日本語の美 (中公文庫 キ 3-11)

  • 中央公論新社
3.57
  • (8)
  • (16)
  • (21)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 163
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122035720

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  今年のお正月にBS-TBSでドナルドキーンの特集を見ていて、「高名な日本文学の研究者が3・11をきっかけに日本に移住した」という新聞記事が、自分の中で一人の人間に対する興味に変わった。
     この「日本語の美」は、キーンさんが初めて翻訳者なしに自分の日本語で書いたエッセイ集である。日本の文学がほとんど翻訳されないような時代に如何に日本文学に出会い、研究するに至ったかという自伝的な要素に加え、安部公房・司馬遼太郎・三島由紀夫という文豪との交友関係、そして、「日本人以上に日本を勉強している外国人」を通した日本語や日本文化論、と読みどころ満載である。

     キーンさんの日本語はすごく綺麗である。素直でくせがない。読み心地もよい。
     キーンさんが繰り返し述べるのは、大戦前後という激動の時代に言語や文学に「逃亡」することが彼の唯一の生き方であったということ。文章を読んでいると、端々に好きなものに対してのこだわりや、表面的な解釈や間違って評価されていることに対し、ストレートに怒りや非難の感情をぶつける頑固さが垣間見えるのだが、一方で彼が、日本の伝統的な詩歌や物語・文字そのものが持つ「美意識」に大きな魅力を感じていたのがわかる。
     たとえば、容易には読めない字を書く書家は、言葉が持つ意味よりも直感的に鑑賞できる美的な意味を狙っていた、とか、能の扇の使い方や様式化された手の動きなどは、能が美の創造を目的としている故に重要であるなど。
     
     最も面白かったのは石川啄木に対する評価。「ローマ字日記」がなぜローマ字で書かれなければならなかったのか、という問いを端緒にして、啄木の内面を明らかにしていく。
     即興詩人としての類い稀な才能に恵まれていた啄木は、一方で一貫性のある思想を持たなかったがゆえ、小説を書く根気がなかった。本人はそのことに自覚的でなく、自分自身を「あてはまらぬ 無用なカギ」と評して時代の束縛を脱した。これをキーンさんは「きわめて現代的」と評する。啄木の悲劇的な詩人でとしての一面ではなく、自分の書くもののウソを認めるユーモアな一面に焦点を当てる。

     世界には日本(人)のメンタリティーに興味を示している人がたくさんいると聞く。私たちは、その先達ともいえるキーンさんの書に目を通すことで、自分たちの祖先のルーツを問い直す必要があるのではないか?特に、教科書の教えるマニュアル的で一面的なものの見方を少しずらして見ること。それには「世界から見た日本」の書物を読むことは適しているのではないか?
     「美しい国」が単なるスローガンに成り下がってしまわないように。

  • 筆者はアメリカ人の日本文学研究者。『日本文学史』という古代から現代まで7巻あまりの大著があり、私が高校で日本文学史をおしえるなんてことになっちゃったときに、大いに参考にさせてもらいました。だから、アメリカ人とはいえ、日本語・日本文化に対する造けいの深さは舌を巻くものです。はあ、この本を大学時代に読んでいたら、もっと日本語に興味を持って、もっとちゃんと勉強したかもなあ…。

  • 徒然な所感、三島由紀夫や阿部公房、司馬遼太郎などとの交流、トルファン・敦煌旅行記など、魅力ある内容のエッセイ集。翻訳者の手を借りず、氏が自ら日本語で執筆したのだそう。優しく温かみのある筆致。

  • 外国人である著者が日本語で書いた日本語や日本に関してのエッセイ。

    司馬遼太郎や中村紘子といった各界の著名人とのエピソードから方言についてまで様々なテーマを扱っていて面白いです。

    特に印象に残ったのが三島由紀夫のこと。

    弁当は食べるものじゃなくて使うものらしい。

    あと。

    昔、起承転結の勉強のために天声人語を読めと言われた記憶がありますが。

    このエッセイもかなりわかりやすく起承転結になっています。

    さすが文学者。

    …ただ、内容は天声人語より難しいけど(笑)

  • ドナルドキーン氏の著書、2冊目。
    作者にとって学問=人生であり、逃亡するためにしたことも「目的地のないものではなかった」と述べており、人生の妙を感じた。久々に何歳だから云々を忘れ、個人の人生の意味を考えるきっかけになった。

  • たしか、この人は戦争に行った時に日本人の遺品の中の日記を解読する役目を担っていて、そこに書かれた日本人の人間らしい感情に強く惹かれて終戦後日本に渡ってきて、日本語や日本人、日本の研究をするようになったと記憶している。本の中では日本の言葉、歴史、風土に研究者としての知識の広さを遺憾なく発揮している。この人の日本語は綺麗だ。

  • ドナルド・キーンさんの著書を読むと、日本語をもっと知りたい、大切にしたい、綺麗な言葉だなあと思えるので、好き。

  • ドナルド・キーンさんの著書をはじめて読んだ。
    日本に魅せられて、日本人になってしまわれた
    文学者ということで、キーンさんにとても興味が
    湧いたので。確かに日本や日本語についての考察
    が欧米的という気がしない。キーンさんの言葉に
    日本情緒を感じる。

  • 日本語が上手下手のレベルではありません。(外国出身だからという意味ではなく、文章を書く職業の方として、です)書かれている日本語全て美しいです。敦煌の旅行記での「敬虔な道士」への「許しがたい」という言葉はキーン氏のユーモア、鑑賞能力を教えてくれる一文ですが、この本の文章は全てその一文に多くのものが含まれています。

  • 米国人であるキーン氏が日本語で書いたエッセイ集。キーン氏の博学多識には驚嘆するばかり。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1922年ニューヨーク生まれ。コロンビア大学名誉教授。日本文学研究者、文芸評論家。2011年3月の東日本大震災後に日本永住・日本国籍取得を決意し、翌年3月に日本国籍を取得。主な著書に『百代の過客』『日本文学の歴史』(全十八巻)『明治天皇』『正岡子規』『ドナルド・キーン著作集』(全十五巻)など。また、古典の『徒然草』や『奥の細道』、近松門左衛門から現代作家の三島由紀夫や安部公房などの著作まで英訳書も多数。

「2014年 『日本の俳句はなぜ世界文学なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドナルド・キーンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×