- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122042186
感想・レビュー・書評
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戦国時代や幕末に比べて、南北朝時代は複雑でわかりにくい。太平記という古典はあるものの、現代的な小説は少なくて取りつきにくい。と思っていたら、ありました。北方謙三の「楠木正成」。彼の「史記」があまりに面白かったこともあり、こちらも読んでみました。
鎌倉幕府の世の中に不満はあっても、武士が幕府を倒すのではまた同じような世の中になる。そこで朝廷を中心とした新しい世の中を作ろうと夢見た、武士でも公家でもない、悪党の楠木正成。北方謙三の筆によって、キャラが立ち、ストーリーがスピーディーに活き活きと展開していきます。楠木正成、ハードボイルドです。
南北朝時代が少しわかった気になりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鎌倉末期から南北朝時代、ややこしくてちょっと苦手と思っていました。
武士の立ち位置と違う楠木正成の筋の通った生き方。
最初は、なんだかぱっとしないし結局足利尊氏にいいとこ持っていかれただけじゃんと思っていたけど、どうしようもない運命の流れがあっても最後まで貫き通した生き様が心に響きました -
分かってるようでよく分かってなかった南北朝時代の初期を描いています。
日本史において「寡を以って衆を制す」の代名詞のような楠木正成を北方節で堪能しました。
ただ、後醍醐天皇の描き方は面白かったものの、肝心の正成像が茫洋としていて、若干の物足りなさを感じました。
物足りないといえば、もう少し先の話まで読みたかったです。
北方南北朝には北畠顕家だったり佐々木道誉や赤松円心を描いた作品もあるようなので、その辺も読もうか悩むとこです。
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20190504
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北方謙三の他の室町期の時代小説に比べて、こじんまりとしている。面白くないわけではないが、比較すると、この評価になる。
悪党としてどう生きるか、後醍醐、大塔宮、尊氏、円心、正成の生き様が提示されている。 -
従来自分が楠木正成に対して持っていたイメージは天皇家に最後まで忠義を尽くした忠臣という典型的なものだったが、朝廷との関わりが強いわけでもない楠木家の出でそこまで忠義を尽くした理由は腑に落ちず疑問も感じていた。それに対して、この作品で描かれている正成は、初めから忠臣であったのではなく、流通経済の発展の中で成長し始めた「悪党」(注:必ずしも悪事を働く輩ではない)の類であった楠木家の生きる道を、武士の力による支配を脱した後の天皇/朝廷の世に見出そうとした人物として描いている。その夢は空虚な理想に過ぎず、儚く散る運命が待っていたわけだが、一人の漢の生き様としてはこちらの方が現実味があり、悲哀と共に共感を覚えた。
朝廷から鎌倉へ一旦は移った中央集権による統治が瓦解して、南北朝争乱~応仁の乱~戦国へ時代が流れて行った原動力は、武士にしろ商人や寺社にしろ地域に根差した勢力の台頭であったと認識しているが、この作品はその萌芽を体感させてくれる点でも面白かった。 -
赤坂城、千早城の攻防は、なんといっても激アツ。赤坂城は水脈の確保がキーポイントとか、戦闘だけにフォーカスせずにリアリティーを出しており、またそういった部分が悪党の戦というゲリラ的な戦いの面白さを際立たせている。
また、足利尊氏がいい味を出している。迷い、酔った挙句に正成に本音を吐いてしまったり、酔いつぶれて正成の家で寝ようとしたり。とても人間味があり、正成よりもむしろ魅力的かもしれない。正成は「俺も怖いさ」とか言いつつほぼ完璧に物事を進めていくハードボイルドヒーローにどうしてもなってしまっているので。むしろ自分の弱さを受け入れている点でより完璧になってしまっているかも。
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最期の湊川の戦を描かないところがいいですね。絶望したわけではないんだろうけど、燃え尽きちゃったのは、あるかも。
そして、仰ぎ見る人を間違えると、こんな悲惨なことはない。それにしても、北方謙三は、後醍醐帝を全く評価していないな。 -
いやー、後半から最後にかけてが良い。終わり方が良い。
足利尊氏とのからみが特に良い。
上巻は「あれ?」と思ったけど、下巻できっちり良作に仕上げるところは、さすが御大である。