生きている兵隊 (中公文庫)

著者 : 石川達三
  • 中央公論新社 (1999年7月1日発売)
3.89
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122034570

作品紹介

虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。

生きている兵隊 (中公文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 戦争を題材に、お涙頂戴を描く小説ではない。
    もちろんノンフィクションというわけでもない。

    『生きている兵隊』がそのルポルタージュ的な手法によって描いているのは、日中戦争の戦場やそこで日本兵が行った暴虐の有り様ではない。したがって、読者はそこに、歴史的な事実として語られていることを当てはめるべきではない。

    この作品の価値は、戦争について、しばしば皇国・日本にまつわる不都合な事柄を含む形で描いている点ばかりでなく、戦場で人の生命がいかに軽蔑されるかということや、そのように生命を軽蔑することで人がいかに戦争になれていくかということを描いている点にあるのではない。

    当然のことながら、当時新聞などに発表された他の作品や記事が、あまりにも「画一的な戦争」を描くことに反発し、検閲の対象となることが明らかな内容であるにもかかわらず果敢に描いたことは、それだけでも評価に値する。
    しかし、今ここで重要なのはそうしたチャレンジングスピリットではなく、そのような動機から描かれた作品が、戦争の全体というよりは細部を、“記録的”、“典型/類型的”に描写しているということである。

    そもそも、小説とは言葉という間接的なものによって描かれるわけであるから、どれほど事実に忠実に描いたところで、真実を直に描くことは出来ない。
    したがって、小説に可能なのは、「真実らしく」描くことでしかない。
    その手段として、石川はルポルタージュ的に、細部を扱うことを選んだのである。

    登場人物達はいかにも類型的に描かれており、その心情もあくまで類型の内側で展開される。
    誰かを殺すことが淡々と描かれ、誰かが殺されることはそれ以上に簡単に描かれる。
    「生命が軽蔑されている」と書かれていることよりも、はるかに明瞭に作品の描写は人の生命を軽蔑している。

    多くの伏字箇所がある(現在は復元されている)が、それらの部分をいくら伏せたところで、この作品の描写のありかたを覆い隠し尽くせるはずはない。
    その意味で、この作品は発禁にされるしかなかったと言えるであろう。

  • ・昭和13年に発表され、即座に発禁にされたといういわくつきの小説。
    ・上のように聞くと、軍国主義に反対して弾圧された作品、のように思えるし、そういう風に読もうと思えば読めるかもしれない。けどきっと作者は純粋に戦場の生の姿を浮かれた銃後に対して伝えようとしただけだと思った。
    ・この作品に感じた意義は大きく2つあって、戦中にこのような作品が存在したと言う事実、伏字にされた部分から当時の空気が読み取れる事、だと思う。
    ・これをベトナム戦争に当てはめると、「ディア・ハンター」だったり「7月4日に生まれて」だったりするわけですよ。こう聞くと、とても納得が行く。けどベトナム戦争のアメリカと日中戦争の日本じゃ世情がまるで違うわけで、その点からも凄い作品だ。
    ・火野葦平の陸軍シリーズと読み比べるのも凄く興味深い。それは兵隊の視点と作家の視点の違いなのか。
    ・兵隊をいくつかのパターンに分類して、戦争中の兵隊心理を深く掘り下げて分析している点はとても秀逸。ベトナム以後の映画なんかじゃ当たり前かもしれないけど、これ、昭和13年の作品ですよ。
    ・戦争中の命の軽さが繰り返し論じられる。自分の命を軽くしなければ、とても兵隊なんてやれないよな。そういうことが良くわかる。
    ・支那人に対する残虐行為の描写も多く、目を背けそうになる。戦争の現実とは別に、日本兵の軍紀は完璧に厳粛だった、という幻想を信じたい自分もいるんだよな。
    ・この作品を読んで、日本人はやっぱり中国大陸で残虐行為を!とかそんな読み方する人はきっと多い。本質はそこじゃないのに、誤解されやすい危うい作品。

  • 凄まじい内容

  • ロマンティストの青年、理知的なインテリジェンスをもった医学士、温和な小学校の先生、敬虔な僧侶・・・。
    戦争の残酷さとは無縁のような彼らをも戦争は変えてしまう。

    日中戦争中の言論統制下にありながら、「人間としての軍人」というものを小説という形で描こうとした筆者。

    『戦争』ってなんなんだろうか・・・?
    その本質についてあらためて考えさせられる作品でした。

  • 作者は南京陥落後に現地へ渡り、そこで聞いた話をもとに本書を執筆したという。聞いた話だけで兵隊の様々な心理をここまで描出できるのは、作者の力量か。

  • 日中戦争に取材した作品
    上海を出発した日本軍が南京攻略を果たしたのち
    次の戦地に出発するまでを書いたもの
    民間人に化けたゲリラから常に脅かされ
    また常に銃弾飛び交うなかで日常生活を送っている兵士たちには
    生と死の境目がひどくあいまいなものになり
    死の恐怖も、殺戮の罪悪感も感じられなくなるのだった
    ふとそのことに気づいたとき
    彼らはそれでも人間であらんとするため、何かにすがりついたり
    何かを軽蔑したりすることになる
    告発の意図はなかったようだが
    女子供を殺害する…ズバリ言って虐殺や
    戦争神経症、今で言うPTSDなど描写されており
    発表直後(昭和13)発禁になった

    南京攻略の直後が、日本にとっては唯一、事変収集のチャンスだったが
    国民政府の挑発に、日本外相は態度を硬化させ
    時の総理大臣、近衛文麿による「対手とせず」声明へ
    至らしめることとなった
    蒋介石には、日本軍を疲弊させつつ
    介入の口実をアメリカに与える意図もあったと思う

  • 1999年刊。後備で南京攻略戦(日中戦争)に従軍した小説家の体験的小説。生々しく、現場でなければ想像しにくい場面を描写し、体験のサルベージは明白。例えば、中国人の人民からの徴用と称した略奪(略奪物資が牛・食糧)、中国人を人間とは見てない日本軍人の台詞、日本人女衒による日本女性による慰安所(=売春宿)、中国人女衒による慰安所などが存在し日本軍人が利用、スパイ(証拠は不備)とされた中国人少女を銃剣で刺殺(刺殺方法・スパイ認定の証拠方法)、日本軍を見た中国人女性の逃走場面(強姦や強姦致死を恐れる態度)他。
    また、伏字以外にも残虐場面(特に対中)はあるが、読めない程のそれでもない。特に、伏字には戦闘終了後の酒保にて「生きて居られるのは有難い」と独白する台詞までが含まれているのだ。かかる本書が伏字で発売後、直ちに発禁処分(初出1938年雑誌中央公論)、かつ執行猶予付だが有罪判決を食らっている。言論に対する威嚇効果十分であり、当時の言論・小説発表の空気感を雄弁に語る。なお、半藤一利氏の解説が秀逸。殊に陸軍秘密文書第四〇四号の指摘は良。

  • 即発禁処分となった、陥落直後の南京の取材をもとにした小説。過酷な戦場にあって、生命や罪に対して鈍感になっていく兵士達を"生き生き"と描いており、それぞれ非人道的行為に走る彼らも、置かれた環境に隷従したに過ぎない、そんな感想を持った。ただし大陸での日本兵の暴虐を擁護するつもりはなく、これは戦争犯罪の告発ではない、人間を描いた作品だという点を強調したい。また当時の戦地や兵士の生活、被占領地の悲惨さなどが活写された優れたルポでもあり、国民に実情を届けようとした著者の勇気と仕事は、同時に戦争を知らないその後世代にとっても、貴重な史料として永遠の輝きを放っている。

  • ○発禁処分になった芥川賞作家の作品。生々しい日中戦争での兵士の姿。
    解説の兵藤一利さんによれば、昭和十三年の中央公論掲載の前、昭和十二年に日中戦争がはじまった後言論統制が敷かれたとき、戦意を高めるためのルポを各誌競って掲載するようになった。この二年前に芥川賞をとっていた新進気鋭の石川達三もこの流れに乗って同行取材をし書きあげたのだという。
    しかし、事前に検閲に出したものの、即日発売禁止処分となり、陽の目を見たのは戦後。いくら伏字があったとしても、石川の書く文章の生々しさは、当時国民の戦意喪失を恐れた当局が見逃さないわけがなかった。

    物語は、天津近くの大沽(タークー)に高島本部隊が上陸し、天津から上海包囲のため大連へついたところからはじまる。
    火事を起こした中国の青年を殺したり、牛を譲れといって断られたおばあさんを殺し、若い娘は強姦目的で探しに行って結果殺したり、など、移動の合間でもピリッとした部分よりも緩めの部分も描かれている。

    どのような点が生々しかったか。
    もちろん、戦争ルポであるからそれ相応の生々しさは求められると思う。
    けれど、戦士もただの一般人だったわけなので、教員をやっていた人もいれば医者をやっていた人も、僧侶をやっていた人もいる。そんな彼らが目の前の殺戮を見てなんとも思わず、むしろ殺さざるにはいられない心情を作り出したことを描いたのは特筆に値すると思う。現場に行かなければわからないし経験者そのそばにいる人にしかわからない心情だったと思う。
    また、(この本は伏字を復元したバージョンなのだが、)兵士が緩み切っている部分や、大連などの重要な地名、女性を殺すなど誤解を与えたり同情を誘うような表現は、自分たちの予想しない部分まで伏字にしてあるのが生々しい点でもある。描写が生々しいということもあろうが、いまそれほど問題にならないような表現でも、当時戦時にあってはその表現が国益にはならないと判断された証拠である。
    岩波新書「戦争と検閲 ~石川達三を読み直す~」の書評でも書いたが、伏字が多く精一杯当時の様子を伝えなかった石川としては、知っていたことだとしてもつらかったのではないか、と改めて感じる。

  • 初読-新潮文庫、今回-再読がこの版。中国戦線に於ける日本軍(軍人)の残虐性、非倫理性、極限的性向などを暴露した作。グロい。2刷8月。元カヴァー。 36

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