文明の生態史観: ほか (中公クラシックス J 11)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121600417

作品紹介・あらすじ

戦後日本人が提示した、最も独創的で最も重要な世界史理論。

感想・レビュー・書評

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  • 梅棹忠夫氏の著作「文明の生態史観」、「近代日本文明の形成と発展」を収録した書。「文明の生態史観」は、1950年代から1960年代に著者が雑誌などで発表した論考を纏めたもの。「近代日本文明の形成と発展」は、1983年に著者がフランスの学会で五回にわたり行った講演を纏めたもの。かなり古い書だが、内田樹氏の「日本辺境論」で言及されていたので手に取ってみた。

    著者が提唱する「文明の生態史観」によれば、世界は、文明の発展パターンから第一地域と第二地域に分けられる。第一地域は東の端の日本と西の端のヨーロッパであり、第二地域は日本とヨーロッパの間の地域。第二地域は更に四つのかたまり、すなわち中国世界、インド世界、ロシア世界、地中海もしくはイスラーム世界に区分される。第一地域は、古代文明の辺境にあって(隋・唐やギリシャ・ローマの)高度文明を吸収しつつ遅れて発展したが、辺境であったがゆえに砂漠地帯の破壊者からの攻撃を凌ぐことができ、動乱を経て封建制を成立させ、革命を経て絶対君主制へ、そして資本主義へと同じように発展してきた(歴史的平行現象)。そして、封建制を経験したことは、ブルジョワジーを生み今日の発展の礎を築いた点で特に重要とのこと(「フランス語で「町(ブール)にすむ者」を意味するブルジョワという用語は、「町の住人」を意味する町人という日本語にじつにみごとに対応してい」るとのこと)。一方、第二地域は、いち早く文明が栄えた地域であるにも関わらず、真ん中に砂漠・乾燥地帯が横たわっており、此処に住む破壊者(遊牧民)からの暴力の脅威に常に晒されていて、革命的な発展が見られるところまで社会を成熟させることができなかったのだ、という。

    かなり乱暴でちょっと違和感のある部分もあるが、このように整理すると、日本の発展が、明治維新後に西欧文明を吸収してゼロから急速に発展した、ということでは全くない(したがって、途上国が日本を真似て西欧文明を吸収しようとしても、日本と同じ様に発展することはできない)、という事が明快に説明できる。

    この説で面白いと思ったのは、世界の文明発展の歴史において、遊牧民の猛烈な暴力を凌ぐことができたかどうか、その地政学的なリスクの大小が極めて重要、という見方。真実を突いていると思った。

  • 50年以上前に書かれたもの。たしか今年亡くなった方、、、と思って(ホントは去年でした)初めて手に取った。あまり今読んで目新しいことは書いていない。しかし、それは著者の主張が、後続の人によっていかに多く引用され、変奏されてきたかの証のようだ。大枠の主張だけでなく小ネタ的エピソードまで、なにか聞き覚えがあるような話が多い。なんというか50年前のものを読む違和感がほぼない。日本文明論のひとつの祖形なのだろう。

    インド、東南アジア、イスラム圏といった、それまで日本と馴染みの薄かったところでの見聞をベースに論を立てている。ちょっとした視察旅行に希少価値があるのは、その時代ののどかさだ。緻密に事実を列挙して論証していくのではなく、大胆に仮説を打ち立てていくスタイル。ある意味、門外漢が大風呂敷を広げてみたというところでもあるのだが、文章が平易で、ロジックが明晰、しっかり前提条件を示して議論を展開するので、あんまり無茶な感じはしない。人気があるのは何となく分かる。

    インドの人口過密を描くあたりはレヴィ=ストロースと一緒だ。

    文明を系譜論でなく機能論で切るあたりは見事な切れ味。これってやっぱり構造主義に入るのかな?

    最後に1984年のフランスでの講演録も収録。うん、30年間ほぼ同じ話をしていることを確認。結局のところ、第一地域(西欧・日本)と第二地域(中国・インド・イスラム圏・ロシア)の違いが生じたメカニズムを、基本的には前者では自成的発展、後者では乾燥地帯の暴力により他成的発展、ということにしか求めていないのがチョット物足りない。

    第一地域でだけ生じたという「封建制」の定義もムズカシイ。封建制では長子相続により「家」が引き継がれるというふうに家族制度に触れている箇所はあったが。

    江戸時代に近代日本の胚胎を見るのは、<a href="http://mediamarker.net/u/bookkeeper/?asin=4894347903" target="_blank">並行して読んでいる本</a>と共通する。

  • 2023.08.13再読

  • 比較文化・文明論、地政学等幅広い見地からの独自の説得力ある文明論、文明の第一地域と第二地域の分類、その比較は納得感のある梅棹独自の世界観。特に日英同質論は興味深い。

  • 第一地域と第二地域の分け方がかなりざっくりだったけれど、世界の宗教の話から人々の美的感覚の話まで論理的に展開できているのはすごいなと思った。
    個人的には旅行時の飯問題の話がかなり面白かった。
    この頃パレスチナ問題が再燃し始めたけど、この本はその問題に通ずるところがあるように感じたので、パレスチナ問題に関心のある方は一読して欲しいな。

  • 梅棹氏の本はいつも斬新な驚きを与えてくれます。文章も短めの物が多く読みやすいです。1967年版。

  • Twitterで紹介されて話題の一冊!
    なぜユーラシア大陸の東西の極地で近代化が発生したのか?
    他国を知り、自国を知る!

  • 2013年の現在を見ると、梅棹氏の論と異なっている世界(日本)認識の状況もあると思う。しかし本書が書かれたのは半世紀前であるが、まったく古さを感じず一気に読了。歴史に照らし合わせて当時はそのとおりであったのだろうと感じる。また、観察し仮説を立て、その仮説を検証していくというプロセスの大切さも強く感じる読書体験だった。

  • 有名な文明の生態史観を読みたくてこの本を手に取りました。
    ユーラシア大陸を歴史的経緯から、ざっくり第一地域、第二地域と分けることで、そこに住まう人間の思考過程、発展過程にどのような影響を与えるのか、といった部分に注目するという人間学についての非常に興味深い論考で、いろいろな事を考えるヒントになったと思います。
    著者も記述していますが、全体的にデッサンのような広く浅くな感じなので、もう少し掘り下げた著者の論考を読みたかったですね。

  • クーンの科学革命の構造くらいコペルニクス的転回。

    地政学に理論的肉付けをしているので、大東亜共栄圏的な発想に見られてしまうのが悲しいところ。
    でも、学説的には本当に刺激的で、世界の見方が変わる。

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著者プロフィール

1920年、京都府生まれ。民族学、比較文明学。理学博士。京都大学人文科学研究所教授を経て、国立民族学博物館の初代館長に。文化勲章受章。『文明の生態史観』『情報の文明学』『知的生産の技術』など著書多数。

「2023年 『ゴビ砂漠探検記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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