黒い手帖 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 61
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122045170

感想・レビュー・書評

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  • 自作の創作ノートを公開し、舞台裏を明かした随筆……確かにそうなのですが、そういう内容で書かれたものを寄せ集めた本です。例えば「推理小説の発想」の章は『推理小説作法』という本に入っていたものです。ですから面白そうだと入手しても、既読の文章だったりする訳です。
    『日本の黒い霧』の舞台裏も本編の方がよほど濃いですし、現実の事件を推理したものも短いせいか、どこか切れがないように思いました。
    それにしても現実に人が死んだ事件を指して、「面白い」と書いてしまうのには時代を感じますね。

  • 随筆とは知らずに読んだのだが、思いの外読みやすく、なかなか興味深い内容だった。エンタメ小説か純文学かという議論は、今日では余り意味をなさないものになってしまったが、私が学生の頃などはまだそのような議論はあったと思う。松本清張氏の論は今で言えばほぼ常識であるが、当時はかなり異質な説として文壇から嫌われていたのかもしれない。
    それにしても、現実の殺人事件に対して、推理小説家が真面目に自分の推理を展開した文章が雑誌等で発表されているというのはさすがに時代を感じる。

  • あくなき真実の追求、執念ともいえる知識への欲求。
    松本清張が自らの作品を例に「推理小説の発想」を語り、創作ノートを公開する。
    戦後最大の「社会派」推理作家が執筆の舞台裏を明かした、推理小説よりもおもしろい「推理随筆」。

  • 推理小説ブームになった。特に女性の間で人気である。
    このことについての松本清張の見解は、近頃の小説がつまらなくなったからだと言っている。

    いつも似たような杉の繰り返し、同じような人物のシチュエーション、変わり映えのせぬ背景、それらの反乱にロマン小説の愛好者である女性読者が退屈し、本の途中からあくびをしはじめたからではあるまいか、と言っている。
    また、その間隙を、ともかくもサスペンスがあり、謎があり、人間の智慧の掃討を主題にした推理小説が進出してきたのであろう。普通の小説があまりに一色になりすぎたため、読者がその平板さに飽き、変った小説を手に取り始めたという現象と言えないだろうか、と言っている。

    ・中間小説というのは、大体、純文学畑の作家が、みずから調子を落として書く面白さを狙う小説だということになっている。

    ・作家の才能の素質は、言葉の便利の上で言えば、私小説的な構成の型と、物語的な構成の型とに分けてよかろう。

    ・トリックを主体とした探偵小説を本格派といい、それから外れたものを変革派と言った。

    【一般に犯罪は、金銭の上のこと、愛欲、復讐、自己防衛と言った動機から起ることが多いと思われます。こういうものは、われわれが人間生活をしている以上、いちばん多いケースであることは勿論で、これを否定するわけではありませんが、それ以上に、もっと人間的な感情とか意識から生れる犯罪だってあるのではないでしょうか。われわれが、普通平凡な日常生活を送っているときには、まったく影をもとどめていないように見えるけれど、実は自分でも気のつかない意識を心のどこかにもっている、ということが考えられるのです。そして、ひとたび、なにか異常な事件にぶつかると、ヒョイとその隠された意識が飛び出し、それが行為に発展するのではないかと考えられます。したがって、隠された意識、われわれが気がつかないところの第二の意識、奥底の意識を引き出して、それから起るところの事件なり犯罪は、それこそ相当人間性の突っ込める分野ではないかと思います。】

  • 純文学の神殿から逃亡した読者は、それでただちにいわゆる大衆文学の面白さにつくか。大衆文学は面白さに奉仕している文学である。しかし、これはあまりに奉仕が露骨すぎて、かえって面白くないのである。
    サマセットモームは作家は必ず旅行をしなければならないとしきるに説いている。人間を観察する上に旅行ほどいい方法はない。
    いろいろな事情で旅が不可能な場合、どうしてその要求をみたすべきか。地図を広げてそのうえをたどりながら、自分が実際にその時に旅行したような空想にふける。

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著者プロフィール

明治42年(1909)福岡県生まれ。処女作「西郷札」が直木賞候補となり、昭和28年(1953)に「或る『小倉日記』伝」で芥川賞受賞。昭和33年(1958)の『点と線』は、「社会派推理小説」のブームを招来した。ミステリーから、歴史時代小説、そして歴史の論考など、その旺盛な執筆は多岐にわたり、生涯を第一線で過ごした。平成4年(1992)、永眠。

「2020年 『人間水域』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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