桃 (中公文庫 く 11-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 155
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044999

感想・レビュー・書評

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  • こんな文章、書いてみたい。

  • 久し振りに手に取った久世光彦は、桃にまつわる短編集。やはりこの方の小説は耽美な幻想と市井の生臭さが違和感なく両立しているのが凄い。どうしたって我々読者を魅了して止まない、陰であり魔的な引力がある。かといって、儚い陽の雰囲気も皆無なわけではなく…。うーん好きだ。
    「桃色」同族嫌悪とはまた違う、悪癖極まる父親と息子の歪んだ繋がり…父子に挟まる余所者の淫らな女…。咽せ返るような性と肉のにおい…。
    「むらさきの」権力ある祖父の愛と威厳と血飛沫と、それによって産まれた悪意の渦。その血を引く孫娘はいつまでもその渦の中で生きて、乱れて、飲まれて消えた。
    「囁きの猫」猫とのひとときをこんなに官能的に書くことある???猫と女とひっそりと過ごした男の最期は…。
    「尼港の桃」収録作で一番久世光彦でございという作品だと思う。今際の際で陛下を慕い呼ぶ父親…そしてそれをただ見下ろす妻子…。家族より何より陛下を愛した父親に、子どもは何を思うのか…。
    「同行二人」フグ毒の解毒のために人糞食わせるのマ?????と思ったら吐かせて治す当時の迷信の一種だったらしい。怖過ぎる。
    「いけない指」お恥ずかしながら不勉強なもので、ここで井上日召を知りました。血盟団事件…一人一殺…右翼…兄と妹…昭和初期の生臭いにおい…。うーん久世光彦だ…。
    「響きあう子ら」母親の淫らな幻視の血を引く紺屋の三姉妹。それでも妻を愛おしんでいた父親の最後の台詞が…言い様もなく好きですね…。
    「桃ーお葉の匂いー」女衒の子、妾の子、どれも等しく桃の子に違いない。

  • 「桃」をモチーフにした短編集。
    どの話もねっとりとした湿った空気を感じる。
    直接的表現はほとんどないにもかかわらず、
    文章から匂い立つエロティシズムに圧倒される。
    画像をイメージすると、全体的に薄暗いのに、
    クッキリと桃の色や花の色が目の前に広がる。
    熟れた桃の果汁の匂いも漂ってきそう。

  • 勝手に言うなら、概ね不幸な女子の話である。
    そして概ね、流行りの言葉で言うなら、性的に搾取されているとでも言うべきか。
    そこには必ずやってる男子がいて、それを読むオッサンとしては、けしからんとなる。いやー、この気持ちはオッサンにしか分からんか。
    と言っても最初の話はニャンコとオッサンの話で、いちいちオッサンがいやらしい気持ちでネコを見るという実に気持ち悪くて最高である。
    こういうのでいいんだよ、と言いたい。

  • 香り立つ色香

  • 3.68/141
    内容(「BOOK」データベースより)
    『父の通夜にきた女の、喪服からのぞいた襦袢の襟の色(「桃色」)。女が出て行ったあと、卓袱台のうえに残された腐りかけた桃の匂い(「桃―お葉の匂い」)。濃密で甘く官能的な果実をモチーフに、紡ぎ出される八つの短篇。』

    目次
    桃色/むらさきの/囁きの猫/尼港の桃/同行二人/いけない指/響きあう子ら/桃-お葉の匂い


    桃色
    (冒頭)
    『父の通夜は、町外れの小さな寺で行なわれた。九月はじめの六時といえば、まだ日が残っていて、境内の桧の繁みでは昼蝉がうるさく鳴いていた。父はさほど人づきあいが多い方ではなかったので、会葬者も少なく、住職のお経がはじめって十五分もすると、喪服の客たちの大半は焼香を終えて、国道へつづく草の径を二、三人ずつ固まって帰っていく。』


    『桃』
    著者:久世 光彦(くぜ てるひこ)
    出版社 ‏: ‎中央公論新社
    文庫 ‏: ‎229ページ

  • 桃に纏わる官能的な八つの短編。
    久世さんは二.二六事件や血盟団事件など、好みのモチーフを描いてくれるから嬉しいのだけど、なにぶんやり過ぎてしまう。ここで止めておけば品がいいのに、こってりと盛り付けるから、文学を通り越して演歌や昭和歌謡になる。それもまた魅力でもあるのだけれど。
    濃厚な味付けでちょっと胃もたれ気味。
    とはいえ「むらさきの」と「尼港(ニコライエフスク)の桃」それから、〆の「桃 お葉の匂い」は素晴らしい。この三編だけでも充分価値ある短編集。

    「桃色」ちょっと嫌悪感。女性に対する妄想部分で、どうしても相入れないところがあるのだなー。でも、久世さん、これが好きなんだね。この後にも、同じようなシチュエーションが何度も出てくるから。

    「むらさきの」は上村一夫的な、不良少女がイカしてる。この作品こそ、久世さんらしい、俗っぽさと聖性の危ういバランスが光っている。

    「尼港(ニコライエフスク)の桃」は謎解きの楽しみもあり、物語の楽しさをたっぷり堪能。最後の「桃」は久世さん思い入れの女の名前、「お葉」が登場する怪談。怖いというより、可愛らしく、物哀しい物語。

  • 桃にまつわる、昭和初期の怪しくも美しい物語8編。現代よりもより死が身近であった時代。傍では悪い人生だったであろうに、当人にとって本当のところはどうだったのだろうか?がテーマか。全て佳作であるが、「尼港」の首と父の晩年、「指」のひどい仕打ちの客観視、「二人」の間際の救い、「響き」のもう一度同じ境遇に生まれ変わり、もう一度繰り返せたらよいねという送り言葉の4編が特に気に行った。

  • 花が咲き、実り、熟し、崩れ落ちる落陽。

  • 『桃色』、『むらさきの』、『囁きの猫』、『尼港の桃』、『同行二人』、『いけない指』、『響きあう子ら』、『桃-お葉の匂い』の8篇を収録。喪服の下の桃色の長襦袢、テロリストに殺された祖父の部屋で暴漢に桃を投げつける少女、豆本を作る男に猫が連れてくる死、亡き父のトランクを見てそのトランクにあった虐殺された生首の写真束の思い出、足抜けし1人は梅毒を患ったお遍路をする女郎2人、兄の仲間達に輪姦される妹、母と姉達に連なる淫奔の血、女衒が目にする死んだ女達といった様に死とエロティズムに溢れた桃をモチーフにした作品集。

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著者プロフィール

久世光彦

一九三五(昭和十)年、東京生まれ。東京大学文学部美術史学科卒。TBSを経て、テレビ番組制作会社を設立、ドラマの演出を手がける。九三年『蝶とヒットラー』でドゥマゴ文学賞、九四年『一九三四年冬――乱歩』で山本周五郎賞、九七年『聖なる春』で芸術選奨文部大臣賞、二〇〇〇年『蕭々館日録』で泉鏡花賞を受賞。一九九八年紫綬褒章受章。他の著書に『早く昔になればいい』『卑弥呼』『謎の母』『曠吉の恋――昭和人情馬鹿物語』など多数。二〇〇六年(平成十八)三月、死去。

「2022年 『蕭々館日録 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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