MITの教授が語った「すぐに役に立つことは、すぐに役に立たなくなる」という言葉が強烈。「先端科学は5年で必ず陳腐化する。だから学生にはそれを教え込むことよりも、その時どうやって学び直し、新たに分野を切りひらいていけるかの力を身につけさせることが重要だ。単なる learn ではなく、how to learn を学ぶことが求められている」とも。◆理系の人が文系に歩み寄るための教養=リベラルアーツ教育=人文社会系の学問を学ぶことの意義について。2021年8月刊。

  • 伊藤亜紗はやはり文章がとてもよい。

  • 3人の著者がそれぞれのバックボーンを元に、リベラルアーツを大学に根づかせるために、いかに格闘されたのかがとてもよく分かりました。上田教授の学内でのやり取りに重いものを感じました。

  • 日本のトップにこんなアツい教員がいる大学があって安心する。

    学び直す、考え直すとか肯定できたらなーと思ってたところにこの本来は刺さった感がある。

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著者プロフィール

池上彰(いけがみ・あきら):1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。記者やキャスターを歴任する。2005年にNHKを退職して以降、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍中。名城大学教授、東京工業大学特命教授を務め、現在9つの大学で教鞭を執る。著書に『池上彰の憲法入門』『「見えざる手」が経済を動かす』『お金で世界が見えてくる』『池上彰と現代の名著を読む』(以上、筑摩書房)、『世界を変えた10冊の本』『池上彰の「世界そこからですか!?」』(以上、文藝春秋)ほか、多数。

「2023年 『世界を動かした名演説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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