海洋国家日本の構想 (中公クラシックス J 35)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121601018

感想・レビュー・書評

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  • 冷戦下の日本において、非武装中立と絶対平和の理想主義が幅を利かせた政治状況のなか、高坂の権力政治を見据えた冷徹な目と勢力均衡を前提とした極東の緊張緩和策と通商国家の構想は、当時では新鮮で意味のある試みだったのだろう。
    時は進み、冷戦が終わり多極化する世界のなかテクノロジーが戦争の形を変え、テロの横行と不寛容の嵐が吹き荒れ、そのなか極東では中国の台頭と緊張が増す朝鮮半島を横目に暮らす2017年の日本の現在。いま彼の議論を読むと甘美な理想主義だと思うところさえある。それほど高坂が生きた時代から遠くへ来てしまった。しかし、現実主義者の要諦は目的と手段との間に相互関連を認めて、双方の間の生き生きとした対話を重要視することである。時代は流れど、高坂が示した国際政治を冷静に分析し、目標を定め、そのために取り得る手段の選択肢を具体的に考える現実主義者の方法論はその輝きを失っていない。

  • 日本の特異性を指摘した上でこの国が進むべき道について提言した名著。40年以上前に書かれた本ですが、著者の意見は未だに新鮮さを失っていません。

  • 再読。日本の防衛論議はともすれば両極端の完全主義に陥る。自衛力の増大か非武装中立か。両極によるのではなく、最小限度の軍備をし、アメリカと一定程度の結びつきを持つことを筆者は主張する。60年代の著書だが、日本が外に開かれた国であるためには、冒険心を持った「あぶれ者」を「あぶれ者」で終わらせるのではなく、政府が支援しなければならないという忠告は現代にも通じるものがある。

    日本と西洋の関わり方に対する筆者の見方がわかりやすいので要約しておく。世界のコミュニケーション手段は歴史的に海、ステップ、そして砂漠だった。ヨーロッパが地中海を中心とした円だったこと、そして、モンゴル帝国が支配したステップがその代表例である。日本は周りを海に囲まれているが、世界のコミュニケーションネットワークに組み込まれたのは大航海時代以降である。日本にとって太平洋は「海」ではなかったが、19世紀のアメリカの西漸運動は否応なく太平洋を「海」とした。20世紀に入って太平洋はアメリカの「海」となっただけでなく、世界の海がアメリカの「海」となっている。

  •  1963〜64年発表の論文集。解説の中西寛曰く、柱となるのは有名な「現実主義者の平和論」と、書名と同じ題の2論文。前者は、進歩的知識人が主流だった当時にこれが世に与えた衝撃を想像しつつ、今読んでも鮮烈だ。絶対平和論は追求すべき価値、中立はその一手段ということは評価しつつ、すぐには到達できないことを認める。そして既に同盟による権力均衡、権力政治の中にいることを前提とした上で、極東の緊張緩和のための具体的方策(中国との国交正常化など)を挙げる。
     後者は、日本は「東洋の離れ座敷」「極西」であり、東洋でも西洋でもない立場と位置づける。また核兵器の出現によって軍事力がその具体的有効性の大半と倫理的正当性の全てを失ったとしつつも、日本が第7艦隊で守られている現実を認める。自衛力増強論と非武装論を共に「完全主義」として批判する。そして、米との軍事的関係を弱めつつも一定の関係を維持、一定程度の独自軍備(特に空)保持、海洋国家として通商や海洋開発拡大を主張する。この主張からは、高坂がゴリゴリの現実主義者とは思えない。

  • 高坂正堯 「海洋国家日本の構想」「現実主義者の平和論」など論文集。日本が目指すべき国家像、憲法9条・日米安保・中国・核兵器・世論などの捉え方を提示。

    国際政治学の本で 日本の明るい未来を感じたことに驚いた。

    「日本は 東洋と隣り合っているが 東洋でなく〜飛び離れた西ではあるが西洋でない〜われわれのフロンティアは広大な海にある」は名言


    現実主義者の平和論
    *現実主義者=軍備や権力を否定しない
    *中立論への批判〜同盟か中立かでなく、同盟による勢力均衡を前提として、極東の緊張緩和を図ることを考えるべき
    *日本が武装放棄し中立化しても極東の緊張緩和は得られない

    憲法9条
    *9条の絶対平和=国際社会において日本か追求すべき基本的価値→著者は9条を価値の次元で受けとめている
    *憲法は他の法律と異なり政治的性格を持つ
    *日本の外交は日本の価値を実現するために安全保障を獲得する

    極東の緊張緩和策
    *ロカルノ方式(相互不可侵)
    *兵力引離し(紛争地域の兵力を引離し 緩衝地域を設ける)
    *朝鮮半島は極東の勢力均衡の中心点〜朝鮮統一があるべき姿

    海洋国家日本のためのの提言
    *輸出入のバランスをとって経済を指導する
    *商社を中心とする貿易を援助する
    *海運業を繁栄させる
    *低開発国と海洋の開発を進める

  • 出口治明著『ビジネスに効く最強の「読書」』で紹介

    外交政策の不在、平和の条件…。日本の外交戦略を考察するうえで欠かせない一冊。

  • Thu, 17 Jun 2010

    1965年, はや40年以上まえに書かれた本であるというのに
    いささか色あせない,論理性,洞察.

    原爆の抑止力を分析した上で,
    通常兵器の価値も存在する事を指摘している.

    それは,現状の動きをみれば当っているだろう.

    そして,未来のこととして
    ・ 核では抑止できないゲリラ型の先頭,テロの活発化
    ・ 日本が後に台頭する中国と,アメリカの間で板挟みになる.
    という,ふうな指摘をしている.

    まさに・・・・.

    エッセンスを書くのは,ちょっと難しいので,
    是非読んで戴きたいところだ.

    右翼本的な,軍隊イメージもそれほどなく, あくまで,論理的な思考から
    適切な軍備と,そこから平和に至るシナリオを議論しているのが面白かった.

    一つ目の章の名前にあるように
    まさに
    「現実主義者の平和論」

  • 国際政治学者で、吉田茂宰相を当時ではめずらしく肯定的に評価し、鋭い分析と提言から天才という呼び声も高い、故高坂 正堯氏の代表的論文。

    昭和を代表する論客であり、京大教授として数々の学者、外交官、官僚を輩出させた。民主党、前原誠司外務大臣も門下生の一人。

    田原総一郎からも「余人を持って代えがたい人」との評価を受けている。

    共産主義が台頭していた終戦後の日本で、現実主義者の平和論は現在では一般的な考え方になっているものの、当時としては斬新だったのではないでしょうか。筆者は、平和という絶対的目的を達成するのいたる個々の具体的目標はとりうる手段との相互関連において決定されるべきであり、手段と目的との間の生き生きとした会話が平和理想主義者には欠けている点であると主張しています。

    たとえば、筆者はスイスが国際政治の力関係を利用して中立を守るために行ってきた外交的努力について日本は認識不足であると指摘している。

    日米安保条約について、それは日米の友好関係があってのものでありそれが崩れれば意味をなさない。日本防衛に関して不足している議論は、どのような軍備をどのようなどの程度持つべきかという議論であると述べている。まさに、現在の日本の状況を観察しているかのようである。

    ナショナリズムに代表される人間の思想はそのほとんどが環境がそうさせていると述べている。民族国家の形成に軍事力、経済力が加わり、強力な国家が形成される。中国では、歴史上初めて毛沢東がこれに成功し、100万の軍隊を操り、日本軍を撃破し、民族国家ではない根なし草の蒋介石を破った。その意味で組織的な基礎が重要であると説いている。

    最後に今後、日本がその独自の偉大さを築きうる方法は、中国との同一性ではなく、それとの相違に目覚め、東洋でも西洋でもない立場に生きるとこであると述べている。

    軍事に関する論説が多く、やや偏ったところがあるものの、この時代にして、すでに現在の世界情勢を観察しているかの如くの示唆は、確かにすばらしいと思います。ライブの講義を聞いてみたい人でした。

  • 著者の高坂は『海洋国家日本の構想』で、アジア太平洋戦戦争後の日本に対して種々の提言を行っている。特に、日本が海洋国家としてて、いかにその四方にある「海」を使うかが繁栄の鍵だと著者は述べる。50年も前に書かれた本だが、その教訓は今でも光る。

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