文明の生態史観 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 972
レビュー : 75
  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122030374

作品紹介・あらすじ

世界史に革命的な新視点を導入した比較文明論の名著。

感想・レビュー・書評

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  • 1.要約
    一.概論
     『文明の生態史観』(以下、本書)では、従来の歴史学(日本史、東洋史、西洋史等)では存在しなかった分野である世界史を切り開き、生態史観という概念を用いて世界史モデルを構築している。梅棹は世界史モデルの構築により人類の歴史の法則を導き出そうとしたが、この際に用いた生態史観は梅棹が京大今西錦司門下だったことが影響していると考えられる。また、本書では従来の東洋と西洋の括りに疑問を投げかけ、第一地域と第二地域という新しい括りを提唱しているが、これは日本のアジアにおける差異性と日本と西ヨーロッパの類似性から始まった考えである。

    二.系譜論と機能論
     先述した第一地域と第二地域の括りを導き出すのに梅棹が用いた概念が機能論である。系譜論は従来行われてきた東洋と西洋の括りに用いられており、文化を形作るそれぞれの要素の系図[由来]によって分類しようとする考えである。それに対し、機能論はそれぞれの文化の要素の働きによって分類しようとする考えである。

    三.第一地域と第二地域
     先述した機能論によって分類された、系譜論による東洋と西洋の括りに代わる考えが、第一地域と第二地域の括りである。第一地域と第二地域の差異として①植民、②革命の有無、③社会制度の推移、④ブルジョワの有無⑤気候が挙げられる。第一地域は①帝国主義的侵略、②革命有、③封建制から資本主義へ、④ブルジョワ有、⑤温暖湿潤気候であるのに対し、第二地域は①被植民地、②革命無、③専制君主もしくは植民地支配から社会主義へ、④ブルジョワ無、⑤乾燥気候である。
     梅棹は本書の中で、第一地域が資本主義と成り得たのは気候の存在があったと述べる。先述した通り、梅棹がこの世界史モデルを構築に用いたのは生態史観である。生態学において、サクセッションが生じるのは主体と環境との相互作用[主体・環境系の自己運動]によるものであるが、このことは条件[環境]が異なれば運動法則[社会の遷移]が異なることを示している。
     また、梅棹は第一地域のほうが第二地域と比べて高度文明国であると述べているが、これは第一地域と第二地域の差異として挙げた要素が作用している。第一地域においては、温暖湿潤気候によって資源の蓄積が可能となり封建制とブルジョワが出現し、ブルジョワによって引き起こされた革命によって資本主義へと発展し高度文明国家を築いたが、第二地域においては乾燥気候による破壊と制服が繰り返され、資源が蓄積されないためブルジョワが出現せず革命に至るまで文明が成熟しないので高度な文明国家を築くことができなかった。梅棹の気候による文化の解釈には和辻哲郎の影響があると考えられる。

    四,アジアにおける日本の特異性
     ここで、アジアにおける日本の特殊性というものは、第一地域に属する日本と第二地域に属するその他の従来のアジアと括られていた地域の差異から生じたものであると言える。それはまた、日本が他のアジア地域とは異なり一夫一妻制の採用や長子相続制などの第一地域である西ヨーロッパと同じ社会制度にあったため近代化しやすい土壌にあったためである。これは他のアジア地域の近代化の場合には日本を参考としにくいことを意味する。何故なら、他のアジア地域では一夫多妻制や均分相続制といった第一地域とは異なる社会制度であるからである。



    2.感想
     本書を読んだ感想として、梅棹が本書で示した考えの斬新さへの感銘と、その奇抜さへの違和感がある。確かに梅棹が本書で示した論理は世界とアジアにおける日本の位置を示している。しかし、その論理の根拠となるものが気候の解釈でもそうだが、明確な確証が示されていない。その為、論理としての正しさもまた疑わしく感じてしまう。



    3.論点
    一.アジアと日本の関連性をどのようにして構築するか
     文化・文明として異なるアジアと日本がどうやって関連性を構築するか。第一地域と第二地域の差異を乗り越えるため、梅棹は商売を解決策として述べている。これは第一地域と第二地域の植民地関係を脱却し、多様化・分立する第二地域と軋轢なく対応できる可能性があるため、私も梅棹同様、経済での関連性を構築することが望ましいと考える。

    二.梅棹の提唱する理論の妥当性
    感想でも触れたが、梅棹の提唱する理論の根拠は確証がない。しかし、梅棹の提唱する理論は感覚的に共感する部分も多く、あくまで部分的ではあるがある一定の妥当性はみられると考えられる。



    4.本書の今日的意味
     現代における本書の意味は多様化する国際社会において今なお通用する分類を構築したことにあると言える。現在でも尚、日本の国際的位置づけは議論されている。その議論において、梅棹の提唱する世界史モデルは西ヨーロッパと日本を結ぶ共通点を文明の発達という観点で捉えており、現在でも通ずるものがある。また、この共通点は西ヨーロッパと日本の国際関係や経済において応用可能であるとも考える。

  • 渡邊太先生 おすすめ
    17【教養】204-U

    ★ブックリストのコメント
    人生態学の視点からの比較文明論。西洋/東洋という素朴な区別を批判し、西洋近代社会を頂点とする社会進化論にも拠らずに、独自の発想からユーラシア大陸の文明史を読み解く画期的な書。

  • 名作。読んでおくべき本。

  • 2011年にみんぱくのウメサオタダオ展に行った時に購入したものを、このたびついに積ん読解消しました。

    総合雑誌や新聞連載をまとめたものなので、想像していたよりもずいぶん読みやすかったです。著者自身による解説が各論考の前に付されているのも理解を助けてくれました。
    インド・パキスタン・アフガニスタンや、東南アジアなど、いろいろな地を自身の足で歩き、歩くたびに新たな発見があり、それをもとに著者が考えを修正・発展させていく。最初から順々に読んでいくことによって、その様子を見て取れるのも面白いです。
    また、最後の谷泰氏の解説が当時の時代背景の話もあって大変わかりやすく、これを最初に読んでから全体を読むのも良さそうだなと思われました。

    1955年ごろの論考が多く、今から見ると「そういう考え方は違うのではないか」と思ってしまう点もありますが、第二次世界大戦終わってまもない時代であること、海外の現地調査に行くことが今よりはるかに困難であったことを考えると、文化相対主義的ですごい論考群だったろうなぁと思いました。
    個人的には大学で西洋史をかじり、歴史学や人類学などがどんどん細分化されているのをちらと目の当たりにしました。大風呂敷を広げようとすると細かいところに齟齬が出てきてしまうというのはその通りだと思いますが、梅棹さんのような広い視野で歴史や社会の成り立ちを語る視座もどんどん出てきてほしいなぁと思います(ただし、ありがちなナショナリスティックなものではなく、もっと俯瞰的なもの)

    2020年が目前に迫り、梅棹さんのいうところの第一地域のあり方や価値観が絶対的ではなくなってきた今、梅棹さんが生きていらしたらどんなふうに思われるのか聞いてみたかったなあとも思いました。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    中洋とい捉え方は今でも新鮮な内容だった。
    中東や中央アジア、南アジア、東南アジア、東アジアなどが「アジア」という一つの言葉で表されていることには違和感があったが、西洋とも東洋とも異なる中洋という言葉はとても新鮮で発表当時には様々な議論が交わされたのだろうと思える。
    また、西ヨーロッパと日本の比較は多くの場所で読んだことがあるが、東ヨーロッパと東南アジアを比較していることは大変に珍しいし、その比較が結果的には西ヨーロッパと日本が類似した要因としているのは大変に面白かった。

  • <目次>
    東と西のあいだ
    東の文化・西の文化
    文明の生態史観
    新文明世界地図 − 比較文明論へのさぐり
    生態史観から見た日本
    東南アジアの旅から ー 文明の生態史観・つづき
    アラブ民族の命運
    東南アジアのインド
    「中洋」の国ぐに
    タイからネパール − 学問・芸術・宗教
    比較宗教論への方法論的おぼえがき
    あとがき
    追記
    解説


    2016.01.17 池田信夫氏のブログで言及 予約
    2016.02.16 読書開始
    2016.02.23 読了

  • ・インドの歴史は、東よりも西との交渉の歴史である。チムールも、ムガル王朝をひらいたバーブル帝も、モンゴル人の子孫だと称してやってきたが、要するに西からの侵入者であって、東アジアにおけるモンゴル族とは関係ない
    ・日本人の大多数の知識人には、政権担当の機会などおとずれてこないが、その意識は、一種の為政者意識というべきものになっている
    ・旧世界の生態学的構造をみると、西ヨーロッパ・日本という暴力の源泉から遠い第一地域、侵入者による暴力と破壊を繰り返した第二地域、その第二地域のなかに、四つの大共同体-中国世界、インド世界、ロシア世界、地中海・イスラーム世界-がある
    ・宗教についていえば、いったいどういうわけで、こんなものが発生したのか。宗教というものは、人類にとってたしかに必要なものなのか。宗教のない社会というものは考えることができないのか
    ・たいていの宗教は、その発生の端緒において、すでに病気と関係していることが多いのである。それは、仏教やキリスト教のような、世界的大宗教といえども例外ではない

  • 従来とは違う切り口を用いて考える、という点で面白かった
    戦後日本がどのように進むかを考えざるを得ないタイミングだからこそ出てきた考え方なのかしら
    人間の成長モデルを考える際にも参考になるかも

  • 日本を語るときに、私たちの念頭にあるものとして「比較対象としての西洋」という考え方は、ちょっと貧弱なのではないでしょうか。本書では、著者がオリエント世界からインドを回って感じたことからきっかけに、西洋と東洋以外に、中洋という概念を提案されています。そしてそこからの各文明の比較を生態史という形で語られています。論として固まった考え方ではなく、これからこういった研究を行なって行きたいというきっかけ、気づきが書かれています。そのきっかけをどのように得たのかという下りは、各地を実際に旅した著者の感覚に沿って書かれているので非常に面白かったです。読んだら、きっと旅をしたくなると思います。それもただの観光旅行ではなく、少しの学術的な感覚をもって。
    文明(後半で宗教を一例に書かれていました)の性質というものについての思考のきっかけが溢れる内容で、これほど自由に物事を考えられることがすごいと思うとともに、楽しいと感じながら読ませていただきました。

  • 上司に紹介というか、上司の蔵書にあった一冊をお借りしたもの。世界史が苦手な自分でも、分かりやすく読めました。
    世界を大きく三つに切り分けて、それぞれの地域における文明史を実地での研究を踏まえて書かれています。
    この方、他に「知的生産性の向上」という本も出されているそうなので、いつか読みたいと思います。

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著者プロフィール

大正九年(一九二〇)、京都市に生まれる。昭和十八年、京都大学理学部卒業。学生時代の白頭山登山および大興安嶺探検隊以来、調査、探検の足跡は、ひろく地球上各地にしるされている。京都大学人文科学研究所教授、国立民族学博物館長を経て、同館顧問・名誉教授。専攻は民族学、比較文明学。理学博士。著書は、『東南アジア紀行』『サバンナの記録』『文明の生態史観』『知的生産の技術』『地球時代の日本人』『日本とは何か』『情報の文明学』など。いずれも「梅棹忠夫著作集」(全22巻、別巻1)に収録。平成六年、文化勲章を受章する。平成二十二年(二〇一〇)七月、逝去。

「2019年 『日本史のしくみ 変革と情報の史観』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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