ポ-名作集 (中公文庫 ホ 3-2)

  • 中央公論新社
3.64
  • (21)
  • (19)
  • (26)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 346
感想 : 22
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053472

作品紹介・あらすじ

理性と夢幻、不安と狂気が綾なすポーの世界を、流麗な丸谷才一訳で再現。代表的傑作「モルグ街の殺人」「黄金虫」「黒猫」「アシャー館の崩壊」など八篇を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • NHKラジオ第2放送の「カルチャーラジオ 文学の世界」で都甲幸治先生の「黒猫」の解説にすっかり魅せられて、この作品集を手に取った。

    都甲先生はまず、アメリカという国は「理念先行国家」であると言う。
    理念先行国家とは、自由、平等、人権などの思想に忠誠を誓い、それらを順守することに納得した人たちによって建国された人類史上初の国家だということ。
    しかし先生はこうも付け加える。-人間とはそもそも、どんな高邁な思想であり理念を持っていても、それを高邁なまま実行するのは現実的に不可能で限界がある、と。

    その例として、先生はアメリカ人の「ホームランドセキュリティ」という考え方を引用する。
    つまりアメリカ人が自分たちの安全の保持という理想を掲げるとき、一方で銃の所持や対テロ戦争といった「暴力」を容認してしまい、それが仕返しや反抗などで暴力を再生産するという悪循環に陥り、暴力が止まらない状況に至っていることに象徴される。
    暴力が悪いのは小学生でもわかっている。だがそれを排除できない現実に向き合わざるを得ないという人間の矛盾を、私たちに最もわかりやすく示してくれるツールはおそらく文学だろう。ポーはそれを本能的に知覚し成就し得た作家ということなのだろうか。

    具体的に「黒猫」本文に照らしてみると、私が都甲先生の解説でわが意を得たと思ったのは、黒猫のプルートーが首を縄で縛られて木に吊るされるという描写に、アメリカ(特に南部)での黒人へのリンチという歴史的事実を重ねている点だ。
    「黒猫」の主人公は、はじめ動物好きとして描かれ、プルートーを拾って飼い始めた頃はやさしかったが、ある日から黒猫に負の感情を抱くようになる。ポーが描く主人公の黒猫に対する感情や態度の変化が、アメリカ白人が黒人に抱く一種のコンプレックス(複雑さ)の暗示なのだと私は思い至った。

    一般のアメリカ白人は、理想先行国家の一員たる国民として、人権尊重の思想を当然持つのが前提なので、黒人へも対等に接しなければという思想が念頭にあるはずだろう。しかし現実がそう単純でないのは事実のとおり。
    アメリカ白人の一部も「黒猫」の主人公も、卑下感情が無意識に広がり、ある日暴力や暴言という形で暴発してしまう。しかもその際、自分自身は良心の呵責を感じず、逆に黒人(黒猫)のほうに非があったのだと自己正当化をしようとする。この人間が抱える根源的な人権意識と差別感情との自家撞着を、これほど明晰に示した文学作品を今まで見たことがない。

    さらに、「黒猫」が文学作品として現実を超越しているのは、現実からさらに一歩進んで「弱い者を虐げたら必ず復讐される。暴力を仕掛けた者へ暴力が何倍にもなって襲いかかり、破滅がもたらされる」ところまでが描かれているという点。
    先述した“暴力の循環”に関してポーほど巧妙に、暴力というものが有する根源的な何かを文学作品として結実させた作家を私は他に知らない。ポーを文学の可能性や領域を拡大した先駆的作家だという意見も、あながち誇張と思えない。

    以上、都甲先生の話から、「黒猫」は表現のグロテスクさが目につくが、実は徹底的にリアリズムに裏打ちされていると気付かされ、改めてアメリカ文学の奥深さに、虜になりそう。

  • 日本語には、想像。空想。妄想。といった頭の中だけで思い描くチカラの代表的な言葉がある。

    想像力の欠如が招く危機。空想が生み出す非現実。妄想が暴走する犯罪。

  • 作品集の前半と後半でまるで作者が
    違うようだった。
    「モルグ街の殺人」などは探偵もの、「黒猫」はミステリーというよりはホラーに近い。どの作品も各々の魅力があり、引き込まれる。

  • ■「モルグ街の殺人」…1841年。
    『罪と罰』………………1866年。
    『緋色の研究』…………1886年。
    デュパンとホームズの間には45年もの径庭がある。

    ■「お前が犯人だ」……1844年。
    『刑事コロンボ』………1968年。
    コロンボはいつ犯人に目をつけたのか? 本作の語り部の「ぼく」は、「グッドフェロウ氏の率直さは度が過ぎていて、ぼくには不快に感じられたし、そもそもの最初から疑惑をかきたてていたのである」と言っている。

    ■「黄金虫」……………1843年。
    『宝島』…………………1883年。
    金無垢のコガネムシに導かれるように始まった宝探し。
    古い羊皮紙に浮かび上がる意味不明の記号。
    暗号解読のすえ明らかになった謎めいた指示。
    髑髏の左右の眼のとりちがいにより一旦は計画失敗。
    そしてついに、二体の骸骨に抱かれた、海賊キッドが残した秘宝の発見にいたる。
    傑作!

    ■ところでこの丸谷訳の「黒猫」。
    「縄をずっこきにして猫の首にかけ、樹の枝にぶら下げたのだ」とある。 ……で、「ずっこき」って何!?
    原文――― "I slipped a noose about its neck and hung it to the limb of a tree." 。

  • 硝子の塔の殺人という本でポーがミステリーの創始者という記載があり、興味を持って読み始めた。
    謎解きより、答えに至るまでの過程をいかに納得させるか、文章の緻密さを味わうものなのかなと感じた。
    黒猫のみ以前も読んだことがあったが、読み返してこんな話だったのかと驚いた。

    また、色々な作品にオマージュされているなと思った。古典?を読んでいると、他の作品の楽しみ方も広がりそう。

  • ダメだ、、読めない、、
    やはり昔の海外の古典作品は読みづらい、、

  • モルグ街の殺人の本人はオラウータン!
    推理をずっーと聞かされると言う小説。おどろおどろしいが、面白い。
    黄金虫 本当に大金を手に入れられてよかった。

  • かっこいい名探偵の活躍に心ときめかせたい。そんな不純な動機から、ミステリー小説の世界へときめき探求の旅に出ることにした。まずは海外古典作品から。

    エドガー・アラン・ポー(1809-1849)の『モルグ街の殺人』(1841)に登場するオーギュスト・デュパンが、文学史上初の「名探偵」なのだそうだ。奇人/天才タイプの探偵、彼を尊敬する友人で凡人の語り手、愚鈍な警察、意外な犯人、といったあらゆる典型がここに(などということは、江戸川乱歩がうん十年前に既に言っている、とWikipediaに書いてある)。
    特別感銘を受けた…ということもないが、これが元祖か…!と噛みしめて読んだ。

    その他、『黒猫』『アッシャー館の崩壊』など。おどろおどろしい。好きだったのは『犯人はお前だ』。これは語り口にユーモアがあってよい。

    ときめき度:★☆☆☆☆「ちょっとこれじゃない」

  • ミステリーの短編集を読むのは初でした。
    個人的に「モルグ街の殺人」がお気に入りです。

  • 猟奇的なのに論理的

全22件中 1 - 10件を表示

エドガー・アランポーの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
安部公房
ウィリアム・ゴー...
谷崎潤一郎
遠藤 周作
村上 春樹
ドストエフスキー
ヘミングウェイ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×