TUGUMI(つぐみ) (中公文庫 よ 25-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018839

作品紹介・あらすじ

病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った―。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。第2回山本周五郎賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『1日1回くらいはむかっと腹立つことがある』でしょうか?

    この世に生きている人間は自分だけ…という状況があったなら、腹が立つということ自体ないのではないか?そんな風にも思います。結局のところ、人は他者とのコミュニケーションにおいて腹が立つという感情に苛まれるのではないかと思います。とは言え、そんなことを言ったって、この世を一人で生きていくことなどできはしません。私たちは、腹が立つという感情と共存しながら、それでも人と人のコミュニケーションの中に生きていく他ないのだと思います。

    しかし、数多の腹が立つという感情もそれ以上の経験があったなら、全てはそれ以下と見做してしまうこともできそうです。腹が立つこと自体変わりはないにも関わらず相対的にその感情が抑えられてしまう。とは言えそのためには相当に強烈な比較対象が必要になってくると思います。

    さてここに、『つぐみに比べたらこのくらい』という思いの先に、腹が立つという感情をやり過ごしていく一人の女性が主人公となる物語があります。『つぐみのせい、いや、おかげだわ』と感謝もする女性を描くこの作品。そんな女性が あの夏の記憶を振り返るこの作品。そしてそれは、『確かにつぐみは、いやな女の子だった』という記憶の中に青春の日々を重ねる物語です。

    『漁業と観光で静かに回る故郷の町を離れて、私は東京の大学へ進学した』というのは主人公の白河まりあ。友人たちに『口をそろえて「寛大ね」とか「冷静だ」とか言』われる まりあは『つぐみのせい、いや、おかげだわ』と思います。『人はだれも、1日1回くらいはむかっと腹立つことがある』という中に、『私はいつも、いつの間にか心の奥底で「つぐみに比べたらこのくらい」とまるで念仏のように唱えていることに気づ』きます。そんな まりあは『少女時代をすごした海辺の町に最後の帰省をした』夏を思い出します。『登場する山本屋旅館の人々は、今はもう別の土地に引っ越してしまい、多分2度と私はあの人たちと共に生活することはない』という まりあは『私の心のかえるところは、あの頃 つぐみのいた日々のうちだけに、ある』と思います。
    『私と母は、つぐみの家である山本屋旅館の離れに2人で住んでいた』という幼き日々。『私の父親は東京で、長く別居していた妻との離婚を成立させて私の母と正式に結婚するために苦労して』いました。『妹である政子おばさんの嫁ぎ先』である『山本家』には、『旅館を経営する正おじさんと、政子おばさん、そして2人の娘である つぐみと、その姉の陽子ちゃんの4人』が暮らしています。『生まれた時から体がむちゃくちゃ弱くて、あちこちの機能がこわれていた』という娘の つぐみに対して、『医者は短命宣言をしたし、家族も覚悟』しています。そんな中に『まわり中が彼女をちやほやと甘やかし』たことで、『彼女は思い切り開き直った性格になってしま』いました。『意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれでずる賢い』という つぐみ。そんな『つぐみのものすごい人柄の被害を受けた人ベスト3は、政子おばさん、陽子ちゃん、私の順と思』う まりあは一方で、『あの凄まじい意地悪と毒舌にさえ耐えれば、つぐみと遊ぶのは面白かった』という幼き日を過ごしました。『小学校低学年の頃「お化けポストごっこ」という遊びをやったいた』つぐみと まりあ。それは、山のふもとの小学校の裏庭に百葉箱の残骸があり、そこが霊界とつながっていてあっちからの手紙が入っている、という設定』の中、『昼間のうちにそこへ行って雑誌から切り抜いたこわい写真やお話の記事を入れておき、真夜中に2人で取りにい』った つぐみと まりあ。やがて『そんな遊び』も忘れて中学生となりバスケ部に入った まりあは『練習がきつくてあまり つぐみをかまわなくなっ』てしまいます。そんなある雨の日の夜、『おい!目を覚ませ。大変なんだぞ、これを見ろよ』と急に訪れた つぐみは『1枚の紙を取り出し』ます。そこには、『力のこもった行書体の、それはまぎれもなくなつかしい祖父の筆跡』がありました。『いつも私にあてる手紙と同じ書き出しで、「私の宝物 まりあへ さようなら。おばあちゃん、お父さん、お母さんを大切に。聖母の名に恥じぬ立派な女性になっていって下さい。龍造」』と書いてあるその手紙。『どうしたの、これ』と『すごい勢いで』たずねる まりあに『信じるか?これはな、「お化けポスト」にあったんだ』と、『つぐみは真っ赤な唇をふるわせて私をじっと見つめ、真剣な、祈るような声色で言』います。『何ですって?』と『すっかり忘れ果てていたあの百葉箱の記憶がよみがえってきた』という まりあ。そんな まりあが つぐみと過ごしたあの夏の物語が描かれていきます。

    “病弱で生意気な美少女 つぐみ。彼女と姉妹のように育った海辺の小さな町に帰省した私は、まだ淡い夜の始まりに、つぐみとともにふるさとの最後のひと夏を過ごす少年に出会った ー”と内容紹介にうたわれるこの作品。今から実に35年前、1989年に刊行され山本周五郎賞も受賞した吉本ばななさんの代表作のひとつです。時はバブルの絶頂期であり、今とは世の中のあり方自体が大きく異なる、それがこの作品が生まれた時代だと思いますが、不思議なくらいに時代を感じさせません。進化の激しいもの、例えば携帯などが登場すると一気に時代感を感じることが多いと思いますが、人の日常、そこにある暮らしというもののベースの部分は時が経ってもあまり大きく変化することはないのかなとも思います。

    そんなこの作品は、吉本さんのデビュー作である「キッチン」の翌年に刊行されているということもあってか吉本さんらしい瑞々しい比喩表現に満ち溢れています。特にこの作品の舞台となるのが『海辺の町』ということもあって『海』をさまざまに描写していくところがとても印象的です。少し見てみましょう。まずは美しく『海』が描写される場面です。『夕方、暮れてゆく湾を見通す、浜辺の高い堤防を、つぐみと男の子が歩いてゆく』、そんな先に描かれていく光景です。

     『夕空には鳥がひくく舞い飛び、波音がきらめきながら静かに寄せてくる。走り回る犬しかいなくなった浜は、砂漠のように広く白く横たわり、いくつものボートが風にさらされている。遠くに島影がかすみ、雲がうっすらと赤く輝いて海の彼方へ沈んでゆく』。

    どうでしょう。この『海辺の町』がどこなのかは分かりませんが、映画になりそうな美しさを秘めた場面がそこに浮かび上がります。夕陽に染まる雲と白く輝く砂浜、そして海という光景、これには一瞬にして魅せられてしまいます。では、そんな『海』を定義する二つの表現もご紹介します。

     『海とは不思議なもので、2人で海に向かっていると黙っていても、しゃべっても、なぜかどっちでもかまわなくなってしまう。見あきることは決してない。波音も、海の表面も、たとえどんなに荒れていても決してうるさくは感じない』。

    これは、まさしくそうだと思います。その理由は分かりませんし、恐らく考えることに意味もないのだと思いますが、そんなことを考えることが馬鹿馬鹿しく感じさえする、それが『海』、そして、その偉大さなのかなと思います。もうひとつは、そんな『海』をある意味擬人化する表現です。

     『海は、見ているものがことさらに感情を移入しなくても、きちんと何かを教えてくれるように思えた』。

    『海』というもの自体が実際に何かしてくれるわけでは当然ありませんが、その存在の大きさが故に、『海』と対峙する私たち人間がそこに意味を見出していく、そんな瞬間の表現です。吉本さんは〈あとがき〉で”10年以上、同じ場所、同じ宿に通っている”という”西伊豆”、”私にとって故郷のようなもの”の存在を記されていらっしゃいます。そう、この作品はそんな吉本さんが『海』と対峙したその先に生まれたものであり、『海』がこの作品を生んだとも言えると思います。そういう意味でもこの作品を語る時、『海』の存在は欠かせないと思いました。

    そして、次は「TUGUMI」と書名にもなった 主人公・まりあの友人・つぐみについて触れたいと思います。つぐみとはこんな女性です。

     ● 『つぐみ』について
      ・家族: 『山本屋旅館を経営する正おじさんと、政子おばさん、そして2人の娘である つぐみと、その姉の陽子ちゃんの4人』
      ・容姿:
       『黒く長い髪、透明に白い肌、ひとえの大きな、大きな瞳にはびっしりと長いまつ毛がはえていて、伏し目にすると淡い影を落とす』。
       『血管の浮くような細い腕や足はすらりと長く、全身がきゅっと小さく、彼女はまるで神様が美しくこしらえた人形のよう』
      ・頭脳: 『頭が良く勉強家で、病欠のわりにはたいてい成績は上位だったし、あらゆる分野の本を読みあさっていて知識が深かった』。
      ・健康: 『生まれた時から体がむちゃくちゃ弱くて、あちこちの機能がこわれて』おり『医者は短命宣言をしたし、家族も覚悟』していた
      ・性格: 『思い切り開き直った性格』、『意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれでずる賢い。人のいちばんいやがることを絶妙のタイミングと的確な描写でずけずけ言う時の勝ち誇った様は、まるで悪魔のよう』
      ・生活圏: 『病院へ通う以外、この町からほとんど出ずに育った』
      ・異性との関わり: 『中学の頃からずっと、よくつぐみは学友の男性をたぶらかしては寄り添って浜を散歩していた』。

    いかがでしょうか?イメージがどことなくお分かりいただけるかと思います。そんな物語は、書名にもなりこれだけ詳細な情報が描写されるにも関わらず、つぐみは主人公ではなく、視点も移動しない中に展開していきます。この作品は〈お化けのポスト〉、〈春と山本家の姉妹〉…〈つぐみからの手紙〉という12の章から構成されていますが、全編にわたって主人公を務めるのは白河まりあです。『確かに つぐみは、いやな女の子だった』と始まる作品冒頭に、『私は白河まりあ。聖母の名を持つ』と語る まりあ。

     『この物語は私が、少女時代をすごした海辺の町に最後の帰省をした時の夏の思い出だ』。

    そんな風に前提を説明した先に展開していく物語は、まりあの記憶に残る青春の思い出でもあります。

     “二度とかえらない少女たちの輝かしい季節。光みちた夏の恋の物語”

    内容紹介には、そんな風にこの作品が補足もされていますが、それは、主人公・まりあの記憶の中に つぐみの記憶が如何に深く刻まれているかを表してもいます。まりあ視点で見る つぐみを幾つか抜き出しておきましょう。

     ・『つぐみには誰よりも深く、宇宙に届くほどの燃えるような強い魂があるのに、肉体は極端にそれを制限しているのだ』。

     ・『つぐみが本気で怒った時、彼女はすうっと冷えてゆくように見える』。

     ・『つぐみはただそこにいるだけで、何か大きなものとつながっているのだ』。

    『つぐみのものすごい人柄の被害を受けた人ベスト3』に自身が入るという認識の中に彼女との日々を過ごした まりあ。そんな まりあの視点を通して私たちは つぐみのことを見ます。私たちが直接 つぐみの本当のところを知ることはできません。あくまでそれは、まりあというフィルターを通して見るものです。そこには、『被害を受けた人ベスト3』とは言いつつ、そんな強烈な存在である つぐみのことを強く意識する まりあの存在が浮かび上がります。

    私たちは誰もが青春を駆け抜けていきます。あとから振り返ってみればどうと言うことのないことであっても、その時代を駆け抜けていく中にはそれらは全てが一つの事件であり、そんな事ごと一つひとつに真摯に対峙してきたと思います。だからこそ、時が経ってそんな時代を振り返る中にそれらがキラキラと輝きだすのだと思います。この作品では、『海辺の町』の美しい光景が まりあの心の中に強く印象づいていることが分かります。そして、そんな光景以上に、共に同じ場所で青春を駆け抜けた つぐみという存在、強烈な存在として眩い光を放つ存在であるが故に、まりあの心の中にいつまでも深く刻まれる存在として残り続けているのだと思いました。

     『確かにつぐみは、いやな女の子だった』。

    幼き日に『海辺の町』で過ごした主人公の まりあ。そんな まりあがいつまでも忘れられない つぐみの記憶を物語として語っていくこの作品。そこには、”二度とかえらない少女たちの輝かしい季節”が まりあの語りの中に描かれていました。美しい『海』の描写に強く魅せられるこの作品。それ以上に つぐみというインパクト最大級の女の子の強烈さに魅せられるこの作品。

    『つぐみは私です。この性格の悪さ、そうとしか思えません』と〈あとがき〉で語る吉本さん。そんな吉本さんの瑞々しい描写にどこまでも魅せられる、そんな作品でした。

    • うたえながさん
      初コメです(^o^)
      すごく面白そうですね!今度読んでみます!
      初コメです(^o^)
      すごく面白そうですね!今度読んでみます!
      2024/02/17
    • さてさてさん
      うたえながさん、こんにちは!
      初コメありがとうございます。
      35年も前の作品ですが、古っぽさはあまり感じなかったです。吉本ばななさんとい...
      うたえながさん、こんにちは!
      初コメありがとうございます。
      35年も前の作品ですが、古っぽさはあまり感じなかったです。吉本ばななさんというとこの作品と、「キッチン」だと思いますので
      是非どうぞ!
      2024/02/17
  • 女子にとって、親友と彼氏はとても大きな存在。
    自分をまるっと受け止めてくれて理解してくれる存在。

    病弱でいつも死が頭の片隅にあるつぐみは、人をバカにしたような口を聞いて、恐れを知らない行動を取る。
    それは、誰も自分のことは理解できないと思っていたからではないかなぁ?
    同じ敷地内に暮らす従姉妹のまりあとはいつしか親友の間柄になる。そして優しい彼氏もできる。
    この二人がつぐみの良き理解者となって、1言えば10わかってくれるような関係になれたことが、つぐみを変えていったのではないか、と私は思いました。
    あの恐れを知らなかったつぐみが、もう死んでしまうかも‥‥と弱気になったのは、怖いもの知らずだった少女が大人になり、周りのみんながどんなに自分を心配し大切にしてくれているのかが分かるようになったからではないかと私は思います。

    吉本ばななさんの文章はとても美しい。親友同士のなんだかカチッと分かり合えるということや、夜にはなぜだか胸の内を語ってしまうということ、そして海辺の町をなんとも美しく表現してくれています。
    ばななワールドに魅了されました。

    • しずくさん
      吉本ばななさんは『キッチン』で好きになった作家さんです。『TUGUMI』と聞いて懐かしさがこみ上げてきました。随分昔若い頃に読んでいて、内容...
      吉本ばななさんは『キッチン』で好きになった作家さんです。『TUGUMI』と聞いて懐かしさがこみ上げてきました。随分昔若い頃に読んでいて、内容もおおかた忘れてしまいましたが、印象が強く心に刻まれた1冊です。登山をするようになり、鳥を観察し初めツグミという鳥を見た時にすぐ本作のタイトルが浮かびました。
      とりとめもないコメントになりました・・・。
      2022/10/21
    • こっとんさん
      しずくさん、こんにちは♪
      私も『キッチン』は若い頃に読んだのですが、『TUGUMI』は未読でした。
      やっぱり吉本ばななさんはいいですね〜
      私...
      しずくさん、こんにちは♪
      私も『キッチン』は若い頃に読んだのですが、『TUGUMI』は未読でした。
      やっぱり吉本ばななさんはいいですね〜
      私は“つぐみ“と聞くと芦田愛菜ちゃんの“Mather“の可愛い演技が思い出されちゃいます。
      しずくさん、登山をされるんですね!私はキャンプによく行くのでアウトドア繋がりでちょっと嬉しかったです♪
      2022/10/21
  • 吉本ばななさんの本を初めて読みました。少し前から気になっていてたまたま図書館で借りたので読んでみました。
    かなり本は古く、紙も黄色っぽくなっていたので改めて古い本なんだなとも、思いました。でも、これだけ古いということはたくさんの人に読まれてきたということ。それだけ、多くの人が読んできた作品だったのだなと思いました。
    病弱なつぐみとその友だちのまりあの物語。とても、良い物語だと思いました。
    これからも、読み継がれていってほしいです。

    • さてさてさん
      うたえながさん、こんにちは!
      早速お読みになられたのですね。借りられた本から今まで読まれてきた人たちの存在を感じられるというのも素敵だと思...
      うたえながさん、こんにちは!
      早速お読みになられたのですね。借りられた本から今まで読まれてきた人たちの存在を感じられるというのも素敵だと思います。おっしゃる通り、これからもずっと読み継がれていって欲しいですね!
      2024/02/24
    • さいちさん
      良いですよね。
      吉本ばななさんの初期作品の何冊かは、当時、ハードカバーで購入して、いまだに所持しています。
      いつ、何度読み返しても良いです。
      良いですよね。
      吉本ばななさんの初期作品の何冊かは、当時、ハードカバーで購入して、いまだに所持しています。
      いつ、何度読み返しても良いです。
      2024/02/26
  • この物語のつぐみの存在が意味するものは、命の限りを切に感じ生きている、という姿かなと思いました。
    生まれつき病弱、その境遇ゆえ甘やかされ、意地悪く口は達者。しかし嫌な少女ではない、綺麗で賢くと、むしろ魅力的だ。
    つぐみは過去を振り向かない、
    つぐみには今日しかない、
    つぐみなりの哲学もある。
    一歳年上の従姉妹、まりあが語り手となり物語は進む。海辺の町で育った二人。東京へ移ったまりあが、夏休みに帰省し、二人が住んでいた旅館で最後に過ごします。
    つぐみのような友人がいたら、きっと疲れてしまいそうだが、パワーは貰えそう。
    生きていれば辛いこともあり、それを否定せず、肯定せず、そのまま見つめるばななさんの受け止めかたがいいと思いました。
    人は一度くらい、深い穴を掘りたくなるのではないか、確かにそう思う。
    ストーリーそのものより、つぐみの存在が強烈でした。
    思い出を振り返るとき、不思議と情景が鮮明に浮かび上がることがあり、その感覚を得たような作品でした。

  • きらめく美しい海と
    胸の奥を満たす潮の香り。

    旅館の居間で飲む薄めのカルピスと
    扇風機の生ぬるい風。


    切なさの塊のような文体で綴られる、
    生意気な少女と過ごした
    海の見える旅館での
    忘れることのできない
    一瞬のきらめき。


    夏と言えば
    真っ先に思い出すのが
    大好きなこの作品です。


    まずなんと言っても
    病弱で生意気な少女つぐみの
    傍若無人でいて純粋無垢なキャラが
    とにかく魅力的で心惹かれるのです。


    コレあまり知られてないけど
    映画版で牧瀬里穂が
    つぐみを演じていて、
    これが妙に合ってたんですよね〜


    主人公の白河まりあが語る、
    つぐみという
    いとこの少女と過ごした
    山本旅館でのひと夏の思い出。

    ただそれだけの話なのに
    どうしてこれほど
    記憶に残って
    いつまでも光を放ち続けるんだろう。


    意地悪で口が悪く、
    わがままで甘ったれで
    ずる賢いつぐみ。

    病弱なつぐみが
    いつも
    イライラを抱えてるのは
    いつか来る死の不安が常にあるから。

    そして人に理解されてしまわないよう
    わざと汚く振る舞う
    つぐみの
    いじらしいこと。


    まりあとつぐみが仲良くなるきっかけとなった
    お化けのポスト事件、

    犬のポチとつぐみの見えない絆、

    恭一とつぐみの淡い恋模様、

    いつも穏やかで涙もろい
    つぐみの姉の陽子ちゃんの清らかな魂。

    眠れなくてパジャマのまま
    あてもなく歩く
    夜のピクニック。

    花火を見上げながら食べるスイカ。


    ばななさんが
    この作品に込めたものは、

    いつか消えて無くなってしまうモノへの郷愁。


    そしていつも
    ばななさんの小説に共通するのは、

    避けがたいけれど
    決して不幸ではない
    自然な別離の大切さと

    儚く散ってしまったモノが
    きらめいた軌跡を
    絶対に忘れないでいようという
    強い意志なんですよね。


    人はみな
    守り守られて生きている。

    だけど二度と戻れなくなってからじゃないと
    その中で守られていたことにすら気がつかない…

    一度そこから飛び出してしまわないと
    その温もりには
    絶対に気付かない…


    だからこそ
    人には別れが必要だし、
    人はいつか
    暖かい場所を離れ
    旅立っていくんだと思う。


    命の危機にさらされたつぐみが
    初めて自分の心情を綴った、
    まりあに最後に送った手紙。


    切なさと希望が入り混じったラストも
    本当に素晴らしい、
    記憶に残る小説です。

    • 円軌道の外さん

      アセロラさん、
      いつもコメント
      ありがとうございます!

      この夏から
      体調を崩したり、
      仕事が多忙だったり、
      愛猫を亡く...

      アセロラさん、
      いつもコメント
      ありがとうございます!

      この夏から
      体調を崩したり、
      仕事が多忙だったり、
      愛猫を亡くしたりで、
      まったく本を読めない状態でした(≧∇≦)

      ようやくここ最近は
      気持ちが上向きになりつつあるので、
      ぼちぼちレビューも
      復活したいと思ってます(笑)



      おおーっ!
      アセロラさんにとっても
      大切な作品だったんですね(^_^)v

      しかも映画版まで
      御存知とは!(驚)


      つぐみのキャラは
      今思えば
      「元祖ツンデレ」で(笑)、

      ボーイッシュな女性がふとした時に見せる
      弱さや脆さや強がりに
      滅法弱い自分にとっては(笑)
      ホンマまぶしいくらい魅力的な女の子でした♪


      まりあのキャラは
      包容力に溢れて
      年の割にはスゴく大人びていて、
      (つぐみと一緒なら
      大人にならざるを得なかったのかな笑)

      つぐみの
      最大で唯一の理解者でしたよね。

      個人的には
      まりあのキャラこそが
      実はばななさん、そのものなんじゃないのかなって
      勝手に思ってます(笑)



      2013/12/01
    • Eriさん
      円軌道の外さん初めまして(*^^*)
      コメントありがとうございました*
      円軌道の外さんのレビュー心に沁みます(>.<)
      私は思ってる事...
      円軌道の外さん初めまして(*^^*)
      コメントありがとうございました*
      円軌道の外さんのレビュー心に沁みます(>.<)
      私は思ってる事を文章にしたり、言葉にするのがヘタクソなので羨ましいわぁ~(>_<)☆
      これからも覗かせて頂きます。
      私もTUGUMI大好きな一冊です(*≧∀≦*)
      自分に無いものを沢山持ってるつぐみは私の憧れです☆私が男だったらきっと恋してたなぁ~。


      2013/12/09
    • 円軌道の外さん


      わぁ~
      わざわざコメント頂き
      ホンマ嬉しいです(^O^)

      しかも大好きなTUGUMIのレビューに
      共感してもらえるなんて...


      わぁ~
      わざわざコメント頂き
      ホンマ嬉しいです(^O^)

      しかも大好きなTUGUMIのレビューに
      共感してもらえるなんて!

      あんなに傍若無人に振る舞っても
      どこか憎めないキャラって
      なかなかいないですよね(笑)

      ばななさんが
      命を吹き込むかのように、
      つぐみの悲しみや
      胸の奥に抱えた
      もやもやした想いや
      つぐみが持つ
      誰よりも純粋な心を
      丁寧に丁寧に描いたからこそ、
      多くの人を魅了する
      憎めないキャラになったんだと思ってます。


      Eriさんは
      思いを伝えるのが
      全然ヘタクソやないですよ(笑)


      言葉って
      生かすも殺すも自分次第やし、

      心で暖めるより
      言葉にして
      文字にして
      人目に触れて初めて、
      言霊が宿ります。


      だから上手い下手は関係ないし、
      好きな想いを
      素直に文字にして
      書いてみてくださいね(笑)


      これからもヨロシクお願いします!(^_^)v



      2013/12/12
  • つぐみは愛される人だ。
    カッコいいともいう。

    夏を愛し、海を愛す。
    全力で生きている感がすき。

    場所は伊豆であり、モデルも存在する。
    モデルが誰か、については最後に明かされる。

    私もいい年になったけれど、子どものときの記憶は(あまり行ったことない)潮の香だったり、波の音だったり、突き刺すような熱さだったりします。

    ばななさんの小説には運命/死が出てくることがありますね。
    つぐみは病床で語ります。
    こういうことなのかもしれない、と。

    そうなのかもしれないですね。

  • 青春時代の淡い一夏の思い出を描いた作品です。

    文章からその情景が瑞々しく立ち上がってきます。ストーリーにも引き込まれ、一日で貪るように読んでしまいました。

    個人的には「キッチン」よりも好きです。

    オススメ!

  • 情景だったり、そのときの心情だったり、それらを上手く切り取って読みやすく心を打つ文をかけるのは吉本ばななの凄いところだなって思う。それは彼女の他の小説にも言える。
    だから吉本ばななは日常をどんな視点で見て、何を感じているんだろうっていうのが気になっていた。
    あとがきには『人生についてあまりにも否定しているので、せめて小説ではそれを救うようなものを書きたいと思っているんです。』と書いてあったので想像と違って驚いた。

  • とある方のお勧めにて、性格が悪いが、身体の弱い女の子という話と素敵な表紙からどんな本なのか知りたくなり、ずっと読みたいと思っていた本です!
    登場するつぐみという子は口が悪く、ずる賢い厄介者だなぁという印象がありましたが、何故か憎めない上どんどん彼女の魅力に惹かれてしまいました。主人公との関わりのお話が特に好きです。
    友情や恋愛、青春が溢れ、真夏に読んでみたい話だなと思いました✨️

  • すごい心温まる内容だった。

    病弱で色々な思いを抱えつつも溌剌と生きるつぐみ。蝋燭、暖炉のような温もりと儚さ。つぐみが周囲の人々の心にしっかりと刻み込まれていくのが主人公視点とてもよく分かる。

    なんとなく落ち込んだ時に読み返したい本

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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