完璧な病室 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
3.55
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本棚登録 : 1776
レビュー : 168
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044432

作品紹介・あらすじ

弟はいつでも、この完璧な土曜日の記憶の中にいる-病に冒された弟と姉との時間を描く表題作、海燕新人文学賞受賞作「揚羽蝶が壊れる時」に、第二作品集「冷めない紅茶」を加えた四短篇。透きとおるほどに繊細な最初期の秀作。

感想・レビュー・書評

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  • この頃の小川さんは、なまくさい生である有機物とその対称にある無機物というのが一つのテーマだったのでしょうか。

    人の感覚を残酷なまでに繊細に、言葉を選んで描写しているのを読んでいると、霧のようなものに包まれて、この世でないところを浮遊しているような気分になります。これは、この作品集だけではないのですが。

    偶然にも、今、自閉症関連の本を読んでいて、知覚過敏といわれる人の感じる世界に思いをはせていたので、なおさら、だったのかも知れません。

  • 春が巡ってきてしまった。
    本書を再び開いたわたしは完璧な病室を持っていたし、それを失うかなしみも痛いほど知っている。
    食や生の匂いに満たされた生活の場である現実への嫌悪。音も匂いも時間もない非現実への憧れ。現実はあまりにも単調で代わり映えもなく淡々と過ぎていき、そして積み重ねられた日々の重さはときに耐えられないほど息苦しい。完璧な病室を設えたときから、遅かれ早かれ必ず壊れることを予感していた。二度と戻ってこないとはわかっているけれど、春の雨がやさしくて、記憶のなかの繊細な言葉に帰っていきたくなったのです。

  • 『親しい友人の見知らぬ微笑』

    美しいな、美しい。でも私にはあまりにも高尚すぎて、目が焼けてしまう。理解を求められていないのがよくわかる。でも私の中で少しだけ言葉が浮かんで消える。やはり、美しい。美しいな。

  • わたしの好きな小川洋子さんがいたのは、『完璧な病室』と『冷めない紅茶』
    あやふやな世界に取り残されたのは『揚羽蝶が壊れる時』
    そして、とても印象的で残酷な気持ちになったのは『ダイヴィング・プール』

    『完璧な病室』
    死へと近づくガラス細工のように精巧で美しい輪郭を持つ弟と、生命力に溢れる逞しい胸の筋肉を持つS医師。2人の対比が死と生を表しているようでした。姉である「わたし」はS医師の胸の筋肉に閉じ込められることによって、弟との永遠の別れへの悲しみを癒やします。けれどずっと温かい腕の中にいることは出来ません。「わたし」は、これからも生きていかなければならないのですから。逆に、亡くなってしまった弟は、美しい姿を変えることなく「わたし」の完璧な土曜日の記憶の中で生きていきます。苦しくて悲しくて、弟のことを忘れることが出来たらいいのにと願いながらも、きっと「わたし」は彼のことを想い、考えることをやめることはないと思いました。

    『冷めない紅茶』
    生と死の世界がいつの間にか混濁し、自分がどこを歩いているのは分からない感覚に陥ります。死とは無縁の生活をしていたはずなのに、ふいに死神に魅入られたかのように、自分の中で死が堪らなく甘美な世界へと変わっていく様を見せられたような気持ちになりました。「わたし」はK君と彼女のいる世界を選んだのでしょうか。K君の彼女が夜になっても帰ってこなかったのは、「わたし」が図書室に本を返したことに関係あるのでしょうか。K君は本当に死神だったのかもしれない……
    読み終えたあと、いろいろと気になって想像してしまいます。しばらく抜け出せない世界観、好きです。

    『揚羽蝶が壊れる時』
    『妊娠カレンダー』を読んだときの、ぞくりとする精神のあやふや感を感じました。寝たきりの祖母。わたしのなかのベイビー。握りつぶした揚羽蝶。写真の中の彼女をわざと忘れた彼……
    わたしが異常なのか。祖母が異常なのか。
    それとも。誰が狂っているのでしょうか。

    『ダイヴィング・プール』
    彩のリエに対する残酷さよりも、純の方がわたしには恐ろしかったです。きっと純はサデスティックな一面を持っているんじゃないかとさえ思いました。純は、教会に住む孤児たち、また教会の子である彩にも、全ての人に対して優しい少年です。そして彼自身も孤児として教会で暮らしています。
    「リエちゃんは、知恵遅れの母親にトイレで生みみ落とされた、かわいそうな子だよ。」
    純がリエのことをそう言ったとき、ああ、この子は他の子をかわいそうだと思うことで、自分を生かしているんだなとふと感じたからです。彩のことも、鬱屈を抱いたかわいそうな子だと思っているのではないでしょうか。彩は純に自分の最低な姿を見られて、その上それを責められることもなく、これからも同じ教会でこれからも暮らしていかなければなりません。純は、彩が自分のことが好きなんだろうということは気づいているはずです。その上で、彩が絶対に立ち直れない方法をとったんだと思うのです。なんて残酷なことをしたのだろう。純の闇は果てしなく濃いものなのかもしれません。(ちょっと深読みしすぎたかな……)

  • 小川洋子さんの最初期のお話たち。
    とても好きだ…と思いました。
    生きていくことの残酷さとグロテスクさ。
    放っておいたら汚物になるものを食べて生きている、というような一文がすとんと心に落ちてきたので、小川ワールドに入り込み過ぎていると感じました。
    それぞれの形で少しずつ壊れていく登場人物たちに、静けさと儚さを覚えます。
    食べものエッセイを読むと食べたくなりますが、小川洋子さんを読むと食べたくなくなる。忙しないわたしです。

  • 2008年11月14日~15日。
    「完璧な病室」「冷めない紅茶」は面白かった。「ダイヴィングプール」はいまひとつ。「揚羽蝶が壊れる時」はちょっと冗長に感じた。

  • 2017年の最後は小川洋子の短編集で。最後の作品を除いて、死を軸としたストーリーである。

    白血病で入院した弟を見舞った際に、食べ物や生活を排除し、すべてのものが無駄なく存在する病室に気づく。日に日に弱っていく弟のしを意識したとき…。

    全体にシンプルに純文学である。つまりは、事件云々ではなく、人生の中の景色の変化を淡々と綴っていく作品であって、起伏の大きなミステリなどを読み慣れている人にとっては、少々物足りないであろう。

    ただ、小川洋子らしく、物事の表現するテクニックを追い求めるんではなく、やはり主体はストーリーであるところは、純文学を苦手とする人にとっても読みやすい部類に入るのではないかと思う。

    だからといって高評価にならないのは、小川洋子の十八番であるところの、ある言葉にフォーカスを当てて、その言葉の持つ寂しさを解剖でもするかのように腑分けする、あの独特の感覚が4篇ともにあまり見られなかった。のは残念である、

    いずれも、「恐怖」はさほど感じないわけで、そのへんも物足りないところかな。

  • 生と死。姉弟。病気。ぶどう。介護。妊娠。図書室。短編集。
    どの話も生と死の話だった。

  • 人間の三大欲求の一つ、「食べること」に対する嫌悪感は、不完全な生活を送る「わたしたち」に対する体と心の警鐘なのかもしれません。もはや裁いてはもらえない小さな罪と嘘を重ねて人は大人になるのでしょう、断罪されたい欲求を押し殺しながら生きるしかないのです。

  • 『冷めない紅茶』が収録されているのか、、、と思っていたら、福武文庫の2作品の再構成なんですな、この本は。誰も悪い訳ではないんだけれども、何か騙された感あり。
    まぁさておきまだ初期の段階では、フェチへの関心がそれほど濃厚には表出しとりませんなぁ。後出しジャンケンでは決してなく、まだまだ感満載な初期作品集であります。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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