シュガータイム (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 1943
レビュー : 234
  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122020863

作品紹介・あらすじ

三週間ほど前から、わたしは奇妙な日記をつけ始めた-。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しのなかで終わった、わたしたちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描く、芥川賞作家の初めての長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 季節の描写がものすごく美しくて、はかなげで淋しい感じがした。
    多感な年頃って、いったいいつのことを言うのだろう。
    人間って淋しい生き物なんだなぁって思う。
    真由子の友情が健気で、優しい。

    決して力強い文章ではないのに、何だか勇気づけられる。

  • かおるが、“あるときふと気が付いたら、わたしは十分におかしかった。”と振り返ることから始まる。
    わたしにも経験がある。
    何でこんなことになってるんだろう。ふと我に返ると何だかおかしいことをしている。それは他人様に迷惑をかけたり、自分を追い詰めたりするものでもないし、特にそれが苦痛とか快感とかそんな気持ちになるわけでもない。
    だから気づくのが、ふとした瞬間になってしまう。
    あれ?何でだっけ?原因がわからない。いや、あれかな、これかなと思い当たる節は何個かある。でも決定的ではないし、そのうち悶々とした気持ちが薄れてしまって、またふと我に返るときまで同じことを繰り返している。

    かおるの胃袋はまるでブラックホールのようだ。食べても食べても食べ物への執着が収まらない。特に体や心が不調というわけでもないし、過食症でもない。かおるは淡々と異様な食欲を受け入れる。原因はいくつか思い当たるけれど、それがそうなのか本当のところわからない。
    親友の真由子には相談したけれど、彼氏の吉田さんには打ち明けなかった。
    「いいの。別に、必要性をかんじないから」
    この言葉に彼女自身が気づかない心の砦のようなものを感じた。特別意味のあることではないから、必要性がないからと、かおるは言うのだけれど、これから彼女の身に起こる何か不安めいたものを、先に体が感知したんじゃないかなと思った。
    かおるは吉田さんとの別れを経験して、今の状況を抜け出たいと思うようになる。そして今自分に必要なのは、心を込めて作った料理だと悟る。彼女は弟の航平を手作りの夕食会に招いた。それは微笑みと満足に彩られた平和な食事だった。
    航平との優しい時間を過ごしたことで、かおるの心は哀しみを受け入れることが出来、それはブラックホール化した食欲の終焉を意味していた。

    終わりが始まり。
    そんな言葉を思い出した余韻の残る物語だった。

  • ある日突然果てしない食欲に駆られ始めた大学生のかおる。過食症ではないし、どれだけ食べ続けても太るわけでもないという不可思議な症状に見舞われた彼女は、奇妙な日記をつけ始める。
    親友の真由子、恋人の吉田さん、そして身長が伸びない難病に冒されている弟の航平。
    かおるの残りわずかな大学生活を綴る不思議な青春小説。

    小川洋子さんの小説の主人公(女性が多い気がする)は、どんな大変な事態に見舞われていても、大抵淡々としている。
    自分に起きていることなのに、どこか俯瞰で見ているような。
    この小説の主人公のかおるも、突如異常な食欲に襲われて悩んでいるはずなのに、どこか冷めていて、その事態をとりあえず楽しんでみているようにさえ感じられる。

    孤独、という言葉が読んでいる間ずっと頭の片隅にあった。
    親しい人たちに囲まれ、ふれ合うことで日々生きているのだけど、基本的に人はひとりだという、そういう感じ。
    とくにかおると吉田さんの関係は儚く、淋しい感じがした。
    そして難病を抱えつつ毅然と生きる航平の清廉さにも、孤独という言葉がつねにつきまとっているように思った。

    透明で、現代の物語なのにどこか浮世離れしていて、童話を読んでいるような気にさえなる小川洋子ワールドがやっぱり好きだ。すべてにその雰囲気が共通しているなんて本当に見事だと思う。
    熱くない青春小説。そういうのもたまには、いい。

  • 食事、弟、低身長、のワードが織りなす偏愛青春小説。生暖かいけど何か噛みしめる程に丁度良い加減になってくるホッカイロな印象の小説だった。

  • 心の隙間を埋めるものは色々あるけれど、大切な人とのあたたかい食事はなにものにもまさるのではないでしょうか。

    主人公の膨大に膨れていく際限のない食欲は、主人公が気づいていない心の隙間を埋める代替手段に感じる。

    一人で食べる食事の風景は普通にみたらグロテスクなのに、この小説の中ではむしろ静かでとても美しい。喉を滑り落ちて胃の腑に落ち着く食べ物たち。異常な状態なのに、病的でないところが物哀しさを感じさせる。

    弟との小さな食事会を開く主人公。自分のためだけにしていた食事と明らかに違う食事の風景。そこには特別なものはなく、ありふれた食器を使い、ワインも高級なものではない。

    しかしそこに至るまで共に食事をする弟のことを思いながら献立を考え、テーブルを飾り付け準備をし、あたたかな食事会を作り上げる。そこで二人で静かな、満たされた食事をすることにより、一人で膨らんでいた暴力的な食欲から主人公が解放された。それは一人でも食べ物でも埋められないものを、見つめ直す時間でもあったように感じる。

    心の隙間は自分でみつめなければならないものである。埋めてみたり、そのままで放って置いたり人によって向き合い方は違う。けれど、辛いときは人に支えてもらってもいいじゃない。解決の糸口は他者との交流から生まれることも多々あるのだ。

  • 宝物みたいに大事にとっておいて、たまに取り出してまた読みたくなる一冊。

    小川洋子さんはとにかく文章が美しくて、静かで、心地よい。
    それに加えてこの作品は、青春時代のきらきらと、切なさみたいなものが詰め込まれたような。
    主人公の異様な食欲も、いつのまにか受け入れられるようになっている。スーパーで食材を次々にカゴに入れるところ、真由子と家でくつろいだ格好をして心ゆくまで食べるところ、夜中に焼いて食べるパウンドケーキ。読んでいるうちに、食欲さえ湧いてくる。
    人より小さい弟も、世間から見れば異様でも、まばたきの美しさや心の優しさに焦点が当てられているから、愛おしく映る。
    小川洋子さんの優しい世界に触れた。

  • モヤっとした読了感...

    主人公が吉田さんを神聖化しすぎてて共感ができなかった。
    航平が物語の中で唯一現実的だったような気がする。

  • 奇妙な日記が野球場できらきらと紙吹雪になって舞う終わり方が好き。良いことにも、悪いことにも、いろいろなことに終わりが来たんだなって。

  • 小川洋子さんの小説は私にとってビタミン剤の薬のようななもの。
    たった一行読んだだけで身体の中にすーっと溶け込むように流れ込んで
    一ページ目が読み終わる頃には身体中に浸透してしまう...。魔薬です。

    この際ストーリーなんてどうでもいい..。といってしまっては
    大変失礼なことかもしれないのですがほんとにそうなのです。

    小川さんのフレーズに酔い溺れることが快感。

  • あとがきの
    「この小説はもしかしたら、満足に熟さないで落ちてしまった、固すぎる木の実のようなものかもしれない。」
    というのが、小川洋子らしい気がしていい。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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