流転の王妃の昭和史 (中公文庫 あ 72-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122056596

作品紹介・あらすじ

軍部の政略から満州国皇帝弟の溥傑に嫁ぐも、終戦後は夫と離ればなれになり次女を連れて混乱する大陸を流浪。帰国してからは物資不足の苦しい生活、そして長女の死…日中のかけはしとして、激動の人生を生きぬいた、ひとりの女性の自伝的昭和史。

感想・レビュー・書評

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  • 著者、愛新覚羅浩さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。

    嵯峨 浩(さが ひろ、1914年(大正3年)3月16日 - 1987年(昭和62年)6月20日)は、侯爵嵯峨家(公家華族)の長女。愛新覚羅溥傑(満州国皇帝愛新覚羅溥儀の弟)の妻。後に記した自伝のタイトルから「流転の王妃」として知られる。

    73歳にて、亡くなっています。

    関連人物の生年没年をまとめてみます。

    ・愛新覚羅溥儀(1906~1967年)
    ・婉容(1906~1946年)
    ・愛新覚羅溥傑(1907~1994年)
    ・嵯峨浩(1914~1987年)
    ・愛新覚羅慧生(1938~1957年)

    で、本作の内容は、次のとおり。(コピペです)

    軍部の政略から満州国皇帝弟の溥傑に嫁ぐも、終戦後は夫と離ればなれになり次女を連れて混乱する大陸を流浪。帰国してからは物資不足の苦しい生活、そして長女の死…日中のかけはしとして、激動の人生を生きぬいた、ひとりの女性の自伝的昭和史。

    婉容や長女・慧生が亡くなる話など、悲しい話が多い。

  • 最後の皇帝溥儀の退位式や通化事件の現場の顛末などしれっと歴史的重大事件が出てくる。十数年ぶりに周恩来首相のはからいで中国に「帰国」した折に撮ったとある写真には老舎(満洲族)が写っている。
    ところどころ史実と異なる、恐らく思い違いや記憶違いだと思うこともちらほら散見されるが、当時の関東軍の狼藉や、関東軍→ソ連軍→国民党軍→共産党軍、と目まぐるしく権力者が易るたびに散々な目に遭わされる当時の様子などは読んでいて生々しく手に汗握る。遠藤誉女史の『卡子』が久々にもう一度読みたくなった。
    長女慧生さんの死については相手の男を大久保と書いているが、何故かWikipediaにはOと頭文字で伏せてある。その大久保家側では事件後もずっとあれは好いたもん同士の心中事件だったと、つまりメディアが書き立てた通りだと主張していたらしい。
    写真にうつる老舎はその10年、20年後に時代の歪み(文化大革命)の中で自殺に逐込まれるが、その悲劇を起した国についてこの本で公然と批判するのは自殺行為に等しい。数行ほどで文革の記述が終っているのはしょうがない。
    なににつけても著者の観察眼なくしては書かれなかった本だと思う。経験している最中はきっと五感も六感もフル稼働だったに違いない。
    最後に書かれていた夫溥傑さんの漢詩の一文が心に遺った。

    一生歡聚猶駒隙
    過眼風光豈盡春

    一生の歓聚猶ほ駒隙のごとし
    眼を過ぐる風光豈に盡く春たらんや

  • 民族を超え、そして関東軍の思惑が絡む政略結婚であるにもかかわらず、こんなにもお互いを思い合える夫婦になれたことを、あとがきで梯さんが「奇跡」と書いていて、まさにそうだと感じた。

    自伝というのは主観が色濃く出てしまうというデメリットがありつつ、歴史上の出来事に関する熱量のある記述を読むことができるのでやはり興味深い。
    敗戦後の日本への帰国、という同じ状況でも、山崎豊子の「大地の子」や藤原ていの「流れる星は生きている」と比べ、満州皇帝の弟と結婚している立場だと、多少扱いが異なるのだなと感じた。

    慧生さんが巻き込まれる事件のことは元々知っていたので、慧生さんが幼い頃どんな風に可愛がられていたかの描写には胸が痛んだ。慧生と溥儀が食卓を囲んだ際の描写が特に印象に残った。

    最近乾隆帝時代の後宮を取り扱ったドラマを見ているので、清朝特有のしきたりについても記載があり、面白く読んだ。
    北府のお宅の様子は一度見てみたいものだ。敷地の中を20〜30分も歩いて晩餐に参加するなんてやはり土地が広いからこそ可能なんじゃないか。(昔の日本でもそんな広いお宅はあったのかな?)

  • 著者の愛新覚羅浩さんは、華族・嵯峨家の長女として生まれましたが、当時の関東軍の主導により、政略結婚させられます。
    相手は、愛新覚羅溥儀(ラストエンペラーとして有名ですね)の弟、愛新覚羅溥傑であります。
    有無を言はさず結婚させられたので、相手の事は一切知りません。しかし、夫となつた溥傑は、軍人よりも文人・学者の方が似合ふ理知的な男性でした。性格も温厚で、浩を心から愛する理想の夫だと思はれます。

    しばらくは幸福な結婚生活を送ります。長女・慧生、次女・嫮生と子宝にも恵まれますが、この安泰は長く続きませんでした。
    まづは夫の溥傑が軍隊(陸軍大学校)にとられ、せつかく満州へ渡つたのに、すぐに東京へ戻るなどバタバタが続きます。
    戦況の悪化とともに、夫とはすれ違ひ、結果的に16年の長い間、会ふ事が叶はなかつたのです。

    戦争に翻弄され、浩は「流転の日々」を余儀なくされるのでした。その間、長女の慧生は日本の学校に通つてゐたため、次女の嫮生と共に逃げ回りました。
    終戦後も、夫の溥傑・その兄溥儀は拘束されたままだつたのです。連絡を取ることも難しかつたと言ひます。それで、長女の慧生が周恩来に直接手紙を送りました。父に会ひたいと。中中積極的な娘です。その結果、慧生を気に入つた周恩来は彼女の訴へをきき、父との連絡をとることを認めたのであります。

    夫の溥傑がやうやく釈放されたのが1960(昭和35)年。実に16年ぶりの再会でした。しかしその間、将来を期待されてゐた長女の慧生が亡くなるといふ不幸に見舞はれます。更に、夫婦は北京に住む事にしたのですが、次女の嫮生は日本での生活を選択します。さぞかし寂しかつたでせう。

    筆致は、いかにもお嬢様の文体と存じます。それに非難的な声も聞きますが、そりや仕方ありません。苦難の連続も穏やかに、恨み節も目立たず、読み易い文章と申せませう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-762.html

  • 関東軍、マジでクソすぎ....

    今日本の植民地運営を評価して「日本が植民地にしなかったら、この国はここまで進んでなかったよね!」というクソみたいな言説があるけど、ほんとに美化以外の何物でもない
    一番キツかったのは溥儀に神道を強制したとこ

    日本人と清朝皇弟妃のあいだで揺らぎ続けた人の体験は重い

  • ものすごい人生

  • 清朝最後の皇帝・溥儀の弟である溥傑に嫁いだ
    旧公爵家嵯峨家の長女・浩の自伝。

    自伝という事で100%鵜呑みにすることはないんだけど
    (記憶違いや恨み辛みや
    ありのままを書けないあれやこれやがありそうだな…と。
    それと、中国共産党による庇護のためなのか
    満洲・中国と敵対する立場だったはずなのに
    向こうを褒めまくりなところととかも…。)
    それでも、激動のあの時代の満洲で、
    結婚して満洲に入り、日本敗戰からソ連による夫の勾留、
    東北各地の放浪、日本への帰国、長女の死、16年ぶりの
    夫との再会…と普通の人も激動だっただろうけれど
    旧満州の皇族であるがゆえの災難も多分にあって
    偉いってのも大変だなぁ…と思う。

    ただ、出会いは関東軍からの圧力ではあったものの
    そこからお互いに愛しみあう夫婦の姿をみると
    素晴らしい巡り合いだったなぁ。と思う。


    日本の統治について何か言えるほどの材料がないので
    多くは語れないけれど、
    日本人である浩さんが書いた本書にしろ、
    毛沢東及び文革を痛烈に批判したワイルドスワン
    などを見ていても、日本人と中国人の扱いの
    日常的な差別はあったように感じる。


    軍国主義が起こす民族間の悲劇…
    これは二度と起こしてはならない、と思う。

  • 190904 大連出張がきっかけで読んだ
    中国の思惑、日本の思惑が一つの側面から理解できる

  • 世の中のことを大体知らない僕は、例によってこの愛新覚羅 浩さんのことも存じていなかったわけで、最初は正直「なにこの名前、ラノベのキャラ?」などと思っていたのですが、今となってはその数日前の自分をぶん殴ってやりたいですよ。

    政治の都合によってこんなドラマチックな生き方をせざるを得なかった方が、近世の日本にいたことを僕たちは忘れてはいけないのだと思います。どんな感じだったかというと説明が難しいので、詳しくはWikipediaとか見てください。

    まあそんな浩さんの波乱万丈な生き方は別としても、上流階級スゲーってなることが色々あったので、僕も貴族に生まれたかったです。

  • (欲しい!/文庫)

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