堺利彦伝 改版 (中公文庫 さ 9-2)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053878

感想・レビュー・書評

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  • 買うまで気づかなかったが、自伝だったのか。

  • 今この時期に、堺利彦の伝記を新刊の文庫本で読むことになるとは思ってもみませんでした。

    堺利彦といえば、あの日本で最初の探偵小説『無惨』を書いたり、『鉄仮面』や『巌窟王』など数々の外国小説を翻案(原作を直訳ではなく意訳・創作する方法)して私たちが幻想・怪奇・冒険小説を読めるように種をまいてくれた黒岩涙香が創刊した日刊新聞『萬朝報(よろずちょうほう)』の記者として活躍し、たまたま大逆事件より早く逮捕されて難を逃れた後は、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスらの『共産党宣言』の日本で最初の翻訳をはじめ、社会主義思想やロシア革命史や欧米文学の紹介のためなどに数多くの本を翻訳出版しただけでなく、日本社会党や日本共産党の結成に加わり、実際にも東京市会議員に当選して政治家になったこともあり、またエスペラント運動にも尽力した人物だったことは知る人ぞ知るところですが、どうして今なぜ堺利彦なのでしょうか。

    そういえば、今でも実利的教養や教訓的人生論として、明治時代に書かれた福澤諭吉の『学問のすすめ』や『福翁百話』、勝海舟の『氷川清話』や西郷隆盛の『南洲遺訓』などを読む人もいるようですが、失礼ながら、田中正造や中江兆民ならともかく、わざわざ堺利彦のそれも若い時代の自叙伝を読む人がはたしているのだろうかと思います。

    どうやら、それはこの本の中で解説を書いている黒岩比左子の新しいアプローチによる再評価というものが原因しているらしいです。

    何年かぶりの再読ですが、たしかに、いままで気づかなかったユーモアあふれる筆致で、私が知っている大杉栄や幸徳秋水や石川三四郎など、同時代の他の誰よりも読ませる書き方というものを感じます。

    本書の刊行と同じ時期に上梓された黒岩比左子著『パンとペン・・社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』によって、彼女は今まで誰も知らなかった堺利彦を発見して私たちに教えてくれたのです。

    今までのあまり目だたない社会主義者としての存在だった堺利彦を、職につけず困っていた主義者たちに売文社という媒体を使って文章を書くという仕事を世話したり、その先駆として彼自らが書いたその才能は夏目漱石や森鴎外に注目され、黒岩涙香のむこうを張る貪欲さで膨大な翻訳本を、思想書だけでなく数々の名作小説を私たちに届けてくれたりという目の覚めるような活躍をした人として鮮やかに登場させてくれたのです。

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