十二人の手紙 改版 (中公文庫 い 35-20)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122051034

作品紹介・あらすじ

キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、手紙だけが物語る笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ。

感想・レビュー・書評

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  •  「昨日の夕方まで、お父さんやお母さんのそばにいたのに、幸子はいま東京の下町の空の下でこの手紙を書いている、本当に夢を見ているみたいです。」
    で、始まる就職のため上京した娘が両親に送った手紙。うん、やっぱりええなあ。昭和の育ちの良いお嬢さんは普通にこんな手紙書かはったんはなあ…と思い読み始める。
    同じ娘が親友に宛てた手紙
    「おみつ、昨夜はお見送りありがとう。……ひとことで言っちまうと私はもう家にいたくないの。おやじとおふくろ、いつも喧嘩ばかりしてるんだ。……」
    弟に宛てた手紙
    「弘にまで心配かけてごめんなさい。私と社長のことが噂になってしまって……噂は本当です。」
     一人の娘が、両親、恩師、親友、弟、愛人へと書いた手紙によって明らかにされる、彼女の真相、その後の運命。これはプロローグの『悪魔』。
     その他、一人の女性と彼女の肉親の“出生届”、“死亡届”、“転籍届”、“婚姻届”、“妊娠届出書”、“罹災証明書”、“死産証書”、“家出人捜索願”、“起訴状”など届出ばかりで、綴られる『赤い手』。
     家庭環境から逃げるため家出し、女優になる夢と挫折、遺書を“演劇部顧問だった憧れの高校教師”に宛てて書き続けた娘。しかし、その手紙の真相と宛先の真相とは……『シンデレラの死』。
     二十五年前の高校生の時から自分のことを一途に思い、未だ独身だという、貿易会社の社長から熱い手紙と高級ブランドプレゼントが何度か届く『泥と雪』。しかし、その相手とは…?

     なとなど、12人の人の手紙のやり取りが、それぞれ別の短編となっている。何れも、淡々とした手紙のやり取りや熱い手紙、切迫した手紙のやり取り(または一方通行)の先に、落とし穴、ユーモア、闇、悲哀、虚無、皮肉などが待っている。ミステリーではないが、ミステリーを期待していないのにトリックやどんでん返しがあって面白い。最後にこの12種類の手紙に関係した登場人物たちが集合するミステリーのようになっている。さすが売れっ子脚本家、井上ひさし。

  • ブクログからオススメされた本。
    初読みの井上ひさしさん。

    前半はダラダラと読んでしまい、途中でやめてしまおうかと思ったが続けた。
    12人の人物それぞれの短編となっている。手紙のやりとりから、その生い立ち、人間模様や出来事が見える。
    最後の章では、時を経てこの12人全員が偶然同じホテルに宿泊していて、事件が起こる。これまでに登場した人物の現在の様子も描かれている。
    このような展開は初めてで、面白かった。こう来るかーと思った。読んでよかった。

  • 読友さんの感想を読んで、大好物の書簡体小説とのことで手に取る。昭和初期のノスタルジーに浸るだけではなく、人生ドラマが集約された濃い内容。暗い、怖い、辛い内容なのだが、何故かどんどん引き込まれる。12人の手紙の内容は不倫、偽装、兄弟愛など多様。特に、公的文書(出生届、転出届、妊娠届、、、死亡届)からある人物の人生を視るが、恐怖でしかない。最後の登場人物の”集結”は井上ひさしの小説だからこその不思議な魅力を実感した。書簡体小説は好き嫌いがあるようだが、まずはこの本を読んでから判断をするべきかもしれない。

  • 匠の一品、の一冊。

    書簡だけで綴られ魅せられる世界、面白かった。

    昭和臭はもちろん、予想外、ほんのり哀しみありとそれぞれ単独でも充分楽しめる世界。

    面と向かっての会話とは違う、書簡ならではの表現の仕方も印象的。
    そして、味わい楽しみながら連れていかれたエピローグ。
    なるほど、仕掛けが巧い。

    まるでズラリと仕上がったメニューが並ぶ食卓を見たよう。あ、あの時の食材がここに…あの食材とこの食材がここで見事にこう仕上がったのね…と思い浮かべる感嘆のひととき。

    書簡のみ、構成、仕掛けが巧く調理された匠の一品ってやつかしら。

  • 書簡形式の12の短編集。ショートショートストーリーで隙間時間にサクサク読めました。どのお話も面白く、読み応えがありましたが、私が特に印象に残ったのは、「葬送歌」「赤い手」「ペンフレンド」「鍵」「里親」です。
    人の手紙を読むってドキドキします。

  • 井上ひさし初読み。昭和感ある濃厚な世界にはまり終わりではたと手紙だったことに気がつく。どんでん返しより人間ドラマに圧倒された。

  • まず、ジャケ買いしてしまいそうな表紙が印象的。気がつけば(井上ひさしさん)ずいぶんと久し振りだった。手紙形式の小説だけが持つ味わいがある。書き手の心情、返信する人の気遣いなど様々な人間模様があらわれて引き込まれた。

  •  ここ最近、『四捨五入殺人事件』などと並べて仕掛け売りをしている書店棚も見受けられ、リバイバルがさて盛り上がるかどうかと再注目されている機運をにわかに感じる、言わずとしれた巨星・井上ひさし。
     そんな、演劇などでも言葉遊びといった趣向に定評がある著者による小説の中でも、とりわけ特徴的な、終始「書簡スタイル」を貫いて書かれているという、若い試みと確かな技巧が光る連作短編集が、この『十二人の手紙』です。

     これを知ったのは10代の時、新書館によるブックガイドシリーズの1冊、池上冬樹編『ミステリベスト201 日本編』で紹介されているのを見て目を引いたからで、気になって割とすぐに入手して読んだように記憶していますが、初版1978年にも関わらず未だその当時の鮮烈な印象は忘れがたいし、再読しては唸らされてばかりという胸に刻まれた一冊に。

     書簡スタイルと先述したものの、いわゆる広範な意味での「文書」のみという内容で、仕事上のビジネスライクな挨拶文から、便箋(時代的にメールではないですから…笑)で十数枚にも及んで逼迫した経緯を仔細に知らせる親類への手紙、婚姻届や死亡診断書、請願書、作中作としての小説や戯曲、関係者が残したメモなど、多種多様な色合いの「文書」の往復と記録を追うことで浮かび上がる十二の物語は、いずれも手紙の語りから滲み出る感情の起伏や、簡素な届出文書ゆえに無慈悲に示される顛末などによって、時にスリリングに、時に物哀しく、また時に意外な着地に膝を打つようなドラマが浮かび上がり、そのバリエーションの豊かさにも驚かされます。
     さらにラストの13編目では、少しずつそれまでのエピソードの糸を撚り上げて決着させるというミステリ的な趣向としても仕掛けが施されており、その語りの深さとテクニックに感嘆した後、もう一度他のエピソードを読み直したくなること請け合いの、書簡文学のマスターピースだと思います。

     ちなみに個人的な推しの1編は『葬送歌』です。

  • もともと書簡体の小説はあまり好きではなく、これまで手にすることはほとんどなかった。手紙文という形式上、抑揚の少ない文体で綴られていることが多く、ドラマティックな展開になる作品にほとんど出会えなかったからである。

    本作を手にしたのは、書店で「どんでん返し」と書かれた宣伝文句とともに平積みになっていたからであり、さらには著者が井上ひさし氏という期待感である。

    タイトル通り、十二の書簡体での小編からなっている。それにプロローグとエピローグを加えて、正しくは十四篇の作品を集めたものである。書簡体といっているが、中には役所などに提出する事務的な書類への記載で構成された作品もある。これらの集まりで一篇の物語を生み出してしまうのは、井上ひさしという作家の面目躍如であろう。どの作品も、氏らしい趣向がこらされていて、これまで敬遠してきた書簡体の小説が、かくも楽しいものかと再発見できる。

    プロローグとエピローグは、その間で綴られる十二編の物語と関連してくる。ゆえに本作は短編集という体裁になってはいるが、一冊を一気に読むべきである。個々の作品に巧みに織りこまれた作者の企みと作品全体に潜ませた企み、これらをすべて味わい尽くすには、すべてを通して読むしかない。書簡体といっても、著者の滋味豊かな文章でつづられた本作は、単調になるなどということはなく楽しんで読むことができるだろう。

    手紙という形式で、かくも豊かな表現ができるものかと驚いたと同時に、手紙は実は書き手の内面を生々しいまでに晒してしまうものなのだと感じた。

    単なるどんでん返しの繰り返しではない。それぞれの作品に、各々の趣向をこらせて、アイロニーの効いた作品に仕上げている。SNSをはじめとするデジタルデバイスを前提としたツールが氾濫している現代、手紙というアイテムは前時代的かもしれない。だが、今読んでもそうした古めかしさは感じない。それは井上ひさしという偉大な作家の圧巻の筆力に依るものであろう。

  • 手紙にちなんだ短編集かと思いきやで面白かった。
    「玉の輿」が個人的にはすごく好き。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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