ひとびとの跫音(あしおと) (下巻) (中公文庫 し 6-39)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122022430

作品紹介・あらすじ

詩人、革命家など鮮烈な個性に慕われつつ、自らは無名の市井人として生きた正岡家の養子忠三郎ら、人生の達人といった風韻をもつひとびとの境涯を描く。「人間が生まれて死んでゆくという情趣」を織りなして、香気ただよう名作。

感想・レビュー・書評

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  • 正岡家の養子であり、詩人、革命家など鮮烈な個性をもつ人々に慕われながらも、自らは無名の市井人として生きた正岡忠三郎、その死を知らされた詩人・西沢隆二の忠三郎に捧げた「誄詩」・・・〝 死ぬということは もう会えないということだ それから上でもなければ下でもない だから悲しんだ 〟〝忠三郎よ おまえの顔はどんな顔でも 俺たちの胸にしみついている どんな顔でも思い出すことができる 俺たちが生きているかぎりおまえも生きている〟・・・西沢隆二は、親友の死の8日後に息を引きとっている。

  • 著者が「坂の上の雲」を書き始めていたころ、「大阪の料理屋にこの作品に登場するひとびと(正岡子規・秋山好古・真之)のお子さんたち(と言っても54歳~72歳)に集まってもらった。このことは取材というものではなく私としてはかぼそいながらも儀礼のつもりでいた。見も知らない人間が自分の父について書くというのは、気味悪さがあるだろうと思い、せめて作者の顔を知っておいてもらいたいと思ったのである」

    その後、そのメンバーのうちの正岡律(子規の妹)の養子となった正岡忠三郎氏夫妻と、彼の旧制二高時代の親友であった「タカジ」(詩人:ぬやまひろし=本名:西沢隆二)らとの交友を描く物語である。

    恐らくこの本を読んだ人の感想は、真っ二つに分かれると思う。
    一つは、世間では名も知らぬ人のことを、グダグダと書くだけのつまらない話として。他はこのように世に埋もれた人を取り上げた著者の感性に唸り、これぞ司馬遼太郎と、評価する人とに分かれるではないだろうか。
    正岡忠三郎は、文学者の素養があるにも関わらず、「子規の跡継ぎ」が、下手な文章や詩歌で恥をかくことは避けたいという信念から、京都大学では経済学部に進み、実直なサラリーマンとしての人生をおくる。

    もう一人の主人公である「タカジ」こと、詩人のぬやまひろし(本名:西沢隆二)は、旧制仙台二高を中退し、非合法の共産主義にのめり込んだ。
    彼は、敗戦後に釈放されるまでの12年間獄中で、非転向を貫いたことで英雄視され、その後共産党幹部になるが、のちに危険思想視され共産党を除名される。

    司馬は、西沢と接触するうちに、党派主義とは無縁な人間性に惹かれてゆく。
    西沢はマルクス主義以上に「個人の解放」をめざし、長幼の序列はそれを妨げると考え、姓抜きで名を呼び合う関係を理想とし、子や孫まで自分(西沢隆二)を「タカジ」と呼ばせた。
    戦前の投獄された時に、子規に目覚め、その後の高度成長期にも革命を追い求める生涯は、我々の常識を大きくはみ出している。
    そのような「タカジ」に敬意を持って対話を続けた司馬遼太郎という人間の包容力の大きさを痛切に感じた。
    またある批評家は、司馬は「保守」と思われているが、この本を読めば、そのような党派主義に捉われないリベラルな思想家であるのが分かるとも言っている。

  • 2019.12.20(金)¥100(-25)+税。
    2020.8.24(月)。

  • 下巻に突入するに先立ち「信州佐久に入院する友人」の話が出てくる下りを「街道をゆく」で探し求めることにした。巻数でいうと九巻目、四編からなるうちの一編、その名も「信州佐久平みち」にそれはあった。てっきりこの下りはその友人の名は伏せた状態で書かれたものと思い込んでおりその部分の記憶はある意味正しかったのであるが、驚いたのは同巻に含まれている「潟のみち」にその人本人が元気な頃のままで実名とともにガッツリと書かれていたことだった。自分の脳みその機能がこの程度であったことですっかり本作を楽しめたことになる(苦笑)

    この部分の掲載年は1976年となっており、彼の作品年譜を紐解くと「坂の上の雲」を書き終えて4年後という頃合いになっている。そして本作「ひとびとの跫音」が綴られたのは更に5年ほど後のことらしい。そういう意味では本作はシバさんの五年の歳月を経た上での「坂の上の雲 執筆後日譚」とも受け取れる。

    やはり「坂の上の雲」をまだ読んでいない、これから読んでみたいという人が眼前に現れた時は是非このあたりの併読をお薦めしたい。なにより自分が今その順に一気通貫で読み直してみたい気分が充満してきているからだ。

    そしてタカジその人の作品にももっと触れてゆきたい。

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  • 「亡き友人に捧ぐ」
    そんな副題が頭に浮かぶくらい、付き合ってきた友達への愛情が溢れ、さらに愛惜感たっぷりの作品になってる気がします。

    題名が秀逸すぎます。
    読み終わって表題の意味がズシンときました。
    いつもそうですが、タイトルがステキすぎる。笑

    人がその人生をつかい切ったあと。
    不思議とその人の生き様や生きてきた証が。
    光るように浮かび上がるように。
    作者には見えてしまうんでしょうね。
    あ!跫音か。笑

    名声や成功があろうがなかろうが。
    英雄的な生き方をしようがすまいが。

    そう。どんな人にも曲げなかった信念が。
    人生を紐解くと、全ての人が、小説になり得る。
    いや。この方の手にかかれば、かな?

    しかし。
    上を読んでも、そこまで心が揺れなかったのに。
    下に入った途端に掛け算になって、面白さ倍増。

    タカジと忠さんが、生き生きと描かれてました!

  • 正岡子規についての物語だと思って読み始めたんだけど、主にタカジの話だった。誰だよタカジって?もういいよタカジの話は…タカジのこと大好きだな?!と思いながら読みました。タカジは、忠三郎さんの親友であり、しばりょ先生の友達。忠三郎さんは、正岡子規の没後に正岡家に入った子規の養子。
    タカジと忠三郎さんという、子規に列なるひとびとと、しばりょ先生の思出話集。

  • 後半、どんどん面白くなった。著者が本書を書き残したかった理由が分かったような気がする。解説にもある通り、本書は、著者なりに美化している部分はあるのだろうけれども、「放棄の構造を身につけた無欲な生活人」正岡忠三郎と「一種の無私な合理主義者の純粋結晶」西沢隆二(タカジ)の人間的な魅力を見事に描いていると思う。エッセー風の文章も心地よい。

  • 上巻に続き、おもに忠三郎とタカジの人生が随想風に語られる。透徹した人間観察の中に深い愛情を感じる名著。

  •  この本を読んで楽しめる人って、とっても希少だと感じる。正岡子規がどれほどインパクトがあるのか、ないのか、話しはけっして面白いわけじゃない。「司馬遼太郎」を読み込んでいる人に向けた特別な本、強いて言えば趣味本でこれほどビックネームじゃなければ自主出版本の括りだとおもう。またはわたしがこの本の面白さを理解できないのか(泣

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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