海のふた (中公文庫)

  • 中央公論新社
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レビュー : 225
  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122046979

感想・レビュー・書評

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  • 少し前に映画を観たけれど、映画とは少し違う部分もあって、当たり前のことだけど原作のほうがよしもとばななワールド炸裂だった。

    小さな町での、まりとはじめちゃんのひと夏の物語。
    ふるさとの西伊豆に戻ったまりは、かき氷屋を始めたばかり。
    母親の友人の娘であるはじめちゃんは、大切な人をなくして傷ついていて、ゆっくりとした時間を過ごすために西伊豆にやってきた。
    ともに時間を過ごしながら、2人は自分らしく生きる道を探し始める。

    基本的にはわがままで独りを愛する部分があるまりとはじめちゃんが、本当は時々お互いを鬱陶しいと思いながらも(そういう描写は出てこないけれど)、一緒の時間を過ごすことで2人でいるのもいいなと思い始めて、しばしの別れ際には本気で淋しいと思う、そういう関係性が素敵だなと思った。
    人と一緒に生活するのは鬱陶しいし面倒くさい。でも、それを超えた感情も確かに存在する。
    ともに過ごすことで相手の嫌な面が目に付くこともあるけれど、それ以上に相手の良い面を見つけて尊敬したりする。そういうことが自分の生き方を見つめなおすきっかけになったりもする。

    おばあさんをなくしたばかりで傷ついているはじめちゃんの言葉や経験で、あぁすごく解るなぁ、と思う部分があった。
    人が死ぬと周りが醜く見える、というのはよくある話で、遺産やお金のことで揉めたり、取り合ったり…自分の利益にならないことは押し付けあったりして欲をむき出しにする。
    私も自分の父親が死んだときそういう場面を目にして、「自分は欲で醜くならないようにしよう、せめて誰かが傷ついているときだけでも」と心に誓ったことを思い出した。
    欲しいものや行きたいところなどの欲は必要なものだけど(それで仕事をがんばろうと思ったりするし)、誰かの持ち物を取り合うような欲は持ちたくない。
    はじめちゃんは心からおばあさんを愛していたからこそ目を覆いたくなった。その気持ちは、ものすごくよく理解できた。

    スピリチュアル要素は薄く、海辺でのゆっくりした時間を感じられる、癒しの小説。
    自分らしさを見つける、自分らしく生きる、って勇気がいるし、一生かかっても難しいものなのかもしれない。
    それを得はじめた2人のたくましさがいいなぁと、素直に思った。

  • 主人公のまりちゃんの地元が寂れていく過程を読んで、あれどっかで。。。と思った。そして、よくよく考えたら私の生まれ育った故郷が、まりちゃんの地元と同じ寂れ方をしていたのに気付いた。

    私の地元は温泉街で観光地。母はそこでずっと育って今も、生活している。母が小さかった頃はまりちゃんの幼少の頃の地元のようにうちの地元も賑わっていて、よく東映のスターなんかが撮影にきたと言っていた。

    私の地元に限った事ではなくて現在、日本全国に昔は繁盛していたけれど今はもう。。。という場所って、少なくない気がする。そこでいくとこの本は、そういう場所に対しての1つの警鐘を鳴らしているようにも捉えられた。

    そして、まりちゃんとはじめちゃんは驚くほどにシンプルに丁寧に毎日を送っていること。
    ちゃんと自分らしく、あるがままに生きている2人。
    なかなか難しいけれど、この2人のような生き方が出来たらと感じている。
    私は、まりちゃんとはじめちゃんの優しくて温かいやり取りを読み進めていく内に大好きになったし、まりちゃんやはじめちゃんのような友達が欲しいと思った。

    文体もとっても美しくてシンプル。
    何か素敵な音色を聴いているような。
    素直に心に響いてくる言葉。
    ページの要所に出てくる版画絵も綺麗。

  • 小平奈緒選手の吉本ばななレコ本、これでコンプ。
    東京の美術短大を卒業して、故郷の西伊豆に帰ってきてかき氷屋を始める主人公のまりが、実家にとある傷を負ったことでひと夏居候することになったはじめちゃんと出会い、海や山や自然に触れながら、静かに友情を育んでいく物語。
    はじめちゃんは大好きなおばあちゃんをなくしたばかり。そして、幼い頃におった火傷がはっきりと顔と体に残っている。2人の友情が芽生えていく様子が、とても、自然で心地よかった。はじめちゃんのまっすぐな言葉、良いな、と思った。
    数年後、2人がかき氷屋をやりながら、世界の子供達にぬいぐるみを売るその後の話も読んでみたいなと思った。
    小平選手レコ本の中では一番良かったかな。

  • 今年読んだ中でいちばんすき。日常のしあわせを描写するじんわり温かな表現。まりとはじめちゃんの言葉に表れてる生き方に対する姿勢。とっても美しくて、ほっとする。肩に力が入って苦しくなったら、この本を読もう。

  • 夫と同名の映画を見てから、そういえばここ10年ほど、よしもとばなな作品を読んでいないなぁ、と思って、ブックオフで中古本を買ってきて読みました。

    私は「キッチン」が話題になった頃(当時海外在住の中学生だったのですが)から「ハードボイルド/ハードラック」あたりまでは全作(エッセイ含む)読むくらいのファンだったのですが、「アムリタ」あたりからのスピリチュアルな作風に違和感をおぼえて、その後よしもと作品からは遠ざかっていました。
    だから「海のふた」を読み始めたときも、「また失望することになったら嫌だな」と恐れる気持ちもあったのですが、結果としては恐れを覆す、よい読後感に満たされました。

    寂れてしまった地方の町。
    私は旅行やハイキングが好きなので、房総半島や鬼怒川など、昨年だけでも結構いろいろと歩いて回っているのですが、そのときに抱いた、たとえば「地方都市は疲弊している、壊れた建物を撤去するお金もないんだ」という感想がふっと蘇ってくるような瞬間が、この本を読んでいて何度もありました。

    私はこの本を、疲れてしまった人間の再生だけでなく、疲弊した街や地方共同体、自然環境を再生していくための静かな決意表明だと感じました。
    かき氷屋さんの経営で自活、という設定には非現実的な印象を持つものの、その根底にある、自分の好きなこと、自信の持てるもの、そしてずっと続けられそうなもの、を仕事にして、生活の糧を稼いでいくことの大変さと大切さを、ばななさんらしい筆致で綴られた、良作だと思いました。

  • 群ようこさんの、かもめ食堂を思わせる物語ですが、やはりその中によしもとばななさんのエッセンスが散りばめられていて、味わい深かったです。版画も美しくて、画集のようでした。

  • 変な生き物は、どんな姿形をしているんだろう。上質な生地を使って作られた、手の平サイズのぷりぷりしたぬいぐるみ、私も欲しいです。

    かき氷好きな主人公と、火傷の跡があるいとこのお話。

  • ごくごく沁み渡る、大切な1冊。
    普段以上に、生きること、伝えたいことが
    いっぱい溢れ出てたのかな、と思う。

    覚えておきたいフレーズが多すぎて、
    素敵で厳しくて哀しくて優しい
    たくさんの言葉たちと、大きな愛に包まれる。

  • よしもとばななさんの作品をちゃんと読んだのは初めて。
    ふとタイトルと表紙に惹かれて手に。

    起伏があってクライマックスがあって、、という作風では決してないのだけど、人間の「生きる」が本当に自然な流れの文章に詰め込まれていた。

    どの登場人物もすごく人間らしくて、繋がり方がどことなくリアルで血が通っている感じ。

    主人公の母の人物像が素晴らしかったな。個人的に。

  • 読むと主人公たちと同じようにスローライフを送っている気になり、リフレッシュできた。自分の身の回りの人、手が届く範囲の物を大切にすること。そして、「どうにかなる」と楽観的に考え、前向きでいること。簡単そうに思えるけど、主人公たちのように振る舞うのは難しい。でも、それが人生の闇に飲み込まれないためには必要なのかもしれない。

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著者プロフィール

吉本ばなな(本名:吉本 真秀子 よしもと まほこ、旧筆名:よしもと ばなな)
1964年、東京都生まれの作家。日本大学芸術学部文芸学科卒業。卒業制作の「ムーンライト・シャドウ」が日大芸術学部長賞を受賞。また「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞、デビュー作となる。
1989年『TUGUMI』で山本周五郎賞を受賞。1996年イタリアのフェンディッシメ文学賞(35歳以下部門)、1999年イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門を受賞。2000年『不倫と南米』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。その他代表作に、映画化された『アルゼンチンババア』などがある。
海外での評価が高く、著作が多くの国で翻訳されてきた。

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