中国美人伝 (中公文庫 ち 3-41)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122048829

感想・レビュー・書評

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  • 匈奴に嫁いだ後の王昭君がどんな様子だったのか、何かわかるような本がないかと探してみたら、この本を見つけたので読んでみた。

    中国で王昭君について作られた戯曲なんかは悲劇的な話のようだけど、この短編集の中の王昭君は幸せそうで、読んでいて清々しかった。

    西施の章を読んだ後に、実際の西施は呉滅亡後にどうなったのかググってみたけれど、河に沈められたとも、生き延びたとも言われているらしい。
    http://www.japanchina-shizuoka.jp/article/16470251.html

    秦の後の漢の時代。
    卓文君

    薛濤 せっとう
    唐の時代の詩人。
    この小説の中では、レズビアンとして描かれているけれど、実際はどうだったのかしら。
    この人の詩を読みたいと思って検索したけれど、日本語訳のものはないのかな?
    https://kotobank.jp/word/%E8%96%9B%E6%BF%A4-87385#goog_rewarded

    花開不同賞 花開けどともにめでる人はなく
    花落不同悲 花落ちるもともに悲しむ人はなく
    欲問相思処 あなたのところはいかが?
    花開花落時 花ひらき花しぼむころなど

    「皇后羊献容」
    「唐の房玄齢(ぼうげんれい)たちのあらわした『晋書』は、正史であるが、いたって評判がわるい。妖怪のことや、いかがわしい予言のことを大真面目に載せ、ぜんたいに誇張が多いといわれている。」p.126

    「『晋書』はいかがわしいが、じつは晋という時代もいかがわしい時代であった。のちに塞外民族に追われて、建業(けんぎょう 後の南京)に遷ったので、それ以前を西晋、以後を東晋と呼ぶのがふつうである。だが、これは後世の史家が、便宜上呼び分けているだけで、当時の人は、どちらも、ただ晋と称していたので、ここでもただ晋と呼ぶことにする。

    晋の皇室は司馬氏である。(中略)。曹氏の魏に仕え、その重臣として、しだいに天下の実権を握った。司馬懿(しばい)(あざなは仲達)は、五丈原で蜀の諸葛孔明と戦った将軍であり、その子の司馬昭は蜀を降すという大功を立てた。司馬昭の子の司馬炎の代になって、魏から禅譲を受けて、晋という新王朝を創建した。禅譲などというが、力ずくで乗っ取ったのである。

    司馬炎が秦の初代皇帝で武帝と謚(おくりな)された。彼の代に呉が降り、「三国志」の時代に幕がおりたことになる。」p.127

    「呉を降して、武帝が最もよろこんだのは、呉の後宮の美女五千が手に入ったことである。これによって、晋の後宮の女は一万になったという。彼は毎晩、羊のひく車に乗って、後宮をまわり、それがとまった局で一夜をすごすことにしていた。女好きではあるが、いささか横着でもあった。
    賢い宮女は、羊の好物の塩を局の門前にふりまき、羊車がそこでとまるようにしたという。これが日本にも伝わって、水商売の店の盛り塩になったのだろう」p.128

    「晋は封建の体制をとり、二十数人の皇族を各地の王に封じ、兵馬の権と官吏任免権を与えていた。皇族だけではなく功臣に公、候、伯、子、男の爵を授け、公と候には兵力保有が許されていた。

    これは魏の滅亡の教訓から学んだことだった。魏は曹操の性格もあって、極端に権力を集中する、独裁体制をつくった。皇族は王に封じられるが、小国であり、兵権らしいものはなく、朝廷から派遣されるお目付け役が、いつも目を光らせている。文帝(曽丕 そうひ)の弟の曹植は、せめて皇族間の交際を許してほしいという上表文を書いている。参内して国に帰るとき、兄弟その他の皇族と同行することさえ許されなかった。虐待といってよかった。

    そのため魏王朝が危地に陥っても、皇族はそれを救う力もなく、その意志さえ失っていたのである。
    呉が降伏したあと、公、候の兵は撤去されたが、皇族諸王の兵権はそのままであった。いざというとき、朝廷を助けるための兵力だが、権力を争って、皇族間の乱戦になるおそれもあり、晋はまさにそうなってしまった。」p.138

    「権力は魔物である。」p.139

    土木の変
    https://www.y-history.net/appendix/wh0801-052.html

  • 中国の歴史上、伝説的な美女七人を取り上げた小説集。
    取り上げられたのは、西施、卓文君、王昭君、皇后羊献容、薛濤、萬貴妃、董妃の七人。
    有名な美女というと、楊貴妃や西太后が思い浮かぶけれど、そこは外してのこのラインアップ。
    私なんぞは、辛うじて西施と王昭君を知っていたくらい。

    しかし、面白かった。
    いや、正直に言えば、目まぐるしい王朝交代や、皇帝の代替わりなど、中国史に疎い身にはつらい部分があったが。
    それでも彼女たちの波乱万丈な生涯には、思わず引き込まれる。

    西施や王昭君のように、過酷ともいえる役割を引き受け、全うした潔い生き方があれば、権謀術数に明け暮れながらも独自の美意識から景徳鎮の磁器を洗練させた萬貴妃も面白い。
    実家の没落により詩妓となり、横暴な主人韋城武に抱えられるも、そこから逃れ、その正妻玉笙と愛を育み、彼女の死後は紙漉きでも力を尽くした薛濤には、思わず応援したくなってしまう。
    七人の女性たちのたたずまいが想像できるかのようだった。

  • 日本人によく知られている「西施」と「王昭君」を含め7人の女性達の生涯が書かれています。
    数年前に中国の荊州を訪れた時、王昭君の像があり「王昭君はここから遠い匈奴へ行く事になっていしまい、可哀想に…。」と思いなから像を眺めていましたが、この著書を読み「王昭君は(私が考えている程)悲劇の女性ではないのかもしれないと考え方が変わりました。また西施も美しいだけでなく、なかなかの切れ者だという事が分かり勝手に思い描いていたかよわい西施が崩れました。
    陳舜臣氏の本を初めて読みましたが、短編集になっているせいかもしれませんが非常に読みうやすい一冊でした。

  •  陳舜臣氏が集めた中国の美人とはいったい誰と誰か?本書では全部で7人を取り上げている。
    1.西施(春秋)
    2.卓文君(漢)
    3.王昭君(漢)
    4.皇后羊献容(西晋)
    5.薛濤(唐)
    6.萬貴妃(明)
    7.董妃(清)
    の7人である。
     この中にかの楊貴妃が入っていないが、著者はあとがきの中でその理由を述べている。つまり楊貴妃については若い頃に一度詳しく書いて発表しているから、あらためて書く気にならなかったらしい。

     著者の陳氏は物語るときによく歴史的事実に基づいて解説を挟む。読者の中にはそれがうっとうしいという向きもあるようだが、私にはそうは感じられない。適宜、適切な解説が加えられることによって、その物語の理解も深まるというものだ。
    特に本作のような短篇集では、あまり詳細でもない解説が話の流れを知る上で欠かせない。やはり歴史小説である以上、前後関係を知らないと面白みがないと思うのだ。

  • 中国史において、女性について書かれた史料は少ない。
    それは孔子が女性の地位を低くするようなことを言ったから(孔子はそのつもりはなかったかもしれないけど結果的にそう受け止められている)だそうだけど、とにかく女性は名前すら記録されないことも多々あった。

    そんな少ない史料で、メジャー・マイナー区別なく陳氏が選りすぐった「美女」にまつわる短編集。
    当人だけのことじゃなくて、当時の国の背景・王朝の様子・関係者の人物像・陳氏の歴史推察なども書かれている。

  • 妖のある話、とだいたい同じ感想。
    破壊の女神、妖のある話、中国美人伝を同じ時期に読んで、頭が混乱したのは秘密(登場人物ほぼ同じ。当り前だけど)。

  • 一編ごとに楽しめた短編集でした。
    名前を聞いたことがあるひとも、そうでない人も、著者の手によってその人生や周囲がしっかりと描写されています。時も場所もはなれたその場へと思いを馳せながら読みました。

  • 陳さん著作を続けて読破。
    短編集なので、細切れに読んでも十分楽しめた。

    人名が多すぎて脳内で収集つかなくなるときもあったが
    それでも話のあらすじを掴むには問題なかった。

    その時代によっても違うだろうけど
    昔の中国の美人像って
    どんなのだったか、興味あるなー。

  • 気晴らしに丁度良い。
    けれど、ちゃんと読み応えもあり、ただの軽薄気晴らし本とは雲泥の差。

  • 瓊瑶の還珠格格を思いだす。

  • 陳舜臣さんの作品。比較的マイナーの女性を取り上げているので興味深かったです。詳しくは<a href="http://d.hatena.ne.jp/rockfield/">こっち</a>に書いてあります。

  • 古今に知られる美人7人に焦点を当てていますが、彼女たちに関わる人物も女性に負けないほどに書かれています。
    さほど有名でない女性も描かれていますが、陳舜臣さんの文とあって読みやすくとっつきやすいかと思います。

  • 独創的な美人伝。さすが陳ワールド。豊富な知識に裏づけられたフィクションは非常に面白い。完成までに12年間も要し、その間に病に倒れ、震災にあい、様々な体験をしたこともこの一編に深みを与えている。

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著者プロフィール

1924年-2015年。神戸市生まれ。大阪外国語大学印度語部を卒業し、終戦まで同校西南亜細亜語研究所助手を務める。61年、『枯草の根』によって江戸川乱歩賞を受賞し、作家活動に入る。その後、93年、朝日賞、95年には日本芸術院賞を受賞する。主な著書に『青玉獅子香炉』(直木賞)、『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』(日本推理作家協会賞)、『実録アヘン戦争』(毎日出版文化賞)、『敦煌の旅』(大佛次郎賞)、『茶事遍路』(読売文学賞)、『諸葛孔明』(吉川英治文学賞)、『中国の歴史』(全15巻)などがある。

「2018年 『方壺園 ミステリ短篇傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

陳舜臣の作品

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