- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122051980
作品紹介・あらすじ
路面電車が走る町に越して来た青年が出会う人々。商店街のはずれのサンドイッチ店「トロワ」の店主と息子。アパートの屋根裏に住むマダム。隣町の映画館「月舟シネマ」のポップコーン売り。銀幕の女優に恋をした青年は時をこえてひとりの女性とめぐり会う-。いくつもの人生がとけあった「名前のないスープ」をめぐる、ささやかであたたかい物語。
感想・レビュー・書評
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ある時飲んだスープが美味しくて、また飲みたいなーと考えてしまう話だと思っていた。
が、そんな受け身の話ではなかった。
安藤さんの三つ目の仕事だからサンドイッチ屋で、だから単純に店名がトロワ。
なかなか美味しいと、人気のある店のようだ。
主人公はそのサンドイッチ屋に勤めることになり、新商品としてスープ作りもまかされる。
仕事というのは誰かのためにすることなのだ。
その「誰か」をできるだけ笑顔の方に近づけることが仕事の正体ではないか。
サンドイッチ屋は、そういう「仕事」だと感じながら働いていることが伝わってきてうらやましい。
都市に暮らす人々は様々な日常を過ごしていて、不安や苦悩やストレスも少しづつ積み重なってくる。
そうした都市生活に疲れた人たちに向けて、
「何かに行き詰ったり弱り果てたときは、とにかく温かいもので腹を充たすべし。」
と伝え、最後にスープを飲むところで終わる話を書きたかった。
という想いが本作品を書くきっかけだったようだ。
物語の舞台となる「月舟町」は、吉田篤弘さんが生まれ育った世田谷の赤堤をモデルにしている。
そして吉田篤弘さんが通った赤堤小学校には、(当時は面識がなかったが)二学年上に岸本佐知子さんもいたことを知り「姉」と慕うようになる。
互いの家の中ほどの十字路の角に教会があり、この教会を食堂に差し替えたのが前作の「つむじ風食堂」だ。
「それからはスープ…」では、その教会を復活させ、さらに「姉」を登場させている。
(そんな裏話など知らずに読んでいたので、「姉」の登場場面を読み直しました)
「月舟町」三部作の最後は、月舟シネマの「犬」が主役らしい。
楽しみに残しておこうかと思っていたが、「月舟町」シリーズ番外編が2冊あることを知ったので早めに読もう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
路面電車の走る、月舟町の隣町。「僕」と知り合う人々。その関わりがじんわり温かい。皆それぞれ哀しみや悩みを抱えているけれども、それを優しく包み込むサンドイッチとスープ。
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ブクログ仲間さんたちにものすごく愛されていて、気になってしょうがないのに
図書館には例のごとく置いてなくて、古書店でも見かけたためしがなく
それほど「この本は私の宝物!」率が高いのだなぁ、と予想はしていましたが。。。
ほんとうに、巡り会えてよかった♪としみじみ思える本でした。
隣町の「月舟シネマ」に通い詰めるオーリィ君ではないけれど、
ゴトンゴトンとのんびり走る二両編成のかわいい路面電車も
アパートの窓から見える教会の白い十字架も
ガラスの向こうで流れるような手順で作られる、トロワのサンドイッチも
野球帽をかぶった少年となって口笛をふきながら銀幕を横切るあおいさんも
ぐつぐつ音をたてる鍋から、温かい湯気をたてて器に注がれるスープも
小さな映画館のスクリーンに映し出されるセピアがかった映像のように
温かく、柔らかく、目の前に浮かび上がるのです。
ハラハラドキドキするような事件は何ひとつ起こらないけれど
憧れ続けた銀幕の中の少女が、時をこえておばあさんになって現れても
変わることのない崇拝を胸に、シャツもジーンズもスニーカーも新調して
彼女を訪問するオーリィ君のように
スープの冷めない距離にいる(あるいは、いてほしい)誰かをいつも心に描きながら、
ささやかな日々の暮らしを大切に生きたいと思わせてくれる、素敵な物語です。-
takanatsuさんも宝物にしてらしたんですね♪
ほんとに雰囲気のある、素敵な本でした。
ちょっと巻き舌で、「オーリィ君」と
お洒落で素...takanatsuさんも宝物にしてらしたんですね♪
ほんとに雰囲気のある、素敵な本でした。
ちょっと巻き舌で、「オーリィ君」と
お洒落で素敵なおばあさん女優さんたちが呼びかけるのを
ぜひ本当にスクリーンで観てみたいと思ってしまったりして。
吉田篤弘さんは初めて読んだので、
これから追いかけていきたい作家さんになりました(*^_^*)2012/08/23 -
まろんさん、こんにちは。
この本、私も宝物にしていますよー♪
まろんさんのレビューを拝見し、
「そうそう、そうなんだよね!」と頷くことばか...まろんさん、こんにちは。
この本、私も宝物にしていますよー♪
まろんさんのレビューを拝見し、
「そうそう、そうなんだよね!」と頷くことばかり。
再読したくなっちゃいました♪
吉田さんの紡ぐ言葉って、特別な表現はひとつもないのに胸に沁みこんできちゃうんですよね。
ところで吉田篤弘さん、初めて読まれたのですね!
この作品を気に入られたのなら、
「つむじ風食堂の夜」もぜひ読んでいただきたいです(*´▽`*)b2012/08/23 -
おお!永遠ニ馨ルさんも、この本を宝物に!
ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。
そうそう、飾り気のない言葉で書かれているのに
風...おお!永遠ニ馨ルさんも、この本を宝物に!
ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。
そうそう、飾り気のない言葉で書かれているのに
風景にも、会話にも温かさが溢れていて、
とても穏やかで懐かしい気持ちになりました♪
この本は図書館になかったのに、
なぜか「つむじ風食堂の夜」は置いてあったので(ばんざ~い♪)、
早速予約入れてみます!
教えていただいて、ありがとうございます(*^_^*)2012/08/24
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「ただいま」「おかえり」
今日も「ちょっとした不運」と「ちょっとした幸運」がこの町に住む人々の間で繰り返されながら日が暮れていくようです。何気ない毎日が愛おしくて仕方がなくなる一冊です。
何かに夢中になったり、何かを失くしたり、何かを祈っている……そんな毎日のなかで、ふと振り返ればそこにはたくさんの「そういえば」が転がっていました。もう思い出すこともできない「そういえば」が増えていくことに何だか寂しさを感じてしまうのは、あの頃の自分には戻れないことに気づかされるからかもしれません。でも、その積み重なったさきに「今」という時が刻まれています。そんなあたりまえのことが、実はいちばん忘れちゃいけない大切なことなのでしょう。
この時間を忘れずにいること。
そんな時間がひとにはあるのです。 -
ゆったりしたテンポで描かれる心地よい小説。
「暮らしの手帖」に連載されていたそうです。
路面電車の走る町に、仕事をやめて引っ越してきた青年・大里。
隣町の映画館<月船シネマ>によく通っているのが主な理由だった。
部屋の窓からは、隣の教会の白い十字架が見えるのも気に入っている。
道行く人が「3」とかかれた袋を持って歩いているのを不思議に思っていたところ、「トロワ」というサンドイッチ屋があるのに気づく。
3と書かれているのはトロワの袋だったのだ。
シンプルなサンドイッチがとても美味しい店に通うようになり、店主の安藤さんと息子で小学4年生のリツとも親しくなっていく。
リツくんにはオーリィと呼ばれます。
「そろそろお客さんをやめてほしい」と安藤さんに言われた大里は拒否されたかと動転するが、店で働いて欲しいという意味だった。
サンドイッチの作り方を初歩から教えてもらい、それに合うような美味しいスープを工夫することに打ち込むようになっていく。
月船シネマでは古い映画がよくかかり、大里はそこに出てくる脇役の女優の実はファンなのだった。
緑色のベレー帽をかぶった女性に、映画館でよく出会うことに気づいて‥
不思議な縁とひととき通い合う心が心地よい。
嫌な人が誰も出てこない、どこにでもありそうでいて、ひととき夢の中に入ったような世界。
主人公が天職を見つけたと考えれば、何も起こっていないわけではないけれど。
サンドイッチやスープが食べたくなること請け合いです! -
人気もあるようだし、余韻のあるタイトルが素敵だな…と手に取った。
それに吉田篤弘さんは別に読み始めている螺旋プロジェクトのメンバーでもある。
それはもう、優しくて温かい物語だった。
想像よりも、ずっと。
美味しいスープとパンが食べたくなった。(皆さんもきっとそうに違いない)
食べるなら、パン屋さんの焼きたてパンがいいな。
スープは、出来ればとろりとした濃厚なポタージュがいいな。
「すれ違う人が、皆、その紙袋を抱えている」という冒頭で、もう物語に入り込めた。
実際、食パンブームが世の中に訪れた頃、話題のパン屋が駅前に出来て、似たような景色が広がった事があったのだ。
登場人物もみんな素敵だった。
その街も、住む人々も、目に見えるようだった。
リツ君なんて特に。
少しだけ時がゆっくり流れるこんな街で、生活できたら素敵だろうな。。。
音楽と本と珈琲とたまにスコッチ、庭には季節ごとの山野草が咲いて、それに映画館と美術館があったら最高だなー(←欲まみれ)
緑色の帽子の老婦人の正体については、まぁ、そうだろうなーという着地だったけれど、
やっと気付いてくれたか、というタイミングで気付くところが、オーリィ君らしくて良かった。
そこへ宙返りの森田君までもが気持ち良く着地するのも、とても心地が良かった。
最近話題になる本は、重かったり不穏だったりが多いように感じていて、途中退場してしまう人が居ないこの小説に、とても癒された。
そして、とてもスープが作りたくなっている。
(ボサノバを聴きながら読んだのも、小説が心地良かったことに繋がってるのかな。)
巻末の、後書きにかえた桜川余話もとても素敵だった。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」が生まれる切っ掛けや、その他の吉田さんの小説の始まりが明かされており、
他の作品も読んでみたくなった。
吉田篤弘さんの内側に広がる、思い出と創作の交わった世界が素敵で、まだまだ浸りたい。
因みに空気公団の「音階小夜曲」はSpotifyで聴けた♪
吉田篤弘さんのお顔が見たくなって画像検索してみたら温かみのあるお顔で、
なんだか可愛らしい洋食店のシェフのような、喫茶店のマスターのような、
でなければ画廊のオーナーのような雰囲気だった(個人的感想)。
奥様との共同名義でクラフト・エヴィング商會としても活動していて、
実在しない書物や雑貨などを手作りし、その写真に短い物語風の文章を添えるという形式の書物をいくつか出版、ブックデザイナーとして書籍のデザインも手がけている…等とあって、ほぇ~素敵なご夫婦!と、ときめいた。
そうそう。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」を読んでいる間、不思議と昔の出来事が思い出された。
単に私が歳を取ったせいかもしれないけれど。
映画館や腕時計については特に、急に思い出した幾つかの事柄があった。
オーリィ君の「そういえば」が移ったのかな。
【ここからは只の私的な思い出話です】
時計の章で、オーリィ君と同じような事を思った。
「はたして、これまでにいくつ時計を買い換えただろう。」
ずっとずっと昔、いつだったか、街の時計屋さんで腕時計を買って貰った事があった。
買ってくれたのは誰だったか…。
「昔からある時計屋さんだから、こういう店が丁寧で安心なんだ」みたいな事を言われた記憶はある。
こんな事を言うのは父っぽい。
父が誕生日かクリスマスに、買ってくれたのかもしれない。
その後、家族で隣の市に引っ越したのだが、この街が好き過ぎて私はここに戻ってきた。
以来、引っ越すことはあっても、この街は出ていない。
そしてその時計屋さんは、なんと今も同じ場所で時計屋を営んでいる。
それから私は幾つかの腕時計を巡ったのち、NEWMANとOMEGAの腕時計を愛用するようになった。
今となっては時間の確認はスマホだし、腕時計はアクセサリー感覚なのだけれど。
それから映画。
まだ私は10代だったと思う。
憧れていたバンドのボーカルさんに映画に誘われた。
彼は7つか8つくらい年上で。
誘われた映画館は大人の街、銀座だった。
パン屋で買ったパンを食べながら映画を見た後、勝鬨橋の掛かる辺りを歩いたりした。
きっとなかなか素敵なデートコースだったのだろうけど、
パン屋でパンを買って映画館へ……なんて初めてだった私は、よりによってパイ生地パンを選んでしまった。
あんなにボロボロこぼれるパン、映画には不向きなのに。
まだ全然子供だった私は、映画館は地元で流行り物を見るだけだったし、きっと普段はポップコーンとコーラだったのだろう。
もう少し大人になってから、その映画館がシネスイッチ銀座であったと知った。
当時の私はパイ生地パンに手こずって恥ずかしかっただろうな、相手の方が優しくて良かった、微笑ましい思い出だ。
そんな初々しさを失ってからは 笑、小さな映画館に自ら出掛けたりした。
明るいうちから当時の同僚とビールで乾杯し、渋谷のシネマRISEでほろ酔いのまま「アラキメンタリ」を見た事もあった。
一時期、アラーキーの写真にハマっていたからだ。
2階席から映画を見るのは不思議な感じだったな。
ジム・ジャームッシュ監督の「ブロークン・フラワーズ」を見たのはどこだったか…地下に降りてゆく映画館だった。
音楽が最高で、その場でサントラを買って帰ってきた。
「ラブ・アクチュアリー」の試写会が当たったと友人に誘われた時は、スガシカオのミニライブが付いていて感激した。
それらアレコレが、「それからはスープのことばかり考えて暮らした」を読んでいる最中に溢れだした。
忘れていた出来事だったのに色々思い出してしまった。
人の記憶は不思議だ。
オーリィ君の時を越えた恋が、私をセンチメンタルにさせたのかもしれない。 -
主人公のオーリィ(大里)が、映画を観ながらサンドイッチを食べている場面で、あまりの美味しさにマダムに買った分まで食べてしまったシーンがありました。
本当に美味しいものは、ついつい食べてしまう気持ちわかります。
皆さんのレビュー通り、スープとサンドイッチ(手作り)が無性に食べたくなります。温かくゆっくりとした時間が流れる、心地よい物語でした。 -
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」
おもしろいタイトル、一体どんな話だろうと読む前から想像力が掻き立てられる
今回は月舟町のお隣の町桜川に住む人々の日常だった
「つむじ風食堂の夜」の姉妹作ということらしい
町中を走る二両の路面電車、アパートから見える教会の白い十字架、商店街のしっぽにあるサンドイッチ屋、隣町にある小さな映画館・・・時代から取り残されたような穏やかな町とそこに住む人々の人の良さに、どっぷりと包まれる心地よさ
サンドイッチのお店トロワの安藤さんの遠慮がちなラブコールで、オーリィ君はそこで働くことになる
憧れの遠距離恋愛の恋人あおいさん、大家さんのマダム
小生意気なリツ君、時代遅れというより昔ののんびりした時間の中に悠然と身をおいているかのような安藤さん、月舟シネマの青年・・・
そんな人たちによって紡がれる変わり映えのしない日常が愛おしくいかに尊いかが分かる
温かい湯気に包まれたいい香りがしてきそうなスープの描写も楽しくお腹が鳴りそうだった
月舟シネマの16席離れた席から漂うスープの香り
あおいさんが作ったスープを口にした時に発した野生の声
スープのことばかり考えてやっと出来上がったスープの試食の場面
そして、最終章は、『名なしのスープのつくり方』
これがまた傑作だが、読んだ人だけが分かるお楽しみということで・・・
この作品の冒頭オーリィ君が自己紹介するくだりの
「このごろは、犬もレインコートを着るくらいだから」
から、次作のタイトルはこれにしてしまおうとなったらしい
吉田篤弘さん、相当ウィットに富んだ人のようだ
『レインコートを着た犬』も楽しみだ
著者プロフィール
吉田篤弘の作品





