- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122041783
感想・レビュー・書評
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6歳で亡くなった息子の誕生日ケーキを買いに洋菓子屋を訪れた女性。
店主が不在の洋菓子屋に、くたびれたビニールの前掛けをした初老の女性が現れる。店の奥にはケーキ職人らしい若い娘が、電話をしながら肩を震わせて泣いている。
利発だった、亡くなった子供を想う女性の哀しみにずっと寄り添っていたくなります。
これは、時計塔のある街でおこる哀しみの連鎖を綴った連作短編。
その1つ1つをささやかに、時に残酷に取り上げていて、読み進めていくにつれ、どんどん不穏な空気が漂ってきます。
まるでカーテンの陰から世間の裏側を覗いているよう。
前に出てきた人物と同じかと思われた人が、全くの別人だったりと謎めいた部分もあって面白い。
あとがきには、十一の弔いの物語とありました。
遠い遠い昔の物語を読んでいるようで、奇妙な悲しさがこみ上げてきます。
小川洋子さんの描く世界にどっぷりはまり込んで、この世界にいつまでも浸っていたいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
静かにそして妖しげな雰囲気をだす連作集。
すべての作品のラストに「あっ」と声をだしてしまう。
小川洋子先生の作品にはなんともいえない品があるので読んでいてしびれる。そこが大好き。
ぜひ〜 -
1998年発表の連作短編集。弔いがテーマとなっていて、他作品より不穏さがストレートに感じた。
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綺麗で透明な毒を持つ物語です。
本来、毒とは浄化するべきものなのかもしれません。危険な毒は人々に死を与えることもありますから。それでも真っ白で純粋なものだけが尊ばれ大切にされる世界の中で、毒は滅びることなく人々の心の中でひっそりと息づいているのです。
運命の鎖で繋がれたような短編集でした。
それぞれの物語の中に一粒の毒の種が埋め込まれ、その種が芽を出し花を咲かせ、また種を落とす……そうやって毒の連鎖が連なっていきました。
小川洋子さんの作品には、硝子の欠片のような冷たくて美しい毒が、静寂な文脈の間に潜んでいます。この毒はいつの間にか、物語の中から弦を伸ばし読者の心に甘い蜜を垂らしていきます。そうして魅惑的な毒の虜になってしまったら最後、小川洋子さんの紡ぐ物語から離れることが出来なくなるのです。 -
まるで『世にも奇妙な物語』とかに出てきそうな短編集です。
様々な人の死が描かれていますが、人のいろいろな想いみたいなものを感じ、まさに弔いながら読み進めました。
今まで読んできた小川洋子さんの中では、個人的に死をたくさん感じたので、初めて小川洋子さんの作品を読むならあまりお勧めできません。
ただ本当に不思議なのが、ちょっと恐ろしい内容なのになぜか気になってしまって、、、
私は息抜きに読んでいたので少しずつ読み進めましたが、読むのを一旦やめると、また読みたくなっちゃう…この中毒性…
クセになるような依存を小川洋子さんの文才に感じます…!他にもそう思う人はいませんか。
私は死とか殺人とか誘拐とか、そういうのはちょっと苦手で今まで避けてきていたのですが、偏愛している小川洋子さんの作品なので思い切って読みましたがやはりこの人の文才が大好きです。
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ひとつの単語でおわらせない。細分化して、美しい文章にして、うっとりする。残酷なこと残忍な事を美しく表現するから妙にぞくぞくする。
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誰もが死を背負っている、うまくいかない人生と共に。死は近いけれどやっぱり遠かったりする。
「15の時自殺してやろうと思って睡眠薬を飲んだ。理由は忘れてしまった。18時間眠り続け、目を覚ますと頭がすっきりしていた。家族は誰も私が自殺を図ったことに気がつかなかった」 -
みんな静かに狂って、私も少しずつ狂っていった。
乗り物酔いなのか、文字酔いなのか、奇妙さからの目眩なのか、頭がぐるぐるぐるぐるして、もうなんだかわからなかったけど、頁を捲るたびに私の中で何かが擦り減っていって、同時に何かが膨れていった。すごいな、と思う。言葉でこんなに冷たい気持ちにさせられるなんて。ぐちゃぐちゃにしてぽいっと突き放された感じ。でも、全然嫌じゃない。 -
タイトルがまず美しくて不穏で大好き。小川さんの物語を眠る前に読んでいるとなんだか素敵な夜を過ごしている気分になれる。