三教指帰 (中公クラシックスJ16)

  • 中央公論新社
4.16
  • (9)
  • (4)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 83
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121600523

作品紹介・あらすじ

儒・道・仏三教の優劣を戯曲構成で論じた若き空海の出家宣言。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本の題名に「ほか」が付いているのは、三教指帰の他に「文鏡秘府論」の「序」が最後に載っているからです。

    空海が24歳の時(797年)の最初の著作。時代は平安時代初期で、讃岐(香川県)に生まれ、長岡京で儒教や道教を学んだ後、仏門に入り四国で修行、804年に唐に留学し、帰国後和歌山県の高野山に真言宗を開きました。真言密教の道場である金剛峯寺を建立しました。

    「三教指帰」の名は、「三教」とは、三つの教え、儒教、道教、仏教を意味し、「指帰」は最終的に行き着く所を意味し、唐に行く前に仏教の優位性を説いた著作。宗教(他の「教」)の比較の形をとっています。
    またこの本は小説の形をとっているので文学的とも言えます。
    巻上・中・下それぞれに対して、現代文訳、漢文原文、漢文原文注と書かれています。

    「三教指帰」は三巻で構成されていて、
    巻上 亀毛(きぼう)先生の論述(儒教の立場)
    巻中 虚亡隠士(きょぼういんし)の論述(道教の立場)
    巻下 仮名乞児(かめいこつじ)の論述(仏教の立場)

    登場人物は、館の主人役の兔角公(とかくこう)、その母方の甥に当たるならずものの蛭牙公子(しつがこうし)、それに兎角公の客として、この蛭牙公子を、儒教、道教、仏教をそれぞれの立場から教導するのが亀毛先生、虚亡隠士、仮名乞児の五名です。

    上巻の主題は、亀毛先生が儒教の教えを打ち明けたもので、親に仕えて孝の道に励み、さらに君に真心をもって忠を尽くすべきことを説き聞かせ、この教えに従えば、すばらしい立身出世が待っていることを古来からのさまざまな事例を挙げて、蛭牙公子の気を引こうとします。

    中巻では虚亡隠士が道教の立場を叙述し、世俗の栄誉や富貴には目もくれず、自らひっそりと無為の境地に身を置き、淡白で無欲に生きて、声なき「道」の根源的な真理と一体となり、天地とともに悠久の寿命を保ち、日月とともに永遠の生を楽しむのが、道教の要諦といいます。

    下巻で仮名乞児の説く仏教の教えは、仏教の基本的な教説をほとんど網羅しています。
    つまり、六道輪廻の苦より解脱するため、五戒、十善、六波羅蜜(ろくはらみつ)、八正道(はっしょうどう)、七覚支(しちかくし)、四念処(しねんじょ)、四弘誓願(しぐせいがん)など仏教の基本的な教説が示されています。

    また話は逸れるけれども、下巻の原文注を読んでいたら、「南閻浮堤(なんえんぶだい)の陽谷」の「南閻浮提」は、須弥山の南方にあたる大洲の名とあり、即ち日本のことであるとわかります。『広弘明集(こうぐみょうしゅう)』という唐の仏書に書いてあることですが、「南閻浮提は最も貧し」などとあるので、当時の日本は貧しかったようです。因みに四方を見て「北鬱単越は最も富みて平等」と書かれています。

    「文鏡秘府論」は、漢詩文を創作する際に手本となる法則を、空海が編纂し、解説した書で、六巻からなります。
    中国で六世紀に書かれたすぐれた文学理論書が、文鏡秘府論に比肩しうる書として評価が高く、日本では文章の創作について唯一の理論書として、後代の文人に尊重されました。その「序」の部分が、この本に載っています。

    注を読んでいると、中国の書物に由来する言葉を使って「三教指帰」の文章が構成されており、
    空海が当時の日本人の中で飛び抜けて中国語に堪能だったのだと思われます。
    空海が「弘法大師」と呼ばれていて、「弘法にも筆の誤り」「弘法筆を選ばず」の弘法は空海のことであると知っている人は知っていますよね。

    空海は高野山金剛峯寺で今も生きていると言われています。伝説的ですが、今でも空海がいるとされている場所に僧侶達が食事を運んでいますし、
    多くの著名人の中には、高野山に墓石を建てたりしています。是非近いうちに行ってみたい所です。

    日本では今でも儒教が浸透していますし、道教の影響もあります。また仏教の影響はとても強く、日本では宗派に別れて、そのうえ神道もあります。宗教の話題は基本的にタブー気味になっていますが、このような中で、仏教の開祖である釈尊が本当はどのようなことを考えたのかということと、日本の代表的な宗派の開祖の代表作も必ず素晴らしいはずです。

    宗教を比較する宗教学は18世紀に発生したと言われていますが、「三教指帰」は宗教学の先駆けとも呼べるようです。

  • 書き出しにある空海の言い訳が人間味に溢れていて親近感を抱く。

  • 弘法さまに教えをこうむるというより、若き空海に共感するよう。「常楽我浄」。引用が多彩。

  • 空海が24歳の時に書いたと言われる「聾瞽指帰」の序文がのちに改訂され三教指帰と名づけられます。これは当時大学で官僚育成のための勉強をしていた空海が、儒教や道教では満ち足りず、仏教こそが3つのなかで最も優れているということを戯曲形式で書いたものです。
    本書は原文(漢文)、注釈、現代語訳からなり、現代語訳はきわめて読みやすかったです。また本書の冒頭に掲載されている松永有慶氏による解説もとても有益で、どういう背景で本書が書かれたか、なぜ序文が変更されたのかについての説を述べられていて興味深く拝読しました。初心者は現代語訳だけを読めばいいですし、中級・上級者は四六辯儷体と呼ばれる唐時代に流行していたと言われる原文を堪能できるということで、非常にお得な本ではないでしょうか。

  • 空海してる
    三教指帰
    これ読みやすさと、原文の置き方と資料量と、とても良い

    仏教は、物凄く膨大な量や長さをイメージすることで、儒教や道教を置き去りにする

    なんだかんだで、志は高くとも現世利益の儒教の限界、現世での不老長寿を考える道教の限界、に対して、煩悩を転じて菩提となし、生死を転じて涅槃となすという超越性と、利他の救済性によって仏教の優位を説く
    想定する世界の圧倒的規模と、忠孝のような狭さではない、広大な救済の観念は、確かに仏教の優位性を教える

    その結論としての、この出家宣言

  • 750夜

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

〈空海〉774‐835年。弘法大師の諡号で知られる真言宗の開祖。31歳で唐に渡り、2年後書物や仏具を携えて帰国。高野山金剛峰寺、庶民のための学校となる綜芸種智院をつくる。高野山で入寂。主著に『三教指帰』『秘蔵宝鑰』『般若心経秘鍵』など。

「2015年 『空海「性霊集」抄 ビギナーズ 日本の思想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

空海の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×