細雪 (中公文庫 た 30-13)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (936ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122009912

感想・レビュー・書評

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  • 優雅で絢爛な、関西版「サザエさん」(と私は思っている)。人生で一番繰り返し読んでいる作品。初代は開きすぎたせいか背表紙が割れて壊れてしまって、いま手元にあるのは2代目。それくらい大好き。

    昭和初期の関西の京阪神の地を主な舞台として、中産階級のそれぞれ個性の違う四姉妹たちの生活を描いています。

    乱暴にもサザエさんに例えたのは、細雪が四姉妹たちの(フィクションとしては)そこまで山や谷のない日常生活を描く中で、彼らが味わう季節の風物や行事といったものが抱き合わせで丁寧に描かれているから。
    春のお花見、夏の蛍狩、秋のお月見…。
    サザエさんも、家族の日常生活の中に四季の行事を色々と盛り込んでいますよね。
    (ちなみに、成立は細雪の方が早いです)

    そして。
    和装と洋装の対比、お琴に三味線に舞踊、歌舞伎といった芸術要素の強いものの差し込み方。
    当時の名店や、約80年後の今も残る地名や地理、地域性の使い方。
    京阪神に住んでる人は、細雪をより一層楽しめること間違いなしです。私も関西に住んで改めて読んでから、倍以上に楽しめました。

    もう、色々なものが、実に巧みです。
    さすが、「文豪」、「大谷崎(おおたにざき)」と称されただけある!

    ちなみに、谷崎というと多くの人が真っ先に思い浮かべるだろう、マゾや変態の要素は、細雪には、本当にありません。

    引っ込み思案なようで気位は高い、でもなに考えてるかはよくわからない、いかにも関西の旧商家のお嬢様らしい三女雪子の見合い話に家族たちが奔走するというのが話の軸。
    当時としてはあまりに奔放な四女妙子の恋愛トラブルやデキ婚なども描かれてはいますが、どこから切り取っても、R指定はつかない、健全な、「昭和初期のわりとリッチな層に属した人々のホームドラマ」です。

    ザザエさんと大きく違う点は、時間の経過が描かれ、登場人物たちも確実に歳を取っていくこと。
    姉妹たちのライフステージや第二次世界大戦直前という時節の著しい変化に伴って、生活環境がゆっくりと、けれど確実に変わっていく過程、そして同時に、伝統的な美が廃れていくものがなしさがしみじみとあわれに感じられます。

    いまでは、無料で読める青空文庫や、上・中・下巻に分かれていて持ち運びしやすい新潮文庫版などがありますが、個人的には断然、中公文庫版が好きです。

    正直、三巻分全てが一冊にまとまっているせいで900ページ超えの大ボリュームで、文庫の持ち運びの利点は全く殺されています。
    それでも、田村孝之介さんによるたくさんの挿絵と、生粋の関西女子・田辺聖子さんによる関西の女を粋に分析した解説が、ものすごく魅力的で、本作の価値を高めています。

    熱くなりすぎましたが、日本の美を感じたい人には本当にオススメしたい作品です。

  • この偉大な物語をどう表現すればいいのだろう。

    関西、特に蘆屋近辺に特有の女系家族と、その細やかで共感性に満ち、時に排他的でもある文化に触れられる。

    戦間期ベルエポックの儚く華やかな時代の子と細かな描写は繊細かつ壮大であって、『レミゼラブル』のようでもある。

    思えばItvの『ダウンタウンアビー』を観た時、あぁこれは英国の細雪だ、などと思ったりもしたかもしれない。

    本家筋を継いだ苦労人の鶴子、恐らく最も安定した人生を送っている幸子、なぜか幸の薄い雪子、自由奔放な妙子。

    日中戦争、独墺併合、阪神大水害、外国人たちの帰国、大戦の開始、倫敦空襲、七・七禁令・・

    なすすべなく、美しく儚い日常が移ろいゆく。

    中巻以降、「時節柄〜」という表現が増加してゆく。

    雅な服装や観劇、舞踊は「自粛」されてゆくさまが空恐ろしくも、世界が徐々に不穏へ至る様を感じ取ってしまう。

    解説、田辺聖子先生はこの物語に際して、『社会の動きは亳も関係していない』と書くが、そうだろうか。

    少なくとも徐々に自粛や時節柄〜、時局が、と言った表現が増え、恒例の花見にも影響が出ているのは容易に見て取れる。

    むしろ華やかで楽天的でさえある戦間期という時代にある関西女系文化が、徐々にそのあり様を変えてゆく儚さがこの物語の魅力であり、『細雪』たる所以なのではないか、とも思う。

    しかしどうしたって雪子は見合いの日になるとなにかトラブルが起きるのだろう。

    この薄幸さがなんとも言えない。

    嫁き遅れならぬ、婿き遅れ甚だしくなりつつある今日のワタクシはなんだか雪子に感情移入してしまいがちになったのは初めて読んだ頃に比べて自分が成長した証だろうか・・。

    この後、恐るべき戦争と来る敗戦にこの家族はどんな苦労を迎えるのだろう、と気が重くもなってしまう。

    上中下の全巻版はこの中公文庫がいまでも一番手に入りやすいだろうか。

    息をつく暇隙を与えないこの物語体験を楽しむには全巻が良いだろうし、しかし、この女系家族を巡る繊細で共感に満ち溢れた物語をじっくり楽しむにはせめて幕間ならぬ巻間の時間を作るために上中下分冊で楽しむ必要もある。

    偉大な物語だ。

  • 豪商の家柄を纏う4姉妹の家族模様としきたりが、戦時統制下傾く国運と相俟って、少しづつ崩れゆく様を描く。純文学の金字塔と言われるが、難解さはまったく無く、全体に落ち着いたトーンながら、つい読み耽るほどの魅力があった。大正期の思考やスタイルが染み付いた長女〜三女に対し、家の隆盛時代を知らぬ四女の、戦後女性を先取る生き様が対照的。戦前の家督制度や身分意識への理解無くして読めない世界で、今日からすればもはや時代小説の部類。だけに、現代に無い情緒や風俗が艶やかに映り、色褪せなさにもなっている。古文のようにつらつら続きながら、論理的で無駄の無い文体は精密で、特に面白く読んだのは書簡の文面。趣旨や謙譲、気遣い方や話の運び方など、メールやチャット主体の我々から見て、昔の人の遣り取りや物事の進め方決め方が、まどろっこしくも、筋道は外してない点、コミュニケーション手法の勉強になるほどだった。

  • 心の動きや、人に対する思いやり、心の描写が美しい言葉でよく表されていた。

  • この長い長い小説の面白さは一体どこにあるのだろうと考えてみる。
    よく言われる船場言葉の艶やかさ、戦前の阪神間富裕層の生活文化の洒脱さなどがこの小説の魅力であることは間違いないのだが、現代の目から見ると、小説の世界に読者を引き込んで離さないのは雪子と妙子のかなり極端なキャラクターであり、さらに雪子の縁談と妙子の巻き起す事件を軸にして隙間なく織りなされる巧みなプロット構成が「小説としての面白さ」の土台となっていると思われる。
    これは見方の分かれる所とは思うけれど、微に入り細に入り描写される着物の柄やら舞の所作やらは、教養のない私のような現代の一読者からすれば、文豪谷崎の筆力をもってしても必ずしもディテールが目の当り浮かぶほどの想像力を喚起できないのだ。これはある種時間的な断絶のなせる技であり、同時代小説とはそのような宿命を持つものだろう。
    しかし「旧家の家風」の価値観をベースに展開される物語は、そのような価値観が歴史的遺物となった現代から見ても小説内のルールとして受け入れることができる。これは時代小説で武士が簡単に切腹して死んでいくのをおかしいとは思わないのと同じようなものだろう。物語は旧家の家風に抗う者(妙子)と本家には反撥しながらも形勢に身を委ねる者(雪子)、両者を慈しみながらも何かと板挟みになり手を焼く次姉夫婦らの感情の交錯が読みどころであり、時に同情し、時にハラハラし、時に「何だそれは⁉︎」と呆れ果てながら、彼女たちの巻き起す事件の先を読み進めずにはいられない、これぞ文豪の傑作と讃えられるところだと思う。粗筋といってまとめ難く、結末という結末もないので、詰まる所小事件の連鎖であり、NHKの朝の連続ドラマにも似た趣とでもいうべきか。とにかく魔法にかかったように読み始めたら止まらないのである。
    「何分で読める何々」とかの要約本も流行っているようだが、本書や『吾輩は猫である』のような小説は要約のしようがないのではないか。
    それにしても実名でここまでクサされた奈良ホテルは一体谷崎に何をしでかしたのだろうか?

  • 「細雪」は本当に面白い。何せ女の4人姉妹ですよ。色々出来事がこじれないはずがありません。彼女らの生き方の物語としても面白いっちゃ面白いのですが、私は昭和初期の着物や風俗を読むのが楽しいです。

    何せ上品だし、文章は馴染みやすいし、話の展開もわかりやすいし、心情描写も細やかだし、登場人物には共感できるし、良い人しか出てこないし、誰が読んでもきっとその人なりの楽しみを見つけてもらえる小説だと思います。

  • やっと読了。長かった。でも面白かった!
    蘆屋の旧家のお嬢様姉妹の日常をゆらゆらと描いた作品で、戦争などの情勢などもリアルなものになっているそう。華やかで贅沢もするけど、お父さんは亡くなっているので財産も限りあって落ち目も感じさせる。当時の暮らしぶりがリアルにえがかれていて興味深く読みました。

    上中下巻で長かったけど、基本的には内気でなかなか縁談がまとまらない雪子のお見合い話で幸子夫婦たちが奔走する話に、ときどき自由奔放で近代的な末っ子の妙子がトラブる、といった流れ。上の姉の鶴子一家が引っ越したりして環境が変わったりします。

    お見合いするにも当時はお互いの家柄をはじめ、世間の評判などあらゆるものを徹底的に調べていたようです。あとは姉妹間で結婚の順番を意識したり、本家・分家における立場の考え方など、「ここまでするんだ」と現代との違いを味わうのも楽しいです。今と違って情報量が少ないし、関心ごとも家族中心のことになるのかな。

    なかなか雪子と幸子、妙子と悦子など名前で混乱するも、流石に長いので覚えました。4姉妹なんだけど、3姉妹+本家の鶴子といった感じで鶴子の出番少なめ。

    ドラマや映画版も観たいな...

  • ストーリーの起伏や展開を楽しむという小説ではないと思う。蒔岡姉妹と起居を共にして、生活する時間そのものに入り込む体験をするのが醍醐味の小説。暮らしの時間自体を出来る限り写し取ったものと考えると、この長さの意味が分かる気がする。

  • 文庫で900ページもを読ませてしまうだけの面白さ、当時の文化、記録としての面白さはある一方、淡々と日常がつづられ、なんでこんなにお見合い話が続くのか、今一つわからない。大垣や岐阜、豊橋といった身近な地名が出るとオッと惹きつけられたが。
    何より、結末が、なぜ、何ゆえこの結末なのか、900ページ読んで来て最後の一文がこれ!?と驚愕の締めくくりだった。谷崎ファンの方はまさしく谷崎らしいとのことだったが。谷崎文学研究の先生のレクチャーでは、これは赤痢にかかり、その後流産した妙子の運命を雪子もたどることを暗示している、また谷崎の悪魔主義でもあり、川端の描く「美しい日本」を描かなかった谷崎とも言っておられ、なるほどとは思ったけれど、やっぱりこの最後の一文は、えー!?と驚きの結文だ。

  • 細雪上中下巻。上巻は昭和18年、中間は昭和22年、下巻が昭和24年と戦争を挟んで執筆、出版された。(文庫本で929ページの長編。)小説の時代設定は日本が先の大戦に突入する直前くらいの何かと先が怪しくなってきた時代。それでも世の中はそんなに深刻になるとはつゆ思わず淡々と回っていく。大阪の旧家蒔岡(まきおか)家は大層な羽振りであった先代当主がなくなり女ばかりの四人姉妹が後に残った。長女、次女は先代が存命中に縁談をまとめてもらい本家と分家をそれぞれ構えることになる。家には昔日の勢いは失われているものの、庶民とくらべると数段上質の生活を送りプライドも高い。それぞれ当主である長女・次女はかなり格式にも縛られている。でも次女幸子の方は縛られ方も少し緩やかではある。そういうところに居心地の良さを感じている三女雪子四女妙子は幸子の家での生活が気に入っている。三女雪子は美人だが内気なため婚期が遅れている。四女妙子は外向的で自分の手で稼ぎ自由に恋愛もする。そういう姉妹がそれぞれの性格を見せながらポリフォニーが織りなされていく。縁談、花見、芝居見物、お稽古毎、恋愛、病気、災害、外国人との交流などのイベントが走馬灯のように次から次へと現れては消えていく。特に大層な筋書きがある訳ではない。が、結構浸れる。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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