男子厨房学入門 (中公文庫 た 33-15)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122035218

感想・レビュー・書評

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  • 日常的な、生活的な料理をしない人向けの本だと思う。
    豪華な、手の込んだ、おもてなしの、料理ばかり作る人向け。

    本全体としての意見は「男は自分で生きていくために料理が出来るようにならなくてはならない」といった感じだろうか。この点に関しては自分が料理を趣味にしているからか、あまり共感できなかった。気の向いた時に料理させてくれといった感想。

    しかし、論調としては「料理は簡単だよ。とにかく作ってみなよ」というような風に話が進んでいく。この点に関してはそうなんだよなあと思わされた。料理は作ってみれば楽しいが、作り出すまでがめんどうだなあと考えていたからだ。

    料理実況をするような文章が多かったのは、面白い点もあったが、冗長だと感じるところもあった。なるほどそういう考え方・作り方もあるか、という点は興味深かったが、料理する場面を想像すると、なまじ自分で作る楽しさを知っているためか、もどかしい感じがしてしまっていた。

    私は手の込んだ料理をすることが多いが、日常的な料理を作ることもあるため、この本の読者としては中途半端だったかもしれない。評価を直感的に4としたのはそのためだ。

    また、具体的に面白かった話としては2つあるのでここに記しておく。
    1つは料理をシステマティックに理解するということだ。体系を理解しておけば応用がきくし、捉われないで済むだろうなあという点は面白かった。「料理の四面体」は読んでみたいなあと思わされた。
    もう1つは引用されているエピソードが面白かった。「失われたパン」、「レストラン」など…

    以上、読了後すぐ、実家の自室にて

  • 四面体の続き
    よりカジュアルに

  • キッチンへ向かう姿勢の入門
    (荒井由美のチャイニーズスープを聞きながら)

  • SUN MUSIC

  • -260

  • この本には二つの側面がある。自立を目指す料理初心者のために書かれた料理入門書と料理研究を題材にしたエッセイである。どちらとして読んでも差し支えないがレシピ集ではないので注意ししていただきたい。

    女性が社会進出した今男たちは自ら女たちのいなくなった台所に立ち自分の食べ物を料理しなければならなくなった。はじめにしなければならないことはなにか?それは冷蔵庫をあけることである!そこで見つけた古いパンでまずはフレンチトーストをつくる。映画『クレイマー・クレイマー』でもフレンチトーストをつくるシーンが登場する。なぜフレンチトーストなのか?それはこの本に書かれている。

    キリスト教社会ではパン=父親の象徴である。フレンチトーストとは元々は古くなったパンを再生させて食べる料理であり、その古くなったパンとは仕事に明け暮れ身の回りの事も何一つ出来ないクレイマー氏その人の暗喩である。そのコチコチのパンを子供からも女性からも愛されるフレンチトーストに形を変えるその過程はクレイマー氏の成長そのもの、そして映画のストーリーでもあるのだ。

    そしてこの本にも自立を目指す男性の象徴としてクレイマー氏が誕生する。

    包丁はステンレスの万能包丁一本でいい。家に錆びついた菜っ切り包丁しかなかったとしてもとにかくはじめるのがいい。さらに言えばはじめは包丁がなくてもいい。牛肉の薄切りは手でちぎりピーマンはヘタのところから指をつっこみ引き裂く。あとは炒めて味をつければ一品できてしまう。このフィンガープレイクッキングだけでもたくさんの種類の料理ができる。包丁は凶器なのだから、どうしても指ではできない作業があって金属の助けを借りようかと初めて使う方がいいと著者はいう。

    包丁の切り方は切られたものの形の分類で無数に呼称があるが実は"左手の介入度"で分けると"離しゴロゴロ切り""密着万能""押さえミジン"の三種類しかないことがわかる。

    文句を言わずできることからはじめる。まずは近所のスーパーに行きなさい。

    自分で作って食べる限り料理は自由。例えば刺身の定義"刺身とはナマ魚の切り身になんらかのソースをつけて食べる料理である"くらいのラフさがいいと。さらに言えば、それはサラダと同義である。

    料理本に書いてある分量はおせっかいってのは笑った。四人分の鍋のエビの分量が四尾と書いてあると一人エビ一尾しか食べていけないと言われているようだ。"一方的な分量の規定"とは言いながらも言うことを聞かず失敗して山のようなヒジキを作ってしまった話も書いている。

    ごはんを炊くという行為はコメを水から煮上げるだけなのでイモやマメと区別して神聖化するのはおかしい。コメを炊くだけの電気釜の存在にも疑問視。たしかに専用の機械で邪魔といえば邪魔か。

    たいがいの日本料理がお世話になっているコンリキ。

    リキッドA
    昆布とカツオブシからとった出汁
    リキッドB
    醤油と味醂の熱処理混合液

    このふたつのリキッドの組み合わせがコンビネーション・リキッド、略してコンリキである。

    吸い物、おでん、スキヤキ、天つゆ、そば、煮魚、リキッドBの単独使用での照り焼き。本当にほとんどの日本料理がこれで作れてしまう。

    コンリキにスパイスを加えると中華風になる。

    フード変換←ここ大事!
    食材の変換、風土(国)の変換、形状の変換、温度の変換。これによって料理は無限の広がりを見せる。食材変換は当価値である必要があるので注意。フランス料理における牛肉は中国における豚肉の価値に等しい。

    ポトフー(フランス風牛肉煮)から温度変換でコールドビーフに。形状変換でしゃぶしゃぶに。コールドビーフから形状変換もしくはしゃぶしゃぶから温度変換で冷しゃぶに。冷しゃぶから風土変換でベトナム式スープ麺に、コールドビーフから食材変換で中華茹でブタとなる。

    ここで生まれる無限変換は後々のページでは料理はパロディであると表現されたりもしている。

    毎日の献立作りに悩むのは考える順序が逆だから。メニューから考えるのは選択肢を狭めているだけ。本当ならば「食材」→「風土(和洋中など)」→「調理方法(煮る、茹でる、焼くなど)」という順序で考えるべきだ。
    そう考えると世の女性たちが夫や子供に何を食べたいのかよく聞くがあれはあまり意味がない。

    料理は愛情でもなければまごころでもない。料理は知識であり、技術なのだ。P209
    「もしも"料理が愛情である"というテーゼか成立するとしたら、その愛のかたちはフェティシズム(物品愛)かナルシシズム(自己愛)である」P211

    日頃強く思っていたことを文章にし本にして出版してくれていた人がいたということが嬉しい。(みんなで食べたほうが美味しい問題についてもひとこと言いたいがそれは後にする。)

    料理は手に入れた材料をなんとか食べられるように処理しようとする必死の努力から始まった。よって大変で当然のいわば必要悪なのだ。だから趣味として男が好きになるのだろう。


    この本を手にしたきっかけ

    ホンタナ: 2014.9.30 (前編) デカルト派料理学、あるいはフード変換の生成文法を巡る10の覚え書き 〜「男子厨房学(メンズ・クッキング)入門・料理の四面体」の感想から〜
    ホンタナ: 2014.10.7 (後編) デカルト派料理学、あるいはフード変換の生成文法を巡る10の覚え書き 〜「男子厨房学(メンズ・クッキング)入門・料理の四面体」の感想から〜
    フード変換の概要を言語学になぞらえて語るに語ったホンタナの神回。メタ視点での解説に目からウロコ。

    TBS RADIO 954 kHz │ 麻木久仁子の週刊「ほんなび」 - 2014年4月20日(日) 放送後記

    麻木さんのほんの数分の紹介でこの本の奥深さ、愉快さが伝わり購入にいたった。プロのトークってすごい。


    玉村豊男
    1999年10月3日 印刷
    1999年10月18日 発行
    発行所 中央公論新社
    2014.10.8 MORIOKA TSUTAYAで購入

  • 料理は自由である。レシピを見ながらしか料理をできない私にとって、気持ちが解き放たれた気分。料理の構造、和洋中の相関関係を理解すれば、あとはお好みで何でも作れる気がする。ちょっと、そのつもりでキッチンに立ってみようと思った。

  • 包丁も持ったことがない、料理なんて全くしたことがない・・・という老若男女にオススメしたいのがこの本です。
    以前、家でも料理をされる男性の上司から貸してもらった本です。

    トマト1個があれば、そのままかじってもいいけれど、手で潰してみる。
    古い食パン一枚があれば、牛乳にひたしてみる。

    ・・・と進めていけば、気がつけば少しずつ、“料理をしている自分”に出会うことができます。

    調理方法や調味料を変えるだけで、何通りものレパートリーが広がっていく、後半の応用編などは、料理することに慣れた方にも参考になります。

  • 料理人に変身するも良し、引き続き愛妻料理のみを堪能するもよし。

  • 異色の料理エッセイ。というか出色の料理エッセイ。
    ちまたの料理本はレシピばかり。
    レシピを知ってることが料理上手みたいだ。
    残念なことだけれど、レシピを集めてみても料理は上手くならない。
    もちろん、いろんなレシピを参考にさせてもらうことは大切だけれど。

    では、レシピ蒐集家から脱出するにはどうすればいいか。
    その一つの切り口が本書である。
    料理に対する根本的に大切なものをしっかりと認識するのに最適な本。
    レストランのシェフではない、日常生活の料理人である我々にとっては
    料理とはなんなのか。

    1985年にこういった本が書かれていたことに驚く。
    25年前から、変わらない世の中にも驚く。

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著者プロフィール

1945年東京都杉並区に生まれる。都立西高を経て東京大学フランス文学
科卒。在学中にサンケイスカラシップによりパリ大学言語学研究所に留学す
るも紛争による休講を利用して貧乏旅行に明け暮れ、ワインは毎日飲むもの
だということだけを学んで1970年に帰国。インバウンドツアーガイド、
海外旅行添乗員、通訳、翻訳を経て文筆業。1983年軽井沢に移住、
1991年から現在の地で農業をはじめる。1992年シャルドネとメル
ローを定植。2003年ヴィラデストワイナリーを立ち上げ果実酒製造免許
を取得、翌2004年より一般営業を開始する。2007年箱根に「玉村豊
男ライフアートミュージアム」開館。著書は『パリ 旅の雑学ノート』、『料
理の四面体』、『田園の快楽』など多数。近著に『隠居志願』、『旅の流儀』。
『千曲川ワインバレー| |新しい農業への視点』刊行以来、長野県と東御市
のワイン振興の仕事に専念してきたが、古稀になった今年からは、少しスタ
ンスを変えてワインバレーの未来を見渡していきたいと思っている。

「2016年 『ワインバレーを見渡して』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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