- Amazon.co.jp ・本 (723ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122042704
感想・レビュー・書評
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20年前の小説とのことで、その当時はエコ=貧乏臭い、コスト的に現実的でない、夢想家、といった空気だったんだなあ、と。理系の素養がある作者としては、何を青臭い、と言われるの覚悟で書いたんじゃなかろうか(登場人物の声を借りていろいろ言い訳めいた理論武装を展開してるし)。でも、いまや原発の安全性は地に落ちたし、地球温暖化もはっきりクロと分かって対応することが義務となりつつあり。風向きは変わるもんだ。
小説としては、ネパール旅行記的な楽しさと、プロジェクトX的な面白さと、家族や少年の成長物語的な爽やかさと、と申し分ない感じ。きれいすぎる感はあるが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
風力発電の開発に従事している天野林太郎が、小型の風力発電装置を開発し途上国で売り込むために、ネパールのナムリンという村を訪れます。彼は、現地で献身的に支援をおこなってきた工藤隆や、チベットの行く末を案じるブチュンといった人びとに出会い、さらに彼の帰りを待つ妻のアユミと小学生の息子の森介、会社の上司であり林太郎をサポートしてくれる浜崎課長らに支えられながら、文明と環境、あるいは宗教と国家などの問題について考えさせられることになります。
著者自身の思想的な関心が前面に押し出されており、物語そのもののおもしろさにどっぷり身を浸すといったたのしみかたのできる作品とは、すこしちがった印象です。魅力的な登場人物たちが、仕事や生活のなかで巨大な問題の一端に触れ、みずからの足もとを見なおしつつ、問題の本質にせまっていく過程がていねいにえがかれているという意味では、優れた作品だと感じましたが、物語そのものがもっている力と著者の思想がうまく接合できているかというと、やや疑問に思えます。 -
環境問題、宗教など結構重い問いを主人公の林太郎とその家族がチベット文化のある小国に風車を立てに行くことで、進めていくのだけど…全体的に言うこと分かる、反対ではない、でもなぜかその家族のキャラクターに最後まで親近感湧かず残念な気持ち。
2019.3.24 -
大手メーカーの風車の技術者林太郎は、妻アユミにかかわる縁から、ネパールで風車を建てることになった。その地で林太郎が見、感じたモノとは。21世紀の生活スタイルを問うた作品。原発事故前ではあったが、原発には批判的な内容でもある。
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科学も宗教のひとつ。
だけどこの宗教は現世しか見てなくて、来世思想が無いという所が池澤夏樹っぽい。 -
ヒマラヤの奥地へ風力発電を設置することになった主人公。
そのきっかけから設置の完了まで、そして秘密の特務について描かれた作品。
家族関係や、発展途上国に文明をもたらすことの問題点について・・・
など色々テーマが多い作品なのですが、重苦しくなくとても読みやすいです。
また、全体に漂う神秘的な雰囲気がとても引き込まれる作品でした。 -
架空の発展途上国ナムリンに風力発電のための風車を設置する日本人技術系サラリーマンの話。小説なんだけど、文明と環境についての作者の思索でもある。チベット仏教に守られた秘境に立つ風車のイメージは夢のように美しく詩的。…なのに、主人公の奥さんのメールやセリフが説教くさくて全体的に飛距離不足か。この奥さんのメールっていうのがだいたい各章の終わりにいつも出てきて、主人公の今日の行動を批評するみたいな感じで、きみらは吉野源三郎「君たちはどう生きるか」のコペル君とおじさんかいっと突っ込みたくなる。これ実は啓蒙書なのかも。終盤の意外なスリルとサスペンスがめちゃくちゃ面白かったのでまあなんでもいいや。【2005.11.4】
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何処かで書かれていたけれど、悪意というものが存在しない。
でも、それはマイナス材料にはならずに、すばらしい新世界を僕に提示してくれた。
今、生きているこの世界とは違った形の世界があるということに気づいた。