狂王ルートヴィヒ: 夢の王国の黄昏 (中公文庫 テ 1-4)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122031159

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  • バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845~1886)の詳細な伝記。ルートヴィヒというとヴィスコンティの映画等のせいか何かと耽美・頽廃的なイメージが先行するけれど、本書を読む限りでは、夢見がちで現実逃避癖があるとはいえ、まったくの暗愚な王ではなかったという印象を受けた。ちゃんと真面目に仕事(国王としての)に向き合えば、それなりに出来る賢明さは持ち合わせていたのだろうけど、それを上回る「全部投げ出して夢の世界に逃げたい!好きなことだけやってたい」という欲望が勝ってしまったのだろうなという感じ。ある意味現代っ子的。コスプレと2.5次元が大好き、平和な時代に道楽だけしていられたら、幸福な王様だったろうに。領土拡張や権力への野心もなく、戦争めんどくさい、平和が好き、というのは一概に悪い君主とは思わない。

    しかし当時のドイツの状況は小国が群雄割拠する過度期。周辺諸国との戦争も絶えない中、ついにプロイセンの鉄血宰相ビスマルクがドイツ統一を成し遂げたのが1871年。18才で王位を継いだルートヴィヒはこの時点でもまだ20代、王として政治的にやらねばならないこと、決断せねばならない場面が多々あったにも関わらず、ちょいちょい逃げ出しては引き籠り、周囲を困らせたり。反面、若い頃の彼はルックス抜群の長身イケメン、ちょっとやる気だしていいとこみせて国民の前に姿を見せればまだまだ歓迎された。しかし20代後半までにはどんどん太ってむくんで美貌は失われていき、同時に政治の舞台からの逃避行動も悪化。最終的には狂人あつかいされた末に40才でその謎めいた最期を遂げる。

    そしてルートヴィヒといえば忘れてはいけないワーグナー。祖父であるルートヴィヒ1世が晩年になってローラ・モンテスという胡散臭い美女の虜になり国民の猛反発をくらったように、ルートヴィヒ2世は作曲家リヒャルト・ワーグナーに夢中になりすぎて、彼のパトロンとして国庫のお金をつぎ込み国民の顰蹙を買う。同性愛者としても有名なルートヴィヒだけれど、ワーグナーとの関係はそういうのではない。彼の好みは自分より若くて美しい男性のみ。30才も年上のワーグナーは少なくとも性的な対象ではなく、作品への称賛がその作者への敬愛、崇拝に代わり、さらにルートヴィヒの現実逃避先であるところの夢の世界(オペラや音楽)の供給源としてワーグナーが必要だった。オペラを麻薬におきかえたら、ワーグナーは音楽という極上の麻薬の製造元。ゆえに依存してしまい手放せない。

    それにしてもワーグナーのゲスいことよ(苦笑)ルートヴィヒに招かれる以前からかなりの素行不良。あちこちで借金を作り、妻がいながらよその人妻に手を出し、ルートヴィヒに気に入られてからは、贅沢三昧の生活をしながらかつての借金まで王に払わせ、相変わらず人妻を妊娠させたりやりたい放題。彼を養うお金は国庫から出ているのだから、そら国民も閣僚も怒りますよ。音楽家とはいえ、金のかかる愛人を囲っている以上の無駄遣いを王にさせているのだから。曲は素晴らしいけれど、ちょっとワーグナーに対して見る目が変わります。国王というパトロン=金づるを得て調子に乗りすぎ、もう少し謙虚に曲作りだけに集中していれば良かったろうに。とはいえ二人はずっと蜜月だったわけではなく何度も仲たがいして何年も会わなかったりもしている。

    その間のルートヴィヒの道楽は築城。有名なノイシュヴァンシュタイン城をはじめ、いくつかの夢のお城を顕現させる。ものすっごいお金持ちが「自分だけのテーマパークを造る!」みたいなことなんだろうな、オペラの舞台の書き割りだけで満足できず、本物の素敵なお城に住みたいと思ったときに、それを実現する財力と権力が彼にはあったわけで。戦争や政治は放り出してそんなことだけしてたい気持ちはとてもよくわかる。でもその財力や権力はやはり王として戦争や政治をする代償として与えられているわけで、働かず遊ぶだけでは王といえども許されない。そのストレスと、自分が同性愛者であることのストレス(罪悪感)などが彼の心を壊していったのだろう。

    とはいえ、本当に彼が狂っていたのかどうかは定かではない。たしかに彼のふるまい、行動は「狂気の沙汰」ではあっただろうけど、本当の狂気ではなかったと思う。古代や中世の王様ほどやりたい放題、酒池肉林みたいなことは一切してないし、自身の同性愛傾向についてもかなり悩んでいたようだし、国王とはいえすでに当時のバイエルンは近代国家、全権があるわけではなく王とは別に政府がある。そしてその政府が王の浪費癖に業をにやし、精神病をでっちあげて監禁・退位に持ち込んだだけというのが真相ぽい。弟のオットーもかなり早い段階で発狂、監禁されたりしているので遺伝的要素はゼロではなかったかもしれないけれど。

    ルートヴィヒが唯一心を赦した年上の女性シシィ(オーストリア皇后エリザベート)は、ルートヴィヒは精神病ではない、確かに変わり者だったけど、ちょっと夢見がちだっただけ、的なことを言っているのが一番まっとうな意見な気がする。

    以下余談ながら。ルートヴィヒが生まれた1845年は日本だと弘化2年でほぼ幕末、私の敬愛する会津藩の山川大蔵(浩)が同い年の1845年生まれ。新選組の斉藤一は1844年生まれ。亡くなった1886年は明治19年で、当時ドイツ留学中だった森鴎外の独逸日記にもルートヴィヒ死去のニュースが記されており、のちに鴎外は「うたかたの記」という小説でルートヴィヒを描いている。他にも十蘭の「泡沫の記」や、アポリネール「月の王」、澁澤龍彦の「バヴァリアの狂王」等はいわずもがな。幸い全部家に文庫があるので、あらためて読み直したい。須永朝彦にも『ルートヴィヒ2世』という長編があるらしいので、これも探してみよう。

  • バイエルン王、ルートヴィヒ二世の生涯。狂王とまで言われているし、実際かなり奇矯な振る舞いもあるものの政治判断はそれなりに的確という面もあるようで「よくわからない人物だ」というのがわかった、という気分。

  • 歴史小説だがが、あまり堅苦しく書いてないので読みやすい。
    ただ漠然とあの有名なノイシュバンシュタイン城を築いた人と思っていたが、王として最後まで国民に愛されていたという理由がこの本を読んで理解できる。
    ただの夢想家や狂人なのではなく、彼の夢への情熱が、その時代の最先端の技術をも刷新させた人。
    この時代でなければ、あれほどのお城は築けなかったが、あの時代でなければ、あのような悲惨な最期ではなかったのかも・・・。

  • ミュージカル「エリザベート」の予習として読んでみました。
    漠然と、奇行の目立つ王ってイメエジを抱いていたルートヴィヒ2世。その解釈の仕方に面白さを感じました。
    周辺事情や歴史についての記述と、王に関する部分が違和感なく描かれていて、物語を読みつつ学びにもなるという、そんな面白さもありました。

  • 19世紀バイエルン王国の王、ルートヴィヒ2世。人一倍細やかな感性、傷つきやすい繊細な心、新しい時代の胎動を明確に認識する知性の持ち主。そしてビスマルク率いるプロイセンとの間では国が独立国家として維持出来る様に消極的ながら動く。しかし、芸術の庇護者であらんとし、ワーグナーへの厚遇、中世フランスに憧れ壮大な城の建設といった夢の世界の中で生きようとする王に、財政は逼迫し、内閣は王を「狂人」として逮捕、監禁する。そして不可解な謎の死。生まれた時代が悪かったと言ってしまえばそれまでだが、余りに悲しい。

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