- Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122052901
感想・レビュー・書評
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5.15事件はなぜ起こったのか?犬養首相の孫、犬養道子さんの少女時代を綴る感性豊かな文章の後半はとにかく衝撃だった。再読に値する。
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ある喫茶店の本棚にあったこの本を手にとったのが最初の出会い。楽譜と装飾体の英字でデザインされた表紙の装丁に魅かれ、表題の美しい響きに魅かれた。だから、犬養道子さんがどういった人か、読み始めた時点では全く知らなかった。
14編の短編からなり、最初の1編は「陶器の人形」という題。
6歳の女の子にとって一番の大仕事は、毎年のクリスマスに1人ずつ増えていく友達(すなわち人形)に、両親に手伝ってもらいながら、名前を付け、性格付けをすること。ある日、外国から陶器製の女の子の人形が贈られてきた。女の子はすでに友達となったぬいぐるみ達と同様、名前を付け性格付けしようとしたのに、両親はその陶器の人形だけは女の子から遠ざけた。遠ざけられたら余計に近づきたい。それで女の子は陶器の人形が置かれたピアノの上に手を伸ばすけど、陶器の人形は手を滑って・・という話。
陶器の鮮やかな色彩と光沢。それが粉々になった姿。現状を理解するには女の子は幼すぎた。でも女の子はひらめく。ある日女中が柱時計の針をひょいっと後ろに戻してた。同じように時間をひょいっと戻したら、陶器の人形の姿も、自分の失敗も、元にもどるのでは・・
これを読んで、女の子の夢想的な、寓話的な話が続くのかなと最初は思った。でも後半は「維新の血」「偽主義者たち」「孤影」といった、明らかに「陶器の人形」と違うトーンの表題が並ぶ。
そして、歴史の教科書で誰もが名を知る“犬養毅”が登場する。
先の時計の針を戻して時間を戻したら、という話には続きがある。お父さんにそのアイデアを伝えたら、女の子=犬養道子さんに静かに言った。「出来ないんだよ、道ちゃん。時を戻したり、前の時に戻ったりすることは、だれにもパパにも出来ないんだよ。」
女の子が時間を戻したいと思った数年後、日本中が同じ思いをすることになる。ともに心に痛みをともなって。割れた陶器の破片と同様に、人の命を凶刃で奪い得られた歪んだ歴史も、もとに戻せない。
私にとってこの本は、犬養首相の孫の話というより、多くの個性的な面々と、両親のいっぱいの愛情と、そして孫をおもう祖父のあたたかい眼差しといった、花々と星々に囲まれた自由な空気のなかで成長していく一人の女の子の物語として楽しめた。
(2012/3/11) -
著者について何の知識もなく、どんな本かも知らずに読んだ。
登場人物があまりに有名人ばかりで、ようやくノンフィクションだと気づいた。
著者は元首相・犬養毅の孫娘。
母方の曽祖父は後藤象二郎。
政治家になる前は小説家であった父を取り巻く人々は、武者小路実篤、志賀直哉、芥川龍之介、川端康成、岸田劉生……そんな後世にまで名を残す人々に囲まれて育った彼女の感性や価値観は、まさに『本物』の上流階級の人、というべきものだ、と感じた。
決して、お金持ちという意味じゃなくて。
小学生にして、折に触れて大好きなおじいさんの命の危険を案じながら暮らすというのはどんなものだろうか。
感性の鋭く豊かな彼女は、両親の何気ない言葉や態度から、子供が知らなくてもいいことを感じてしまう。
身近な人が襲撃された時には、手を合わせておじいさんの無事を祈る。
そうでなくても、彼女が暮らす首相官邸の近くの秘書官邸には、おびただしい数の御札が届けられる毎日だったらしいし。
美しい絵、庭、贅沢な食べ物、食器、グラス、そういったもののきらびやかさも、昭和初期の戦争に向かっていく時代のドロドロした暗さも、同じように淡々と書かれている。
ただ、登場人物はみんなとてもリアルで、生き生きとしている。
わたしなんかには縁のない世界の話で共感はできなかったけど、色々と勉強になった。 -
若き日の石井桃子さんが一瞬だけ登場。ほんとに数行だけ・・
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2007.11