榎本武揚 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
3.51
  • (15)
  • (17)
  • (31)
  • (8)
  • (1)
本棚登録 : 253
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122016842

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 幕府の命令でオランダへ留学していた榎本武揚
    帰ってみたら浦島太郎だった
    なにしろ当時、薩長同盟に押されてガタガタの幕府は
    大政奉還まで要求されているありさま
    しかし榎本は、オランダから持ち帰った軍艦「開陽丸」とともに
    助っ人として幕府軍へと参加した

    ところでこの小説「榎本武揚」だが
    タイトルからして歴史・伝記の内容を想像させるのだけど
    実態は必ずしもそうでない
    「箱男」の手法を用いた、一種の伝奇小説と考えるのが
    近いように感じられる

    維新の成った後
    新選組の生き残り浅井十三郎は、榎本武揚の命をつけ狙っていた
    榎本こそ、大鳥圭介と示し合わせて新政府のスパイとなった賊であり
    幕府軍を攪乱し、疲弊させて敗北へ導いた張本人である
    という、確証を持っていたからだ
    土方歳三には討ち死にさせておいて、連中だけのうのうと生きている
    つまりは不忠義の裏切者
    それどころか戊辰戦争そのものが
    敵に通じた彼らの手引きによる八百長の戦であったと
    かたく信じていた

    しかしそれほど忠義にこだわるならば
    土方がそうしたように、黙って殉死の道を取るべきではなかったか
    第二次大戦中、義理の弟を見殺しにしたことで
    罪の意識に苛まれる元・憲兵の福地は
    榎本武揚の「裏切り」の真相を解明し
    まことの忠節を証明することが、自らの慰撫に繋がると信じて
    その研究に没頭した
    けれども何を発見したのか
    結局すべて放棄して何処かへ失踪する
    「汚名に甘んじる勇気もない者に、忠義をもてあそぶ資格はない」

  • よく「迷路」に例えられる、安部公房の小説世界だが、それは作者に対してとても親切な見方で、私は「迷路のように見せかけた一本道」という気がしている。

    現代は、それこそ「安部公房的思考」を通過し、統一的な価値観などという幻想の前には、メタ的なフィルターが1枚噛む。共同幻想自体がすでに散漫だから、安部公房の描く世界にノスタルジーを感じるところもある。

    本作は、過去に憲兵の職務に忠実だった男が、自分の「忠誠」の意味を問う日々の中で、「変節者」榎本武揚の特殊な忠節に答えを得ようとする物語。

    「忠誠とは一つの時代に支払った、身分保証の代金である」

    読後の感想としては、本作も一本道という印象は残る。
    正直なところ、物足りない。

  • 史実はともあれ、敗者とはどうあるべきか、時代に対するケジメとは何か、明治維新を通してこの小説執筆時の現代的課題であった敗戦について考えさせる小説。

  • 安部公房には珍しい、時代小説風の作品。

    北海道は厚岸という町には、船よりきた囚人たちが脱走し原野に消え、彼らの国を築いたという伝説が残されている。この伝説をたどる旅館の主人から筆者宛てに送られてきた小包。その中には、『五人組結成の顛末』と題する榎本武揚暗殺に関する資料が入っていた。いったい榎本とは何者だったのか。

    佐幕派や勤王派に与しようとせず、第三の道を模索していた榎本武揚の人物像を描きだす。

    土方歳三かっこいい。

  • ちょっと読むのがしんどかった。

  • 安部公房と榎本武揚。

    この組み合わせが意外過ぎて、思わず手にした1冊。
    ただの歴史小説ではないと思ったが、史実を追いかけながら
    歴史のミステリーに迫る描写はまさに公房式。

    大政奉還し、江戸城開場した徳川家。
    薩長が迫る戊辰戦争は奥州へと向かうが、なぜ旧幕軍は函館を占拠し、蝦夷地に共和国を作ったのか。

    幕臣として捕えられながら、新政府でも要人として取り扱われた榎本武揚。
    士としての誇りを持ち、昨日の忠誠に生き抜く新撰組・土方歳三。

    忠誠か、転向か。

    けして歴史小説ではないが、歴史を題材を操りながら「人間」を描く。
    このあと引く読後感がなんとも安部公房なんだよなあ。

  • 久々の安部公房。

    幕末に明るくない私は,途中わからないことがかなり多く,
    もう読むの辞めようかと思いましたが,最後まで読みました。

    公房氏の歴史小説・・・・どういうものかと思いましたが,
    作中に出てくる幕末の歴史的な出来事は飾りで,
    公房氏が言いたかったことはそこではないということがわかりました。

    題名は「榎本武揚」ですが,榎本武揚中心ではなく,むしろ榎本はあまり出てきません。

    (途中)

  • 過去と未来、二項対立の価値観で揺れ動く人々と、それとは別の未来を見据えた、安部公房の描く榎本武揚。時代の局面には、描かれた榎本のように、必要な負けを取りに行く人間も、必要になるのであろう。

  • 一方から見れば政治力があると見え、他方では卑怯者と見える。明治の大政治家・榎本武揚も立場を違えて見てみれば小賢しい裏切り者でしかなかった、というお話。

  • 榎本武揚は旧幕臣として戦ったが敗北。その後、明治政府に登用されたことにより、裏切り者とされる。
    百年たち元憲兵が榎本の歴史を追いかける。榎本の正当性を説明し自分を肯定するために。
    はたして裏切り者なのか否か。そして「時代」や「歴史」がそれを決めるのか。

全21件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

安部公房(あべ こうぼう)
1924年3月7日 - 1993年1月22日
東京府北豊島郡滝野川町生まれ、満洲で少年期を過ごした。
1948年『終りし道の標べに』(「粘土塀」)により単行本デビュー。1951年「壁 - S・カルマ氏の犯罪」で芥川賞を受賞。その後は劇作も手がけた。1958年「幽霊はここにいる」で岸田演劇賞、1963年『砂の女』で読売文学賞、1967年『友達』で谷崎潤一郎賞、1975年「緑色のストッキング」で読売文学賞をそれぞれ受賞。他、受賞作多数。国内外に大きな影響を及ぼしており、ノーベル文学賞の候補者としても名前が挙がっていた。
主な代表作として『壁』『砂の女』『他人の顔』『箱男』など。

榎本武揚 (中公文庫)のその他の作品

榎本武揚の詳細を見る 単行本 榎本武揚 安部公房

安部公房の作品

榎本武揚 (中公文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする