歴史入門 (中公文庫 フ 14-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122052314

作品紹介・あらすじ

二十世紀を代表する歴史学の大家が、代表作『物質文明・経済・資本主義』における歴史観を簡潔・明瞭に語り、歴史としての資本主義を独創的に意味付ける、アナール派歴史学の比類なき入門書。時間軸を輪切りにし、人間の歩みを生き生きと描き出す、ブローデル歴史学の神髄。

感想・レビュー・書評

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  • 著者まえがきによれば、本書は1976年にアメリカのジョン・ホプキンズ大学で行った講演の際に用意したテキストで、『物質文明・経済・資本主義』全体の大まかな内容を紹介したもののようである。

    もし上記の著作を読んでいない場合は、本文を読む前に解説に目を通して、アナール派やフェルナン・ブローデルの基本理念についての概略を知ってからのほうが良いかもしれない。

    正直に言うと、何度読んでも難解で、読み終えても「読んだ」という感じがしない。

  • 邦題にはかなりの違和感がある。原題を訳せば『資本主義を動かすもの(La dynamique du capitalisme)』。この本はブローデルの『物質文明・経済・資本主義』という大著の概要や考え方を簡潔に提示した本だ。話は『物質文明・経済・資本主義』で扱われたトピックに限られており、例えばE.H.カー『歴史とは何か』のように、歴史そのものについて大構えで論じたようなものではない。歴史学の泰斗が学問全体について語ったのかと期待すると肩透かしを食う。

    原題から分かるように、この本でブローデルは資本主義が成立する仕組みついて語っている。ブローデルと言えば歴史の流れを短期、中期、長期と分けて考察したことで知られる。これらはその後、出来事événement、複合状況conjoncture、長期持続longue dureéと変容される。この本および『物質文明・経済・資本主義』ではタイトルからも連想されるとおり、物質生活、市場経済、資本主義の三つの概念図式が取り上げられている。とはいえ、これら3つが短期・中期・長期にそれぞれ対応するわけではない。短期の層に当たるものはなくて、物質生活は長期持続、後の二つは複合状況にあたる。

    物質生活とは交換経済に入ってこない自給自足の生活のこと。こうした素地の上に市場は成り立ってくる。ブローデルはこの物質生活の層に目を配ることを注意している。市場経済をあまりに重視することへの懸念を述べている。

    「[...]井戸の中を覗きこんで、底深くたまった水にまで眼をやることが、つまり、市場価格がその表面に達することはあっても、必ずしもその中にまで潜り込み、かきまわすことまではできない物質生活という奥深い領域にまで目をやることが重要なのである。だから、二重帳簿を持たないような経済史、即ち井戸の縁と底にたまった水の両方を見ないような経済史は、ひどく不完全なものとなろう。」(p.58)

    物質生活の上に成り立つ市場経済は、二階層からなるものとされている。第一階層は市、商店、行商人からなる。第二階層は大市と取引所(p.35)。前者は個々の都市にある市場(いちば)であって、後者はそれらをつなぐ役割を果たす。資本主義を生み出したのは第二階層だ。第一階層はそれぞれの都市の市場のルールに縛られた、公的なマーケットとされている。第一階層の市場はときに活動を束縛するような、透明性と競争を重んじる中にある。市場といっても生産者と消費者は近く、その需要や利益はほぼ予測可能な範囲だ。

    こうした市場に商人たちが安穏とするわけもない。遠方の異なる市場とのアービトラージを狙う人々が現れる。それはプライベートなマーケットというか、ブローデルはこれを「反-市場」(p.71)と表現する。遠方の、誰も知らない市場との取引になるわけだから、適正な利益水準は推し量れない。この取引は競争の上手く働かない、不公平な交換となる。そしてこれによって、資本主義を生み出すような膨大な資本が蓄積されていったという見取り図だ(p.70-80)。

    第一階層の市場はいわば生命体の毛細血管に当たる。個々のローカルな細胞間の物質のやりとりを行う経路だ。第二階層の市場はより遠方と物質のやりとりを可能にする経路、すなわち動脈や静脈である。例えば、中国では市場は個々の都市に限定され、大市は周縁的なものでしかなかったことが、中国で資本主義が発展しなかった理由だとされている。それと違って、日本では大市が発展した(p.47f)。

    ブローデルの考える資本主義の発展モデルを平易に述べた本として興味深い一冊だ。簡潔に読める。ただ、歴史入門というものではない。

  • 今までの歴史は事件や戦争などに焦点を当てていた。
    例えば
    1789年 フランス革命
    1937年 日中戦争
    など。

    でも本当の歴史はいろんな要素が複雑に絡み合って、その結果として事件などが起こる。そこでブローデルは、本当の歴史は事件や戦争に焦点を当てても理解できないと思い、その背景にある経済や文化などに焦点を当てた。
    この視点の変化により「なぜ」歴史はそう動いたのか、という流れが理解されるようになった。
    この「なぜ」というのを理解するためには心理学、経済学、社会学、地政学、政治学など色々な学問に精通しておく必要がある。
    一つの見方ではなく、色々な学問を使った総合的で多角的な歴史アプローチを発明したのがブローデルである。
    これにより、初めて歴史が時間的にも空間的(グローバル的)にも繋がるように認識されだした。
    それ一個だけで生じている歴史的事件などは一個もなく、全ての出来事が時間的にも空間的にも関係しあっているのだ。
    つまり、ヨーロッパで起きたルネサンスが資本主義になり、日本の明治維新に繋がっており、第二次世界大戦にも繋がっているのだ。

  • 自らの著作「物質文明・経済・資本主義」を紹介する1976年の講演を元にした本。ちょっと取りつき難い大著の要点が、薄い文庫本にまとまっているのは有難い。しかし、「その要点が良く理解できましたか?」と問われると、それはまた別問題。30年超を隔てているせいか、日仏の差か、何か大事な前提を理解せずに読んでいる気がする。マルクスとか?

    テーマは15〜18世紀の世界史。西欧中心だが、日本・中国・インドも少しだけ視野に入る。

    歴史の背後にある「長期持続」に焦点をあてる。
    ⇒言わんとする所は何となく分かるが具体的にはムツカシイ。
    「日常性の構造」「物質生活」・・・意識には上らないが、人間が腰の上まで漬かっている。人口、病気、食物、技術、そして貨幣と都市。ユングの集合的無意識みたいな心性史までいきたかったが言及できなかった。

    市・大市・取引所
    市の門をくぐると「使用価値」に加えて「交換価値」が生じる。・・・経済生活、しかし18世紀までは経済生活外の自家消費の世界の占める割合は非常に大きかった。
    ⇒素朴な市が発展して、大商人による独占になり、資本主義へ。このあたりがイマイチ理解できず。
    ヨーロッパ以外との比較・・・日本は交換の上位の段階がヨーロッパに次いで発展していた。中国は原始的な段階のままで充足。⇒国土の問題?分権的な封建主義による?

    「市場経済」と「資本主義」を別物として区別する。
    資本蓄積。アンシャンレジーム期のフロー:ストック=1:3〜4。
    市場経済A(非資本主義):透明な交換、ほどほどの利益、仲介者は少ない
    市場経済B(資本主義的):「流通の領域」、プライベートマーケット、商人の長い連鎖→莫大な利益、資本蓄積

    資本主義発展の条件・・・ウェーバー批判
    社会秩序の一定の平穏さ、国家の中立性ないし脆弱性ないし好意→私有財産の数世代にわたる蓄積
    ここでも日本の類似性を指摘。中国、インドは君主の権利が強すぎ。
    資本主義が階層を発明したわけではない。しかし大きな問題意識は、、、<blockquote>階層は、人間同士の従属関係は、打ち壊されねばならないのだろうか?p.98</blockquote>

    世界時間⇒よくわかりません
    世界経済(グローバル経済)≠世界=経済(地域的な経済世界)
    中心化&脱中心化、ヨーロッパの中心の変遷・・・1380年代〜ヴェネチア、1500年代〜アンヴェルス、1590-1610頃〜ジェノヴァ、1650-1660頃〜アムステルダム、1780-1815頃〜ロンドン。
    北ヨーロッパはコピー商品などで力づくで地中海世界から覇権を奪ったと。
    中心に対して辺縁が貧しくなる、搾取される。同心円状に異なる経済段階が共存。
    イギリスに至ってはじめて、それまでの都市国家による経済から国民経済へ。
    なぜイギリス?→それは難しいよ。現代でも経済的に離陸できない低開発地域があるくらいだし。・・・地方から人口が流出しても生産能力が失われず、新産業は充分な労働力を見出せた。国内市場は物価高騰にもかかわらず発展。技術革新。外国市場。木綿産業のブームが終わった後も、資本は速やかに鉄道に移動した。国民経済全体の、基底の経済の活力による発展。

    最後の資本主義論はよく分からん。資源と機会の搾取。合法的独占。

    最後により定量的な歴史学への希望を述べて締め。

  • 贈与論読む前に読むと、(ブローデルの)資本主義における交換の立ち位置・重要性を頭に入れた上で読めるのかなと思った

  • 内容はなかなか難しかったけど、薄かったのでかなり読みやすかった。
    ブローデルの歴史観について簡単な理解があるとより読みやすいかなあ。

  •  難しかった

  • (88)

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    著者の「物質文明・経済・資本主義」を簡潔・明瞭にまとめたアナール派歴史学の入門書
    歴史は好きでも歴史学という物をほとんど知らない自分としては初めて読む本にほ適した本だったと思う。
    ただ、読んだのが1ヶ月近く前だったので、内容をほとんど覚えていない。いつか、もう一度読む必要がありそうだ。

  • 原書名:La dynamique du capitalisme

    第1章 物質生活と経済生活の再考(歴史の深層;物質生活;経済生活―市と大市と取引所;市、大市、取引所の歴史―ヨーロッパ世界と非ヨーロッパ世界)
    第2章 市場経済と資本主義(市場経済;資本主義という用語;資本主義の発展;資本主義の発展の社会的条件―国家、宗教、階層)
    第3章 世界時間(世界=経済;世界=経済の歴史―都市国家;世界=経済の歴史―国民市場;産業革命)

    著者:フェルナン・ブローデル(Braudel, Fernand, 1902-1985、フランス、歴史学者)
    訳者:金塚貞文(1947-、東京都、評論家)"

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