外交官の一生 (中公文庫 M 321)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122013766

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  • 1986年(底本1972年)刊。1915年~46年まで外交官として奉職した著者の自叙伝。

     東亜同文書院卒、外交官試験合格前に満鉄での勤務歴ありという異色の存在。勿論、メキシコ勤務や太平洋戦争直前にブラジル勤務、終戦間近のビルマ勤務(前任の尻拭い兼銃口前に立たせる目的を勘ぐり得る)など表街道を歩んではいない。

     ただ、満州事変勃発時に吉林総領事、日中戦争時の東亜局長(あの佐藤尚武の外相就任時の引きの可能性)、第二次世界大戦勃発時のオランダ公使であった等、要所要所で読み手をそそる職に在ったのは本書の買いの部分。


     さて、近衛文麿はもとより、広田弘毅の外相としての資質・胆力をけちょんけちょんに切って捨てるのは、逆の意味で爽快である。

    ① 満州事変時、吉林在の軍閥の中華民国からの独立宣言が、在吉林の日本軍師団師団長の銃口下で指嗾されたとの証言、
    ② 同事変時、非天保銭組の出世・論功行賞の宛てが戦争で手柄を立てることであるという、満州駐留部隊の認識の暴露、
    ③ 南京事件時、東亜局長にあった著者が福井領事から受けた電信報告、上海総領事からの書面報告に基づき「掠奪・強姦・目もあてられぬ惨状」と日記に記している。
     その上、かつ同事件の極端な実例として、元弁護士の応召中尉が銃剣をじゃらじゃらさせつつ、また部下に現地女性を宿営所に拉致させ暴行を加えたという主旨の記述もある。

    ④ さらには終戦直前以降のタイ外交の強かさ、
    ⑤ 北米勤務においては、移民受け入れ問題(米からブラジルへの受入国の変更も包含)に奔走する様が、大正期以降、内地での雇用拡大や内需拡大に奏効しなかった日本の現実を垣間見せる。

    など大正期以降の地道な外交活動の裏面も見れる点も本書の利として挙げられるかもしれない。

  • 本作は、外交官の任期を時代背景と共に赤裸々に綴った自叙伝であり、もはや、戦前から戦時における外交官の日常を記録した資料である。これを読めば外交官がいかに軍部に不審を抱いていたか、時代がいかに軍部を暴走させたかがよく分かる。また、だからこそ、彼の記録した当時の南京における描写には、真相を紐解くための歴史的価値があるのではないだろうか。

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