寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2)

著者 :
  • 中央公論新社
3.78
  • (206)
  • (256)
  • (350)
  • (18)
  • (1)
本棚登録 : 2540
感想 : 241
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041783

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 綺麗で透明な毒を持つ物語です。
    本来、毒とは浄化するべきものなのかもしれません。危険な毒は人々に死を与えることもありますから。それでも真っ白で純粋なものだけが尊ばれ大切にされる世界の中で、毒は滅びることなく人々の心の中でひっそりと息づいているのです。
    運命の鎖で繋がれたような短編集でした。
    それぞれの物語の中に一粒の毒の種が埋め込まれ、その種が芽を出し花を咲かせ、また種を落とす……そうやって毒の連鎖が連なっていきました。
    小川洋子さんの作品には、硝子の欠片のような冷たくて美しい毒が、静寂な文脈の間に潜んでいます。この毒はいつの間にか、物語の中から弦を伸ばし読者の心に甘い蜜を垂らしていきます。そうして魅惑的な毒の虜になってしまったら最後、小川洋子さんの紡ぐ物語から離れることが出来なくなるのです。

  • ひとつの単語でおわらせない。細分化して、美しい文章にして、うっとりする。残酷なこと残忍な事を美しく表現するから妙にぞくぞくする。

  • みんな静かに狂って、私も少しずつ狂っていった。

    乗り物酔いなのか、文字酔いなのか、奇妙さからの目眩なのか、頭がぐるぐるぐるぐるして、もうなんだかわからなかったけど、頁を捲るたびに私の中で何かが擦り減っていって、同時に何かが膨れていった。すごいな、と思う。言葉でこんなに冷たい気持ちにさせられるなんて。ぐちゃぐちゃにしてぽいっと突き放された感じ。でも、全然嫌じゃない。

  • タイトルがまず美しくて不穏で大好き。小川さんの物語を眠る前に読んでいるとなんだか素敵な夜を過ごしている気分になれる。

  • 連作短編集なのですが、
    タイトルからも想像されるように、
    全体を通して常に不穏な空気が漂っています。
    でも、単に忌まわしいばかりでなく、
    そこに悲哀のようなものも感じられます。
    生きるということは、
    つらく悲しいことの方が
    圧倒的に多いということを知っているから、
    境遇は違っても
    それぞれのお話に共感できるのでしょうね。




    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • 【歪んだ一本道を逆立ちしながら戻る】

    新年明けて1冊目は小川洋子さんの本にしようと決めていた。

    小川さんの作品は真冬、日陰で凍りついたままでいつまでも溶けない水溜まりのようだ。踏みつけて綺麗に割ることも出来ない。泥だらけで美しくもない、だけど気になってしまう。靴先を入れたくなる。見逃せない。そして、気づくと消えてしまう。

    2019年はまた、本を読める1年にする。小川洋子さんの作品もたくさん読んでいきたい。

  • 全ての話がつながっているオムニバス形式の短編小説。
    短編小説は次の小説に行くまで、ちょっとめんどくさいなーとなりがちだが全てつながっているので、次はどんな繋がりがあるんだろう?とワクワクしながら読めた。

    私は眠の精が一番好きだった。穏やかで、優しくてとっても切ない物語だった。

    やはり小川洋子の文学は婉曲表現が多くてとっても楽しい。感情を描写で表すのが上手い。私では到底思い付かない表現が沢山あって常に新たな発見だ。

  • 「トマトと満月」が一番好きだった
    と言ってもほとんどが繋がっているので何とも言えませんが

    個人的には小説家の女の人が興味深かったです
    連れ子と2年過ごし、老婆のアパート?で暮らし
    「キリンの首が長いのが理不尽」という話は、本当はどっちが言ったのか
    不思議に絡み合う面白い本だった

  • 短編集が一つ一つどこかのお話と繋がっているので、伏線が散りばめられていて読んでいてとても面白いけど、読み終わったあとはただひたすらに気持ち悪さが残る1冊です。

    書いてある言葉の一言一言に重みがあると感じました。

  • 2021年8冊目

    死にまつわる短編集。全体的に陰鬱な雰囲気だが「殺す」、「泣く」という行為はとてもエネルギッシュで自分よりもずっと生き生きしてます。

    ・洋菓子屋の午後
    「私は無惨な死に方をした子供の記事を集めるようになった。家に帰ると私はそれらの記事を声に出して読んだ。

    哀しみがどんな風に訪れて、涙がどんなふうにこぼれるか、私はよく知っていた。」

    ・果汁
    本作で一番さわやか。キウイは生の比喩。

    ・老婆J

    最後の一文に鳥肌。

    ・眠りの精

    寂しい女。老婆Jの関連。

    ・白衣

    不倫相手をめった刺しなんて昼ドラ的題材は微妙ですがこれも小川流に仕上げている。
    「ポケットから舌がでてきた。言い訳ばかりする舌だ。」

    ・心臓の仮縫い

    鞄に捕らわれた職人。飼ってたハムスターの描写がよかった。
    「ハムスターが死にました。三年と八ヶ月、一緒に暮らしました。私は彼を専用のポシェットへ入れました。歩き疲れてハンバーガーショップへ入りました。ハンバーガーもフライドポテトも、半分以上残してしまいました。ごみ箱へ残飯を捨てる時、一緒にハムスターを捨てました。今頃私のハムスターは、ケチャップにまみれているでしょう。」

    ・拷問博物館へようこそ

    ・ギプスを売る人

    ・ベンガル虎の臨終

    「裸で抱き合う彼らの姿には動揺しないのに、学会の名前くらいで嫉妬するなんてばかげていると、よく分かっていた。しかしどうすることもできなかった。いつでも嫉妬は、思いも寄らないすき間からぬっと姿をあらわし、私を苦しめるのだ。」

    ・トマトと満月

    ・毒草
    「彼の触れてくれたところから、どんどん過去に戻っている。皺も消えているし、震えもしない、なぜだろう。これなら鉛筆が持てる。また油絵が描ける。彼のペニスを愛撫することもできる。」

    「私の死骸だ。こんな窮屈な暗い場所で、毒草を食べて、誰にも看取られずに私は死んでいたのだ。冷蔵庫の前にしゃがみ、私は声を上げて泣いた。死んだ自分のために泣いた。」

全241件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×