完璧な病室 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
3.55
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本棚登録 : 1919
レビュー : 173
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044432

作品紹介・あらすじ

弟はいつでも、この完璧な土曜日の記憶の中にいる-病に冒された弟と姉との時間を描く表題作、海燕新人文学賞受賞作「揚羽蝶が壊れる時」に、第二作品集「冷めない紅茶」を加えた四短篇。透きとおるほどに繊細な最初期の秀作。

感想・レビュー・書評

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  • わたしの好きな小川洋子さんがいたのは、『完璧な病室』と『冷めない紅茶』
    あやふやな世界に取り残されたのは『揚羽蝶が壊れる時』
    そして、とても印象的で残酷な気持ちになったのは『ダイヴィング・プール』

    『完璧な病室』
    死へと近づくガラス細工のように精巧で美しい輪郭を持つ弟と、生命力に溢れる逞しい胸の筋肉を持つS医師。2人の対比が死と生を表しているようでした。姉である「わたし」はS医師の胸の筋肉に閉じ込められることによって、弟との永遠の別れへの悲しみを癒やします。けれどずっと温かい腕の中にいることは出来ません。「わたし」は、これからも生きていかなければならないのですから。逆に、亡くなってしまった弟は、美しい姿を変えることなく「わたし」の完璧な土曜日の記憶の中で生きていきます。苦しくて悲しくて、弟のことを忘れることが出来たらいいのにと願いながらも、きっと「わたし」は彼のことを想い、考えることをやめることはないと思いました。

    『冷めない紅茶』
    生と死の世界がいつの間にか混濁し、自分がどこを歩いているのは分からない感覚に陥ります。死とは無縁の生活をしていたはずなのに、ふいに死神に魅入られたかのように、自分の中で死が堪らなく甘美な世界へと変わっていく様を見せられたような気持ちになりました。「わたし」はK君と彼女のいる世界を選んだのでしょうか。K君の彼女が夜になっても帰ってこなかったのは、「わたし」が図書室に本を返したことに関係あるのでしょうか。K君は本当に死神だったのかもしれない……
    読み終えたあと、いろいろと気になって想像してしまいます。しばらく抜け出せない世界観、好きです。

    『揚羽蝶が壊れる時』
    『妊娠カレンダー』を読んだときの、ぞくりとする精神のあやふや感を感じました。寝たきりの祖母。わたしのなかのベイビー。握りつぶした揚羽蝶。写真の中の彼女をわざと忘れた彼……
    わたしが異常なのか。祖母が異常なのか。
    それとも。誰が狂っているのでしょうか。

    『ダイヴィング・プール』
    彩のリエに対する残酷さよりも、純の方がわたしには恐ろしかったです。きっと純はサデスティックな一面を持っているんじゃないかとさえ思いました。純は、教会に住む孤児たち、また教会の子である彩にも、全ての人に対して優しい少年です。そして彼自身も孤児として教会で暮らしています。
    「リエちゃんは、知恵遅れの母親にトイレで生みみ落とされた、かわいそうな子だよ。」
    純がリエのことをそう言ったとき、ああ、この子は他の子をかわいそうだと思うことで、自分を生かしているんだなとふと感じたからです。彩のことも、鬱屈を抱いたかわいそうな子だと思っているのではないでしょうか。彩は純に自分の最低な姿を見られて、その上それを責められることもなく、これからも同じ教会でこれからも暮らしていかなければなりません。純は、彩が自分のことが好きなんだろうということは気づいているはずです。その上で、彩が絶対に立ち直れない方法をとったんだと思うのです。なんて残酷なことをしたのだろう。純の闇は果てしなく濃いものなのかもしれません。(ちょっと深読みしすぎたかな……)

  • 個人的な好みで言うと、『冷めない紅茶>>>>>完璧な病室>>>ダイヴィング・プール>=揚羽蝶が壊れる時』という感じ。特に、『冷めない紅茶』を読んだのは二度目だったのだけれど、静かで、狂おしくて、さみしくて、うつくしい話だなあと思った。
    小川さんのお話を読んでいると、何だか拷問道具を眺めているような気分になる。残酷で、とてもうつくしい。

  • 表題作
    揚羽蝶が壊れる時
    冷めない紅茶
    ダイヴィング・プール
    の4作。

    常にどこかこの世の一切から身を引いたような雰囲気を感じます。残酷で、とても美しいこの世界感にしっとりと沈むのが心地よい。

  • 短編集。以下の2つが気に入った。

    「揚羽蝶が壊れる時」
    呆けてしまった祖母を"新天地"という老人ホームに預けることになった。
    しかし主人公は、祖母ではなく自分が異常なのではないかという疑問に支配され続ける。
    それは、一度考えると体中に広がる。自分が正常だとどうして言えるのか―。

    「ダイヴィング・プール」
    幼い孤児リエの泣きじゃくる姿と、学生の孤児純の飛び込みの姿、筋肉だけが自分を気持ちよくしてくれる・・・。
    孤児院を経営する親の元に生まれた彩の歪んだ何かが見える物語。

  • 小川洋子さんの最初期のお話たち。
    とても好きだ…と思いました。
    生きていくことの残酷さとグロテスクさ。
    放っておいたら汚物になるものを食べて生きている、というような一文がすとんと心に落ちてきたので、小川ワールドに入り込み過ぎていると感じました。
    それぞれの形で少しずつ壊れていく登場人物たちに、静けさと儚さを覚えます。
    食べものエッセイを読むと食べたくなりますが、小川洋子さんを読むと食べたくなくなる。忙しないわたしです。

  • 初めての小川さんの本。
    全体的にアルコール消毒したような綺麗で冷たい文体の印象です。
    恋は恋と言わないかんじがもどかしくて脆そう。
    『ダイヴィング・プール』が一番好き。水泳男子の胸筋って素敵ですよね〜(^o^)

  • 小川洋子さんの初期作品ということで、後期の作品に比べれば荒削りな印象をうけたが、透明な、それでいてグロテスクな矛盾する2つの要素が彼女の中でまじりあい、静謐さを生み出している描写は相変わらずで引き込まれた。

  • 小川洋子女史の最初期の作品です。

    彼女の文学って、身体のどこかに何かしら欠如部分が有るんです。そこを埋めようと必死になっている様子がどこか切なくて、官能的で美しい気がします。
    標題にも成っている「完璧な病室」は病院という閉ざされた空間で死にゆく弟との時間を描いたもの。隔離された世界で美しくブドウを食べる弟と、外の世界に住む私の薄汚れた食事や生活の対比をすることで、弟の特別な存在感がとても鮮明に浮き上がってくるような気がします。

    他に三篇のお話がありますが、私はなかでも「ダイヴィング・プール」にかなりやられました。やられたというのは、本当に精神的に落ちてしまいまして。

    あらすじは、孤児院で一緒に暮らす純に心を寄せる彩。優しい心と美しく泳ぐ彼に夢中な彼女は毎日彼の泳ぎを見に行くが、彼はけしてそのことに触れようとはしない。けれど、無垢な幼子のリエの愛し方がわからない彩は、泣きだしたリエにいじめ傷つけるという残酷な気持ちを太らせることしかできない。そうして、腐ったシュークリームを与え入院にまで追い込んでしまう。けれど、純には全てを見破られてしまう。「いつも彩ちゃんをみていたから」というまるで愛の告白のような言葉とともに、ようやく後悔と罪深さと自分の澱んだプールの中に純は飛び込んでくれないのだと、思い知る。

    私自身、別に何か罪深いことをしたことは有りませんが、こういった感情に覚えはあります。何より、ここまでの負のオーラで溢れた文章でいて美しい世界を作り出せる作者に尊敬の念を抱いてしまいます。

  • 小川洋子の肉々しい話は苦手だ。すべては即ち生きることの描写なのだけれど、自分がとても醜い肉塊に思えてくる。実際そうなんだろうけれど(食物連鎖のサイクルからはみ出す生物に何の意味がある?)。駅で、駅員と警察を困らせる精神障害の女性を見た。地下通路で、暗いうろのような目ばかり目立つホームレスの男性とすれ違った。私はどちらも怖い。しかし、私とそういった人たちに差異なんてないのだ。アイデンティティという言葉で纏められる。うんざりしてしまう。

  • 小川洋子さんの書く文章は、生の臭いが強い。口臭の臭い。しかし、クセになる臭いだ。
    完璧な病室とダイヴィング・プールという、2つの姉妹的な短編に挟まれた揚羽蝶が壊れる時、冷めない紅茶の不穏感。読者をザワザワさせて、物語を終わらせる感覚。しかし、4つの話に出てくる男の共通した諦観さは、私を不穏にさせた。

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著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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