富士 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (638ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122000216

感想・レビュー・書評

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  • これもゴツイ。
    昭和19年、富士山麓の精神病院が舞台。
    以前住んでた千葉にも傷痍軍人下総療養所という似たような施設があったのを思い出す。
    作品中はほとんど患者との対話や行動の描写で占められており、濃い。本作執筆中に著者は体を壊したというがさもありなん。
    最後は奥さんの『富士日記』に出てきたエピソードも活用されていて、前に読んでいたので腑に落ちる。実際の時系列では本作品の方が『富士日記』より先に発表されているので逆なのだな。

    武田泰淳/百合子祭りは一旦終了とする。

  • 戦中の精神病院が舞台、とはいっても、「正常と異常」の象徴的に「精神病」が用いられているのであって、その部分のディティールに対して(ましてや現代的な知識でもって)ツッコむのは無粋である。

    劇中には幾人もの患者が登場する。彼らに共通しているのは、精神病患者であることは自覚しつつも、自らの思想や生き様に一切の揺るぎがないことだ。それはある意味での魂の高潔さではないのか。

    「正常」と「異常」。これは当作品において切り離すことはできないテーマであろう。しかし決して対立ではなく同化でもない。境界の論議でもない。

    医者が患者を治そうとする時、「神の指」にならなければならぬという。それはあたかも、動物と接するときにはるか天の神のような立場から何かを施すように。
    動物は「富士」を認識できないだろう。しかし患者の「宮様」も「哲学少年」も富士を見ていた。
    私は、この作品の終盤においてようやく、「富士」というタイトルに見合う壮大さだけは知覚できた。しかし、「富士」は見えなかった。評価は★★★としたが、歴史に残るすばらしい大作だろう。

  • 解説は斎藤茂太。

  • このボリュームを三日で読み終えたのだからいかに無我夢中に読んだかお分かりいただけよう。戦時下の富士山麓の精神病院が舞台。序章と終章の描写は『富士日記』と大いに被り百合子さん信者の私としてはもうたまらない。自分を宮様と信じて疑わない虚言症患者の一条実見の登場シーンに盟友埴谷雄高『死霊』の首猛夫を重ねずにいられない。それら作品との関係性を意識しながらのミーハー読みも一興であるが、狂気と正気がダイナミックに入り乱れ蠢く豊穣な人物像に舌を巻いた。狂気を扱う形而上文学であると同時に娯楽性も兼ね添えた群像劇、大傑作である。

  • 狂気と正常、生と死の境界が曖昧になる瞬間のカタルシス、官能と言ったらない。それが動物界か、それとも神の世界かはわからないけれど、少なくとも人間界を束の間超脱したような恍惚を味わった。
    社会権力から見れば(ましてや戦時下の)、それは紛れもない退廃、許すべからざる退廃。けれどもこの読書体験を通じて、その退廃に至る過程が一言で掬いとれるものでは到底ないことを知る読者にとっては、それが輝かしい退廃であるようにも見える。

  • 3月末現在、2014年暫定ベスト本(フィクション)。狂気とは何なのか、そのわからなさが饒舌な文体と個性に満ちた患者たちのキャラで彩られ、とても面白く読んだ。肩書きとしては医師、病院の職員、町の者であっても、彼ら彼女らと「患者」との境目はわからなくて、終盤の乱痴気騒ぎがそれを物語っている(ここは本当に読んでいて面白かった)。内に迫る人間の本質を描きつつ、娯楽性も高い。「面白い」本として、気の会う友人に勧めたい一冊。

  • 大作過ぎてレビューなんかとても書けないな〜。この世界観は何処から来るんだろう。精神が削られました。

  • 長くて、読み易くはないけれど、これぞ文学って感じかな。

  • 読書会にて
    突き放し感というか達観というか追求してる感じがイイ!

  • 旭川などを舞台とした作品です。

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著者プロフィール

一九一二(明治四十五)年、東京・本郷の潮泉寺住職大島泰信の息子として生まれる。旧制浦和高校を経て東大支那文学科を中退。僧侶としての体験、左翼運動、戦時下における中国体験が、思想的重量感を持つ作品群の起動点となった。四三(昭和十八)年『司馬遷』を刊行、四六年以後、戦後文学の代表的旗手としてかずかずの創作を発表し、不滅の足跡を残した。七六(昭和五十一)年十月没。七三年『快楽』により日本文学大賞、七六年『目まいのする散歩』により野間文芸賞を受賞。『武田泰淳全集』全十八巻、別巻三巻の他、絶筆『上海の蛍』がある。

「2018年 『新・東海道五十三次』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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