認められぬ病―現代医療への根源的問い (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122030671

作品紹介・あらすじ

長い闘病の苦難を通して現代医療の体質を問い、生きる希望を語る。繰り返す入退院、薬の副作用、医師の辛い態度、心身をさいなむ痛み、そして車椅子生活…。精神的肉体的に追いつめられながらも、もちこたえた日々を綴った感動の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 著者自身をモデルとする主人公の浅丘美樹が、未知の病と医療にたずさわる人びとの無理解に苦しむ姿をえがいた私小説です。

    体調の不良を訴える患者に対して、「そんなはずはない!」とか「いいかげんにしなさい」と叱責する医者はもちろん論外ですが、本書の水野医師のように、たとえ善意からであれ、「勤めなんか無理だよ。すぐにやめなさい。女なんだからいいじゃないか」ということばが出てしまうのは、やはり患者と向きあい、患者の幸せをサポートするという態度には程遠いものを感じました。

    しかし、生命科学者である著者は、個々の医師たちの態度を倫理的になじるのではなく、そうした態度が医療・医学の発展を阻害していることを冷静に指摘します。医学は統計的なデータに基礎を置く学問であり、もし医師の予想した通りの結果にならなかったばあい、その事実を謙虚に受け止め、原因を探る必要があります。そのようにして医学は発展し、多くの人びとの命を救うまでになってきたことが、忘れられてはなりません。そのことに目を向けてほしいというのが、著者の願いだといってよいと思います。

    著者は、「十五年におよぶ闘病生活をふり返って見ると、病気そのものの苦しみよりも、医療から受けた苦しみの方がずっと大きかったと告白せざるをえない」と告白しつつ、それでも次のように述べています。「私は自分の身に起こってしまったことに関して、国や医師の行為を残念に思う気持ちは少しもない。科学とはこうして進歩するものであると思うし、人間の知恵とはその程度だと思うからである。けれども、私の苦しみが何の役にも立たず、また他の人がおなじ苦しみを味わうとしたら、それは耐え難いことである」。このことばの重みを、医療にたずさわる人びとに知ってほしいと感じました。

  • 最後に病名が出てきますが、この病気は本当に診断が付かなくて病院をたらい回しにされることの多いもので、最初の治療がかなり大切であったりします。そしてこの病気は個々に症状が違いますし、診断が遅れると、どんどん症状が酷くなってしまいます。とにかく、どこの科にかかるかが重要ですが昔は難しかったのだなぁ、と思いました。診断がついてきちんとステロイド剤が処方されて少し安心しました。

  • ほんとうに大変な病気だなあと思いました。
    ちょっと残念だったのは、完治した体験ではなかったことです。

    たぶん夏樹静子さんの『椅子がこわい』と同じ病気だと思う。
    夏樹さんは心療内科で完治したのです。
    この本を読むにあたって、そういう結果を期待していたので。

    柳澤 桂子さんの他の本も読んでみたいと思いました。
    彼女のいろいろなことを知りたいです。

  • 原因不明の体調不良で長年にわたってほぼ寝たきりの生活を送っていた女性が、ある薬の投与によって外を歩けるようになるまでに回復したところまでを追ったテレビドキュメンタリーを見たことがある。たぶん、あれはこの本の著者だったんだ。
    小説仕立てにしているけど全て自身の体験がベースになっているとのことで、タイトルにある「現代医療への根源的問い」という言葉がずっしりと重い。
    けどね、妻がこれだけの症状を訴えていながら、介護と子育てをまかせて単身赴任していられる夫と、たまに帰ってくる夫に「大丈夫ですからあなたはお仕事を」という妻という夫婦関係には疑問を感じてしまったなあ。

  • 著者は私と同じ生物(医療)系の人間なので、書かれていることがよく理解できる(この本に限らず)。 目の付け所が生物系なのだ。

  • 2009.3
    実体験を小説風にされたとか。
    一つの病、手術をきっかけに体の不調を訴えるものの、
    医者からは相手にされないまま症状は悪化し寝たきり状態までに。
    医療ってこわい。
    医者の言葉を鵜呑みにしているだけではいけないんだと、痛感しました。

  • ・よくなっているという医師のことばとは裏腹に、ときどき激しい腹痛と嘔吐に見舞われる。それを医師に話してみようと思うものの、いざ医師の前に出ると、「その威厳に圧倒されてしまってことばにならなかった」(p.54)。ある日思い切って話してみても、検査結果を持ち出して「そんなはずはない!」と怒り出す医師。
    ・「医学的にありえないということが診断の理由になることに驚いた」(p.173)。
    ・「私が残念だったのは、名取(医師)がこれらのこと(心身症の患者は放っておくのが一番いいということ)を直接はなしてくれなかったことである。直接話せれば、納得のいくまで質問もできたであろう。退院時に家族に話されたのではどうしようもなかった」(p.173)。「討論の自由を奪われることは私にとっては精神的暴力と感じられた」(p.173)。
    ・「私の最も知りたいのは、どうすれば今の状態から抜け出すことはできるのかということである。これがすべてなのである。これさえわかれば、自分が病気であろうとなかろうと、その原因がなんであろうとどうでもよいことなのである」(p.99)
    ・「病むことの最大の苦しみは、人のために何かをしてあげることができなくなること」。逆にこのように考えると、「人の助けを必要とする弱者は、人々に真の喜びをあたえうる存在であることがわかる。

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著者プロフィール

柳澤 桂子(やなぎさわ けいこ)
1938年、東京都生まれ。お茶の水女子大学卒業。コロンビア大学大学院修了。Ph.D.(遺伝子専攻)。お茶の水大学名誉博士。生命科学者,サイエンス・ライター。著書に『脳が考える脳』『遺伝子医療への警鐘』『生と死が創るもの』『いのちの始まりと終わりに』『患者の孤独 心の通う医師を求めて』『生命の秘密』『われわれはなぜ死ぬのか』など多数。



「2022年 『リズムの生物学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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