白檀の刑 (上) (中公文庫 モ 9-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (417ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053663

作品紹介・あらすじ

清朝末期、膠州湾一帯を租借したドイツ人の暴虐の果てに妻子と隣人を奪われた孫丙は、怒り心頭し鉄道敷設現場を襲撃する。近代装備の軍隊による非道な行いの前には、人の尊厳はありえないのか。哀切な猫腔が響き渡り、壮大な歴史絵巻が花開く。現代中国文学の最高峰と誉れ高い莫言文学、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 面白いです!劉の頭を高々と掲げた趙甲は台下の監察役人に向かって叫んだ。「大人、ご検分を願います!」絵になる場面がいっぱいありますね~虚実いりみだれて、そこに幻想も混ざっているので現実と頭の中の世界が交差して異様な世界を見(魅)せてくれます。。
    マオチェンの調べにのせて、清の西太后や皇帝、袁世凱に認められた処刑人、趙甲が息子の嫁の父、孫丙に白檀の刑をすることに。

    色々な処刑方法がでてきて、グロいです。

    感想をアップしてないけど、「首斬り人の娘」を昨年暮れによみましたが、処刑人の話が続きました・・・

    下巻へ・・・いよいよ白檀の刑です。はたしてどんな・・・

  • 人生最高にエグい本。
    あまりにエグすぎて読むのを止めてしまいたいのに、描写の巧みさにグイグイ引き込まれて最後まで読まされてしまった。
    見たこともない異文化の情景が熱や匂いまで伴ってまざまざと目の前に浮かんでくる。中国にいたはずなのに顔を上げたらメトロの中なのでビックリするぐらい。

  •  なかなか凄まじい小説。
     舞台は西太后の君臨する清朝末期。租借地で傍若無人のふるまいをするドイツ兵に女房子供を殺された孫丙(猫腔=マオチャンという地方芝居の座長)は復讐の鬼と化し私兵を集ってドイツ兵を襲撃。
    事態の収拾を迫られる政府だったが、当の県知事(銭丁)は孫丙の妖艶な娘(眉娘)と愛人関係にあった。そして重罪人は残酷な処刑を受けることになるのだが、孫丙に対しては名高い処刑人趙甲が指名されるのだが、この趙甲は眉娘の冴えない夫趙小甲の父親でもある。
     腐敗し硬直化した旧来の政治体系の崩壊する激動の時代を背景に
    この主要登場人物入り組んだ五人の運命が展開される、という話である。処刑名人の趙甲が主要登場人物の一人であるように「いたぶりながらすぐには殺さず、見事な見世物にする」様々な処刑が大きな読みどころになっているという毒性の強い話である。残酷な描写に加えて糞尿描写も頻繁で強烈な悪臭も漂ってくるのだが、その一方出てくる食い物のうまそうなことうまそうなこと!さらには猫腔は歌劇でもあり、見せ場になると皆歌いだすので五感に積極的かつ猥雑に働きかけてくる騒がしい小説である。そうした破壊力の一方で究極の処刑<白檀の刑>をめぐってクライマックスへとなだれこんでいく作者の構成力にもうならされる。また猫腔のよる演劇性がメタフィクションに通じる点も見逃せない。
     しかしなんといっても印象に残るのは登場人物たちの圧倒的な存在感だ。人は肉を喰らい、糞をひり、歌を歌い、血を流し、そして死んでいくのだ。

  • 初めて読んだ莫言。地方劇を題材としてるから始まりの各章、主要人物がそれぞれの口調で語る口語調で描かれているのか。まるで京劇の舞台のようにそれぞれの角色が舞台に出てきて歌ったり見栄を切ってる姿が浮かんできて凄く懐かしい気持ちになった。文章中使われてる言葉が割と荒っぽいというか直で汚くて、大学の教授が中国文学は半端なく罵語が豊富!って言ってたのを思い出した。罵語にしろ典故にしろ韻文にしろ翻訳めちゃ大変そう。原文はどういう言葉で書かれているんだろう。特に擬音どうなってるんだろう。処刑の描写が想像以上に生々しくえげつなくて、でも凄く惹きつけられて読む手を止められなかった。中国の処刑がやばいという話は色々と聞き及ぶ所だし、そもそも老仏爺からして物凄くエグい事してるんだから何をか言わんやって感じではあるけれど。そこに処刑人がいて、上からまるでお品書きのように発注された刑を職人の如く遂行していることには、この本を読むまでは思い至らなかった。その分、余計に処刑という行為が血肉を持ったというか。ぐぅっと来るものがあった。中国近代文学や元代の戯曲ばかりで列強に蹂躙された後の中国文学をちゃんと読んだことが無かったけどなるほど…と思った。あとがきで吉田氏が書かれている「莫言はこの小説で、人間の修羅を見つめていると言えましょう。」という言葉には凄く得心がいった。とりあえずそんな感じ。

  • 実際に読んだのは 2013年頃

    一言でいうと、強烈だった。読み終わったあとは、しばらく何も読めなかった。色んな意味で衝撃的だった。

    著者の出身地である中国東北部についても、歴史を混ぜながら盛り込まれていて、それだけでも意味していることが伝わってきた。

    改めて、むかーし日本でも一時期話題になった映画 赤いこーリャンも原作が莫言だったのね。

  • 詳細は、こちらをご覧ください。
    『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』 → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1552.html

    2012年ノーベル文学賞は、中国の莫言氏。
    以前読んだ 「 転生夢現」も すごく面白かった!
    ・ 『転生夢現』 上 2008/5/23 読了
    ・ 『転生夢現』 下 2008/8/05 読了

    この本も、パワフルで日本や西欧とは全く違う中国の民衆の生き様が、飾り気なく語られている。
    登場人物は、ふつうの庶民のようで実は、とてつもない個性的な人々。
    飾らぬ語り口が、読み手をグイグイ惹きつける。
    わかり易い文章には、生活臭がプンプン。 
    普通ならうんざりしてきそうな話が、構成の巧さ、思想やらで品格さえ感じる。

    2012/10/11 予約  11/27 借りる。11/28 読み始める。

    内容と著者は

    内容 :
    清朝末期の山東省。鉄道を建設しようとしていたドイツ人技師に妻を陵辱されそうになった孫丙は、技師を殺害。
    報復のためドイツ提督は中国人を大量虐殺。その背後には袁世凱がいた…。
    第1回鼎鈞文学賞受賞作品。

    著者 : 莫言
    1955年中国山東省生まれ。76年に人民解放軍に入隊。
    85年「透明な赤蕪」でデビュー。「白檀の刑」で第1回鼎鈞文学賞を受賞。
    著書に「赤いコーリャン」など。
    2012年ノーベル文学賞受賞

  • 感想は下巻にて。

  • 中国の現代文学ってそういえば初めて読むかも。三国志や西遊記、封神演義なんかは原典読んだことなくても知っているし、聊斎志異や山海経なら好きだし、幕末オタクにつき孔子孟子の類は一時期結構読んだけれど、現代の中国文学ってなかなか読む機会がないですよね。翻訳されてるものも少ないし。莫言は2012年のノーベル文学賞受賞で話題になったときにマジックリアリズムの作家だと知ってずっと興味を持っていたんですが、今更やっと読みました。まだ上巻ですがとても面白い。

    ざっくり登場人物を紹介するなら、大足ながら美人で色っぽい眉娘と、三人のおっさん・・・もとい三人の父親たち=実の父親・田舎芝居の座長である孫丙、腕利きの処刑人で夫の父親(舅)の趙甲、県知事だけど愛人(いわゆるパトロン的な意味でのパパ)の銭丁の4人が中心。反乱を起こした孫丙を銭丁が捕え趙甲が処刑することになる、大筋としてはそれだけだけど、時系列をランダムに遡る構成でそれぞれの過去、立場や心情を掘り下げてあって飽きない。

    眉娘の一人称「うち」は正直ちょっと馴染めないけど(蓮っ葉な雰囲気を出したかったのでしょうか?しかし当方関西人につき、一人称ウチで標準語だとリズムが狂う)、清朝末期・西太后と袁世凱が幅を利かせた時代の、歴史に踊らされた様々な立場の人々の悲喜こもごもが、残虐描写もあるけれど重くなりすぎず、ユーモアと幻想をまじえて描かれている。

    上巻の白眉はやはり、袁世凱暗殺に失敗した銭丁の弟・銭雄飛を趙甲が「陵遅の刑」で切り刻む場面でしょう。生きたまま500の肉片に切り刻みなおかつ最後まで死なせないという残酷な刑にも関わらず、これがエンターテイメントショーとして恐るべき完成度。自分なら絶対こんな死に方したくないけれど、その緻密な描写にさほど嫌悪感を感じなかったのは、実行する処刑人・趙甲があまりにもプロフェッショナルで、プライドを以て職人技の披露に徹していることと、嗜虐趣味は一切なく、切り刻まれている罪人に対して敬意すら抱いているから。いちばん残虐なのは、結局吐いたり失神したりするくせに、その処刑を見物に集まる民衆たちであり、どこの国でもかつて公開処刑は最高の見世物で娯楽だったという事実。

    銭丁は眉娘に対してはエロじじいだけど知事としては民思いの良き指導者であり(なにより眉娘のほうから惚れぬいている)、反乱を指揮する孫丙にはそれだけの事情があり、孫悟空と猪八戒を連れて戻ってきてからのカリスマ性は目を見張るものがある。趙甲は自らの職務に忠実なだけ、だから誰も悪くないけれど、誰もが辛い目に合わねばならない。箸休め的に、眉娘の夫でちょっとおつむの弱い小甲が虎のヒゲを手に入れて妻が蛇に、父親が豹に見えるようになるエピソードとか好きでした。

  •  出だしから、高密県の地方芝居のセリフから始まり、しかも眉娘の父が、処刑人の舅に刑にかけられ、さらに眉娘がその舅を殺害する、という残忍ですごみのある話=大筋=が強いインパクトとなりました。
     この地方芝居の下敷きがあって、それに肉付けをした作品化と思えば、地方劇も創作、芝居の様に、登場人物の一人一人の回顧が上手く組みたち、読み進むうちに全容が見えてくる巧みさに感動します。
     時代背景が清朝末というのも、変化と旧態依然とで厚みを増しています。
     読みはじめ「眉娘の繰り言」の一人言の言葉使いが、あばずれのような雰囲気の「うち」「ぶちこまれた」を使うかと思えば、「~でした」「~ございましょうかね」と丁寧で、キャラクターが定まらず日本語訳が、作品へ入り込む妨げになり残念でした。

  • ノーベル賞受賞記念読書。うーんこんな「物語る力が強い」作家が中国にいたとは知らなかったな。ありがとうノーベル賞。
    タイトルは死刑の方法の一種であり、山場は多種多様な死刑の場面だ。白檀の木でお尻から串刺しにして2-3日生かしたままにしてみたり、生きたまま肉をちょっとずつ500回に分けて切り取ってみたり、頭を締め付けて目玉をにゅるっと飛び出させてみたり、事細かに描写される処刑の様が、凄まじくもイマジネーションに富んでおり、見事である。これらは莫言の創造なのだろうが、中国なら実際にこのくらいあってもおかしくないと思わせる。
    人間ドラマも猥雑かつ奇想天外かつ生々しい。権力争いあり、色恋あり、家族愛あり、庶民の権力への抵抗あり、底辺にいる乞食からやんごとなき帝まで、あらゆる段階の人物が描かれる群像劇だ。呑気な寝取られ旦那には人の本性が動物に見えるまま物語が進むなど、現実と幻想さえも入り混じる。バックには民族芸能の歌が朗朗と流れる。さすがノーベル賞、という物語の豊かさだった。
    そしてこの本を通して中国という国の気配を濃厚に感じた。受賞するかどうか、と騒がれていた村上春樹文学は、外国の人から日本らしさを感じさせるのだろうか?どちらかというとグローバル共通のフラットな作風のように感じるのは私が日本人だからなのか。

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著者プロフィール

中国・山東省高密県出身。小学校中退後、1976年に人民解放軍に入隊し、執筆活動を開始。『赤い高粱(コーリャン)』(1987年)が映画化され世界的な注目を集める。「魔術的リアリズム」の手法で中国農村を描く作品が多く、代表作に『酒国』『豊乳肥臀』『白檀の刑』など。2012年10月、ノーベル文学賞を受賞。

「2013年 『変』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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