- Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122052949
感想・レビュー・書評
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中国歴代の王朝を華麗に彩る妓女たちを主役に据えた短編集。
まず端正で流麗な筆致に陶酔。中国の妓女というと日本人にはあまり馴染みがないのですが、南京の大河沿いに栄え史実にも言及がある花街などが舞台となる作品は情景描写も凄く綺麗。各話で主役を張る女性たちもそれぞれ芯が強く機転に溢れ魅力的なのですが、ここではとくに印象に残った三人に触れます。
「背信」
放蕩者の祖父に苦しめられていた妓女が年の離れた恩人に恋をするが……
この短編集の中では最も女性的な醜さ、汚さ、狡さや弱さが出た話。女としての唯一の幸せを願いながらそれが得られず、絶望して背信に走った妓女の心情がひどく痛々しく、ラストの琴の音が哀切な余韻を醸します。
「牙娘」
男勝りで鉄火肌、牙娘とあだ名される妓女が通いの男に持ちかけたある相談とは。
妓女が機知で嫌な男をやりこめる痛快な話。なんたって牙娘のキャラが立ってます。こういう勝気な娘さんは好きです。
「名手」
地方に左遷された官吏の耳に届いた琵琶の名手の噂。部下とともにその正体を確かめにいくが……
とにかく情景描写が美しい。終盤の琵琶と笛の掛け合いの場面は実際に音が聞こえてくるよう。飄々とした官吏の正体を最後に明かす演出が憎い。
よく言えば余韻を残す、悪く言えばあっさり目の短編集ですが、花街ものがお好きな方はきっと気に入ると思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
歴史モノではない中華なお話を描く作家さんの中で一番好きな作者の、妓女を主人公にした短編集。
7つのお話が入っている。
冒頭から、いやなんというか作者のストーリーテラーぶりに感嘆する。
どのお話も最初の一行で、時代も土地も離れた場所にすっと入り込ませてくれる感覚は、実に気持ちいい。
時代的には唐代から清の初期までと、それぞれあるけれど、そういうことはあまり関係なく、登場する妓女たちの生き方がどれもこれもとても印象的。
基本妓女の身の上話なのでハッピーエンドな話は少ないのだけど、どれも余韻があっていい。
個人的には強くて頭のいい女性が好きなので、3話の牙娘や4話の湘蓮はお気に入り。
それに5話の李師師の一本筋の通った生き方もいいなあ。あれ、解説の人と好みが同じだ(笑)
そう、この物語に出てくる妓女たちは、みんなどこか筋が通っているのだ。
誇りや矜持と言ってもいい。
それがいいね。
ラスト、白楽天と琵琶の名手との間にはなにやら逸話がありそうなんだけど、さすがにそこまで詳しくないので、あとで調べてみようかな。
ちなみに、解説を書かれたあなた。
井上作品に詳しくないなら、次は長安異神伝がオススメですよー!(笑)
追記:
白楽天の逸話は調べてみるとすぐ分かった。
彼の漢詩の代表作のひとつ『琵琶行』のエピソードだった。
いやあ、勉強になるなあ。 -
背心、牙娘、玉面が好きです。中国の妓芸や纏足文化には興味があるので、物語の雰囲気も楽しめました。
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『青天 包判官事件簿』が面白かったので、この作品も読んでみました。中国・唐から清時代の妓女(一部、陰間も)を扱った7短編。日本の吉原などの遊郭物に比べて悲惨さや陰湿さ、メソメソした感じが少ない印象です。悲しい話もありますが、中には“牙娘”のように勇ましくスカッとするような話も。
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遊女がテーマの小説は大好きなので、
それらしいものを見つけると読みたくなる。
この作品は中国の妓芸たちを主人公とした短編集で、
普段読むタイプとは異質であった。
作者は中国歴史小説の名手らしく、文章の隅々に中国の情景が目に浮かぶ。
しかし、日本モノと違い感情移入するには至らなかった。 -
明代末期の妓女たちを主人公にした短編集。
日本も吉原を舞台にした小説は数多くあるけれど、
同じように、物悲しい。 -
登場する女の人がみんな1本筋が通っていて、魅力に溢れています。短編なのでいつでも中断できるのに、気付けば一気に読み終えていました。
牙娘が特に好きです。苛烈な性格なのに、やり過ぎと思わないからっとした気持ち良さがあります。最後まで潔くて格好良いところが、すっごくもったいないです。(そこが良いのだけれど!)
ちなみに解説は自分語りが強すぎて、あれを先に読んでいたら買わなかっただろうなと思いました;花宵道中は好きなんだけど。
著者プロフィール
井上祐美子の作品





