大帝ピョートル (中公文庫 M 284-4)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (439ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122014251

感想・レビュー・書評

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  • 現代ロシアへと続く行動原理を確定した人物という評価に異論はない。しかし、その姿勢が残した非ヨーロッパ的な政治体制は、今に続く基本原理を内在させていたように思う。
    アンリ•トロワイヤには、イワン一世も書いて欲しかったなぁ。

  • ピョートルのことを以前から詳しく知りたかった。
    異能を発揮し、周りを善かれ悪かれ大いに巻き込み、過去の世界を刷新して、次世代のパラダイムを作るような人のことを偉人、英雄というが、ピョートルは間違いなくその一人。

    子供の頃は織田信長の境遇や奇行に似ている。自分の擬似軍隊を組織し、父親の影響を受けつつも父親の葬儀はぶっちぎり、他の親族や家臣に命を狙われる日々、、やはりあまりにも似ている。

    そこからぜんぜん違うのが、身長が2メートルに近く成長し(!)、若い段階で皇帝となりながらも、外国人居住地区にしょっちゅう出入りし、最終的には2度も国外にでて、欧州で職工として働いたり、博物館に出入りし、ニュートンら科学者らと交わるというちょっと他の偉人伝では見られない人生を送り、最終的にはロシアに戻り、軍備を近代化、充実させ、数々の外征を行い、ロシアを欧州地域の大国にまでおしあげた。戦争を継続するため、数々の過去の不合理な制度を改革し、必要性以上に古きものを壊すのが趣味や主義として体現されていたとさえいえるようである。この辺はまた信長に酷似してくる。

    信長は息子と共に京都で屠られるが、ピョートルは自らの皇太子を廃嫡する等、晩年がやかましい。突然に死ぬときもどうも現場作業をしていたようで、よほど変わった皇帝だったようだ。

    この本が素晴らしいのは、大帝といわれる人物の偉業ばかりを称えるのではなく、負の側面をキチンと批判しているところ。欧州化に極端すぎた為、本来的なロシア人のアイデンティティを崩壊させた側面、莫大な軍費を確保するため、数々の近代化を成し遂げたピョートルではあるが、ロシア独自の農奴や重税を改めることはなくむしろ強化した側面が強い。

    この貧富の差が最終的にはロシアの赤色革命につながるわけだが、とにもかくにも、現在のロシアの領土や行動原理を創り上げた偉人を功罪両側面で知れたのはよかったです。

  • ノンフィクション

  • ロシアの偉大なる大帝ピョートルの伝記小説。自分で偉大と書いて、偉大か?とも思ったが。。。まずロシア人の名前が全然覚えられない。面白い箇所もあったが、名前と地名が、さもあなた知ってて当たり前よ的な感じでガンガン出てくるので、文章が頭に入ってこない。バカな息子のところとか面白かったけれど。昔の人が髭を伸ばしているのは宗教的な意味合いもあったのかと初めて知った。

  • 13/09/24、古本で購入。

  • 17世紀末〜18世紀前半にロシアに君臨した専制君主、ピョートル1世。/ソフィアは生きること、愛すること、支配することを望んでいるのだ。p.21/後年の彼は「十四の職業」の技術を身につけた、と自慢するだろう。p.54/今やドイツ人居留地は、閑静で優雅な西欧文明の中心地である。レンガ造りの家、花壇、まっすぐな並木道、噴水…。モスクワの東洋的無秩序とはなんという違いだろう!p.56/彼は非常に神経質な性格で、物事に動じやすく、衝撃的な事件でも起きればすぐ度を失ってしまうのだ。勇気を奮い起こさねばならぬとなると、超人的な努力が必要だった。生来の臆病さに打ち勝つために、まず常軌を逸した決定や行動に走ってしまうのだ。p.64-65/輝くばかりの巨人が立ちはだかり、胸にひとりの半病人をかき抱いていた。ピョートルは十七歳と四ヶ月であった。p.69/彼ら外国人は、わけのわからぬ言葉で喋り、納屋で祈り、聖母マリアを崇めず、それにーなんと気味の悪いこと!ー「まるで家畜のように」サラダと称する葉っぱを食べるのである。p.73/彼が女を求めるのは、ただ性の欲望を満たすためであり、女を評価したり尊敬したり、あるいは感情的に惹きつけられたりということは、まるでなかった。彼の女に対する欲望は、女を軽蔑する気持と、ちょうど見合っていたのである。p.77/彼の仲間の大部分が、アゾフ攻略を幸運な結末と考えていたとすれば、一方のピョートルにとって、それは対トルコ戦のひとつのエピソードにすぎなかった。p.105/恐怖にすくむ外交官たちの眼前で、彼はみずから斧をつかんで、首を斬り落とした。p.141/夫に捨てられ、位も特権も失ったエヴドキヤは、こうして修道女エレーナとなった。p.144/1700年、ハンガリア風の服装への改革、ひげを切る事。暦の改革。/1700年末、カール12世に対する、ナルヴァの大敗。/スウェーデン人がこれから先まだ長いあいだ、われわれに勝をおさめるだろうということを、わたしは知っている。だが最終的には、彼らに打ち勝つ方法を、われわれが学びとるだろう。p.163-4/彼が酒宴で羽目をはずして体をこわさぬようにと気を配るのも、彼女の役目だった。平然と宴席に乗り込んで、高飛車に、「さあ、帰りましょう、父ちゃん」と彼女が言う。すると彼は、笑いながら言われた通りにした。(エカテリーナ。p.183)/1709年、ポルタヴァの戦いにて、カール12世に大勝。/ペテルブルグは、反モスクワとなるだろう。大陸的な気候、幾世代にわたる伝統、その土地にしみついた迷信、宮廷内の陰謀、東洋的で時代遅れでありながら反抗的な精神、そうしたものがまつわりついたいにしえからの都を、ピョートルは心底嫌いだった。p.189/1711年、対トルコ戦、プルート河での大敗。/1714年、ハンゲの戦い、スウェーデン艦隊に大勝、海軍の勝利。/しかし、とピョートルは考える、ロシアでは福祉と自由は人間の精神を軟弱にさせるだけである。幸福な民などというものは、太鼓腹と反抗心をもつのがおちだ。偉大な政治をおこなうためには、国民を隷属状態におかねばならぬ。p.238/ピョートルは、義理の娘を解剖するよう命じた。死体を解剖し研究することに深い興味を抱く彼は、みずから手術に立ち会った。内臓を取り出す光景は、本来の科学的精神と無気味なことを異常に好む気質とを、同時に満足させる。p.255/1721年、スウェーデンとの和平。大いに有利な条件でもって。バルト海への進出。/ペテルブルグ、軍艦、海上制覇、ドイツ式の習慣、ひげを剃り落すこと、外国語の使用、そうしたものは、国民の大部分にとって、悪夢にほかならない。p.303/あらゆる才能をなんでも屋的に発揮する彼は、人類の知識の全体を俯瞰したがる一方で、時間も忍耐力もなかったから、何ひとつ本当に深めるということはなかった。(略)しかしこうした支離滅裂な情熱が無限に積み重ねられることで、長いあいだには、ひとつの方向が生まれてくる。(ペテルブルグ建設、戦争による領土の獲得。p.327)/財政に関するピョートルの方針は、「できる限りの収入をあげるため、不可能を要求せよ」p.356/その気違いじみた楽しみ方、不節制、持久力、頑固さ、盛んな精力、安易さを軽蔑する態度、勇気、気の変わりやすさ、熱中と失意、怒りと喜び、等々、その性癖を列挙すれば明らかなように、つねに過激に走るスラブ人独特の気質をもっていた。p.385/彼らにとって、ピョートル大帝とは、高いパン、密告、拷問、教会弾圧、農奴制の拡張にほかならなかった。p.406-7/ピョートルは、野蛮なほどの頑固さで、ロシアの国の栄光のために、ロシアの民の幸福を犠牲にしたのである。p.417

  • ロシアのロマノフ朝大帝ピョートル1世の歴史小説。
    ヨーロッパを転々と旅行し、建築や服装などを自国に取り入れ、国を大きく変化させた指導者だった。
    しかし、暴君であり、信じられないくらい好き勝手に虐殺するし、贅沢するし、飲んだくれるのである。
    妻となったエカテリーナが洗濯女から国を支配するまでになるところはすごいと思った。
    昔の改革者は理解できない部分が多くあると感じた。

  • 17世紀終わり頃。田舎の弱小国であったロシアを,ロシア帝国という名にまでのぼらしめ,文化も西洋に負けない(というか西洋の真似ではあったが)ようにと国々を回り,彼一代でロシアの近代化を成し遂げた人物の歩んだ道を様々な資料を参考にしつつたどっていく。
    なんと言うか,読んでいてページが進まない。ピョートル自身がどう考えて,どう周りの人に語り,影響を及ぼしたかなんてのは全く無く,ただ単に歴史を追うだけの小説であった。訳書なので仕方ないかもしれないが,司馬,宮城谷などを好む方には余りお勧め出来ない。
    それでも,私が途中で諦めずに読破したのは,この時代に私が疎いからである。ただそれだけだ。
    ピョートルが常に魅力を感じ続けていたものは3つあり,戦争・海・外国だ。国境を広げ,臣下を教育してロシアを偉大な国にすることがピョートルは使命と感じており,外に向けては剣,内に向けては棍棒が必要だと彼は考えたのだ。彼は,指導者と言うより,技術者であり,船大工,花火士,医師など,ものすごい貪欲さで知識を食い漁った。大酒のみで,拷問・処刑は自分でも進んで行う。原始的な本能のおもむくままに行動した彼だったが,そんな彼だからゆえに,短期間の間にロシアをここまでの大国に作り上げることが出来たのだろう。これは読み終わった後に,おそらくホッと安堵するとともに,じわじわと感じてきている部分である。
    ペテルブルグの町を作ったのも彼であり,それには,10万~20万人の犠牲者が出たという。人骨のうえに建てられた町がペテルブルグであり,町を支える杭棒は,落命した労働者の骨だったのだ。そんな彼にも弱いものがあり,それがゴキブリであり,何人目かの妻のエカテリーナである。この話は,女帝エカテリーナに譲る。(私は読まないと思うが。。。)
    宗教についてピョートルは非常に開けた考えを持っていて,カルヴァン派,ルター派の聖職者と交わるなどし,ロシア正教徒からすれば異端に近い彼らの話を良く聞き,好んでプロテスタントの教会に通うこともした。外国人に対しても,信仰の自由を保障した。ただ,古来の宗教をまもるカトリックだけは警戒した。彼が技術者肌ということにも関係するかもしれないが,宗教をただ,君主に対抗するための権威を獲得することを目的としているようなカトリックには賛同できなかったのであろう。
    彼は残忍で,気まぐれで,下品であったが,倹約家であり(酒と食は違ったが。うまい物と言うのではなく,量のということで。),節約家であり(少々けちに近いほど),ただ,ロシアの栄光のために,今現在のロシアの民の幸福を犠牲にしたのである。ヨーロッパに追いつけ追い越せと願い,反抗的なカトリックの国のフランスより,活動的で質実剛健なプロテスタントのいるドイツに多くを学んだという。
    楽しみながら読むというより,勉強しながら読むと言ったほうが当てはまる本書であった。なので,星1つ。

  • かつてのロシア帝国を欧州近代国家へ変貌させたピョートル大帝の奮闘振りとその恋の遍歴を描いた歴史小説。

    その偉大さを実感させられます。
    一応小説の形態をとってますが、歴史書っぽいわね。その辺を念頭に。

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著者プロフィール

1911年モスクワ生まれのロシア系フランス人作家。1935年に処女小説『ほの明かり』を発表して以来、2007年に95歳で没するまで精力的に小説、伝記、エッセイ等を発表した。日本でも多数の作品が翻訳されている。主な著書に、『女帝エカテリーナ』(中公文庫、1985年)、『ドストエフスキー伝』(中公文庫、1988年)、『バルザック伝』(白水社、1999年)、『プーシキン伝』(2003年)、『ボードレール伝』(2003年)、『ヴェルレーヌ伝』(2006年)、『フロベール伝』(2006年、以上、水声社)等がある。

「2023年 『モーパッサン伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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