昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053304

作品紹介・あらすじ

緒戦、奇襲攻撃で勝利するが、国力の差から劣勢となり敗戦に至る…。日米開戦直前の夏、総力戦研究所の若手エリートたちがシミュレーションを重ねて出した戦争の経過は、実際とほぼ同じだった!知られざる実話をもとに日本が"無謀な戦争"に突入したプロセスを描き、意思決定のあるべき姿を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 恥ずかしながら、僕は本書の存在を全く知りませんでした。

    本書は、元東京都知事・猪瀬直樹氏によって1983年に執筆された一冊。
    もう、35年以上前に書かれた本なのです。

    その本がなぜ、今になって『新版』となって再出版されたのか。

    いまの新型コロナ禍が関係しているのでしょうね。

    この本の舞台となるのは、日本がアメリカと戦争を本気で考えている昭和16年。
    当時の政府は、「もしアメリカと戦った場合、国としてどうなるか」ということを考えさせるために、国中の各機関や民間企業の中から30代のエリートたちを集め考えさせた。

    結論として、日本は必ず負けるという予想を立てた。その敗戦に至る経緯までも細かく。

    当時の日本は中国に進出し、それを西側諸国からけん制され、アメリカからは石油の輸出を止められた。
    石油がなければ国民は生活できない。
    それを求めるために当時の日本軍は南方インドネシアに進出したのだ。
    当然、それはアメリカ、イギリス、オランダ等の西側諸国の思惑に反しており、戦争となる。

    ならば、どうして日本は開戦に踏み切ったのか・・・。

    このあたりの細かな状況が本書では描かれる。
    当時の軍人たちも「日本がアメリカに勝てる」とは誰も思っていなかった。

    しかし、タイミングよくアメリカ海軍の拠点を攻撃し、相手の戦意を喪失させ、短期間のうちに日本に有利な講和条件をもって戦争を終わらせる。

    この夢のような、日清戦争や日露戦争のような局地的な勝利をもって戦争に勝利するという、状況を描いて軍部は戦争に踏み切った。というか、日本の政府全体が戦争やむなしという感じになっていったのだ。
    誰も「総力戦」を想定していなかった。
    日本が4年もアメリカと戦えば、じり貧で負けることはだれも目にも明らかだった。

    皮肉にも集められたエリートたちが考えたとおりの結末となった。インドネシアの石油は確保したのだが、それを輸送するための輸送船がことごとくアメリカの潜水艦に撃沈され、石油が日本本土に届くことはなかったのだ・・・。

    あまりにも無知というか、豚に真珠というか、頭のいい人たちがいて、意見を言っているのに、それを聞かない。

    この状況って、今と同じじゃないでしょうか?

    政治家が状況を見極めて、適切な対応をとる。それをしっかり国民に理解させ、納得させる。
    そして、しっかりとした国のありべきビジョンを示す。
    これが政治です。

    それができていない今だからこそ、このような本が再版され、結構読まれているのでしょう。
    巻末のあとがぎや石破茂氏との対談等、非常に興味深く読むことができた。
    なかなか、参考となる本です。
    まだまだ、日本はいろいろな面で未熟な国なのでしょうかね。

  • 学生時代に読み始めたけど、途中根気負けして頓挫してた本。
    30代になって改めて購入して読みました。

    概要としては、
    日中戦争末期から太平洋戦争開戦までの約2年間に渡って、国内の総力戦研究所で行う開戦シミュレーションや、開戦に至るまでの意思決定会議が描写されている。ただ国家の意思決定に関与する極々限られた範囲の人間の描写なので、当時の日本の庶民感情や生活感がわかるものではありません。(作者もそこを書くつもりはそもそもないと思いますが…)

    感想としては、約80年前の時代感と軍事・官僚用語などが散りばめられているので、現代とのギャップから正直読みにくさがありました。(学生時代の自分は頓挫)
    ただ自分としては、祖父母世代が年齢的に小学生の時に生きた時代であることには違いないので、当時どんな気持ちで世界を見ていたんだろうかと想像しながらなんとか読み進めることができました。

    正直そこまで理解できてはないのですが、
    末尾の石破さんとの対談だけでも読む価値はあるかなと思いました。
    戦争を知らない世代だからこそ、読んで知っておくことは大事だと思います。世代問わず自分がどんな世界のどんな時代に生きているかの意識は大事だと思うので、今後もこのような教養につながる書籍は読んでいきたいと思いました。

    戦争の流れメモ
    ・日中戦争の長期化
    ・満州の南北に拡大する戦線を支える資源が必要だった
    ・ソ連とは中立条約を結んだが、ソ連からすると独ソ関係が悪化しており好都合だった。(東の満州より西のドイツにリソースを割ける)
    ・インドネシアの石油を取りに南進する機運が高まり、現地を植民地として統治しているアメリカ・イギリス・オランダに敵対
    ・日本の南進に対してABCD包囲網が敷かれたが日本は資源獲得のため強硬姿勢を継続
    ・日本は持たざる国なので資源確保が生命線
    ・インドネシアの石油は、本国まで運ばなければ意味がない(補給線リスク)
    ・国力と資源自給率は相関性が高く、日米差は明らか
    ・アメリカイギリスとの戦争を想定していることが政府電報を傍受されアメリカにばれていた
    ・アメリカはじわじわと石油の禁輸を実施し、日本自ら南進させるよう仕向けた
    ・開戦前に、国力差で石油不足から補給線が途絶えるという敗戦シナリオが予測されていたのにも関わらず、軍部のロジックで結果的に開戦を決めてしまった。
    ・開戦、真珠湾で先制、ミッドウェーで大敗、ジリ貧になる、原爆投下、降伏。

  • 第二次世界大戦時において、日本がアメリカとの戦争を決断するに至るプロセスを、「総力戦研究所」という若手精鋭グループによる日米戦争シミュレーションのプロセスと並走させながら、その実態を暴いた著作。

  • 若手によって組織・シミュレーションされた模擬内閣の中で、戦う前から負けるという結論が出されていた。そんな衝撃的な内容から、今にも通じる「意思決定の在り方」を問いかける一冊。

  • 企業において何か新しいことを始めるには必ず「リサーチ」が行われる。敗戦に終わった大東亜戦争においても総力戦研究所という機関が設立され、官民とわず各分野のエリートが集められ対米英戦争の事前シミュレーションが行われ、敗戦という結果が弾きだされた。そもそもそういう機関があったことも知らずに読み始めてしまい、途中までフィクションだと思っていた。

    上記のような事前リサーチが行われ結果が出ていたにも関わらず、それを上層部が直視せず、ある意味決定事項として開戦に至ってしまった・・という流れは大企業に働いている当方にはとても耳が痛い話。日本人の意思決定の根底には1.過去の成功体験に身を任せすぎる 2.合理性ではなく「全員一致」という事実を重要視する 3. 責任者が責任を逃げて会議で行う、という傾向が昔からあるものだなぁ、と感じた。

  • ん~まぁ、言いたいことはわかるが、だからってどうしようもあるまい。

  • 太平洋戦争の話。
    レポート調で、細やかな取材に基づいているので、もしかしたら真実に迫っているのかもしれない。
    そういう期待も込めて(判断するのは読者である私たちですが)

    • hs19501112さん
      このレビューで(フォローさせていただいているので、レンさんの更新状況が自分のページにアップされます)この本の存在を知りました。

      佐々木...
      このレビューで(フォローさせていただいているので、レンさんの更新状況が自分のページにアップされます)この本の存在を知りました。

      佐々木譲の3部作(第二次大戦もの)を読んだ後なので、この時期の話に興味が高まっています。

      いずれ読んでみたい1冊になりました。
      2012/04/25
    • レンさん
      ありがとうございます!

      佐々木さんに比べればちょっと堅くて読みにくいですが、東条の世間で思われているイメージに疑問を投げかけるものだったり...
      ありがとうございます!

      佐々木さんに比べればちょっと堅くて読みにくいですが、東条の世間で思われているイメージに疑問を投げかけるものだったり。
      やはり状況より人が戦争を起こさせたのかな、と思える一冊です。
      誰の責任でもあり、誰の責任でもなかったような。

      私もこの時代に興味大です!
      次は赤川次郎のを読みたいなぁ、と。
      2012/05/14
  • 東京都副知事の猪瀬さんの著書。
    ツイッターをフォローしてたり、他の著書を読んだりしてたのと
    去年、自民党の石破政調会長が国会で管首相にこの本を読むことを薦めていたのをしって興味を持った。
    また、日米開戦前に総力戦研究所なるところが日米戦日本必敗をシミュレーションで出し、内閣に伝えていた事実。
    それでも戦争に向かってしまった経緯など、当時の意思決定のプロセスを知ることが出来た。また知ることで、これは今にも通じるものがあると感じた。

    また、こういう教科書とかに載らない真実を知ってびっくりした。
    歴史の知識がなく、読み進めるが大変だったけど読んで良かったと思う。

  • 3年ぐらい積んどいた後にようやく読了。なんだか身近で起きていることと似ているような…規模は違えど。現実の数字を把握しつつも結論ありきで鉛筆なめなめつじつま合わせ。リスキーシフト。TOPの判断。→敗戦

  • 戦争についていろいろ知らない事いっぱいだな。
    総力戦研究所で、
    あらかじめ敗戦が予測できていたのに、
    結局は声のでかい人の流れに流されて、
    合理的な考えが消し去られてしまう。
    個々人がもっと自分で考えられるようにならないと、
    結局は悪い流れに流されてしまう。
    今終戦後何年だかわかっていな恥ずかしい僕だが、
    過去から学ぶことたくさんありだ。
    戦争について、デリケートな問題もたくさんある。
    戦争責任と天皇陛下、東条英機、
    学校でちゃんとならっていない(学校でも教えていない部分)部分もあるが、知るべきこと多い。

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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