どくろ杯 (中公文庫 か 18-7)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044067

感想・レビュー・書評

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  • どくろ杯のタイトルに惹かれて、まえから読みたかった本をブックカフェで見つけ購入した
    1928年、詩人が33才のころから足掛け7年の妻との放浪を40年越しの自伝第一作
    いくら行き詰まってたとしてもそんなにあっさりと上海やら香港、シンガポール、ジャワなどへゆけるものかと驚く
    熱に浮かされたように読了した
    最終目的は花の都パリを目指して
    当時の落ちぶれゆく帝国の悪臭が伝わってくる
    国のかたちは激変しても
    100年経っても日本人も中国人もあまり変わってないような気もする

  • 「奥さんに年下の恋人を作られて、ふたりを引き離すために夫婦で放浪の旅」って夫婦揃ってフリーダムじゃないの、と気楽に(野次馬根性も手伝って)手に取ったのだけれど、すっかり揺さぶられてしまった。

    ほぼ全編「お金がない」「奥さんに本気の恋人ができた」と困ったシチュエーションの連続の中、金子さんはひとつひとつの状況に正対して言葉を紡いでいる。今の自分ができるだけ避けようとする種類のものの見方。結果がすべてであり、考えても仕方ないことは考えない、で忙しくしているのを、「それで生きてるって言えるの?」って言われている気持ちになった。

    宿題が全然終わっていない夏休みみたいな上海でのだらだら暮らし、そこで出会う人たちの温かい気持ち、自分を見ていない奥さんのうなじのうつくしさ。たぶんわたしは、宿題を片付けることにばかりやっきになっている。

    • 花鳥風月さん
      なつめさんこんにちは

      金子光晴はどうして詩集の他に旅行記が今も絶版にならず残っているのだろう、とは何となく思っていたのですが、この本素晴ら...
      なつめさんこんにちは

      金子光晴はどうして詩集の他に旅行記が今も絶版にならず残っているのだろう、とは何となく思っていたのですが、この本素晴らしいようですね。引用されている生硬な文章も素敵です。
      なつめさんの文で私も揺さぶられてしまい、本屋でちょっと見てみたら出だしからぐっと来る感じだったので買ってきてしまいました。

      気分が整った時に、じっくり向かい合ってみようと思います。
      2012/06/01
    • なつめさん
      花鳥風月さん こんにちは

      『どくろ杯』入手されたんですね。なんだかうれしいです。

      金子さんは状況に流されるまま生きているみたいなのに、そ...
      花鳥風月さん こんにちは

      『どくろ杯』入手されたんですね。なんだかうれしいです。

      金子さんは状況に流されるまま生きているみたいなのに、その視線には怠惰のフィルターがかかっていなくてまっすぐに対象を捉えているようで、妙に男前なのです。私の中の「かっこいいひと」のバリエーションがひとつ増えました。このかっこよさは文字の世界ならではかもしれないですけれども...
      2012/06/01
  • なんていうかこの時代の魔都上海にめっちゃ行きたいし興味がわいてきた。詩人金子光晴の7年にわたる目的のない旅の軌跡。「どくろ杯」の正体には本当にびっくりだけど、当時の上海らしいアイテムだなあ。

    あと、比喩が素晴らしい。美しさとはまた別だけど、何かピースがかっちりはまりこむような爽快さがあるきれいな比喩が多かった。

  • 「どくろ杯」、人の頭蓋骨をさかずきにしたものである。そんなおどろおどろしいものをさかずきにするような心理はどこからやってくるのだろう。自身が統治者であるなら征服、達成感の確認か(信長なんかもやってたらしい)。それともいつかは自分にも来る死を忘れないようにするためか。中世ヨーロッパでペストが流行した頃に、人々の間で髑髏のアクセサリーをつけることが流行った、と聞いたことがある。かつてそれを聞いた時、人間の奥深いところにある不可解なものを感じた。

    詩人金子光晴の自伝も兼ねたような旅行記。これも他の方の感想で興味をもった本。

    読んでいて金子光晴とはどういう人なのだろう、と何回も立ち止まって考えた。文章が淡々としていて、自分のこともまるで他人のように見ているようなところがあるように思える。しかしその割には頭よりも先に体の方が動いてしまっているようなところもある。明晰さと突拍子もなさが同居していてなんだか終始面白い。実際には何年も後に書いたものらしい。だからこうなるのだろうか。

    ふと思ったのは、自分自身と他人との境界線があまり明確な人ではないのではないか、ということ。というよりも、読んでいる私自身が、普段他人との間に線を引きすぎている、と感じた。友達の髪の毛を橇上げて血だらけにしてしまうところも、三千代さんを抱きしめるところも、どこか自分自身の体に対してやっているところがあるように思える。読んでいる私自身の、他の人の何かを引き受ける許容量の少なさを思い知った気がする。

    これは感想をまとめていて思ったのだけど、この自身と他人との境界線が不明瞭な感じと、どくろを生活の中に取り入れて死を身近に置くことは、どこか響き合っているように感じられる。どくろを生活の中に置くことは、自分自身の死ともうすでに亡くなった人との境を曖昧にすることなんじゃないかと思う。それはひょっとすると、厳しい状況におかれた時の知恵のようなものなのかもしれない、などと考えてみたりした。

    上海の雑然とした様子を描いているパートは特に印象に残った。続編もあるらしいので是非読みたいと思う。

  • 大正期の詩人が妻と共に上海へ旅立つ話。

    子供を日本において、金もあまりなく上海に行ってしまうクレイジーな筆者が、当時の混沌とした上海の生活を描く。

    改行が少ない文字がびっちりの本だが、美しい文体でなせまか読めてしまう。

  • 自伝三部作の第一弾。

    詩集『こがね蟲』でデヴューをかざるも、先ゆきが見通せない境遇にあった著者が、妻となる森三千代と出会い、彼女とともに上海へわたり放浪生活を送った経緯をつづっています。

    関東大震災のあと、画家の卵だった牧野勝彦のさそいにおうじて彼のいる名古屋に寄宿することになった著者は、文学や芸術に傾倒する若い仲間たちに囲まれて暮らしていたところ、牧野から三千代を紹介されます。女流詩人となることに願っていた彼女は、『こがね蟲』によって詩壇に登場した著者に寄り添うことになったものの、貧乏な生活は彼女のあこがれていたものとは異なり、著者のもとを出てしまいます。しかし著者は、そんな彼女に対する瞋恚ですらも、デカダンスのなかに溶かしてしまい、彼女のほうもそこから飛び立つこともできないまま、二人は上海へと旅立ちます。

    「いずれ食いつめものの行く先であったにしても、それぞれニュアンスがちがって、満州は妻子を引きつれて松杉を植えにゆくところであり、上海はひとりものが人前から姿を消して、一年二年ほとぼりをさましにゆくところだった」と著者が語る上海で、著者たちはそうした境遇の日本人たちと交わりながら、異国での放浪生活をつづけます。

  • 関東大震災からはじまる、妻森三千代との5年に及ぶ東南アジアとヨーロッパ放浪の記録。
    ひさびさに読んでみたが、圧巻の迫力は変わらず。

  • これはもう中毒です。併せて詩集を読むと殊更深く嵌ります。沈殿して、どん底で澱んでいるのに純粋なのですよね。絶望と向き合い足掻くことを諦めない詩人の魂が心に沁みます。

  • 日本て変わったなぁという気持ちと
    人間て変わらないなぁという気持ちと、両方。
    大正から昭和初期にかけての時代の空気に触れて単純に今との違いに驚いた。
    成功も失敗も自己責任だよというドライな個人主義がないかわりに
    目も当てられないような貧富の差や階級の差がある。

    40年も前のことを振り返っているからか、
    あくまで淡々とぶれも乱れもない確かな筆致で、
    波乱万丈な内容とのギャップが素敵。
    漢学の深い教養に裏打ちされている硬質な文体の合間に
    詩心爆発の溢れる寸前で抑制された情緒を湛える色気のある文章が混じって
    魅力的。この人の観察眼と文体は大好き。

    続編の『ねむれ巴里』、『西ひがし』も読みたい。

  • 結婚、出産を経て妻 三千代の浮気が発覚。二人の再出発としてパリへ向かう途中の上海までの自伝的随筆。貧困と欲望の狭間で奔放な妻と詩人として行き詰まる光晴の旅路と現地での交流や旅人としての視点が独特である。自伝三部作の第1作目。‬

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著者プロフィール

金子 光晴(かねこ・みつはる):詩人。1895年、愛知県生まれ。早稲田大学高等予科文科、東京美術学校(現・東京芸術大学)日本画科、慶應義塾大学文学部予科をすべて中退。1919年、初の詩集『赤土の家』を発表した後に渡欧。23年、『こがね蟲』で評価を受ける。28年、妻・森美千代とともにアジア・ヨーロッパへ。32年帰国。37年『鮫』、48年『落下傘』ほか多くの抵抗詩を書く。53年、『人間の悲劇』で読売文学賞受賞。主な作品として詩集『蛾』『女たちへのエレジー』『IL』、小説『風流尸解記』、随筆『どくろ杯』『ねむれ巴里』ほか多数。1975年没。

「2023年 『詩人/人間の悲劇 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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