猫 (中公文庫)

  • 中央公論新社 (2009年11月21日発売)
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本 ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784122052284

感想・レビュー・書評

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  • クラフト・エヴィング商會、井伏鱒二、谷崎潤一郎、他『猫』中公文庫。

    1955年に中央公論社から刊行された単行本『猫』を底本に新たにクラフト・エヴィング商會の創作・デザインを加えて再編集した『猫』を文庫化。

    今の時代に税抜きでも552円の文庫は非常に珍しい。行きつけの本屋にクラフト・エヴィング商會の文庫本が4作も山積みされていたので思わず大人買いしてしまった。姉妹作に『犬』がある。

    12人の作家による猫をテーマにした短編19編を収録したアンソロジーである。物語があれば、エッセイもある。

    有馬頼義『お経はちきり』。猫は不思議な生き物だ。特に牝猫となると神秘なる存在である。我が家の牝の黒猫もいつも何を考えているのか不思議でならない。お経と勘平の兄弟の猫。お経の腹に何やらしこりが出来、医者に診せると尿が溜まったものと言われる。ところがお経は失踪し、再び姿を見せるとしこりの部分に噛み切った跡が見付かる。お経は自分で腫瘍の手術をしたのか。

    猪熊弦一郎『みつちやん』。猫は悪戯をして喜ぶ。我が家の黒猫は性格は良いのだが、気に入らぬことがあると障子を人質にする。疎開先に連れて行った猫のみつちやんが巻き起こした騒動。

    井伏鱒二『庭前』。猫は時に野生を見せる。我が家の黒猫は家の中に潜んでいた蛙を見事退治してみせた。最近は全国的に異常繁殖しているカメムシを見付けてくれる。猫と蝮の息詰まる対決を描いた短編。

    大佛次郎『「隅の隠居」の話 猫騒動』。『「隅の隠居」の話』と『猫騒動』の2つの短編。『「隅の隠居」の話』。猫は最初の一年で二十歳年を取り、次の一年から四年ずつ年を重ねるとある。ということは我が家の黒猫は今年で28歳ということか。「隅の隠居」とは十五年飼っているお爺さん猫のこと。人に媚びず、隠居の気概さえも感じるお爺さん猫は大往生を遂げる。『猫騒動』。十一歳で癌にかかり亡くなった猫の思い出。私の家に殴り込んで来た一匹の猫。猫も癌やAIDSにかかるらしく、我が家の黒猫も癌の予防も含めて5種混合ワクチン接種をした。

    尾高京子『仔猫の太平洋横断』。日本に帰国する直前にロスアンゼルスのレコード屋から貰い受けた二匹の仔猫は船に乗って太平洋を横断する。我が家の猫はまだ動物病院に行く時しか車に乗ったことが無い。車に乗る時はゲージの中。動物病院に向う20分の道中、ずっと不安そうに鳴いている。しかし、動物病院に到着するやご機嫌で、愛想良く振る舞うので、看護師のお姉さんたちには凄く可愛がられている。

    坂西志保『猫に仕えるの記 猫族の紳士淑女』。『猫に仕えるの記』と『猫族の紳士淑女』の2つの短編。『猫に仕えるの記』。人間が猫に仕えるというのはよく解る。物言わぬ猫だけに人間が猫に対して気を遣わなざるを得ないのだ。『猫族の紳士淑女』。猫を様々な人間に例えて観察した記録。

    瀧井孝作『小猫』。猫は突然現れる。我が家の黒猫も夜にいきなり網戸に張り付いて来たのが最初の出会いだった。家にやって来た二匹の小猫。娘は飼いたいと言うが、主人公と妻はそうは思わない。

    谷崎潤一郎『ねこ 猫 −マイペット 客ぎらひ』。谷崎潤一郎は余程猫が好きだったようだ。『ねこ』と『猫 −マイペット』、『客ぎらひ』の3編。『ねこ』。如何に猫が素晴らしいかということを綴ったエッセイ。『猫 −マイペット』。飼い猫の思い出を綴るエッセイ。『客ぎらひ』。来客嫌いの谷崎は猫のように尻尾があったらと空想する。

    壺井榮『木かげ 猫と母性愛』。『木かげ』と『猫と母性愛』の2編。 『木かげ』。飼い猫に起きた悲劇。いつの時代にも動物を虐待する不埒な輩がいるものだ。『猫と母性愛』。多産な飼い猫が子猫に注ぐ母性愛。

    寺田寅彦『猫 子猫』。『猫』と『子猫』の2編。『猫』。猫嫌いの主人公の家で飼い始めた猫。主人公は次第に猫の虜になっていく。『子猫』。二匹の子猫を飼い始めた主人公。猫がもたらす日常の変化。

    柳田國男『どら猫観察記 猫の島』。『どら猫観察記』と『猫の島』の2編。『どら猫観察記』。スイスには蓄犬税なる税金があると言う。猫には蓄猫税は無く、相当数の猫が飼われている。という所から犬と猫の違いを考察する。『猫の島』。田代島という猫島には犬を飼ってはいけない、上陸させてはいけないという言い伝えがある。伊豆の式根島にも同様の言い伝えがある。

    クラフト・エヴィング商會『忘れもの、探しもの』。可愛い黒猫のイラストと童話のような物語。

    本体価格552円
    ★★★★

  • 名だたる著者の、猫にまつわる短編集。
    その時代の日常も感じられ、描写の巧さに当時の生活も感じとれます。
    また、雌猫のお産に触れた作品もあり、生き物を飼うにはしっかり知識も必要だと、責任を伴うと改めて思いました。

    当時の原文の記載になっており、言葉を読む愉しさもあります。

  • 1955年出版の『猫』を底本として、クラフト・エヴィング商會の創作とデザインを加え再編集したもの。
    底本の筆者たちははいずれも、明治・大正の生まれ。
    描かれる風景も、縁側のある木造の民家をほうふつとさせる。
    それぞれの時代の、動物とのふれあいや関心が描かれている。

    有馬頼義 『お軽はらきり』
    自分で手術した猫。

    猪熊弦一郎『みつちやん』
    猫を連れて疎開し、農村で問題を起こす。
    猫の世界にも戦争があった。

    井伏鱒二『庭前』
    蝮と猫の攻防。

    大佛次郎
    『「隅の隠居」の話』
    不細工で孤高のおじいさん猫の話。
    『猫騒動』
    どう見ても「うちの猫が外で作った」猫が乱入して大喧嘩!
    そっくりで見分けがつかな~い!

    尾高京子『仔猫の太平洋横断』
    米国滞在から帰国する船待ちの日々、立ち寄ったレコード屋さんの子猫たちに一目ぼれして…

    坂西志保『猫に仕えるの記』『猫族の紳士淑女』
    正直なところ、猫に「飼われて」いる。
    彼女のところに通うにも飼い主に同行させる箱入り君と、ろくに子育てもせず、楽しいことだけして優雅に暮らし、気がつくと、いつの間にか孕んでいる貴婦人猫。

    瀧井孝作『小猫』
    よその子猫をたまに可愛がるくらいがいいかな…

    谷崎潤一郎
    『ねこ』
    犬はジャレつく以外に愛の表現を知らないが、猫は技巧的。
    『猫――マイペット』
    美しいだけの猫はすぐ飽きる。利口なのがよい。
    『客ぎらひ』
    呼ばれて返事をするのが億劫な時、猫は聞こえたという合図に尻尾だけ振ってみせる。
    自分も、客の長話に飽き飽きしてきたとき、返事をせずに尻尾だけ振っているつもりになる。

    壷井栄
    『木かげ』
    優雅な猫をもらって育てたが、近所の身元正しい雄猫たちの求愛を撥ね退けて、庭先に来る汚いどら猫とねんごろに。
    『猫と母性愛』
    一番の出来そこないの末っ子を溺愛した母猫と、いつまでも乳離れできないその子猫。

    寺田寅彦『猫』『子猫』
    貰われてきた三毛のメスは、家の姉妹に愛玩されすぎて、ストレスでやせてしまう。
    あとから貰われてきた猫は、行儀悪く野性的だが、なんとか仕付けた。
    月夜に、二匹並んで庭を眺める後ろ姿を見ると、不思議な気持ちになる。

    柳田國男『どら猫観察記』『猫の島』
    民族学者らしい、猫にまつわる言い伝えなどの蒐集と考察。
    牛馬犬などの家畜と明らかに違い、猫は人に飼われていない。
    人がいなくても生きていける。
    人は人で、そんな猫に、信頼できぬ部分や油断ならぬものを感じて、「化ける」「復讐する」といった言い伝えを残すのだろう。

    クラフト・エヴィング商會『わすれもの、さがしもの』

  • 著者たちと猫の距離感が心地いい。どの時代にも猫に飼われる人間はいるのだなぁ。
    個人的に坂西志保と寺田寅彦がお気に入り。

  • 最後の詩はかわいい。

  • タイトルからして猫好きな人が手に取る本、なのに求めるような内容では決して無いと感じました。飄々とした猫さながらの話もあるんだけど、ちょっとツライ話もあって、なんかそれをここに入れなくてもいいのにって思った。アイコンとしての猫好きならあれなんだけど、猫と共に生きてる人にはわかりすぎてツライ。時代がちがうから猫との距離感が違うんだろうけど、そにかくそう感じました。

  • 犬か猫かと訊かれたら猫派の私。作家の猫愛はとっても伝わってくるのだが、現代の猫好きさんには辛くなるような猫描写もあり。よくぞ集めに集めたり、ってかんじ。

  • 13人からなる「猫」に関するエッセイ(や、物語)。猫好きにはたまりませんが、昔と今では猫に関する考え方や接し方もまた、社会的ありようも変わったなと考えさせられたりもします。

    ●私は猫に対して感ずるような純粋な温かい感情を人間に対して懐く事の出来ないのを残念に思ふ。さういう事が可能になる為には私は人間より一段高い存在になる必要があるかも知れない。それはとても出来さうもないし、仮りにそれが出来たとした時に私は恐らく超人の孤独と悲哀を感じなければなるまい。凡人の私は矢張子猫でも可愛がって、そして人間は人間として尊敬し親しみ恐れ憚り或は憎むより外はないかも知れない。(「子猫」寺田寅彦より)

  • 猫文学史(あるのか)に残る名アンソロジー!
    ほろりとしたり笑ったり、しかし背景にあるのは猫と人間と戦争の話でもある。
    なにげなく猫が隣にいる生活のなんと泰平なことよ。

    「月が冴えて風の静かな此頃の秋の夜に、三毛と玉とは縁側の踏台になつて居る木の切株の上に並んで背中を丸くして行儀よく坐って居る。そしてひっそりと静まりかへつて月光の庭を眺めて居る。それをじつと見て居ると何となしに幽寂といったやうな感じが胸にしみる。そしてふだんの猫とちがって、人間の心で測り知られぬ別の世界から来て居るもののやうな気のする事がある。此のやうな心持は恐らく他の家畜に対しては起こらないのかも知れない」
    寺田寅彦
    「猫」

  • 猫に関する随筆集。
    物語というよりは、エッセイ。
    各作家の猫にまつわるあれこれが、まとめられている。

    今から90年以上も前の作品もあったりする。
    「呼ぶと尻尾で返事をする」など、今でも見られる猫の生態が垣間見える。
    一方で、昔ならではの、なかなかえげつない描写もある。
    なので、ほっこりしたい、とかには向かない。

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