シュガータイム (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 2288
レビュー : 253
  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122020863

作品紹介・あらすじ

三週間ほど前から、わたしは奇妙な日記をつけ始めた-。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しのなかで終わった、わたしたちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描く、芥川賞作家の初めての長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 季節の描写がものすごく美しくて、はかなげで淋しい感じがした。
    多感な年頃って、いったいいつのことを言うのだろう。
    人間って淋しい生き物なんだなぁって思う。
    真由子の友情が健気で、優しい。

    決して力強い文章ではないのに、何だか勇気づけられる。

  • 秘められた喜怒哀楽とともに食があり、誰かを求めることは自らの中にその誰かを閉じ込めたいという飽くなき欲なのだと感じた。腹のなかに欲望とともに閉じ込め、消えていった数多の食べ物を忘れないように。その食べ物が記憶のなかでゆっくりとばらばらになって最後には跡形もなく消えていったとしても。
    様々な感情に寄り添っては、必要とあらば求められるがままに閉じ込められ、忘れられ、そういったささやかなものの儚さをわたしは感じた。

  • かおるが“あるときふと気が付いたら、わたしは十分におかしかった。”と振り返ることから始まる。
    わたしにも経験がある。
    何でこんなことになってるんだろう。ふと我に返ると何だかおかしいことをしている。それは他人様に迷惑をかけたり、自分を追い詰めたりするものでもないし、特にそれが苦痛とか快感とかそんな気持ちになるわけでもない。
    だから気づくのが、ふとした瞬間になってしまう。
    あれ?何でだっけ?原因がわからない。いや、あれかな、これかなと思い当たる節は何個かある。でも決定的ではないし、そのうち悶々とした気持ちが薄れてしまって、またふと我に返るときまで同じことを繰り返している。

    かおるの胃袋はまるでブラックホールのようだ。食べても食べても食べ物への執着が収まらない。特に体や心が不調というわけでもないし、過食症でもない。かおるは淡々と異様な食欲を受け入れる。原因はいくつか思い当たるけれど、それがそうなのか本当のところわからない。
    親友の真由子には相談したけれど、彼氏の吉田さんには打ち明けなかった。
    「いいの。別に、必要性をかんじないから」
    この言葉に彼女自身が気づかない心の砦のようなものを感じた。特別意味のあることではないから、必要性がないからと、かおるは言うのだけれど、これから彼女の身に起こる何か不安めいたものを、先に体が感知したんじゃないかなと思った。
    かおるは吉田さんとの別れを経験して、今の状況を抜け出たいと思うようになる。そして今自分に必要なのは、心を込めて作った料理だと悟る。彼女は弟の航平を手作りの夕食会に招いた。それは微笑みと満足に彩られた平和な食事だった。
    航平との優しい時間を過ごしたことで、かおるの心は哀しみを受け入れることが出来、それはブラックホール化した食欲の終焉を意味していた。

    終わりが始まり。
    そんな言葉を思い出した余韻の残る物語だった。

  • ある日突然果てしない食欲に駆られ始めた大学生のかおる。過食症ではないし、どれだけ食べ続けても太るわけでもないという不可思議な症状に見舞われた彼女は、奇妙な日記をつけ始める。
    親友の真由子、恋人の吉田さん、そして身長が伸びない難病に冒されている弟の航平。
    かおるの残りわずかな大学生活を綴る不思議な青春小説。

    小川洋子さんの小説の主人公(女性が多い気がする)は、どんな大変な事態に見舞われていても、大抵淡々としている。
    自分に起きていることなのに、どこか俯瞰で見ているような。
    この小説の主人公のかおるも、突如異常な食欲に襲われて悩んでいるはずなのに、どこか冷めていて、その事態をとりあえず楽しんでみているようにさえ感じられる。

    孤独、という言葉が読んでいる間ずっと頭の片隅にあった。
    親しい人たちに囲まれ、ふれ合うことで日々生きているのだけど、基本的に人はひとりだという、そういう感じ。
    とくにかおると吉田さんの関係は儚く、淋しい感じがした。
    そして難病を抱えつつ毅然と生きる航平の清廉さにも、孤独という言葉がつねにつきまとっているように思った。

    透明で、現代の物語なのにどこか浮世離れしていて、童話を読んでいるような気にさえなる小川洋子ワールドがやっぱり好きだ。すべてにその雰囲気が共通しているなんて本当に見事だと思う。
    熱くない青春小説。そういうのもたまには、いい。

  • やっぱり小川洋子さんの作品は、不思議な雰囲気があり、それを味わうような読み方ができるところが楽しい。夜寝る前に読むと、心を鎮めておだやかな眠りにつけるような小説だなーと思います。
    本作は特に、主人公から見える、食の描写(サンシャイン・マーケットや夜中にパウンドケーキを焼くところ)、弟の航平についての描写(まばたきや祈りの姿勢が美しいところ)が好きでした。

  • やっぱり私は小川洋子さんの紡ぐ世界が大好きだ。
    空気を描くのが上手だなと思う。夜とか季節とか見えないものの描写が私の好みど真ん中。
    「サンシャイン・マーケット」の章の始まりとかはもう、何とも言えなかった。
    小川洋子さんだな〜〜って感じ。

    本人もあとがきで「この小説はもしかしたら、満足に熟さないで落ちてしまった、固すぎる木の実のようなものかもしれない。」って言ってるし、林真理子さんの言う通り、最後の締めくくりは「余計」なのだろう。
    小川洋子さんの「ヘン」が確立されるまでの過程が楽しめるようで、私はおもしろい。
    何かのインタビューで言っていたけど、本人もあやふやではっきりしないところにある真理を描こうとしているのだから、そりゃ難しいよな。
    私も、小川洋子さんの本が大好きなのに、そのあやふやを掴めなくて、言語化できなくて、いつも感想は浅くなる。

    私のシュガータイムも刻々と減っているのか。
    「含まれあっている」と感じられるような人にいつか出会ってみたいなあ、そんなことを思った。

  • 宝物みたいに大事にとっておいて、たまに取り出してまた読みたくなる一冊。

    小川洋子さんはとにかく文章が美しくて、静かで、心地よい。
    それに加えてこの作品は、青春時代のきらきらと、切なさみたいなものが詰め込まれたような。
    主人公の異様な食欲も、いつのまにか受け入れられるようになっている。スーパーで食材を次々にカゴに入れるところ、真由子と家でくつろいだ格好をして心ゆくまで食べるところ、夜中に焼いて食べるパウンドケーキ。読んでいるうちに、食欲さえ湧いてくる。
    人より小さい弟も、世間から見れば異様でも、まばたきの美しさや心の優しさに焦点が当てられているから、愛おしく映る。
    小川洋子さんの優しい世界に触れた。

  • 食事、弟、低身長、のワードが織りなす偏愛青春小説。生暖かいけど何か噛みしめる程に丁度良い加減になってくるホッカイロな印象の小説だった。

  • 心の隙間を埋めるものは色々あるけれど、大切な人とのあたたかい食事はなにものにもまさるのではないでしょうか。

    主人公の膨大に膨れていく際限のない食欲は、主人公が気づいていない心の隙間を埋める代替手段に感じる。

    一人で食べる食事の風景は普通にみたらグロテスクなのに、この小説の中ではむしろ静かでとても美しい。喉を滑り落ちて胃の腑に落ち着く食べ物たち。異常な状態なのに、病的でないところが物哀しさを感じさせる。

    弟との小さな食事会を開く主人公。自分のためだけにしていた食事と明らかに違う食事の風景。そこには特別なものはなく、ありふれた食器を使い、ワインも高級なものではない。

    しかしそこに至るまで共に食事をする弟のことを思いながら献立を考え、テーブルを飾り付け準備をし、あたたかな食事会を作り上げる。そこで二人で静かな、満たされた食事をすることにより、一人で膨らんでいた暴力的な食欲から主人公が解放された。それは一人でも食べ物でも埋められないものを、見つめ直す時間でもあったように感じる。

    心の隙間は自分でみつめなければならないものである。埋めてみたり、そのままで放って置いたり人によって向き合い方は違う。けれど、辛いときは人に支えてもらってもいいじゃない。解決の糸口は他者との交流から生まれることも多々あるのだ。

  • 最初の長編とのことで、たしかに若い感じがした。
    女の子たち、いい子たちだなと思った。吉田さん、ロシアのほうに行くなんて、しかもその手紙をくれるなんて、かおるさんは悲しかったろうけど、すごくいいな。

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著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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