園芸家12カ月 改版 (中公文庫 チ 1-2)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122025639

作品紹介・あらすじ

チェコの生んだ最も著名な作家カレル・チャペックは、こよなく園芸を愛した。彼は、人びとの心まで耕して、緑の木々を茂らせ、花々を咲かせる。その絶妙のユーモアは、園芸に興味のない人を園芸マニアにおちいらせ、園芸マニアをますます重症にしてしまう。無類に愉快な本。

感想・レビュー・書評

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  • 癒し系の趣味のように思えて一年365日つねに心休まらないアマチュア園芸家の庭造りの日々をユーモアたっぷりに描いたエッセイ。挿画はカレルの兄、ヨゼフ。


    チャペックにイラストレーターの兄がいることを知らなかったので、「チャペックって自分で絵を描いてるんじゃないの?!」と驚いてしまった。ヨゼフが挿画を担当したのはこの本だけで、旅行記などに載っているのはやっぱりカレルが描いたスケッチらしい。じっくり絵を見たのは初めてなんだけど、最小限の線で立体感と動きを完璧に捉えていてすごすぎる。もしかして高野文子ってチャペック兄弟の影響を受けてるのかな。
    こういう本が好きな割に私は植物の名前をまったく知らないので、いちいち画像検索しながら読んだ。煩雑ではあるけど、文字だけではモノクロに見えた花が検索するたび色づくようで、脳内に花盛りの庭を作るような楽しさもあった。
    チャペックが想定している「園芸家」は男性に限られるらしく、漏れでてくる女性観は玉に瑕だが、園芸家を楽しげにこき下ろす言葉も容赦がないので大目に見よう。珍しい植物を自慢すると「夜になると盗みに来る」という言い切りについ笑ってしまった。あと、イギリス芝のジョーク! これ、『キッド・ピストルズの妄想』の「永劫の庭」(大好き!)にでてくるやつじゃん! と慌てて確認したら、まさしく文中にチャペックと本書の名前をだしていた。そうだったのか。「待てばシラカンバの花咲く季節もある」の引用元も本書だったとは。
    一番最後に置かれた「ありがたいことに、わたしたちはまた一年齢をとる」という一行が表すように、本書には人が年を重ねていくことを肯定するメッセージが繰り返される。園芸家がまた一つ年齢を重ねる、その祝福として庭は色づき、苗木は幹を太くしていくのだ。同じくアマチュア園芸家らしい訳者の訳注も、日本と西洋の植生の違いや自ら栽培した体験記、アジアと西洋の幻想植物学など多岐に渡って読みごたえあり。

  • カレル・チャペックは園芸をこのうえなく愛した作家だったらしい。園芸家の忙しい12カ月がユーモアにたっぷり書かれた園芸エッセイ。園芸家とは面倒な人たちなんだな。けれども同時に愛すべき人たちなんだなとも思った。

  • ベランダいっぱいに様々な山野草とクレマチスを育てていた私に、友人が勧めてくれた1冊。
    1月の園芸家~12月の園芸家まで、その月々に園芸家は何を思い、何をしているのか。
    軽いユーモアも交えつつ楽しく語られた本書は、少しでも植物と生活を共にした者なら「分かるぅぅぅ!」と共感せずにいられない。
    この月は植え替え、この月は剪定と誘引…等と月毎にお世話に追われ、追われるのも楽しみの1つだった私には楽しい1冊だった。
    毎日水をやり、土をいじり、植物たちの世話をしていると、昨日との僅かな違いも直ぐ気付くようになるものだ。
    裏書きにもある通り、そんな園芸マニアをますます重症にする。

  • ふむ

  • 趣味に没頭することの楽しさを凝縮させたような本。ジョーク混じりの文体がとても小気味良い。
    「1つ増えたところで手間はそう変わらないと言いながら10増やす」「飾る(植える)場所がない」「他所の芝生が青く見える(文字通り)」「悩んでも仕方のないこと(天候)で延々とやきもきする」「休む暇もない」…悩むのが楽しい、文句を言いながら右往左往して、失敗したり成功したりしつつ完成を目指す(完成することはない)のが楽しい。
    そんな園芸の楽しさが、手に取るように感じられる。

    そして何より、自然に触れ、受け入れ、対抗することの楽しさ。季節の移ろいを身をもって体感する楽しさ。
    いつの時代もきっと変わらないと思わせてくれる。
    尽きることのない悩みと肥沃な土を抱えて今もどこかで園芸家はシャベルを振るっている。
    私もたまには花でも植えようか……涼しくなってから。

  • ユーモアたっぷりに、描かれる園芸家の12ヶ月。

    文章もさすが! と思われる、そして
    あれ? これあの広告のコピーはこの文に刺激されたのかな?
    とも思われるような、とてもリズム感とスタイリッシュな
    文章もあり。

    クスクス笑いながら、時に感心しながら、
    土に近づいたり、景色を遠く眺めるような思いに
    なりながら読み進めた。

    特に11月の最後の文章は、心打たれた。

    「未来はわたしたちの前にあるのではなく、ここにあるのだ」
    「おれたちのさびしさや、おれたちのうたがいなんてものは、
    まったくナンセンスだ。いちばん感じなのは、生きた人間で
    あるということ、つまり育つ人間であるということだ」

    土の匂いを感じながら、何度も読み返したい。

  •  この本を手に取る前に注意したいのは、タイトルが『園芸 12カ月』ではなく『園芸"家"12カ月』であるところ、つまりこの本の中心は植物ではなく、園芸を愛して止まない人間の方だということだ。

     たとえ園芸のことが分からなくとも、何か一つのもの――趣味でも子育てでもペットでも――に夢中になって、それ中心の生活を送っている人なら、きっと共感するに違いない。いや、そんな経験のない人でも楽しめる。園芸が、植物が、いや土いじりが大好きで空回りしてしまう彼らを、果たして愛さずにいられようか。

     そしてなんといっても好きなのが、軽妙な味わいのある独特な文だ。不思議なことに、文章を読んでいるのに、まるで四コマ漫画かコメディ映画のワンシーンを見ているような気分になる。読んでいると、思わずくすっと笑ってしまう。

     こればかりは、本文を読んでもらった方が分かりやすい。以下は「1月の園芸家」の抜粋(p24~p25)である。

    ===================
     年があらたまるやいなや、園芸家は土を耕しに庭へとび出す。園芸家はシャベルをとりあげて仕事にかかる。石のようにかちかちの土と、やっきになって奮闘したすえ、やっとシャベルをへし折ることに成功する。こんどは鍬がこわれないと思うと、柄が折れる。そこでこんどは鶴嘴(つるはし)をとりあげる。まずそれで、去年の秋に植えたチューリップの球根を、どうにかこうにかたたき切ることに成功する。
    ===================

     ほら、ちょっと読みたくなってきたでしょう?

     ところでこの本は、園芸マニアでない人にとっては馴染みのない植物名がぽんぽん飛び出してくるが、その楽しみ方は人それぞれだ。

     興味のある人なら、図鑑やネットで一つずつ調べるもよし。巻末の訳注と並行しながら読むもよし(訳注は、日本の植物しか知らない読者向けに丁寧に書かれている。チャペックの育てていたものと同じ種類の植物を日本で育てた体験談なども載せられていて、これはこれで楽しい)。あるいは名前の響きからどんな植物かを想像し、あなたの頭の中の庭ににょきにょき生やすのも楽しいかもしれない。

     また、文章ももちろん、随所にあるユーモラスなイラストも良い。これは筆者カレル・チャペックの兄ヨゼフが添えたもので、そんなエピソードからも和やかな気持ちになる。

     とにかく、この本は誰でも気楽に、楽しい息抜きとして読める一冊であることは請け合いだ。

  • チェコの作家カレル・チャペックによる園芸エッセイ。書かれたのは1929年頃。文庫新装版のかわいい表紙に惹かれて。

    ロボットという言葉を作った作家としてしか知らなかったチャペックが園芸家だったとは!文中に漂うユーモアと草花愛が心地よい。兄ヨゼフ・チャペックの挿絵もすごくよい。

    あと、巻末の注釈もよかった。訳者の小松太郎さんも相当園芸に詳しい方のようで、いつもなら読み飛ばす注釈もエッセイのように楽しめた。

  • チャペック流のジョークがたくさん詰め込まれた園芸エッセイ。1月には園芸家がすることがないとお思いだろう…から12月まで月別で園芸家が行うことと植物についての考察。知らないことばかりだけれど、文体のしなやかさと視点の面白さで決して飽きることない珠玉の日常観察。

  • 園芸家の一年をユーモラスに書いた一冊。

    園芸に全く興味はなかったが、クスッと笑えるエピソードと、園芸を通して見る世界が、妙に引きつけられて、すぐに読み終えることができた。

    私たちは、俯いているか、空しか見てない。

    『だれだって、自分がふんでいるものなんか気にかけない。夢中でどこかへかけだしていって、せいぜい頭の上に浮かんでいるきれいな雲か、むこうに見えるきれいな地平線か、きれいな青い山をながめるぐらいなものだ。』

    土をじっと見てみよう。観察してみよう。
    世の中には不思議なことが多くあるが、わざわざ遠くにでかけたりしなくても、今自分が歩いている足下でさえ知らないことは多いのかもしれない。

    もう一つ。心に残った「根」のはなしの引用。

    『何かと言うとすぐに、根のことに話をもっていきたがる人たちがいる。…たとえば、われわれは根源にさかのぼらなければいけないとか、禍根を残してはならないとか、物事の根本をきわめなければいけないとか言う。』
    『…根を掘るということが生まやさしい仕事でないこと、したがって根というものは、すべからく植わっている場所に、そのままそっとしておくべきものだということを、はっきり確かめた。』

    根というものは、本物の植物ですら、掘り起こすことがそうたやすいことではないのに、ついつい、これが根っこだの、核の部分に触れようとする。

    根を探ることそれ自体が、常に間違っているとは思えないが、私は少なくとも、「ほんとうにこれが根っこなのかな?」という疑問も持ちながら掘り進めること、わからないならそのままにしておくのもいいんじゃないかな、と感じた。

    所々に出てくる、挿絵も魅力的でした。

    • nejidonさん
      旅する本好きさん、こんにちは(^^♪
      とても好きな作品なので、タイトルを見ただけでクリックしてしまいました。
      驚かれたかもしれませんね、...
      旅する本好きさん、こんにちは(^^♪
      とても好きな作品なので、タイトルを見ただけでクリックしてしまいました。
      驚かれたかもしれませんね、すみません。
      園芸好きな私には忘れ難い良書です。
      ピックアップされた箇所も、良ーく覚えていますよ。
      つい嬉しくてコメントしました。失礼しました。
      2020/10/28
    • 旅する本好きさん
      コメントありがとうございます!
      園芸したことがなかったのですが、最初の暴れ回るホースのくだりで、なんだか面白そうだな、と思い、読んでみました...
      コメントありがとうございます!
      園芸したことがなかったのですが、最初の暴れ回るホースのくだりで、なんだか面白そうだな、と思い、読んでみました。
      園芸家でない人も読んでほしい本ですよね♪
      2020/10/31
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著者プロフィール

一八九〇年、東ボヘミア(現在のチェコ)の小さな町マレー・スヴァトニョヴィツェで生まれる。十五歳頃から散文や詩の創作を発表し、プラハのカレル大学で哲学を学ぶ。一九二一年、「人民新聞」に入社。チェコ「第一共和国」時代の文壇・言論界で活躍した。著書に『ロボット』『山椒魚戦争』『ダーシェンカ』など多数。三八年、プラハで死去。兄ヨゼフは特異な画家・詩人として知られ、カレルの生涯の協力者であった。

「2020年 『ロボット RUR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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