叙情と闘争 - 辻井喬+堤清二回顧録 (中公文庫 つ 18-4)
- 中央公論新社 (2012年5月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122056411
作品紹介・あらすじ
元セゾングループ代表にして、詩人・作家。反発していた父のもと実業界に入った若き著者は、二つの名前を往来しながら、経済躍進の立役者として時代の渦中を進んでゆく。マッカーサー、吉田茂、本田宗一郎、三島由紀夫など、政治家、財界人から芸術家までの幅広い交遊エピソードとともに、戦後の諸相を描く貴重な半生記。
感想・レビュー・書評
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面白かった。セゾングループの経営者と詩人を二足の草鞋としてこなしていた著者のエッセイは戦後の日本の変遷の歴史である。独自の視点と文章がとてもおもしろい!
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セゾングループの創始者として経営者であり、辻井喬として文学者でもあった堤清二の回顧録。セゾン文化の中で青春を過ごした者として興味深く読み進めました。
個人の回顧録でありながら、彼が生きた時代の同時代史にもなっているのが面白い。
さまざまな人との交流が描かれているが、個別バラバラに記述されるのではなく、連続性を持って語られています。A氏との交流の先にB氏がいて、その紹介でC氏と出会い、といった連続性がこの本をただ単に昔を懐かしむような回顧録にしていないのだと思います。三島由紀夫、安部公房、小林一三、本田宗一郎、池田勇人、白洲次郎、宮沢喜一、などなど、共通性の薄い、幅広い交友からの見えてくることもあります。
自己批判と自己卑下が所々に出てくるのは、嫌みに感じられなくもないですが(笑) おそらく本人にとっては素直な気持ちの発露なんでしょう。「自由主義経済に一度も理想社会を夢見たことがない」と言い、経営者、財界人でいることに最後まで居心地の悪さを感じ続けていたであることをどう評価するか。
経営者としては甘い、という評価もできるでしょう。しかし、こんな堤清二だからこそ、経営の中から文化を生み出すことができたのだと思います。その文化が時代の徒花だったとして、それに濃厚に影響を受けた僕には、堤さんなりの素晴らしいチャレンジだったと思えます。 -
詩人と経営者の二足の草鞋というだけでもう想像を絶する世界であるのだが、それにしても実際にこの回顧録を読むと改めて想像以上の人生である。巻末の人名録を見るとこれだけの人々と公に私に関わりを持った人生とは、とため息が出る。
著者自身、相談に際してふらりと時の総理に相談に行けてしまうような身分なのだが、その著者からみても「秀でた一族」と感嘆される人々がいたり、もう雲の上の世界というほかない。
そんな世界の一端が覗けるのも活字の世界ならではである。 -
ラジオで知った辻井喬さんを
どんな人だったか詳しく知りたくて買った本。
解説にも書いてあるけれども、
彼自身の回顧録であると同時に、
その時代の時代史をたどることもできる。
出てくる名前もやたらとビッグで、
マッカーサーから始まり、
三島由紀夫や吉田茂、池田勇人、
本田宗一郎、司馬遼太郎
なんかがサクサク出てきて、
しかもその人達の人間的な部分が見えたりするものだから、
「歴史の人」が、
「辻井さん(堤さん)の知り合いのお一人」
になるもんだから混乱する。
とても知性が深く、暖かい。
先見の明があり、人情深い。
知ったのは亡くなってからだけど、
こんな人間になりたいなと思いました。
最後に、本書のあとがき代わりに書いた詩を載せる。
もの総て
変りゆく
音もなく
思索せよ
旅に出よ
ただ一人
鈴あらば
鈴ならせ
りん凛と
感動して心が震えました。 -
つい先日に亡くなってしまった辻井喬氏の回顧録。自伝と言っていいかもしれない。2008年に読売新聞に連載されていたもの。日米安保闘争前のアイゼンハワー大統領と会う件から始まり、共産党を除名された件を経て、最後はセゾングループから身を引いた件で終わる。時の政財界の要人との交流、そして、その時にしたためた詩を通じて筆は進む。政財界との要人との交流では、歴史的な事件に別な側面があったことをこの著書で知った。共産党を除名されたり離れた人で後に政財界の要人になった人は多いが、ほとんどの人は距離をとったり、「反共」的になった人は多いが、著者は最後まで理解ある人であり、教養のある人としてバランスの取れた人ではなかったのだろうか。
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いや、やっぱり堤清二はすごい人であったけど、まだ読み切れてないと思う。またこれからどう変わるか。御曹司だけど、庶子で、共産党に入るが衆院議長である親の秘書をし、西武百貨店を継ぐし、そのこと自体を素直に取れないので文芸に走るがその一方で…という。ただ、ポスト大衆消費社会を形成する上で大きな役割を果たしたのは事実。しかし、この人も土地とリゾートで転んでしまったのは残念なのと、韜晦もあるだろうが主体的に仕事に取り組み道を切り開く感じは書かれていなく… また10年後とかに読みたい。
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原武史先生本を2冊立て続けに読んでしまった流れで興味・関心を持ってしまった1冊。永江朗の「セゾン文化は何を夢見たか」や上野千鶴子・辻井喬対談本などを事前に呼んでいた影響もあって、すんなりとは入ってきた。
読売新聞連載当時はほとんど知識もなかった分野にもかかわらず、ここ数年間で無駄に知識を蓄えてしまった昭和史に関する知識がかなり生かされていて、現代の歴史教育ではほとんど教えられていない、昭和20年からバブル期までの経済・政治・文化の勉強になる。
ざっくりと言えばこんな感じ。
あと何がびっくりって、知っている生井英考先生って上野千鶴子とかが絡んでいたセゾングループの信じられないほど金をかけた社史(かんがえればこのへんはバブル的金の無駄遣いあも・・・)編集に携わっていたこと。 -
セゾングループの生みの親という経営者でありながら、作家・詩人という得意な肩書を持つ著者の回顧録。盛田昭夫、豊田章一郎、渡辺十三ら、当時の革新的経営者から、三島由紀夫、安倍公房、武満徹といった一流の文化人らとの交流を、自らの半生への懐古を後悔を交えながら、描く。意外と自嘲的なのがオモシロい。
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色んな人との交友があったのですね。
非常に興味深い話が次々にでてきて、一気に読み終わりました。
セゾングループの栄華も大昔のこととなってしまいましたが、背景がわかって良かったです。 -
経営者と文学者という二つの顔を持つ著者の自伝である。学生運動、複雑な家庭、若くして興したセゾングループの興隆と破綻、文学者としての活動等興味深い話題が多い。実業家、政治家、文学者等との交友エピソードも興味深い。家庭でも実業の世界でも独裁者であった父とその圧制に苦しみ反抗した自分、母、妹についての記述が多いのは、当然だが、自身の家庭について全く触れていないのが奇妙である。あの義弟についての記述も少ない。結局、文学者辻井喬が書いた自伝的小説ということか。もちろん、それでも十分に面白い。