生きている兵隊 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 255
レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122034570

作品紹介・あらすじ

虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。

感想・レビュー・書評

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  • 第一回芥川賞受賞作家【石川達三】が、中央公論特派員として日本軍の南京攻略直後の中国戦線を取材して書き上げた本作は、反軍的内容をもつ時局柄不穏当な作品として発禁処分になりました。筆者自身は禁固4ヵ月、執行猶予3年の判決を言い渡されています。そんな言論弾圧の時代にあって、人間性を見失った前線の兵士による殺戮、掠奪、強姦など非人間的行為をありのままに描き、戦争に必然的に伴う罪悪行為というタブ-に触れたことで、反骨作家の執念を強く感じさせる作品です。

  • 戦争を題材に、お涙頂戴を描く小説ではない。
    もちろんノンフィクションというわけでもない。

    『生きている兵隊』がそのルポルタージュ的な手法によって描いているのは、日中戦争の戦場やそこで日本兵が行った暴虐の有り様ではない。したがって、読者はそこに、歴史的な事実として語られていることを当てはめるべきではない。

    この作品の価値は、戦争について、しばしば皇国・日本にまつわる不都合な事柄を含む形で描いている点ばかりでなく、戦場で人の生命がいかに軽蔑されるかということや、そのように生命を軽蔑することで人がいかに戦争になれていくかということを描いている点にあるのではない。

    当然のことながら、当時新聞などに発表された他の作品や記事が、あまりにも「画一的な戦争」を描くことに反発し、検閲の対象となることが明らかな内容であるにもかかわらず果敢に描いたことは、それだけでも評価に値する。
    しかし、今ここで重要なのはそうしたチャレンジングスピリットではなく、そのような動機から描かれた作品が、戦争の全体というよりは細部を、“記録的”、“典型/類型的”に描写しているということである。

    そもそも、小説とは言葉という間接的なものによって描かれるわけであるから、どれほど事実に忠実に描いたところで、真実を直に描くことは出来ない。
    したがって、小説に可能なのは、「真実らしく」描くことでしかない。
    その手段として、石川はルポルタージュ的に、細部を扱うことを選んだのである。

    登場人物達はいかにも類型的に描かれており、その心情もあくまで類型の内側で展開される。
    誰かを殺すことが淡々と描かれ、誰かが殺されることはそれ以上に簡単に描かれる。
    「生命が軽蔑されている」と書かれていることよりも、はるかに明瞭に作品の描写は人の生命を軽蔑している。

    多くの伏字箇所がある(現在は復元されている)が、それらの部分をいくら伏せたところで、この作品の描写のありかたを覆い隠し尽くせるはずはない。
    その意味で、この作品は発禁にされるしかなかったと言えるであろう。

  • ・昭和13年に発表され、即座に発禁にされたといういわくつきの小説。
    ・上のように聞くと、軍国主義に反対して弾圧された作品、のように思えるし、そういう風に読もうと思えば読めるかもしれない。けどきっと作者は純粋に戦場の生の姿を浮かれた銃後に対して伝えようとしただけだと思った。
    ・この作品に感じた意義は大きく2つあって、戦中にこのような作品が存在したと言う事実、伏字にされた部分から当時の空気が読み取れる事、だと思う。
    ・これをベトナム戦争に当てはめると、「ディア・ハンター」だったり「7月4日に生まれて」だったりするわけですよ。こう聞くと、とても納得が行く。けどベトナム戦争のアメリカと日中戦争の日本じゃ世情がまるで違うわけで、その点からも凄い作品だ。
    ・火野葦平の陸軍シリーズと読み比べるのも凄く興味深い。それは兵隊の視点と作家の視点の違いなのか。
    ・兵隊をいくつかのパターンに分類して、戦争中の兵隊心理を深く掘り下げて分析している点はとても秀逸。ベトナム以後の映画なんかじゃ当たり前かもしれないけど、これ、昭和13年の作品ですよ。
    ・戦争中の命の軽さが繰り返し論じられる。自分の命を軽くしなければ、とても兵隊なんてやれないよな。そういうことが良くわかる。
    ・支那人に対する残虐行為の描写も多く、目を背けそうになる。戦争の現実とは別に、日本兵の軍紀は完璧に厳粛だった、という幻想を信じたい自分もいるんだよな。
    ・この作品を読んで、日本人はやっぱり中国大陸で残虐行為を!とかそんな読み方する人はきっと多い。本質はそこじゃないのに、誤解されやすい危うい作品。

  • 兵隊たちが笑う場面がどこもあまりにおぞましく感じられる状況ばかりで、人はここまで残酷になれるのかと慄然とする。もちろん完全なノンフィクションではないだろうが、あまりに生々しい…。

    伏字にされた理由を探りながら読むと、当時の日本の空気感や表現の不自由さを痛いほど感じる。

  • 南京大虐殺があったとかなかったとか、歴史修正主義者はないと言い張りたいだろうけど、この本を読む限り「南京で軍人による軍紀違反、戦争犯罪が相次いだ」ことは否定できないと思われる。

    もっとも、これは日本に限っただけでなくドイツによるユダヤ人迫害(これは国家による犯罪だから一緒くたにできんが)、米軍による日本本土無差別空襲、韓国によるベトナム戦争でのラダイハン、など例はたくさんあり、これだけをもって日本の有責性を追求するのは無理がある。

    むしろ戦争というものが、普通の市民を理性・人間性をぶっ壊して残虐行為を簡単にさせてしまう人種へと変えてしまう。そして、こうした非人道的行為を防止することは古今東西極めて難しいということだ。

  • 発表当日に発禁。かつて伏字にされていたところには傍線が。戦場で、人はここまでむごたらしくなれるのか。”人間”を丁寧に描きます。

  • 「そしてメディアは日本を戦争に導いた」p.111

  • 著者:石川達三(1905-1985、秋田県)
    解説:半藤一利

  • 凄まじい内容

  • ロマンティストの青年、理知的なインテリジェンスをもった医学士、温和な小学校の先生、敬虔な僧侶・・・。
    戦争の残酷さとは無縁のような彼らをも戦争は変えてしまう。

    日中戦争中の言論統制下にありながら、「人間としての軍人」というものを小説という形で描こうとした筆者。

    『戦争』ってなんなんだろうか・・・?
    その本質についてあらためて考えさせられる作品でした。

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