イケズな東京 150年の良い遺産、ダメな遺産 (中公新書ラクレ 751)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121507518

作品紹介・あらすじ

コロナ禍で東京一極集中の是正が叫ばれるが、事はそう単純ではないと井上氏。私たちの東京への思いは複雑で、長尺の歴史から捉える必要がある。そう、京都から東京に天皇が移り住んだ時代まで遡って。『京都ぎらい』の井上氏に対するのは、二都を往復する気鋭の建築家・青木氏。二度の東京五輪と大阪万博など、古今東西の都市開発のレガシーについて論じ合う。

博覧強記の二人の話は、天皇、GHQ、ナチスといった歴史の縦軸から、北京、パリ、ローマ、ロンドン、コペンハーゲンといった地理的な横軸までを駆け回る。また黒川紀章らの建築家論や、ゴジラ、寅さん、小津映画等の話題もまじえ、「愛される建築とは何か?」「日本と西洋、どちらが自由なのか?」という文化論を掘り下げる。

感想・レビュー・書評

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  • 建築家・京都市美術館館長の青木淳と国際日本文化研究センター所長の井上章一による東京に対する思い。





    コロナウイルスまん延により、オフィスワークの中で、リモートワークが推奨されるようになった。中には都内のオフィス契約を解約して地方に移転する企業も出てきた。




    リモートで仕事できるなら都内にこだわる必要はないし、社員も自分の好きなところで仕事できるからいいだろう。





    しかし、井上は「東京ばなれ」を疑っている。都内にオフィスを構えることのできる会社だと見栄をはれるので、そう簡単になくならないと指摘している。





    明治維新によって新たな建物が作られたことに注目している。それは、三井は東京の兜町に5階建ての施設、海運橋三井組ハウスを1872年に建てた。




    井上はビルの形に注目している。1階と2階は、西洋建築の形だが、3階から5回を見ると天守閣をまねたような塔屋がおかれていたと述べている。




    江戸時代なら許されなかった高さでありデザインだが、新政府に認めさせている。




    三井が江戸幕府から新政府に味方して軍資金を提供したことが大きかった。三井の呼びかけに応じた豪商たちのおかげで討幕軍は江戸まで行けた。






    レガシーになる建築、ならない建築の中で、建築家・黒川紀章が設計の中銀(なかぎん)カプセルタワーを取り上げている。










    こちらは今年の1月に現地で撮った写真。















    カプセルが特徴のビルだが、カプセルはシャフトにボルトでとめられていたので、居住者が自分の都合でこれ取り外して、どこかに持っていくこともできた。まさかの部屋外しの術だ。




    しかし、実際にそうした人はいなかった。作業をするのには人や重機もいるし、そもそも行政が銀座8丁目で許可するか疑問だとも述べている。





    目的が変わると使えなくなってしまうと評している。




    とは言っても、ビルに永遠の命を吹き込んだわけでないので、今まで存在することは黒川にとって想定外の出来事かもしれない。





    建築からいろいろなことが見えてくるなあ。

  • 建築を軸として都市論が展開されるのかと思ったら、時代を反映してかコロナ禍におけるコミュニケーションの話が中心で、それが逆に「建築とは何か」をあらためて考えさせられるキッカケにはなった。また建築から歴史を考察するという点では明治維新というものを再定義する必要があるのではないかという印象を持った。日本は建築に関しては世界的に見て規制が緩く自由度が高いそうだが、最後の「建築文化を大事にしない国、だからこその可能性」については、そういう見方もあるんだなと気づかされた。

  • 著者の井上章一氏(以下井上)は国際日本文化研究センター所長で、ベストセラーになった「京都ぎらい」の作者でもある。元々は建築史、意匠論が専門だったが、いまは風俗史や関西文化論など幅広く手掛ける。
    一方の青木淳氏(以下青木)は、建築家であり東京藝術大学教授。ポストモダニズムの気質を残しつつ近代の思想を継承する建築家の一人と言われている。
    タイトルからすると、両者の東京の都市論に関する対談・・・と思いきや???

    恐らく編集者は「東京・京都などの街かどから都市や文化を考える」という主旨の二人の対談を企画したようだが、コロナ禍で対談ができなくなり、「個別の論考」「対談」「リレー・エッセイ」等が入り乱れ、個別には面白い箇所もあるが、テーマとしての纏まりのないバラバラな内容の本となってしまった。
    テーマの統一感のなさに内容に文句をいうより、コロナ禍の被害を受けた編集者に同情すべきか???

    ただ、都市景観に関する考え方の議論は興味をひいた。
    井上がパリの整然と落ち着いた街並みと比較して、姉妹都市である京都の四条河原町の街角から眺めは、都市景観を無視したような色や形のばらばらな街並みが見えてくるという。
    またイギリスの建築家を大阪道頓堀のネオン街に案内したら感激して「ここは何をやってもいいところなのか。ヨーロッパではありえない表現の自由がこの界隈にはいきづいている」と・・・(この道頓堀の無秩序さを笑いに転じた話は、受けを狙っているのか井上は別の書き物など至る所で使っている)

    これを受けて青木は、日欧の都市景観の考え方の差を、歴史的に、また生活様式の違い等からじっくりと比較している。
    かつては日本にも「町式目」があり、町家の「表構え」のデザインも事細かく決められ、町ごとにひとつに統一された「町並み」という言葉があった。それが近代以降、日本では人々が郊外に住むようになり、仕事場と住まいが分けるようになって、コミュニティが希薄になり、町への帰属意識がなくなったのが、都市景観が崩れた理由として挙げている。(この青木の職住分離説は谷崎潤一郎の「細雪」を思い出す。大阪の船場を離れてモダンな六甲山麓の神戸や芦屋のに住む蒔岡家に当てはまる)
    一方、西欧の都市建築は石造りで、階を重ねる作りになっており、一つの建物には多くの家族が住んでおり、それぞれの居住空間から一歩でれば、皆のものだという共有意識が、都市景観の考え方に繋がって行ったという。
    だが、日本においても、近年東京を中心に再開発が進み、雑然とした界隈が、スッキリと清潔な街区に変わって、広場のようなオープンスペースも増えた。これは100年前に近代建築が思い描いた理想の都市だった。しかしこれは大規模資本が統べる統一体になって実現できたことであり、これを近代化の成功として見て良いのかどうか悩ましいところであると言う。

    井上には建築史家という肩書があるが、本人も言っているように「私が建築の勉強をしたのは1980年代まで」というように、現役の建築家であり東京藝術大学教授の青木に比較すると、オーソドックスな建築の話に関しては見劣りがする。やはり井上は風俗研究家と言った方が相応しいし、捻ったものの見方で人を翻弄することが巧い人だという感じがした。それに対して青木は正統派というか、オーソドックスに物事を捉えているのが印象に残った。

  • 前作に比べて突っ込みが弱い。

  • 建築家と建築史の教授による有意義な対談。コロナ禍だからこその知見が素晴らしい。

    建築イコール文明なのだろう。歴史から始まり話題は縦横無尽。得るところの多い1冊。悪名高い首都高の景観を逆に評価する視点や、建築物の建て替えの多い日本だからこそ建築家が育つという指摘など、実に興味深い。

    文化、文明論として面白い対談であった。

  • 東2法経図・6F開架:B1/5A/751/K

  • 書評はブログに書きました。
    https://dark-pla.net/?p=2883

  • 「京都ぎらい」やTVで有名な建築史家・井上章一さんと建築家・青木淳さんの対談形式による東京と京都の都市論。コロナ禍の風景を通して人々の生活と都市のあり方が論じられている。リレー・エッセイ形式の部分はタイトルから想像するよりもかなり真面目な話が多いが、リアルに行われた対談の内容はおもしろい。両氏の鋭い視点を通して街の見方にあらたな気づきが得られる。

  • 一極集中は是正される? 京都から東京に天皇が移った時代から、二度の五輪と万博まで。『京都ぎらい』著者と気鋭の建築家との対話。

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著者プロフィール

建築史家、風俗史研究者。国際日本文化研究センター所長。1955年、京都市生まれ。京都大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。『つくられた桂離宮神話』でサントリー学芸賞、『南蛮幻想』で芸術選奨文部大臣賞、『京都ぎらい』で新書大賞2016を受賞。著書に『霊柩車の誕生』『美人論』『日本人とキリスト教』『阪神タイガースの正体』『パンツが見える。』『日本の醜さについて』『大阪的』『プロレスまみれ』『ふんどしニッポン』など多数。

「2023年 『海の向こうでニッポンは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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