ローマの歴史 (中公文庫)

  • 中央公論社 (1996年1月1日発売)
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  • 本 ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122026018

感想・レビュー・書評

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  • ローマの歴史は、とてつもなく長く、大作の有名な書籍が色々ある。
    非常に読み応えがあるものが多いが、手軽に読むというわけにはいかない。

    その点この本は、非常に読みやすい構成となっている。ローマの歴史をトピックスで綴っているのである。
    例えば ”ローマの起源”とか”SPQR”、”ピュロス”、”ハンニバル”、”ルビコン河”、”アントニウスとクレオパトラ”、”ネロ”、”イエス”、”経済”、”娯楽”といった具合。
    もともと連載ものだったものを、一冊の本とした為にこのような構成になっている様だが、興味のあるトピックだけを読んでも充分楽しめるので、良いんじゃないかと思う。

    この本では、作者のウィットに富んだ人間観察眼が、古代世界の人間に血肉を与え、彼らを生きた人物として活写するのに成功している。多分、著者の波乱に富んだ人生経験に基づくものであろう。

    最近では、日本でも様々なメディアでローマ史が取り上げられる機会が多くなってきたので、ローマ史のエッセンスを吸収したい方にはお勧めの一冊だと思う。

  • ローマの歴史を描いた本として有名な一冊。扱われているのは先史時代からローマ帝国の成立、東西ローマ帝国の分裂を経て、476年の西ローマ帝国の消滅まで。筆致が実に軽やかで、テンポよく読むことができる。一文が短いし、体言止めなどを多く用いた訳文はテンポを損なうことがない。ローマの歴史というと栄光の歴史であって、構えた論じ方が多いようだ。この本はそうした傾向からは離れて、一歩身を引いた観点から書かれている。著者の冷めた視点というか、皮肉めいた視点がとても楽しくて、たまにくすりと笑ってしまう。

    そうした冷めた視点からすると、逆に人間臭さが浮かび上がる。例えば、家庭の幸福に恵まれないアウグストゥス(p.316-318)。活発で情事の多い娘ユリアを何とか安定させようと、他人の幸福な結婚をぶち壊してユリアと結婚させること2回。頭を抱えるアウグストゥスが目に浮かぶようだ。また、記述のバランスもよく取れている。アレクサンデル・セヴェルス帝の死後50年間の混乱期はあらすじだけとされている(p.452)し、コンスタンティヌス帝の成立を巡る分裂状態もめんどくさいので省略(p.463)と割り切っている。また、この本は主に都市ローマのことを扱っており、ローマ帝国の東方や西方への拡大についてはあまり記述はない。

    そういえば、本書の分量はローマ帝国の成立までが案外に長い。著者の視点は、ローマ帝国成立以前の共和制ローマをよい時代とし、皇帝の成立は元老院と市民のローマ(SPQR; Senatus Populusque Romanus)でやっていけなくなったことを示していると見ているように思われる。皇帝による独裁になれば、皇帝がよい治世者であればよいが、暴君であれば手が付けられなくなる。例えば狂気の皇帝カリグラの横暴に対しては結局、皇帝暗殺しか対策がない。しかも傭兵頼みだ(p.338)。

    こうした凋落にギリシャ文化の流入の影響を大きく見ている。それまでローマにはそう華美で豪奢、洒脱な文化はなかった。彫刻、文学、哲学、装具品のきらびやかなものは西方からもたらされた。それを一番察知していたのはカトーだ。「ローマの頽廃をかれほどなまなましく予感した人はなく、頽廃の源泉はギリシアだと、かれほど明瞭に言い切った人もなかった」(p.195)。ギリシャはローマによって征服されたが、その文化は野蛮なローマを魅惑したわけだ。

    凋落する文化の中で元老院の権力を最後まで確保したのは、キケロが構築した元老院と富裕層による「秩序のための同盟」だった。しかしこれはカエサルが率いる平民派と富裕層が手を組むことにより崩壊する。三頭政治の成立はこうした権力基盤の移行を如実に示している(p.265f)。とはいえ、頽廃したローマを支えることができたのは植民地の富にすぎない。元々、しっかりした経済的基盤を持たないローマは崩壊の一途をたどる。本書にはそうしたローマの頽廃文化がよく描かれている(p.389-396)。何しろ休日は年間に175日。日常のことは奴隷に任せて観劇とスポーツばかりしていた(p.405)。そうした文化がいつまでも続くわけはないだろう(といっても何百年も続くが)。

    「同胞相食む殺し合いを楽しむ町人、すぐに暴徒と化す軍隊、昨日花やかに讃歌で包まれた身が今日は汚物にまみれて死んで行く皇帝ーーこれがローマのありのままの姿だった。」(p.380)

    マルクス・アウレリウス帝を経てセヴェルス朝の頃では、著者は特に女性の活躍(暗躍)を取り上げている(p.449-451)。男性がどうしようもなく堕落したから女性が権勢を持って引っ張っていくしかなくなったわけだ。こうなるとローマから逃げ出す人々も出てくる。300年前後のディオクレティアヌス帝の時代について、かつては蛮族の住む地域からローマに保護を求めて人々が流入したのに、ついに逆に蛮族の地域へ人々が流出しだした(p.458)。こうしてローマは瓦解していく。蛮族がローマに迫る中、唯一冷静に対処しローマの崩壊に抗ったのが、自身も蛮族出身の将軍スティリコ。だが懸命に帝国に尽くすスティリコをローマ自身が裏切ることになる。著者はこの裏切りに最大限の酷評を与えている。

    「だがイタリア人は、徴兵制絶対反対を唱え、一方では蛮族に屈服しようとしているという理由でスティリコ将軍を告発した。自分たちの中から兵を出さずに、どの兵を用いて戦えというのか、それはだれにも分らなかった。だが蒼くなったホノリウス帝は、この将軍の十年の忠誠を一瞬に忘れてしまい、逮捕を命ずる。帝国軍はスティリコだけをたよりにしていたのだから、反乱を起そうと思えばわけはなかった。だがこの将軍は、帝国の権威を尊重しすぎていたため、難をまぬかれることができず、ラヴェンナの一教会で処刑された。これは、ローマの名において犯された数々の犯罪のうちで、もっとも愚劣、もっとも卑劣、もっとも破滅的な犯罪だった。帝国は最良の臣を失っただけでなく、まだ忠誠を誓っていた蛮族のすべてに、事態を明白に認識させる結果となった。官吏にせよ軍人にせよ、つぶれそうな帝国の屋台骨を支えるのは蛮族出身者しかなかったのに、ローマは自分の手でかれらの信頼をぶちこわしたのである。」(p.502f)

    ローマの生み出した最大のものといえば国家概念であろう。ローマは国家を支える5つの仕組み、知事、裁判所、警察、法典、税務署を整えて国家を築き、軍によってそれを支えた(p.96)。ローマ軍は滅法強かったが、それは自分たちは偉大なことをなすために神々に創造されたのだ、という信念に基づくとされている(p.49)。他の点を言えばローマは特に新しいものを生んでいない。むしろ、地中海世界に広く普及させたことに意義がある。学問、芸術、政治形態、キリスト教。これらは他の地域にあったものをローマが広めたのだ(p.514f)。そういう点からすればローマ人たちは凡庸であり、我々とさほど違いない。ただ逆に、その凡庸な人々が偉大な事柄を成し遂げたということが我々にとって重要なのだ。

    「ローマの歴史が偉大なのは、それが私たちとは違った人びとによって作られたからではなく、私たちと同じような人びとによって作られたからだ。」(p.11)

  • 1 ローマの起源
    2 あわれなエトルリア人
    3 農民王
    4 商人王たち
    5 ポルセンナ
    6 SPQR
    7 ピュロス
    8 教育
    9 立身の道
    10 神々
    11 市民生活
    12 カルタゴ
    13 レグルス
    14 ハンニバル
    15 スキピオ
    16 征服されたギリシアが……
    17 カトー
    18 ……野蛮な征服者をとりこにした
    19 グラックス兄弟
    20 マリウス
    21 スラ
    22 ローマの晩餐
    23 キケロ
    24 カエサル
    25 ガリア征服
    26 ルビコン河
    27 暗殺
    28 アントニウスとクレオパトラ
    29 アウグストゥス
    30 ホラティウスとリヴィウス
    31 ティベリウスとカリグラ
    32 クラウディウスとセネカ
    33 ネロ
    34 ポンペイ
    35 イエス
    36 使徒
    37 ヴェスパジアヌス
    38 享楽のローマ
    39 経済
    40 娯楽
    41 ネルヴァとトラヤヌス
    42 ハドリアヌス
    43 マルクス・アウレリウス
    44 セヴェルス朝
    45 ディオクレチアヌス
    46 コンスタンティヌス
    47 キリスト教の勝利
    48 コンスタンティヌスの遺産
    49 アンブロシウスとテオドシウス
    50 終末
    51 結び

  • 塩野七生の名作「ローマ人の物語」を読んでいない人にとっては、ざっと古代ローマ帝国の歴史を知ることができる。
    それ以上に素晴らしいのは、著者のあとがきにある。
    ローマ帝国のヨーロッパでの役割や、キリスト教に関する論評は、ローマ文明が1番というシンプルすぎる論評とは一線を画し秀逸。

  • 「読みやすく、ローマ史の大きな流れをしっかり捉えることができた。ローマ史を知るとき、最初に出会えたら良かったな」というのが読み終わった後の感想。

    本書は、「ローマ史の良著」とどこかで紹介されていたのを目にして読みたいなと思っていた一冊だが、評判通りの良い書籍だった。
    古代ローマの歴史約1000年間を500ページで俯瞰しているが、何冊か読んだ同様の書籍とくらべて抜群に親しみやすく、それ故記憶にも残りやすい。
    特筆すべきは、著者、訳者がともに意識している軽妙な物語調の文章で、スラスラと読み進んでいける。本文は51の章からなるが、各章のつながりがしっかりしているため、その章の主役となる人物が唐突に現れたり内容が途切れたりすることがなく、滞ることなく物語が流れていく感触があった。
    内容が帝政期に入ると急に文中で年代が示されなくなるので、巻末の年表を活用すると年代の推移がよくわかる。

    著者がジャーナリストであり、引用文献が全く示されていない点からも本書の内容の厳密性は怪しく、その部分には多少の注意が必要だろう。訳者がイタリア史の専門家なので大きく間違っていることはないだろうが、細かい部分は偏りや一般的ではない内容が含まれているかもしれない。
    また、著者は本文中で『当時のローマ史の著作者は公平さを意識していない』ことを度々触れ、史家の著述を鵜呑みにできないことや共和政を中心とした観点による著述の歪みを指摘しているが、著者自身がキリスト教的観念に影響されていることも忘れてはいけないだろう。本書後半のキリスト教に関わる部分にはそのことが現れているように思う(ex.ローマの頽廃を宗教の欠如・機能不全と何度も述べ、キリスト教誕生部分はそれまでの書き口と打って変わって礼賛となる)。


    開いてすぐに思ったのは「おお!古いなぁ」という懐かしさのような感覚だった。
    カバーも年代を感じさせるデザインなのだが、中身の装丁も「70年代の本」という感じだ。上下左右や行間の余白の広さや文字のフォントが昔のものだ。
    2020年代の新品の本を買っているのだが、読み始めたときは図書館から借りてきた古い本のように、紙が日に焼けているような錯覚を覚えた。


    冒頭のローマ建国にまつわる伝説の部分は小気味よく流れるような文章で、読み始めてすぐに心地よくローマ人の世界へと誘われていく。
    レムスとロムルスを育てたオオカミが人間だったという話は他で見ることがない説だが面白い。ローマといえば鷹の紋章で、どの時代でも建国にまつわるはずのオオカミの話が出てこないことにちょっとしたひっかかりを感じていたのだがこれなら納得がいく。

    読んでいくうちに他の疑問に思っていた点も解消された。
    ローマは共和政時代から支配領域を広げるごとに同盟市、イタリア全域、属州、と被支配地域にローマ市民権を与えている。帝政期には帝国内全域がローマ市民となるのだが、この「市民権を全域に平等に与える」という感覚が理解できなかった。
    世の多くの帝国では中心となる民族と被支配民で取り扱いを変えている。特に古い時代の多民族国家では被支配民は苛烈な迫害にさらされていることも多い。この民族による差別は現代であっても解消されていない(これは近代のナショナリズムのせいで中世、古代のものとは機構が異なるかも)。それなのに、紀元前の国家であるローマは、何度も抵抗されながらも支配地域の人々を”ローマ人”として同化することを推し進めている。
    本書を読み始めた時点で、初期の頃からローマが単民族の(都市)国家ではないことを知り、王政時代にすでに市民の地位向上の行動があることから、ローマのために諸民族の力を統合するというのは建国以来の伝統なのかと合点がいった。
     
    前半部分を読んでいる途中でふと、「共和政ローマの歴史は苦戦の歴史だ」という思いが湧いた。
    本書でも共和政移行直後のエトルリア諸都市との戦争、イタリアの同盟市の離反、ピュロス王との戦争、ポエニ戦争などで苦戦が続く印象がある。
    しかし、意識して読んでみると「見かけ上はそうでも実際は違う」と思うようになった。
ローマ史では勝っているところは短くまとめられたり省略された書き方になるのだ。一方、苦戦した戦いは詳細に書かれている(ただ、”苦戦"を強調して"敗北"は小さく隠しているかもしれない)。カエサルの『ガリア戦記』もそのような書き方だったように記憶している。
    普通の歴史は洋の東西を問わず、華々しい勝利を厚く、敗北は矮小化して書くものだと思うので、この書き方にローマ人の気質、あるいはローマの指導者や知識層の思惑があるように思う。当初は建国当初からの質実剛健な部分や、大きく強い国となったことで子孫達が奢らないようにするためなだろうかと思っていたが、大カトーの章で触れている英雄を生まない(個人崇拝をさせない)ための仕掛けだったのかもしれないとも考えるようになった。

    『ローマの歴史は共和政の成立を原点に見ている、だから王政下での歴史には視点に歪みがあるから気をつけろ』という主張は面白い。共和政時代をローマの美徳、一つの全盛期のように思っていたが、それは知らぬうちにローマ史観に侵されていた証拠でもあると感じた。史料をそのまま受け取ってはいけないのは最近は分かっているつもりなのだが、それでも実践するのは難しい。


    ポエニ戦争前後から独裁、寡頭政治を経て帝政へと移行する時期はローマ帝国の建国であるとともに、共和政の崩壊していく過程でもあり、ダイナミックで面白い時期である。だが、この時期についての知識は飛び飛びで各論的であり、細かいつながりが不明であった。

    本書では、ポエニ戦争前後を様々な角度(急激な拡大による資金・食物の流入とそれに伴う社会の変化を、古くからの体制を守ろうとする大カトー、問題を解決するというグラックス兄弟のモチベーション、変化に対応し抜け目なく大土地所有へと移行する元老院議員達)から描くことで、共和政が崩壊し寡頭政治へ遷移していく過程を詳細に継ぎ目なく描いている。
    元老院議員の商業禁止により土地が投機の対象となる。カルタゴに勝利することで肥沃で広大な属州の獲得とそれに合わせた大量の奴隷(= 格安の労働力)の獲得で小規模農業が価格競争で敗れ平民階級のローマ市民が没落、無産市民化する。その土地を得て大土地所有はますます広がる。
    グッラクス兄弟は無産市民の再生を目指すが彼らの改革の効果は限定的で、やがて骨抜きにされていく。
    外敵の侵入により悠長なことを言っていられない状況になり、弱体化した徴兵制度への対策と無産階級への支援を合わせた無産市民の傭兵化。その傭兵隊長、あるいは軍閥とも言うべきマリウスの活躍と、後の残虐化、ローマ市民の虐殺と元老院議員、ローマ貴族の大粛正。
    それを治めたスッラが台頭する。マリウスとの戦いではポンペイウスが姿を見せ、スッラの独裁体制下でカエサルがローマを追い出されるなど、後の寡頭政治の主役達の姿も見えてくる。

    ポエニ戦争後の市民の没落も痛手だったが、マリウス、スッラの元老院議員の虐殺も共和政への致命傷となったのではないかとも思った。
    元老院は優秀な執政官達の遺伝子プールであり、伝統や統治のノウハウの保持も司っていたはずだが、議員を何度も虐殺し、その補充に騎士階級を大量に容れてしまったことでその役割が失われたのではないだろうか。

    キケロの章の最後にある彼の評価は「さすが!」だと思った。著書が優れていて美しいからといって、本人がその内容通りとはかぎらない。無意識的に自分を飾り付けているとは言い得て妙だと思った。


    オクタヴィアヌスが皇帝となった時代にすでにローマの人口の3/4が解放奴隷の子であるとの記述がある(;本当だろうか?)ので、私が思っていたようなローマ人(ローマ民族)は存在しないのだなと思った。解放される奴隷は一芸に秀でた人も多かっただろうし勤勉だっただろうから、様々な民族の優秀な人材を集めた混血がローマ人ということになる。
    「単一の民族でないなら後の時代に侵入した異民族と混血して消えていくのも不思議ではないな」と、現代に"ローマ人"が残っていないことに納得し、「この民族構成は現代だとアメリカか!強いわけだ」とも思った。

    帝政移行後も意外とダメな面が多く、「賢帝が能く平和に治めた」わけではないとわかる。
    また、ローマが乱れる一方、地方都市は古い時代の良さを残していたことが度々描かれている。
    後の時代の、ローマから西方への遷都を「中央からの指示が素早く通るように、侵入者により近い場所へ移ったことは英断だが、1000年の都から移ることをよく思い切れたな」と思っていたが、この人心の腐敗が遠因にあるのかもしれないと思いながら読み進めた。

    ある程度時代が進むごとに章を割いてローマ市や地方都市の様子を描写しているのが良い。政治史、権力の中心であった人物の様子だけでなく、名前が残っていない普通の市民の生活がうかがえる。

    軍人皇帝時代の前の段階でも皇帝の周囲はガタガタ。これで滅びなかったのはなぜなのだろうかと思ってしまう。属州総督や官僚機構が優秀だったのか、周辺からの侵入がまだ緩かったのか。
    また、帝政期のすべての期間にわたって皇帝が民衆の人気を気にする場面が多々出てくる。ローマの皇帝は思っているような専政ではないのだろうか。帝政ローマはどの時代にあっても元老院や親衛隊、軍団兵が皇帝を推す。優秀な皇帝の血族であってもその構造に変わりはない。この点も不思議である。
    オクタヴィアヌスの皇帝就任時から元老院との暗闘は変わっていないと感じた。五賢帝時代まで元老院と皇帝の駆け引きが続く。元老院は力を失ったが、ただの飾りに留まっている気はなく、隙を窺っていると感じた。


    訳者のあとがきにもあるが、後半になると内容が駆け足気味になる。共和政末期のカエサルを中心とした内容は4章40ページ以上もあるのに、五賢帝は1章10ページ程度で、二人を一つの章に合わせてあったりもする。「著者がちょっと飽きたか」と感じた。

    帝国を四分統治をしはじめたディオクレティアヌス帝の頃には首都の位置だけでなく様式もビザンツ帝国へとつながっていく兆しを感じる。また、身分の固定は中世ヨーロッパに繋がっていくと思える。
    この頃になるとローマ市から皇帝が出ているわけでもないので、人心の腐敗だけでなく、あれだけ暗殺沙汰を繰り返している都市からは距離を置きたくなるなと遷都に同情するに至った。
    コンスタンティヌス帝のミラノ勅令は有名だが、「なぜミラノなのか」とぼんやりと思っていたが、この時代ローマは西側の帝国の首都ではなくなっていたのがわかり納得した。
    コンスタンティヌス帝の章の後半はまたキリスト教の内容になる。章内ではコンスタンティノープルへの遷都の記述すらない。


    本書の後半部分を読んでいくことで、変質していくローマ帝国はビザンツ帝国や中世ヨーロッパ諸国へとシームレスにつながっていくという感触を得ることができた。ローマ帝国の滅亡以降は暗黒時代が数百年間続くような印象だったが、歴史は断絶しておらず次代の萌芽はローマ時代の末期に芽生えていたと悟った。

    帝政期後半の皇帝達の死亡年齢がだいぶ若いように思う。不利な状況での激務だったからだろうか。在位期間が短い皇帝が続くと世が乱れるのは多くの国に共通していることなので、もう少し長生きしていればローマの行く末も変わった部分があるかもしれないなと思った。
    オクタヴィアヌスは76歳、ティベリウスは78歳、カエサルも暗殺される直前の50代後半でも元気だった。帝政開始時期の為政者の寿命は長い。古代だから寿命が短いわけではないようだ。寿命を縮めたとされる鉛の器でワインを飲む習慣はいつからはじまったのだろうか。

    本書ではポエニ戦争以降、ローマの良い部分はほとんど語られないで市民や上流階級の腐敗だけが強調される。文化面でも良い面は軽視されている。本書内容のようにゴタゴタしているだけではこれだけの大国を長く維持できるはずがない。文中で何度か指摘されている当時の史書の共和政至上主義的な部分に引っ張られているのか、あるいはキリスト教が普及していく過程を美化するためにローマを貶めている(= キリスト教的史観)可能性があるのではないかと思っている。
    また、古代ローマ特有のクリエンテス、パトローネスの関係が扱われなかったのも残念だった。

    結びの少子化と外国人の急速な流入の部分はローマを日本に置き換えることができそうで背筋が薄ら寒い。


    気に入らない点を挙げるとすれば、本書のところどころで出てくる女性蔑視(軽視?)の表現だろう。
    女性のステレオタイプを持ち出して軽んじていたり、地位の向上を否定的に書いていたりという部分があり、そういう部分では「なんだコイツ」「賢い女によほどひどい目に遭わされたのか?」と何度か思った。
    著者は20世紀初頭の生まれで、本書が発表された70年代(半世紀前)でもおじいさんなので、その時点ですら感覚は古かったのだろう。「この作品には一部で今日では差別的と考えられる表現が用いられていますが、原著作物の同一性保持の観点や作品の書かれた時代背景等から鑑み、原文のまま刊行しています」と心の中で唱えてやり過ごした。
    古い時代の歴史の性質上、女性に関する記述はそう多くはないが、それでもローマ史の性質か、本書の著者がよく拾っているのか、他の文明に関するよりも女性の登場する場面は多い。女性が出てくる度に引っかかる記述があるような気がするので注意が必要。

  • ローマの歴史を物語風に500ページ程にまとめた本。訳本だが、ありがちな癖がない。訳者は既に亡くなっているが、かなりの力量があったのがわかる。

    内容も面白くて楽しく読める。ローマに関してよく知らない人も読み進められる本。
    何しろ、自分がまさに、ローマについて殆ど知らなかったのだから。

  • 『ローマ人の物語』が古代ローマの歴史をかなり肯定的に書いているのに対し、『ローマの歴史』はローマ人以外に対し、どのような行為を行ってきたかを忠実に書いているようだ。
    歴史は複数の視点から見ることで全く異なっているようにみえるのは当然だから驚くことではないが、こうしてローマの栄光が様々なものを踏み台にしていたということが分かる内容だったと思う。
    しかし、古代ローマが築き上げた帝国は東西の交流を生み、多くの文化を生み出したことも間違いない事だと思う。

  • 初めてしっかり歴史ものを読みました。
    ローマの歴史についても予備知識がなく一回ではわからないことだらけだったので通読。
    現代にも当てはまる感情や、価値観などいろいろと考えされられました。

  • ローマはなぜ衰退したか

  • 為政者を辿ることで、古代ローマの歴史を纏めた一冊。
    著者は、カエサルもハンニバルも、人間的弱さにフォーカスしたシニカルな評価故に、歴代皇帝、英傑全員が愚帝の様だが、国家・仕組みとしてのローマを評価している。 “アリは愚かだが、コロニーは賢い。” 元老院が、帝国500年の栄枯盛衰を担ったとも読める。

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