自由戀愛 (中公文庫 い 101-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044425

感想・レビュー・書評

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  • わたしは〜してあげる、という言い回しがものすごく嫌いである。人に言われるのも嫌いだから自分が言うのも嫌い。〜してあげる、というのならしてもらわなくていい。〜したいと思ったからしてくれるのでないのなら要らない。本当はしたくないけれどあなたのためを思って、のような、あわれみのような、押しつけがましさしか感じない言葉。もちろん相手がいつもそんなつもりで使っているわけじゃないのは解っているけれど。なにも持っていない人間の僻みなのだろうけれど。

    というか不倫ものだと思っていなかったわ。

    明子は恵まれている。ずっと〜してあげると言い続けるのだろうな。



    「お前は妾として、女の盛りの時を費やしているのだぞ。虚しくはないのか」

    冷え冷えとした空気に浸されたのは、初秋という季節のためなのか。それとも一年という年月の、あまりのあっけなさを自身の呟きによって思い知らされたからなのかしら―――。

    「怖い。私、怖い。独りぼっちなのね、私」

    私は物心ついた頃から、どこにいても居心地の悪さというのだろうか、自分はここにいてもいいのかどうか、常に一抹の不安を抱えていた。

  • 解説の言葉を借りると「ものを考えるようになった女」が出てきたこの時代背景においてだからこそ、このような後味になったのだろうか。
    外から引いてみれば痴情のもつれとも言えるが、女性たちがそれぞれの血を呪いながらも抗えず連なっていく様は悲劇的であり、喜劇のようでもある。

  • 優しさという名の残酷な同情、妬みや対抗心から生じるちょっとした意地悪、それらが複雑に絡み合う女心の機微が手に取るように鮮明。ドロドロした愛憎劇でありながら、悩み傷つきつつ自分で自分の生き方を決めていく対照的な二人の姿勢は時に潔く時に清々しかった。
    再読の今は、子へ向ける眼差しが自身と重なって清子の母としての強さが一際眩く映る。

  • 2000.01.01

  • 題名に「戀」とあるので、旧字体の本文かと思って読みだした。実際には全て新字体であった。ひとりの男をめぐる対照的な性格の元同級生の3角関係が描かれる。紆余曲折のなかで自立へと向かう彼女たちの姿が時には違和感ありながら愛おしい。最後の銀座での再会のシーンも晴れやかであって良かった。

  • 大正時代を舞台に、「自由恋愛」を志した2人の女性の交錯を描いた物語です。

    会社を経営する磐井家の跡取りである優一郎と結婚した明子は、子どもに恵まれないものの、自由で華やかな生活を楽しんでいました。ある日彼女は、女学生時代に同級生だった伊部清子が離婚して実家に戻っていることを知り、夫の会社の事務員に推薦します。しかし、明子の無邪気な残酷さは、清子の体内に流れる、母から受け継いだ淫靡な血を沸き立たせるという結果を招くことになります。

    やがて優一郎は清子と逢瀬を重ねるようになり、2人の間に子どもが生まれます。磐井家を存続させることしか頭にない優一郎の母は、子どものできない明子を優一郎から離縁させることを決めます。それでも明子は、優柔不断でしかない優一郎の優しさを切り捨てることはできず、彼の愛人となって優一郎の訪宅を待つ身となります。

    一方、明子を追い出して正妻の座に着いた清子は、優一郎がなおも明子と会い続けていることに穏やかではいられません。しかも、長男の公太郎に磐井家を継がせることしか考えていない姑にも、清子は苛立ちを覚えます。やがて彼女は、公太郎を連れて磐井家を去ることを決意します。

    「自由恋愛」に憧れながら、ともに名家の因習に苦しむことになった2人の女性の対照的な生き方が交錯するストーリーに、スリリングなおもしろさを感じます。とくにラスト・シーンは鮮明な印象を与えてくれます。

  • 胸にぐさぐさと突き刺さる小説だった。でもなんだか人生がんばれると思えたので。

  • 読みやすい

  • これはおもしろかったです!岩井志麻子といえば怖い醜い世界観ですが、雰囲気が違いました。が、女のこの生々しい感じ、やっぱり志麻子感!ふわふわとした永遠の少女のような明子の無意識の残酷さ…こわい!けどわかる!もしかして女性読者にしかわからないのかなこの感じ?
    自分は一気に読み終えました。

  • 女の子の幸せとは何なのか。恋に身を任せること?お金持ちとの結婚?それとも高学歴のキャリアウーマンとして自由奔放に生きること?事あるごとにうーんと考え込んでも明確な答えが見えないのですが、「自由戀愛」はその疑問を小気味よくさばいてくれた気がしました。
    舞台は大正時代。エリートの息女だけが通えた女学校の同級生、明子と清子は全てがまるで正反対。ふわふわ可愛いお姫さまの明子と、地味だけれど頭脳明晰な清子。2人がひとりの男性を愛することで物語はドロドロと、しかし岩井さん独特の美しい語り口調で華やかに淑やかに動きます。
    結婚、離婚、出産、子育て、嫁姑問題、夫の浮気、お妾、友人への見栄、プライド…
    2人の女性の正反対の視点から描かれる女の人生のハイライトは、現代に生きる私たちにも重ねられるところが大部分だと思います。大正が舞台なのに登場人物にこんなに共感できるなんて。女性の悩みって昔から同じ繰り返しなのかな、と面白く感じました。
    私にとっては2作目の岩井志麻子作品でしたが、お気に入りの一冊になりました!

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著者プロフィール

岩井志麻子 (いわい・しまこ)

岡山県生まれ。1999年、短編「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。同作を収録した短篇集『ぼっけえ、きょうてえ』で第13回山本周五郎賞を受賞。怪談実話集としての著書に「現代百物語」シリーズ、『忌まわ昔』など。共著に『凶鳴怪談』『凶鳴怪談 呪憶』『女之怪談 実話系ホラーアンソロジー』『怪談五色 死相』など。

「2023年 『実話怪談 恐の家族』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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