波のかたみ: 清盛の妻 (中公文庫 A 75-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122015852

感想・レビュー・書評

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  • 平家の栄枯盛衰を女の視点から描く歴史小説。歴史のあらすじを知っていないと読みづらいけれど、「別の視点」として非常に面白い。


     院政、その制度と心中したのが平家一門。それをいつもの女視点で客観的に見つめる歴史物語は、主観なんだけど俯瞰で、面白い。
     やはり女は政治の蚊帳の外というコンプレックスがありながら、女が重要な役割も担っていた、むしろ乳母として強力な発言権を持っていたという、絶妙な立場にあったからの独特な歴史の見方なのだと思う。

     平氏の物語としては全体像が捕えられないので、注意。

  • 平家物語と言うか、平氏が登りつめていく様、堕ちていく様を清盛の妻時子目線から見たもので、見る場所を清盛から隣の時子に変えるだけで、こうも時代は違って見えるのか、と驚愕しました。同母弟時忠の言う「平家にあらずんば人にあらず」の言葉も、もっと違う意味を持つ、ゾッとするものに感じました。確かに平家の反映は時子たちなくしてありえず、時忠の存在感は誰よりも強いものがありますが、時忠の気持ちや目指していたものは、決して清盛と「平家」と共に在ったものではなく、それも最後の時子との会話の中で垣間見ることが出来、恐ろしいものを感じます。最後、時子の「そなたらしい生き方ね」と言う言葉に、全てがこめられているような…。とにかく面白い!清盛の誰よりも近くにいた時子から見たものは、こんなにも違う景色だったのだと。そして…時忠はだいたいどの歴史小説を読んでも「なんかこいつ可愛くないな」感があり、この本でもそれは同じでしたが、時子と時忠が姉弟として会話をしている場面には、なかなか微笑ましかったり、ただの姉弟として接している場面にホッとしたり、またそれを嬉しく感じたりしました。

  • 後白河院ってタフな人だったんですね。
    二条天皇や高倉天皇は病弱で若くして亡くなられたけど。
    平家は、源氏ではなく後白河院に滅ぼされたんですね。

  •  通勤電車の中で読む文庫本が切れたので、妻の書棚から取り出してきました。
     先年のNHK大河ドラマは「平清盛」ですが、本書の主人公はその妻時子。武家としての平氏というより、公家としての平氏の盛衰を清盛の妻の目線で辿る物語です。
     実は、著者の永井路子さんと初めて邂逅したのは、もう今から40年ほど前になります。私が中学校のとき、学校主催の講演会においでになったのです。何のお話をされたのか、残念ながら覚えてはいないのですが、穏やかさの中に何か凛々しさようなものを感じた記憶があります。

  • この本は、平家の繁栄から滅亡までを平清盛の妻である時子の視点を通して描いた物語です。
    平家物語は長すぎるので、1冊にまとまってるこの本を手に取りました。
    が、いざ読んでみると、清盛の子供達の描写がもっと欲しい、とか、福原での優雅な生活がもっと知りたい、とか、義仲や義経の登場から遁走までがあっさりしすぎ、など、もっともっと、と欲張ってしまい、時子の視点、というこの本のならではの特長を十分に楽しめませんでした・・・(じゃー、平家物語を読みなさい!とってことは重々承知です・・・)
    それでも、この本を読み終えたときは子供の頃に暗記をした
    祗園精舎の鐘の声
    諸行無常の響きあり・・・
    という冒頭の文章がよぎり、それが頭から離れませんでした。
    よく考えたら、途中で亡くなる清盛より、平家滅亡までを見届けた、っていうか自分で幕引きをした時子が語る平家物語って一番ふさわしい形かも、と思いました。

  • 平家の盛衰を清盛の妻・時子の視点から綴った物語である。

    平治の乱で源義朝を倒した清盛は,その時点から勢いに乗って平家の世を詠うまでの階段を昇り続ける。敗れた義朝の子・頼朝が助かったのは,清盛の継母であり,頼朝を許した理由は,今は亡き子の家盛にそっくりだったからだ。それが結局,平家を滅ぼすことになったのだが,それを哀れな目で見ることが出来るのは,後世の私たちが後の壇ノ浦を知っているかである。

    清盛は福原に居を移し,遷都の準備を着々と整える中,体調を崩した。当時は,体調を崩せば,かなりの確立で死ぬことに繋がる時代であり,清盛も助からないと感じたのか,最後の手段の出家という神頼みというか仏頼りにより回復を願った。同時に時子も出家したが,それが幸を奏したかどうかわからないが,清盛は回復した。都とは権力者の本拠であり,大昔,蘇我氏は本拠飛鳥に都を置き,平城京,平安京は藤原氏の都だった。平家のための平家の都をという念願により,福原遷都を実現した清盛だったが,高倉上皇が体調を崩した等の理由で,もとの京への帰還を余儀なくされた。清盛に老いが見られるようになったのはこの後からと言う。それもそうであろう。対宋貿易により富を築き,時子の弟・平時忠に平家にあらずんば人にあらずと言われ,栄華を誇り,これから自分の目指す平家の世を永らえる基盤作りをするのだと意気込んでいた矢先の話であり,一度崩し回復した体調も,また悪くなってきて,遂に帰らぬ人となってしまった。

    清盛亡き後,時子は実の子・宗盛・重衡とともに平家の舵をとっていくが,既に歴史は東国武士団に傾いていた。本書を読み進めるに従い,平家の栄華の時代を生きたと言われる時子だが,平治の乱以降,心休まる日はなかったろうにと哀しく思うのである。

  •  副題の通り、妻・時子の視点から平家一門の栄枯盛衰を眺めた作品。
     本書に登場する清盛は、決して“鬼の相国”ではない。
     抜け目なく強かな面もあるが、気弱な親心を曝け出す人間臭さの方が際立つ。
     鹿ヶ谷事件での後白河院の裏切りと実子・重盛の離反に際し、人の関わりの寂しさを弱々しく打ち明ける姿は、意外である分胸を突く。
     やがて一門は都落ち、住み処に放たれた炎と長閑に立ち上る煙を、遠く見つめる彼女の一言“私の一生が燃えている”に、簡潔で重い回顧が語られる。
     三人の息子たちの描き分けも良い。
     不器用で要領の悪い、宗盛。
     血気に逸る猛者、重衡。
     最期の海戦において総帥を務めた、知盛。
     絶体絶命の危機に面し、勝利と最悪の事態を冷静に見据え、知盛は、終わる瞬間まで力の限りを振り絞る。
     彼の沈着な物腰は、地獄絵の渦中で、時子の心を安らかに導いた。
     平凡な妻であり母であった彼女が、夫の築いた時代の幕切れを果敢に果たしたからこそ、毅然さは眩しく残る。

  • 平家の栄華と没落を、清盛の妻でありその死後平家の棟梁となった宗盛の母二位尼時子の視点からかいた長編。気丈な尼様という印象が強い時子ですが、清盛とのやり取りや、それぞれの子供たちへの想いなどをみてとると、女性として、母としての時子の姿がみえてくるはず。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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