- Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122023888
感想・レビュー・書評
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まず断っておかなくてはならないのは、黒岩氏が本作(以外でも)採用している蘇我氏百済系説は、現在の学会では受け容れられていない、ということ。70年代当時はけっこう学会を席巻した説らしいけど…。
考古学ファンのみなさんは覚えてるかもしれないけど、今から20年ほど前に、奈良の見瀬(五条野)丸山古墳という巨大前方後円墳の石室が大雨のあとにひとりでに開口しているのが見つかり、大騒ぎになった。だってこの古墳は陵墓参考地だったから。私自身は小さすぎて当時の記憶はないけれど、数年前にNHKスペシャルで「知られざる大英博物館」というのをやっていて、その第3回目の日本の古墳を特集した回で件の石室の写真が出てきて、一目で奇異な印象を受けた。家形石棺が2基、これはまあ普通だけど、奥の棺が横にきれいに収まっているのに、手前の棺は半ば羨道に入りかけるかのような形で縦型に配置されてるのである。後で奥棺の方が石棺の様式からして年代が新しいということが判り、俄然興味を掻き立てられた。手前の棺の被葬者の方が後から死んだんだけど奥棺より古い時代の棺を転用しました、ってことはないだろう。大王級(たぶん欽明)の陵墓でそんなことはしない。では奥棺に眠っているのは誰なのか、なぜもとあった棺を手前に引きずり出してまで奥に収まっているのか…という誰もが気になる部分に着想を得て書かれたのが本作である。
同氏の飛鳥時代に取材した他の作品は重厚な超長編が多く、それらに比べると推古天皇が主人公の本作は一息で読めるし、面白い。蘇我氏と大王家の縁戚関係が日本史でまったく頭に入らなかったよ!という私のような人でも家系図をある程度覚えられる。
けど、最後にイチャモンをひとつつけてもいいだろうか。作者は推古の即位前までのみを題材とし、その後については取り合わなかった(ある意味では『斑鳩王の慟哭』がその応えになっている)。作者自身、理由として「即位後の推古は蘇我馬子に祭り上げられた人形みたいな存在で、女としての自分を燃やしたのは即位前までだから」みたいなことを言っている。まず、即位後の推古が馬子の傀儡というのは当てはまらないと思う。飛鳥・奈良時代の女帝はやむを得ない状況で登位した人物が多いけれど、6人ともキョーレツなのである。それなりに自分色の政治を打ち出しており、大臣か何かの言いなりになっていただけとはとても思えない。さらに、「即位以降の推古は女じゃないから」という点。本作を読んだ時点ではそういう区切り方もありか、と思っていたけど黒岩氏の他作品を読んでいく中で、な~んとなく女性を軽く見ている節が見えてきたので、今になって気になってしまった。当時の男性はある程度共有していた、時代の風潮みたいなものかもしれないけどね…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
背景も想像できる文章で、初心者にも分かりやすい。
女心の描写もうまく、入り込めるので、この作家の本を購入して正解だった。 -
再読。
時代小説から離れられず、でも手持ちがないので、古代小説へ。
やっぱりおもしろかったけど、推古天皇即位までのお話だし、分量も少ないので、次を読みたくなる。 -
後に女帝・推古天皇となる、炊屋姫が主人公。
炊屋姫は敏達天皇の皇后でしたが、身体の弱い天皇は病に倒れ、ほどなく崩御してしまいます。
政治や世継ぎの問題が降りかかり、蘇我氏と物部氏の確執とそれぞれの思惑に挟まれつつも、姫は自分の立場・誇りを守り、美しく毅然と立っているように見えました。
…が一方では、夫の喪に服しながらも恋ならぬ恋に身を焦がし、いっそ自分が大王の后じゃなく普通の女性だったらと嘆き、小さな木の葉の様に揺れている。
その恋の相手こそ、宮廷衛士の長・三輪君逆(みわのきみさかう)でした。
彼は紀で「悉くに内外の事を委ねたまひき」とあり、敏達天皇にして用いられ、かなり信頼されていた人物だったみたいです。
今流行りの、政・務・衛を備えた、スーパー執事(または秘書?)みたいな立場だったのかも知れませんね。
しかも本書の逆、良い男なんだよこれが。
凛々しくて逞しくて、無骨だけど真っ直ぐで、機転も効いてて仕事も出来る。
そんな人が、もしもの時は命を捧げると言って警護してくれている。仕方ないわ、側にいたら惚れるよ、惚れないわけない´Д`*
それに引換え、王族だと言うのに、穴穂部皇子の空気の読めなさ、浅はかさと言ったら。胸くそ悪くなったよ…。
相思相愛とお互い気づきながら、触れ合う事はおろか、近寄ることもままならないって、ものすごい辛いなあ。
炊屋姫が、もがりの宮から逆の居る場所を見つめ葛藤するシーン、かなり切なかったです。
でもプラトニックな関係って、ある意味で肉体的な関係がある時以上にドキドキするんですよね。
しかも、ものすごい格差恋愛です。主君と臣下の恋愛は禁断禁忌。
公になれば、逆は死罪になるかも知れません。
…でも。
人事全開ですが、その過酷な状況がまた、私的には燃えました´Д`*
禁忌だとわかりつつも、二人はどんどん惹かれあい、深みにはまります。
そして、それを利用するかのように暗躍する蘇我馬子。
馬子はすごい。マジ策士ですよ。
訪れる運命の時。
炊屋姫と逆の恋愛の果てに、私は号泣でした。
逆、行ったら嫌じゃ!と、私も縋りつきたくなりました´ω`。
辛すぎる…。
そして事態は蘇我物部合戦へと発展していくのですが…。
歴史物としてはもちろんですが、恋愛ものとしても、かなりいける一冊でした。
なんだか「ボディーガード」って昔の映画の曲「I will always love you」が頭に流れてしまった…。 -
580年ごろ。推古女帝と蘇我馬子,物部守屋の話。馬子の父である稲目は百済から仏教を輸入し,それを政略に使い,物部氏を滅ぼしていく。
馬子は巧みに推古を取り込み,蘇我氏拡大のための政略の道具として使おうとし,推古は知的な皇后であるものの,馬子にかなわず,いいように使われていく運命にあった。
物語の最後の方では,推古も馬子の恐ろしいまでの権謀術数に不安になる。推古と馬子が推した崇峻大王すらも592年に馬子は暗殺してしまう。女帝となった推古は,この先を不安に思ったが,近くに異母皇子の厩戸皇子(聖徳太子)がいた。厩戸皇子は生まれたときから仏教に魅せられていたが,守屋殺害時に人の世のはかなさを知る。そんな心根の優しい皇子に推古女帝は頼っていくことになるのだろう。と,厩戸皇子が登場するまでの話。 -
黒岩重吾の小説で一番好き。身を切る様な恋愛が、一生に一度でも出来る人は、或る意味で幸せだと思う。