陸軍省軍務局と日米開戦 (中公文庫)

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  • 中央公論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122016255

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  • 太平洋戦争開戦前夜、東条英機内閣期の陸軍省軍務局、特に軍務課高級課員石井秋穂を中心に、政策立案、他の政治勢力との折衝などを描いたノンフィクション作品。

    作品の中心となる軍務局(軍務課)とは「陸軍の政策を立案し、それを他の各集団に示し、説得し、国策とするよう働きかけ、そして実行に移すようにする」ことを役割とする部署とされ、日米交渉をめぐり、課員石井の揺れ動く心情が映し出されている。また、天皇から東条首相への、日米戦について明記された国策を白紙還元するように、との意向を受けて連日会議が開かれている様子、会議での統帥部と文官を初めとする各政治勢力間の応酬、陸軍省内の慌ただしい動きなどが描かれている。

    陸海軍の主張の裏にある本質的な問題は以下のようなものだった。登場人物にその点を語らしめている。

    日米交渉では中国からの撤兵問題がネックの一つだったが「もし米国の圧力で支那から追いだされたら、これまでの帝国の歴史はすべて無になる。日清、日露、満州事変、支那事変の犠牲はうたかたのように消えていく」との佐藤賢了の言葉が撤兵不可という陸軍の本音を表している。
    一方海軍としては「対米英戦は自分たちの戦争だと歴史的に豪語してきたのでここで退くわけにはいかんということでしょう。そしてもうひとつ、彼らは物資や動員の配分をとる名分がなくなる」との西浦進の言葉が本質を突いている。

    陸海軍ともに自らの組織的利害からは逃れられなかったのだ。

    日米開戦までの過程が書かれた本は何冊か読んだことがあるが、学術書にはないノンフィクション独自の展開があり、また陸軍省軍務局という一部署から見た開戦過程がつぶさに描かれていて、娯楽に留まることなく改めてよい勉強や復習になった。

  • 1989年(底本1978年)刊行。本書をドキュメンタリーとするのは躊躇を覚えるものの、東条内閣成立から日米開戦までの模様としてはまずまず面白かった。また、陸軍省軍務局高級課員の目線で描くのも異色。①陸軍の、満州事変以降の行動に対して、組織的な自省心の欠片もない点と、海軍関係者の持つ陸軍の愚行の尻拭い感、②陸海軍を含め、官僚組織内の適切解は全体解ではない点、③国内資源の配分維持・増加に汲々となる軍体質、④七千万国民の生死を案ずる議論をした指導者がほぼ皆無な点、⑤検閲体質に塗れ、世論と国策迎合に終始した新聞。⑥戦闘・戦争で獲得した地域・権益を放棄することに(交渉の材料として手放すことを含む)心理的抵抗のある軍人特有の心理を暴くなど、なかなか興味をそそられた。
    単純な海軍善玉、陸軍悪玉に与するつもりはないが、だからといって、本作から読み取れる、陸軍のドイツ偏重、対米戦遂行に関する情報収集の欠落(海軍に投げっぱなし)、クロスリファレンスの不備(佐藤賢了のみに頼る米国情報)は、重大局面での国策遂行の有りようとしては疑問を感じざるを得ない。独ソ戦の評価とその検証具合も同様。

  • 太平洋戦争開戦直前期のノンフィクションドキュメンタリー。独裁者の印象が強い東条英機だが、当初から戦争一直線ではなく交渉も視野に入れていたことが意外に思った。開戦は実質政権中枢の30人程度で決められたことに驚く。いずれにしても開戦は避けられなかっただろう。

    元凶は天皇直轄の統帥部にあり、組織構造の大切さを再認識した。

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