寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 2031
レビュー : 224
  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041783

感想・レビュー・書評

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  • 2020年積読本消化25冊目。
    小川洋子さんの文庫が4~5冊あって、少しずつ読み進めたいと思っていた。美と歪みと狂気が混在していて、湖の底に沈んだ宝石みたいだと思った。作品の中に作品があって、語り手も一章ごとに変化して、つながりが徐々に明らかになってゆく。面白かったなぁ…。

    洋菓子屋の午後/果汁/老婆J/眠りの精/白衣/心臓の仮縫い/拷問博物館へようこそ/ギブスを売る人/ベンガル虎の臨終/トマトと満月/毒草

    「気にすることないのよ。私の周りにいた人はみんな死んでしまったんだから。思い出は話は全部、死者の物語なの」=P228「毒草」=

    胸に秘められた想いや過去、ひっそりと行われた弔い。「果汁」と「トマトと満月」がよかった。「毒草」から「洋菓子店の午後」につながっていると分かった時に鳥肌が立った。素敵だ。

  • 綺麗で透明な毒を持つ物語です。
    本来、毒とは浄化するべきものなのかもしれません。危険な毒は人々に死を与えることもありますから。それでも真っ白で純粋なものだけが尊ばれ大切にされる世界の中で、毒は滅びることなく人々の心の中でひっそりと息づいているのです。
    運命の鎖で繋がれたような短編集でした。
    それぞれの物語の中に一粒の毒の種が埋め込まれ、その種が芽を出し花を咲かせ、また種を落とす……そうやって毒の連鎖が連なっていきました。
    小川洋子さんの作品には、硝子の欠片のような冷たくて美しい毒が、静寂な文脈の間に潜んでいます。この毒はいつの間にか、物語の中から弦を伸ばし読者の心に甘い蜜を垂らしていきます。そうして魅惑的な毒の虜になってしまったら最後、小川洋子さんの紡ぐ物語から離れることが出来なくなるのです。

  • みんな静かに狂って、私も少しずつ狂っていった。

    乗り物酔いなのか、文字酔いなのか、奇妙さからの目眩なのか、頭がぐるぐるぐるぐるして、もうなんだかわからなかったけど、頁を捲るたびに私の中で何かが擦り減っていって、同時に何かが膨れていった。すごいな、と思う。言葉でこんなに冷たい気持ちにさせられるなんて。ぐちゃぐちゃにしてぽいっと突き放された感じ。でも、全然嫌じゃない。

  • 【歪んだ一本道を逆立ちしながら戻る】

    新年明けて1冊目は小川洋子さんの本にしようと決めていた。

    小川さんの作品は真冬、日陰で凍りついたままでいつまでも溶けない水溜まりのようだ。踏みつけて綺麗に割ることも出来ない。泥だらけで美しくもない、だけど気になってしまう。靴先を入れたくなる。見逃せない。そして、気づくと消えてしまう。

    2019年はまた、本を読める1年にする。小川洋子さんの作品もたくさん読んでいきたい。

  • 死の香りのする連作短編集。
    連作だということを最初は知らないで読み始め、2作目3作目と続く中で見覚えのある単語を目にしてやっと気がついた。
    人々の欲望や狂気までもがあまりにも静謐に描かれていてふとした瞬間に泣きそうになる。明らかに狂っていて現実とは遠いようなのに、どこかこの世界と繋がっている。まるで水彩画のように静かで儚い。
    小川洋子の硬質な文章が好きだ。
    人間の奥底の感情までも描いているはずなのに、恐ろしく冷たく無慈悲に物語は進行していく。それがより一層儚くて、苦しいほど美しくて。

  • 死とそれに付随する何かについての11の短編は、それぞれが密やかに繋がっている。
    2つ目の話を読んだときにそれに気がつき、次を読むときからはより注意深く読むようになった。そのつながり方は、昔、上野動物園で見たマレーグマくらいに控えめで謙虚なため、そっと読まないと見失ってしまいそうだからだ。

    それぞれの話に出てくる死は、とても美しい。
    死を美しいと感じるなんて、現実的じゃないとわたしは思う。タイトルに「死体」ではなく「死骸」という言葉を使ったのは、読んでいる人に肉体という物質を感じさせないためなのかもしれない。
    肉は腐敗し周りを穢していくが、
    骨は白く乾いてゆくように。

    『果汁』というタイトルの話は、村上春樹の『ノルウェイの森』を彷彿とさせた。
    「こんなこと、あなたに頼むべき筋合いじゃないって、よく分かってるのよ」
    筋合いという単語。
    駅まで来ても電車に乗ろうとせず、ただずんずんと歩く彼女。斜め後ろからその姿を見つめる僕。
    ストレートの髪とその間から見える耳。

    この本で度々流される涙は、わたしたちが日常に流すそれとはまるで違う物質のようだ。
    激しい憤りも、胸が張り裂けるような慟哭も、息をつくことさえ出来ない嗚咽も伴わない。
    ただたださらさらと流れる透明な液体。
    そういう哀しみがどんなふうに訪れて、涙がどんなふうにこぼれるか、まだ私は知らないのかもしれない。

  • 永遠に続かない弔いの一瞬だからこそ、
    儚くて狂気的なほど美しい。
    傷つけられたはずなのに、ゆっくりじっくり少しずつ彼を傷つけたいという願望。
    自分の手の中にあるものが壊れていく様に感じる喜び。
    それは矛盾しているけど、絶対に叶うことのない永遠を求めているのかもしれない。
    少しずつ、微妙に、曖昧に繋がる連作短編。
    現実感のない狂った世界と生活感の溢れる日常が入り乱れる不安定さがより儚さを感じさせた。

  • 小川洋子さんの作品が好きで恐らくエッセイ以外は全部読んだが、ああこれだ、と1番すとんと落ちる一冊になった。
    連作短編集だと知らずに読んだが、連なり方がなんと表現していいかわからないがとても美しいと思いました。

    いくつかの単語や人物が一編一編に出てきて繋がりがわかりやすく、ワクワクするし更には物語に入り込みやすいと思う。
    一つ一つの表現が美しく情景を想像したくなる文章が本当に素敵です。美しさだけではなく、紙一重の顔をしかめてしまいそうなグロテスクな部分も含めて。

    中でも1番好きな表現が、"トマトと満月"中の『言葉の底にひんやりとしたさざ波が立っているような物語だった。それはひとときも休むことなく、さわさわと僕の胸を侵した。』という一節で、つい言葉の底ってなんだろうと想像してしまった。

    きっと何度も読み返す一冊になると思う。

  • ホラーよりもそこはかとない狂気の方がおそろしい

  • ページをめくるごとに、甘いような腐ったような香りが鼻をかすめる本。
    内容に合っていて忘れ難くて美しい、素敵なタイトルだと思います。

    短編集で、印象に残ったのは「心臓の仮縫い」です。
    「白衣」は分かりやすい話ですが、この雰囲気がとても好き。
    「洋菓子屋の午後」の描写がすごい…たぶん作家が見せたかった景色そのままを、わたしは見ていたと思う。

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著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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