すばらしい新世界 (中公文庫 い 3-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (723ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122042704

感想・レビュー・書評

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  • 20年前の小説とのことで、その当時はエコ=貧乏臭い、コスト的に現実的でない、夢想家、といった空気だったんだなあ、と。理系の素養がある作者としては、何を青臭い、と言われるの覚悟で書いたんじゃなかろうか(登場人物の声を借りていろいろ言い訳めいた理論武装を展開してるし)。でも、いまや原発の安全性は地に落ちたし、地球温暖化もはっきりクロと分かって対応することが義務となりつつあり。風向きは変わるもんだ。
    小説としては、ネパール旅行記的な楽しさと、プロジェクトX的な面白さと、家族や少年の成長物語的な爽やかさと、と申し分ない感じ。きれいすぎる感はあるが。

  • 風力発電の開発に従事している天野林太郎が、小型の風力発電装置を開発し途上国で売り込むために、ネパールのナムリンという村を訪れます。彼は、現地で献身的に支援をおこなってきた工藤隆や、チベットの行く末を案じるブチュンといった人びとに出会い、さらに彼の帰りを待つ妻のアユミと小学生の息子の森介、会社の上司であり林太郎をサポートしてくれる浜崎課長らに支えられながら、文明と環境、あるいは宗教と国家などの問題について考えさせられることになります。

    著者自身の思想的な関心が前面に押し出されており、物語そのもののおもしろさにどっぷり身を浸すといったたのしみかたのできる作品とは、すこしちがった印象です。魅力的な登場人物たちが、仕事や生活のなかで巨大な問題の一端に触れ、みずからの足もとを見なおしつつ、問題の本質にせまっていく過程がていねいにえがかれているという意味では、優れた作品だと感じましたが、物語そのものがもっている力と著者の思想がうまく接合できているかというと、やや疑問に思えます。

  • 環境問題、宗教など結構重い問いを主人公の林太郎とその家族がチベット文化のある小国に風車を立てに行くことで、進めていくのだけど…全体的に言うこと分かる、反対ではない、でもなぜかその家族のキャラクターに最後まで親近感湧かず残念な気持ち。

    2019.3.24

  • きれいなお話

    物質文明よりも精神的な豊かさへの憧れ、でもそれは物質的に豊かな生活をしているからこそ思えること? 本当にそれを捨てられるのか? 林太郎はそれはできないだろうと考えた。

    大きな風車ではなく小さな風車 シンクグローバル、アクトローカル
    援助することの本当の意味、本当の役割

    林太郎とアユミの幸せで信頼のあるラブラブ関係(笑)。


    ネパールか、一度行ってみたい

    森介の冒険はまあいいとして、そのあとの埋蔵経を運ぶ旅はちょっと蛇足? それほどのエピソードもなく、ダライ・ラマに会ったことでなにかが起きたわけでもなく。

    プロジェクトは順調にスタートを切り、帰国した父子を待ち構えたアユミは、ラストで神々、仏たち、めに見えない存在にたいして感謝を告げる。

    なんともきれいなお話

    だけど、なんだか物足りなさを感じるのは先に「光の指で触れよ」を読んでいるから?

    光ののほうがインパクトがかなり大きかったのは先に読んだからだけではないと思う。
    本作でも顕著だが物質文明にたいして慎重であり続けるアユミが、続編では主人公になっていることが「光の」をより強い方向性に導いている。

    一番気になるのは「すばらしい」を書いた時点で「光の」を構想していたかどうか。もしそうなら「すばらしい」は序章にすぎない。逆に構想していないのなら、書き終わってからこのままで終わってしまってはきれいにすぎるという思いが生まれたのかも? このあたり作者インタビューなどあればぜひ読んでみたい。

    -----

    先に光の指で触れよ読んでるので、そこからさかのぼってことの発端を紐解いていくようなかんじ。山の中で自給自足とか、後々で繋がってくるが、この時点ですでに作者の頭の中にあったのかどうか。

    いろいろと感ずるところ、気づかされるところある。これまで、そういうことに関心がなかった、もしくは避けてきたということだろうか?

    カトマンズを画像検索。街中はイスタンブールの裏通りのような感じ。なるほど、こうして確かめながら読むのもおもしろいな。

    ストーリー読むだけでなくいろいろと考えさせられる。人によってはそういうのが鼻についたり、そうじゃないだろと思ったりするんだろうけど、今の俺には合っている。

  • 大手メーカーの風車の技術者林太郎は、妻アユミにかかわる縁から、ネパールで風車を建てることになった。その地で林太郎が見、感じたモノとは。21世紀の生活スタイルを問うた作品。原発事故前ではあったが、原発には批判的な内容でもある。

  • 科学も宗教のひとつ。
    だけどこの宗教は現世しか見てなくて、来世思想が無いという所が池澤夏樹っぽい。

  • ヒマラヤの奥地へ風力発電を設置することになった主人公。
    そのきっかけから設置の完了まで、そして秘密の特務について描かれた作品。
    家族関係や、発展途上国に文明をもたらすことの問題点について・・・
    など色々テーマが多い作品なのですが、重苦しくなくとても読みやすいです。
    また、全体に漂う神秘的な雰囲気がとても引き込まれる作品でした。

  • 架空の発展途上国ナムリンに風力発電のための風車を設置する日本人技術系サラリーマンの話。小説なんだけど、文明と環境についての作者の思索でもある。チベット仏教に守られた秘境に立つ風車のイメージは夢のように美しく詩的。…なのに、主人公の奥さんのメールやセリフが説教くさくて全体的に飛距離不足か。この奥さんのメールっていうのがだいたい各章の終わりにいつも出てきて、主人公の今日の行動を批評するみたいな感じで、きみらは吉野源三郎「君たちはどう生きるか」のコペル君とおじさんかいっと突っ込みたくなる。これ実は啓蒙書なのかも。終盤の意外なスリルとサスペンスがめちゃくちゃ面白かったのでまあなんでもいいや。【2005.11.4】

  • 何処かで書かれていたけれど、悪意というものが存在しない。
    でも、それはマイナス材料にはならずに、すばらしい新世界を僕に提示してくれた。
    今、生きているこの世界とは違った形の世界があるということに気づいた。

著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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