園芸家12カ月 (中公文庫)

制作 : Karel Capek  小松 太郎 
  • 中央公論新社
3.89
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本棚登録 : 778
レビュー : 103
  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122025639

作品紹介・あらすじ

チェコの生んだ最も著名な作家カレル・チャペックは、こよなく園芸を愛した。彼は、人びとの心まで耕して、緑の木々を茂らせ、花々を咲かせる。その絶妙のユーモアは、園芸に興味のない人を園芸マニアにおちいらせ、園芸マニアをますます重症にしてしまう。無類に愉快な本。

感想・レビュー・書評

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  • これで三読。本書を読まなければ、おそらく植物に興味を持たなかっただろう。その意味で、本書は私の人生を決定的に変えてくれた。
    いや、くれた、というのは言い過ぎだろう。本書にも書かれているように、新たに、植物愛好家につきものの苦労を背負わされたのだから。だって、わが子が野外で暮らしていたらどう思いますか? 落ち着いて寝てもいられないじゃないですか。
    でも生きるって、そういうことの連続。大切なものが増えれば、苦労も増える。そんな当たり前のことを、ユーモラスに再確認させてくれる。そして、(客観的に見れば無意味である)人生に、ユーモラスな物語、つまり意味を与えてくれる。

  • チャペックは好きなのだが、園芸にはあまり興味がなく(ズボラなため。花や木を眺めるのは大好きだけど。)これは初めて読んだが、チャペック好きなら読むべき名作だった。チャペックのユーモアと皮肉の効いた文章が堪能できる。
    「園芸家というものが、天地創造の始めから、もしも自然淘汰によって発達したら、おそらく無脊椎動物に進化していたに違いない。いったい何のために園芸家は背なかを持っているのか?ときどきからだを起こして、「背なかが痛い!」とためいきをつくためとしか思われない。」(p41)
    8月の園芸家の章での手紙のおかしさ。かと思えば11月では、枯れた植物について「自然は、店をしめて鎧戸をおろしただけなのだ。しかし、そのなかでは、新たに仕入れた商品の荷をほどいて、抽斗ははちきれそうにいっぱいになっている。これこそほんとうの春だ。いまのうちに支度をしておかないと、春になっても支度はできない。未来はわたしたちの前にあるのではなく、もうここにあるのだ。(中略)芽がわたしたちに見えないのは、土の下にあるからだ。未来がわたしたちに見えないのは、いっしょにいるからだ。」と、人間も生きていれば「わたしたちが現在とよぶ古い作り土のなかに」も、根が伸び、芽ができているのだと勇気づける。(p174)
    しかし、これは訳者の小松太郎の力でもある。小松太郎はドイツ文学者で、ドイツ語から訳しているわけだから、チャペックの元々の文章とは違っている可能性はあるわけだが、巻末の訳注を読むと小松太郎自身が相当の園芸家であり、ユーモアと皮肉の優れたセンスがあることがわかる。つまり作家との相性が良かった。「詩情にあふれた軽妙洒脱な文章」と解説にあるが、同様の才能を訳者も持ってないと、こんな風に訳すことはできない。ケストナーの訳者だから、適任だった。ケストナー、チャペック、こういう知的で洒落ててちょっと軽みもあるような、それでいてあたたかみがあり、人間の深い欲望や悲しみについても知りつくしているような上等の作家が児童文学を書いていた第二次世界大戦前のヨーロッパ文化の豊かさを改めて感じる。(これは児童書ではないけど。)
    暇な時に適当に開いたところを読むような読み方で一生読み返したいような本だった。もちろん兄ヨゼフの絵も最高。この絵以外の絵で読むのはナンセンス。

  • カタログを見ているうちにうっかり花を注文しすぎて植える場所がなくなっていたり、かがんで庭仕事をしてるとき自分の足が邪魔でしょうがなかったり、ひよっこ園芸家の私にも思い当たる節が多々あって面白かった。
    今年は花の名前をずいぶんおぼえたので、出てくる植物たちも思い描けるものが多くて楽しかった。カンパニュラ、デルフィニウム、アスター、フロックス、クロッカス、ダリア…。
    園芸家には、春〜秋まで楽しみがいっぱいあることもわかった。
    (冬は、カタログを見て過ごすらしい)。
    カレルの兄の、ヨゼフ・チャペックの挿絵も、いちいち味があってかわいい。

    ○よく聞きたまえ、死などというものは、けっして存在しないのだ。眠りさえも存在しないのだ。わたしたちはただ、一つの季節から他の季節に育つだけだ。わたしたちは人生をあせってはならないのだ。人生は永遠なのだから。

    園芸とは土を作ることだ、と再三にわたって書いるチャペックは、しまいには自分の作った土を自分と一心同体に感じて、土を作ることで人は永遠に生きられる、そんな境地に達したらしい。
    地球と一心同体、one love的境地じゃなかろうか。

    この本の訳者さんも相当な園芸人らしく、注釈に熱が入っていて面白かった。
    ○(訳注の最後のくだり)もしわたしたちが真の園芸家であるならば、花はむしろ庭のまわりに植えて、そのかわりに、庭の真ん中に堆肥の山を二つそびえさせておくべきかもしれない。

    園芸道は奥が深い。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「出てくる植物たちも思い描けるものが多くて」
      素晴しい~
      私は、ヨゼフの挿絵+花・植物の写真付きの豪華本が出ないかな?と思っています。
      「出てくる植物たちも思い描けるものが多くて」
      素晴しい~
      私は、ヨゼフの挿絵+花・植物の写真付きの豪華本が出ないかな?と思っています。
      2012/10/26
  • 1959年に訳出、1975年に出版された文庫本ではあるが、そもそも本書が書かれたのは、おそらく1928年ごろではあるが、全然古くは感じない。完全なる口語文と、奇妙なユーモア、そして普遍的な園芸愛に満ちた愛すべき園芸エッセイである(読んだのは旧版)。

    チェコと日本の自然環境は違うし、そもそも園芸という趣味を持ち合わせていないので、チャペック特有の細かい所に入る描写で参考になった技術的な部分は無いけれども、戦争前夜の東欧でどのように楽しみを見つけるかは、参考になった。

    雲や地平線や青い山を眺める前に、自分が踏んでいる足下の土を眺めたら、それがどんなに美しいものかを発見できる。と、チャペックは云う。「酸性の土と、粘土と、ローム質壌土と、冷たい土と、礫土と、劣等な土を見分けることができるようになるだろう。クッキーズのように多孔質で、パンのようにあたたかで、軽い、上等の土のありがたさがわかるようになるだろう。そして、女や雲をきれいだと言うように、そういう土を「こいつはすばらしい」と言うようになるだろう。」(118p)実際、花の美しさを描写した部分はほとんどなくて、1月のカチンコチンに凍った土の所から、ひたすら土作りの素晴らしさを語るのが、この本の趣旨なのである。私はよく知らないのだけど、これこそ園芸家なのだろうか。

    訳注が、訳を飛び越えてほとんどエッセイと化しているのに、びっくりした。特に、マンドラゴーラという神秘的な植物についての一文は、様々な物語を私に想起させる(167p)。

    また、このエッセイのもう1人の著者とも言える多数の挿画を描いた兄ヨゼフ・チャペックが、1945年、強制収容所で亡くなっているのを知ると、このへたうまな絵(ちなみに数えたら58挿画もあった)が愛おしくなる。
    2019年2月読了

  • とても楽しい!園芸愛にあふれるチャペックの言葉を、これまた園芸愛にあふれる訳者が小気味良く翻訳。チャペックの兄による挿絵もユーモラスでほほえましい。草木を育てるには、何はともあれ土!土!土が大切!ということがよくわかった。

  • 作家であり、園芸をこよなく愛するチャペック氏のエッセイ。軽妙洒脱な筆致ですこぶる読みやすく、同時に自然に対する深い畏敬の念がしみじみと伝わってくる。
    「園芸家」とあるので植物の話が大半かと思ったら、土への賞賛が半分近く占めていた。良質な土あってこその緑の日々というわけだ。
    終章の、園芸家は庭の手入れに夢中になりすぎて、ゆっくり庭を眺めるヒマがないというオチが深すぎてもう。まるで人生そのものだ。

  • カレル・チャペックといえば、「ロボット」という単語を作った人として有名である。しかし、彼には別の顔があった。それは熱狂的な園芸家である。その熱中ぶりと、園芸家に対するユーモアたっぷりの洞察力を発揮したのが、本書である。例を挙げてみよう。たいていの人がホースを使って水を撒いたことはあると思う。そのホースに対する彼の言い分を聞いてみれば、誰もが賛同するに違いない。

    「庭に水をまくくらい、かんたんなことだ、と思うかもしれない。ことにホースを使えば。ところで、使ってみればすぐわかるが、ホースというやつは、人間が手なずけるまでは非常に陰険な動物で、うっかりできない。かがむ。はねあがる。からだの下に大きな水たまりをこしらえる。しかも、そうやって自分でこしらえたぬかるみの中へもぐるのが、なんともうれしくってたまらない。(中略)襲撃をくったほうでは、ニシキヘビと格闘でもするかのような大立ち回りを演じる。そのあいだに怪物は真鍮の鼻づらを上にむけ、窓のなかの洗濯したばかりのカーテンにむかって、ものすごい水柱をあびせかける。」

    という調子で、人間様とホースとの格闘について語るのである。この本は、12ヶ月と題されているだけあって、各月の園芸家の"行動学"を論じている。園芸や土いじりを経験したことがある人はぜひ読んでみると面白いと思う。

  • オタク道ここに極まれり!でめちゃくちゃ面白い。園芸について書かれてあるけれどもどんな趣味でも深く「ハマる」人には共通するものがあるはず。
    しかも各ページに必ずひとつは名言が挟まっているような名言の連続。それでいて絵も文も軽妙ですらすらと読める薄い文庫本。カバンに一冊どうぞ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「深く「ハマる」人には共通するものが」
      飽き性の私は、見習わなきゃ!と思っています。
      とことん遣らねば極められないですものね!
      「深く「ハマる」人には共通するものが」
      飽き性の私は、見習わなきゃ!と思っています。
      とことん遣らねば極められないですものね!
      2012/10/29
  • 園芸にハマったら、もう普通の人間には戻れないかも。

  • 育てるということは本当に面白いですね。何か育てるものがある、
    育ちゆくものがそばにいる、というのは人に生きがいや希望を与え
    てくれるものだと、子育てをしながらつくづく思います。子育てだ
    けではありません。植物を育てるのも、考えや作品を育てるのも、
    事業や組織を育てるのも、育てるという意味では一緒。人は育てる
    ことに悦びを感じる動物なのでしょう。育てることにはそれだけの
    魔力があります。

    今週おすすめする一冊は、そんな育てることの魔力についてユーモ
    ラスに語った一冊『園芸家12カ月』です。著者はチェコの国民的作
    家カレル・チャペック。熱狂的な園芸家としても知られたチャペッ
    クは、園芸家の一年を追いかけながら、育てることの魔力にとらわ
    れてしまった人間の悲喜劇を描きます。兄のヨゼフ・チャペックの
    描いたほのぼのとした挿絵の効果もあり、最初から最後までくすく
    すと笑いながらあっという間に読めてしまう実に愉しい本です。

    実に愉しい本ですが、そこはさすがに国民的作家。詩情あふれる文
    章の端々に、育てることや生きることの本質について考えさせる味
    わい深い言葉がちりばめられていて、思わずはっとさせられます。
    園芸マニアの生態を笑いながら、教育や人生について考えさせる本
    というのはなかなかありません。そこに本書の魅力があります。

    最近、思うのですが、人は何かを育てたり、育ちゆくものを語る時
    に、多く植物のメタファーを使いますね。教育学や心理学の分野で
    も、人の成長が植物になぞらえながら語られることがとても多いで
    す。それは、植物が環境さえ整えてやれば、どこまでも生長する生
    物だからだと思うのです。上へ、横へ、下へと縦横無尽に枝や根を
    広げ、花を咲かす植物の生命の知恵と力に、人は無意識に憧れを抱
    いているのでしょう。

    植物を育てるに当って園芸家のできることは土を作ることと待つこ
    と。もっとも園芸家のみならず、何かを育てることの本質は、恐ら
    くこの2点に尽きるのだと思います。環境をととのえたら、待つし
    かない。でも、だからこそ未来に希望が持てる。チャペックも語る
    とおり、肝心なものは未来にあると思えるから、私達はまた一年歳
    をとることに感謝し、喜びを感じることができるのでしょう。育て
    ることは希望です。本書はそのことに気づかせてくれます。是非読
    んでみてください。

    =====================================================

    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

    =====================================================

    これからいよいよ、種まきをやる連中の、真剣の大仕事がはじまる。
    つまり、待つという仕事が。

    ほんとうの園芸家は花をつくるのではなくって、土をつくっている

    しようと思うことは何でもできる。しかしどんな革命も、発芽の時
    期をはやめることはできないし、五月以前にライラックを咲かせる
    こともできない。

    貧乏人のところにはえた植物のほうが、概して出来がいい。それに
    金持のところに育った植物は、主人が避暑に出かけているあいだに
    たいがい枯れる。

    人間であろうと植物であろうと、生命が地球の土に根をおろすため
    には、どんなにおそろしい戦いを辛抱づよくしてこなければならな
    かったか、ありありと目に浮かぶだろう。
    そうすれば、きみが土から受けとるよりも、もっと多く土に与えな
    ければならんのだ、ということもわかるだろう。

    庭は完成することがないのだ。その意味で、庭は人間の社会や、人
    間の計画するいろんな事業とよく似ている。

    死などというものは、けっして存在しないのだ。眠りさえも存在し
    ないのだ。わたしたちはただ、一つの季節から他の季節に育つだけ
    だ。わたしたちは人生をあせってはならないのだ。人生は永遠なの
    だから。

    未来はわたしたちの前にあるのではなく、もうここにあるのだ。未
    来は芽の姿で、わたしたちといっしょにいる。

    わたしたちが現在とよぶ古い作り土のなかに、どんなにたくさんの
    太った白い芽がぐんぐん伸びているか、どんなにたくさんの種がこ
    っそり芽を吹き、どんなにたくさんの古い挿木苗が、いつかはかが
    やかしい生命に燃え上がる一つの芽となって、生きているか、もし
    もわたしたちがそれを見ることができたとしたら、秘められた将来
    の繁栄をわたしたちのなかにながめることができたとしたら、おそ
    らくわたしたちは言うだろう--おれたちのさびしさや、おれたち
    のうたがいなんてものは、まったくナンセンスだ。いちばん肝心な
    のは生きた人間であるということ、つまり育つ人間であるというこ
    とだ、と。

    われわれ園芸家は未来に生きているのだ。バラが咲くと、来年はも
    っときれいに咲くだろうと考える。10年たったら、この小さな唐檜
    が一本の木になるだろう、と。早くこの10年がたってくれたら!50
    年後にはこのシラカンバがどんなになるか、見たい。本物、いちば
    ん肝心のものは、わたしたちの未来にある。新しい年を迎えるごと
    に高さとうつくしさがましていく。ありがたいことに、わたしたち
    はまた一年歳をとる。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ●[2]編集後記

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    育てるのは愉しいことばかりではないですね。思うようにいかない
    ことも多いし、何より時間と手間がかかります。「自分の時間」が
    とられます。それが時にジレンマとなります。

    先日、歌手のUAがラジオで子育てについて話していました。二人目
    の子どもが生まれたばかりの彼女は、今、子育て中心の生活を心か
    ら楽しんでいるそうです。そんな彼女も一人目の時は、自分を明け
    渡せなかったといいます。子どもよりも自分の都合を優先してしま
    う自分がいた、と。それから10年過ぎて、二人目を育てるようにな
    って、ようやく自分を子どもに明け渡すことができるようになった
    といいます。そして、皆がもっとこうやって子ども中心に生きるよ
    うになれば、世界はもっと美しくなるのに、と語っていました。

    -明け渡す-。良い響きの言葉だなと思いました。自分の場所と時
    間を空けて、人を迎え入れていくようなイメージがあります。自分
    のエゴを脱ぎ捨てて、人をその人としてあるがままに受け入れる。
    そんなふうに感じます。そして、子育てに限らず、どんな場面でも
    自分を相手に明け渡すことができるようになれれば、そういう人が
    もっと増えれば、世界は確かに美しくなるのだと思います。

    育てるとは、自分好みに相手を矯正することではありません。自分
    のエゴの押しつけは、育ちゆくものを歪め、抑圧します。盆栽を育
    てるのはそれに似ていますね。小さな世界に押し込め、針金で無理
    に矯正していくやり方は、育てるというよりも、コントロールして
    いるといったほうが良いでしょう(余談ですが、盆栽愛好者には関
    節炎に苦しむ人が多いと聞きました。真偽のほどは定かではありま
    せんが、さもありなん、と思わせますね)。

    育てると言いながら、相手を自分好みにコントロールしようとして
    いまいかと問うことは、どれだけ自分を明け渡すことができている
    かと問うことと一緒です。結局、育てることの本質は、自分をどれ
    だけ明け渡すことができるのか、にあるのかもしれません。

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